大地と共に 三里塚現闘員が語る 成田用水攻撃(上) 「農業振興」で総条件派化狙う 菱田地区が日常的攻防の場に
週刊『三里塚』02頁(1004号02面01)(2018/11/26)
大地と共に
三里塚現闘員が語る
成田用水攻撃(上)
「農業振興」で総条件派化狙う
菱田地区が日常的攻防の場に
(写真 成田用水粉砕のため新設した監視やぐら【84年 菱田・住母家】)
3・8分裂攻撃と一体で、反対同盟を分断・破壊し、敷地外を丸ごと総条件派化するためにしかけられたのが成田用水攻撃である。闘争の重要な拠点であった芝山町菱田地区反対同盟を破壊することで敷地内を孤立化させることを狙ったのだ。
そもそも成田用水は、空港建設にともなう地元への見返り事業として、利根川の水を成田周辺の農家に引く「農業振興策」として計画された。2期工事で騒音直下となり廃村が予定されていた菱田は当初、その対象地域に入っていなかった。
ところが運輸省は、1978年12月に方針を変更して、受益地区を菱田に拡大した。その上、通例の国庫補助75%にさらに20%の補助金を上乗せして、95%もの異例の国家補助をエサにして露骨な利益誘導を仕かけたのだ。それは1軒当たり1千万円に及ぶ高額補助金だった。
「ストレートに反対同盟対策をうちだしては反対派農民の反発を高めるとの地元サイドの意見もあり『農業対策』という形にした」と運輸省・空港公団は公言してはばからなかった。本来農業用水は農林省の管轄であるのに、運輸省がこれを推進したところに、買収策としての用水攻撃の正体は明らかだった。
昨日の友が敵に
81年から攻撃は本格化し、82年7月に「成田用水菱田工区」が結成され、工区長に中郷部落の元反対同盟幹部・小川総一郎が就任した。同時に、菱田一帯の同意書取りの攻撃が始まった。その文書には「成田用水は騒音の見返りとして行う」と書かれており、成田用水を認めることは空港を認めることになるのだ。しかし、このとき「用水賛成・空港反対」の旗を掲げて反対同盟を引きずり込もうとしたのが、前反対同盟事務局次長の石井英祐だった。成田用水は地域丸ごとの総条件派化を狙うものだった。反対同盟は、政府・空港公団との闘いという垂直攻防だけでなく、昨日まで共に闘い、地域で村落共同体を形成する仲間が襲いかかってくるという水平攻防を闘いぬくことになる。
最も典型的だったのが中郷部落の鈴木幸司さんにかけられた攻撃だ。
私の手元には、鈴木さんから預かった「菱田工区関係者一同」と署名の入った申し入れ書がある。そこには「外部の者の干渉で部落が乱される事は誠に遺憾」「一丸となって事に当たらなければならない」と支援者を悪者扱いし、用水事業に賛成するよう迫る文言が書き連ねられている。小川総一郎以下、大勢が何度も鈴木家に押しかけ、屈服を迫る文字通り「村八分」との闘いだった。
強固な反対同盟地域だった菱田で、多くが用水推進派に転じた背景には当時の農業事情がある。菱田の田んぼは一枚一枚が小さく形もばらばら、そして「深んぼ」といって、代(しろ)かき作業の時に腰までもぐって身動きできなくなることもある田んぼだった。
ビラまきに入った用水賛成派の家で「基盤整備をして大型機械が入るようにしなければ、若い人が農業を継いでくれない。お前らはいずれこの地を去るだろう。だけど俺たちはここで生きていかなくちゃならないんだ」とくってかかられたこともしばしばだった。
成田用水は、農民の苦悩につけ込むきわめて悪らつな攻撃だったのだ。その上、当時の農政はすでに減反政策に入っており、基盤整備で米を増産させようという情勢ではなかった。その後、農業が次々と切り捨てられ米を作っても食っていけなくなり、用水を受け入れた農家も次々と田んぼを手放すことになる。
丸ごと条件派化というとき忘れられないのが換地(かんち=交換分合)の問題だ。
用水事業とセットで行われる基盤整備事業は、機械化に対応できるよう、地域全体で田んぼを整地し直して、あらためて分配し直し、それまでの耕作地と交換する。だから、地域の中に反対する人がいると、そこだけ虫食いで整地することも換地することもできない。だから用水推進派は「お前が反対すると俺のところで用水ができない」と迫る。
私が日頃から懇意にしていたOさんは、3・8分裂以降、準同盟的な立場で同盟の闘いの一端を担っていた。
ある日ビラまきで訪れた時、苦しそうに「俺も用水に反対するわけにはいかねえだよ」と語った。そして、Oさんは闘争から離れていった。あの時の悔しさを、今でも忘れることができない。
機動隊用水だ!
何よりはっきりさせなければならないことは、成田用水が「機動隊用水」だということだ。わずか百数十軒の菱田地区に6千人の機動隊が動員され、暴力的な制圧のもとに工事が強行された。用水攻防の数年間、日常的に機動隊が徘徊し、反対同盟と支援に不当な弾圧が加えられた。しかし、反対同盟はこれを跳ね返し、「絶対反対同盟」としての団結を固めていく。
白川賢治