特集 新自由主義に反撃する中東の労働者 労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅳ エルドアン政権打倒の闘いへ――民営化と闘うトルコの労働者

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月刊『国際労働運動』48頁(0461号03面04)(2015/02/01)


特集 新自由主義に反撃する中東の労働者
 労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅳ
 エルドアン政権打倒の闘いへ――民営化と闘うトルコの労働者

(写真 タクシム広場での大抗議行動【2013年6月15日】)

(写真 2014年のメーデーに参加したUID-DERの青年労働者たち)

民営化政策の強行

 トルコでは1987年から民営化政策が開始された。だが当初の民営化政策は、国有企業の外国資本への一括売却政策などに見られるような強引なものであったため、政府内の分裂を招きいったん頓挫した。
 国有企業の民営化政策が本格化するのは2001年通貨危機後に構造改革政策が採られてからだ。トルコ政府は民営化による政府収入の増大によって財政収支を改善しようとした。とりわけ2003年にエルドアンが大統領に就任すると民営化政策は急進展した。エルドアン政権の下で05年、06年から08年にかけて大規模な民営化が行われ、財政収支は大きく改善した。だがそれは労働者階級に徹底して犠牲を押し付けることを意味した。国営企業では大量の首切りが行われ、外資に売却された企業では賃下げと労働条件の悪化が進行した。
 この時期には同時に財政緊縮政策が採られ、それが医療、教育などの公共サービスの質を急速に悪化させた。
 さらにその後のリーマン・ショックの影響で工業生産指数の伸び率が低下し、賃金も急速に低下した。2010年の民営化における「歴史的な年」に104億㌦もの国有資産の民営化で労働者に犠牲を押し付けてこの危機をいったん強引に乗り切ったかのように見えたが、その後2011年以降の欧州経済の危機の影響を受けて再び工業生産指数と経済成長率は急減速している。欧州はトルコにとって最大の輸出入市場で、外資の75%が欧州からのものでもあり、欧州経済の危機がトルコ経済に重大な影響を与えたのだ。

労働者の反撃の開始

 このような新自由主義政策の全面展開に対し、トルコの労働者階級は2013年に反撃の闘いを開始した。2013年5月末、トルコ最大の都市イスタンブールのタクシム広場に隣接するゲジ公園の緑地破壊とショッピングモール建設に反対する5月31日のデモが警察部隊によって激しく弾圧されると、数万人の労働者人民が公園を占拠して闘う決意を示した。この闘いは瞬く間に全国に拡大し、6月中旬までに全国81県のうち70県以上で100件におよぶ抗議デモが行われた。このデモに対する弾圧で6人が殺され、5千人が負傷し、3千人以上が逮捕された
 この闘いは単に自然破壊に対する抗議の闘いではなく、エルドアン政権による新自由主義政策の満展開と都市の再開発・不動産投機、公有地の米・英・オランダ、サウジ、カタールなどの外国資本への売却に対する怒りを労働者人民が爆発させた闘いであった。
 とりわけこの闘いにトルコの2大戦闘的労組連盟の労働者たちが民営化政策に反対する闘いを発展させるために、積極的に関与したことは重要な意味を持つ。KESK(公務員労働者連盟。組合員24万人)とDISK(革新的労働組合連盟。組合員35万人)の労働者は、6月4日と5日にゼネストに決起した。5日の24時間ゼネストはこの2労組連盟共闘を中軸として90万人が参加する歴史的ゼネストとなった。また6月9日にはイスタンブール中心部で過去最大の10万人集会が開催され、タクシム広場は労働者によって完全に占拠された。

新自由主義と闘う労働組合

 DISKとKESKは、エルドアン政権の民営化、外注化、非正規化政策に反対して闘ってきたトルコで2番目、3番目に大きな労組連盟だ。両労組連盟は新自由主義政策と闘う全国的戦線を形成するために、1980年以来メーデー集会に使用することが禁止されてきたタクシム広場を労働者階級の手に奪い返すための試みを6年前から続けてきた。そして2012年にはついに全国各地で100万人のメーデー集会を実現した。2013年にはタクシム広場で50万人のメーデー集会を開催する予定であったが、警察が治安上の問題があるとして介入しタクシム広場の使用を禁止し、参加者の結集を暴力的に阻止したため、6万人しかメーデーに参加できなかった。KESKはこの弾圧に抗議してゼネストを行っている。
 エルドアン政権は、政府の新自由主義政策に反対するKESKやDISKの闘いを破壊するために、2012年以来さまざまな弾圧を行ってきた。12年2月には167人ものKESKの組合活動家が「左翼テロリスト集団のメンバーだ」として逮捕された。12年6月から1年間の間には、DISKの組合員72人が反テロ法違反のでっち上げ容疑で裁判にかけられている。だが、両労組連盟傘下の労働者たちはこのような弾圧に屈することなく、エルドアン政権の新自由主義政策と対決し続けている。

労働組合破壊攻撃への反撃

 2013年はトルコの労働者にとって新自由主義政策による労働組合破壊攻撃に反撃する決定的な年となった。
 トルコでは労働組合の組織率は民営化と外注化などの新自由主義政策の強行と組合破壊の影響で、2003年の57・5%から2014年には9・68%に急減した。現在ではトルコの全労働者数1228万7000人のうちわずか118万9000人だけが労働組合に組織されている。2003年に478万1000人の労働者のうち275万人が組織されていたのと比べると急激に減少した。2013年6月の2労組連盟の共闘体制の形成と新自由主義に対する反撃の闘いの爆発は労働組合破壊攻撃を跳ね返す決定的転機となった。

