農地法裁判上告審闘争 西村正治弁護士に聞く 市東さんの同意なき賃借権解約無効
週刊『三里塚』02頁(0929号02面03)(2015/10/12)
農地法裁判上告審闘争
西村正治弁護士に聞く
市東さんの同意なき賃借権解約無効
――東京高裁小林判決への弾劾をお願いします。
西村 小林判決は、ひどい判決です。人民の怒りを完全になめきった判決と言うべきでしょう。小林裁判長は、最初からニコニコと現れて、こちらに愛想も使ってましたが、こちらの主張を言わせ形を作ればいい、というのが本音でした。
――内容についてはいかがでしょうか。
西村 控訴審でわれわれが力を込めた数々の主張を、何一つ聞いていない。初めから一審判決の擁護が絶対条件でした。一審・多見谷判決は理屈に合わないこと、矛盾したことをたくさん書いているので、こちらは控訴理由書をはじめ、徹底して追及しました。これらの点について小林裁判長は、多見谷判決を見直すのでなく、その穴の部分を補修して追認しました。一審判決にこれほど間違いがあったのなら、結論を見直すのが当然なのに追認するなど絶対に許せません。
――上告理由書の解説を、西村弁護士が担当されたところを中心にお願いします。
西村 私は主に、小作権者の同意なき農地賃借権解約の違法と農業委員会等の手続の瑕疵(かし)を担当しました。市東さんの農地取り上げには、空港会社の構造的かつ致命的な問題点が横たわっています。それは次の2点です。
第一に空港公団の農地買収後、全く工事着工もできず、これが長期間続いて、しかも買収したことさえ公にできませんでした。それが致命的なマイナス点です。第二に、当時強制収用を行う予定で手続きを進めてきたことから、小作権者の同意という観点がもともともなかったのですね。普通の農地法の手続きであれば、小作権者の同意抜きに行われるはずもないわけです。しかし頼みにしていた強制収用が頓挫しました。だから今度は農地法を使った民事訴訟の手続きでやらざるをえなくなりましたが、そうなると前提が全く異なる。「小作権者の同意」を飛ばしていることがネックになったのです。市東さんから農地を取り上げようとすればするほど、空港会社の違法買収が暴かれるのです。
――裁判では、農地法違反の農地買収を追及しましたね。その主たる内容は?
西村 空港公団が、長期間着工できない問題から現れてくるのは、空港公団の地主からの買収が農地法の何条での売買であったのかということに関わってきます。つまり「空港用地への転用目的」の5条の売買なのか、「農地を農地として使うこと」を前提とした3条の売買なのかです。農地法5条の農地買収は、違憲で不当な農水省令によって、成田空港用地については知事の許可が不要とされています。空港会社は、これを悪用した抜け道を使って土地買収を行ったのです。
しかし、5条の売買ならば、当然しかるべき時期に転用されます。でなければ、通常1年後には監督権が発動され、最悪の場合は許可の取り消しまで行く。しかし、転用工事など一切行われないまま20年近く放置され、農地で小作契約が続いている現状から見て、どう見ても5条売買とは言えません。この点は空港会社側の構造的な弱点であり、これを突く論理を展開したのです。つまり、3条売買とすると小作権者の同意が絶対に必要になるし、農地売買は県知事の許可が必要なのに、そうした手続きを踏んでいない。売買そのものが無効となるのです。
――小林裁判長はどのように判示しましたか。
西村 小林判決は、この中身に入らず、「空港用地としての買収であるから3条の売買ではない」と、全く形式的に空港会社の主張を鵜呑みにするだけです。これが最大の問題です。
20条許可(賃貸借契約解約の制限)にも小作権者の同意は必要だ、というこちらの主張にはまったく応えていません。小作権者の同意が不可欠なのに、市東さんのケースはなぜ許されるのかという疑問には「20条の法文に書いていない」としか言わない。抜け道を空港会社が使うことが当然であるかのように認めているという判決であり、そこが大問題です。
――市東さんの農地取り上げは耕作権裁判・新ヤグラ裁判でも争われています。今回の上告理由書の内容は、大きな武器になると思いますが。
西村 そうですね。耕作権裁判では公団の土地取得の違法性・無効性の主張を全面展開しています。新ヤグラ裁判でもそこが最大の問題となるわけです。農地法3条・5条による土地取得の問題について、上告理由書に集約されている成果を出して、新たに打って出ていきたいと思います。
――最後に、上告審闘争への弁護団の決意をお願いします。
西村 上告審闘争は、5万人署名の力を背景にして、最高裁に迫る闘いをこじ開けていかなければなりません。第2、第3の補充書を準備し、それを最高裁にねじ込むために弁護団は闘います。戦争法や沖縄・福島でも国の理不尽に人民の怒りは噴出してます。三里塚もこのような怒りを権力にたたきつけ、裁判所に人民の力を強制するものとして上告審闘争を闘っていきましょう。