新自由主義政策で労働災害が増大

 新自由主義政策による民営化、外注化、非正規化、労働組合の破壊と利益優先・安全無視のために、建設業や炭鉱などで労災事故が頻発している。エルドアン政権が成立してからの12年間に労災で死亡した労働者は1万4555人に達している。この数はそれ以前と比べて急増した。とりわけ2014年には、最初の10カ月で1600人の労働者が就労中に事故死している。
 このような事故多発の原因は急速な外注化政策にもある。02年に40万人であった外注化された労働者は2014年には250万人に達した。熟練労働者の雇用を削減し、低賃金の非熟練労働者を外注化によって雇用する政策が労災事故を多発させているのだ。
 民営化や外注化による労災事故の深刻さを衝撃的に示したのが、2014年5月に起きたトルコ西部マニサ県ソマでの最悪の炭鉱事故であった。この事故は死者301人を出す大惨事であった。労働者の大部分は有毒ガスや落盤で死亡した。後の調査で有毒ガスや可燃性ガスを感知するシステムや、空調管理システムに不備があり、老朽化していたことが判明している。また坑内の避難所が閉鎖されていて利用できなかったことも死者を増やした。
 トルコ政府はこの間の経済成長で不足となった電力を確保するために、炭鉱を05年に民営化し、安全を無視して強引な石炭の大増産を行わせた。ソマの炭鉱運営会社のオーナーは12年9月に「生産コストを5分の1に減らした」と豪語したが、それはコスト削減のために安全設備を徹底的に切り捨てたことを意味している。
 また、ソマ炭鉱の労働者は炭鉱労組に加盟しておらず、下請け企業も導入されていたため、資本側は安全対策に関してやりたい放題のコスト削減を行っていた。トルコの労働組合法は、ある企業の従業員の半数以上が組合員でないかぎり産別の全国組織に加盟できないことになっている。このため資本家は組合員が従業員の半数に達しそうになると仕事を外注化したり、派遣労働者や下請け労働者を多数雇うようにして企業別組合が産別全国組織に加盟するのを阻止しようとしている。
 トルコでは炭鉱民営化以降事故が激増し、中国を除けばこの3年間で炭鉱事故が最も多い国となった。ソマ炭鉱でも2013年には労災事故が4000件以上起きていたのに、安全対策は改善されなかった。民営化による安全無視こそが事故の最大の原因であるにもかかわらず、救助活動がまだ続いている5月14日、エルドアン首相は「炭鉱ではこういう事故は起きるものだ」と居直った。この発言はトルコの労働者階級を激怒させ、14日には全国でいくつもの労働組合が抗議の24時間ストに立ち、首都を始め諸都市で大規模な抗議デモが行われた。この闘いを通じてトルコの労働者階級は、韓国のセウォル号沈没事故の場合と同様に、民営化こそが労働者階級の命を奪う最悪の新自由主義政策であることを認識し、民営化との闘いを最大の闘争課題に設定して新たな闘いを開始している。
 他方で、エルドアン政権がイラクとシリアのイスラム国(ISIS)を全面的に支援してシリアの内戦に反革命的に介入し、シリアへの直接的軍事介入を狙っていることに対しても、労働者階級は怒りを爆発させている。またシリア国内のトルコとの国境地帯に拠点を持つクルド人独立運動組織・クルディスタン労働者党(PKK)壊滅のためにISISを利用しようとしたことに対しても、トルコの労働者たちは反撃の闘いに立ち上がっている。米帝と連携したシリア侵略戦争を阻止する闘いは今後さらに発展し、民営化と戦争政策を推進するエルドアン政権を打倒する重要な闘いとなるであろう。

トルコの労働者との国際連帯を強化しよう

 動労千葉は11月労働者集会を通じて日米韓独の国際連帯の闘いを強化してきたが、トルコの労働者階級とも国際連帯を発展させてきた。とりわけ民営化や外注化、職場の安全をかちとるための闘いや反原発闘争の分野で共通の立場に立つUID―DER(国際労働者連帯協会)との間で国際的交流を強化してきた。UID―DERは動労千葉の組織した反原発署名の要請に対し全力で応じ、短期間に1万6000筆を集めて送ってくれた組織だ。11月労働者集会などにも必ずメッセージを送ってくれているし、動労千葉の発した文書なども機関紙で紹介してくれている。
 UID―DERは2006年に「労働者自己教育グループ」という労働者のマルクス主義者グループによって創設された。このグループはマルクス主義者として長い間、金属、繊維、石油化学などの職場やストライキ闘争などの現場で組織活動を蓄積してきた後に、2006年に全国的にUID―DERを立ち上げ、本格的な階級的労働運動を開始した。
 UID―DERは、職場での闘いを重視するとともに、体制内労組指導部と対決して、新自由主義攻撃と闘う多彩な活動を展開してきた。工場での職場委員会の組織化やストライキ支援の闘い、マルクス主義と革命運動に関する労働者の学習会の組織化から、文化活動などを通じて多数の青年労働者を獲得してきた。とりわけこの数年の組織拡大は目覚しく、動員力も数千人規模に達する組織に成長している。
 また国際連帯活動を特に重視し、国内のクルド人との連帯闘争を組織したり、イランの労働者階級や日本、韓国の労働者階級との連帯も強化しようとしている。
 われわれは、UID―DERとの国際連帯を通じてトルコの労働者階級と革命的に連帯して闘う道筋をつかんだ。それはまだ発展途上にあるが、今こそトルコの階級的労働運動勢力との国際連帯の一層の発展を実現しよう。