特集 新自由主義に反撃する中東の労働者 労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅲ 独裁支配打ち破る闘い――活性化するイランの労働運動
特集 新自由主義に反撃する中東の労働者
労働組合の国際連帯で中東侵略戦争を阻止しよう Ⅲ
独裁支配打ち破る闘い――活性化するイランの労働運動
イランの民営化政策
イランでも財政負担軽減のためとして、この間、国営企業の民営化を軸とする新自由主義政策が全面展開されてきた。
イランでは、ラフサンジャニ元大統領によって1989年から経済開放政策が進められてきた。だが2005年度まであまり民営化は進まなかった。ところが、2006年7月、最高指導者のハメネイが国有企業の民営化イニシアチブを最高命令と布告した後、国営企業の80%を民営化するプランが打ち出された。これは石油・ガス、特定銀行・保険会社、航空、港湾、通信部門基幹会社を除くすべての国有企業の民営化という大規模なプランであった。それまでは経済の8割を国営企業が握っていたが、このプランによって製鉄、金融、電力、通信、郵便などの広範な分野で民営化が行われることになった。
この計画と並行して、2010年、イランは海外からの投資と外資への国営企業の売却を促進するため、外国投資家による持ち株制限や取得した株式の売却制限の緩和を行った。
この大規模民営化政策によって、解雇、労働条件の悪化、賃金の下落、民営化された企業による労働者の賃金不払い、解雇攻撃が労働者に襲いかかり、それに対する労働者階級の怒りが次第に蓄積されていった。
新自由主義政策による格差の拡大
2006年以降の民営化政策によって、国有企業は腐敗した国営企業や革命防衛隊の幹部や政治家などに譲渡された。しかもきわめて安い情実価格で所有権が移転され、国営企業の株式の購入費用も国営産業投資会社からの融資、つまり公的資金によって賄われた。その結果、支配階級のみが利権を独占し、貧富の格差が極端に拡大した。伝統的な大商人に加え、新興資本家や企業グループ、イラン・イラク戦争(~1988年)後、巨大コングロマリットと化した「被抑圧者・傷痍軍人財団」のような特殊財団などによる富の独占が進む一方で、労働者人民は05年以来、収入の減少、インフレ、失業でどん底の生活にたたき込まれた。
イランでは、05年以来の不動産バブルで銀行が実業よりも不動産に融資したことと、08年5月の不動産バブル崩壊で銀行が融資資金を大量に失ったことで、イラン経済に投入される資金が不足した。このため、工業生産が停滞し、生産設備の大規模な遊休化と失業の増大が進行した(09年の失業率11・91%、10年13・48%、11年12・3%、12年12・2%、13年11・58%)。インフレも急速に高進し始めた(08年25%、09年60%、13年34・7%)。
労働者の賃金も過去20年間にわたって減少し、国民は借金づけ生活に転落した。長年にわたる米帝による経済制裁を原因とする経済悪化でも苦しめられた上に、06年以来の民営化政策で急速に貧困化した労働者人民の我慢も限界に達し、労働争議が頻発し始めている。イスラム独裁体制の下に抑え込まれていた労働者の闘いがついに本格的に開始されたのだ。
民営化に反対するストライキ
こうした中で、民営化やそれに伴う賃下げや労働条件の悪化、組合弾圧に反撃する闘いが開始されている。2014年のイランにおける労働運動の特徴は、そうした闘いがストライキ闘争として頻発したことだ。
2013年11月以来、チャドルマル鉱山の労働者2000人は賃金の不公平の是正と組合委員長の不当解雇に抗議する闘いを開始した。この闘いの過程で組合委員長が逮捕されたことをきっかけに、労働者たちはストライキに突入した。ストライキを組織した活動家28人が警察に逮捕されたが、労働者たちはストを継続し2014年2月初旬に逮捕された労働者と委員長の釈放をかちとり、一切の処分を粉砕して職場に復帰した。
14年4月から6月にかけては、イラン中央部のバフーの鉄鉱山労働者5000人が鉱山の民営化に反対して39日間の座り込みストライキに突入し、家族ぐるみ、町ぐるみの闘いを組織して、ついに政府に民営化を撤回させた。バフー鉄鉱山の労働者はその後も8月から9月にかけて、会社の年金基金の御用労組の年金基金への移管に抗議する闘いで逮捕された9人の労働者を18日間のストライキで全員奪還するという重要な闘いを展開している。
この闘いは他の鉱山にも波及し、同年7月にはアルボーズ炭鉱の労働者たちが、炭鉱の民営化に反対してストライキに突入した、また12月にはバフーの鉛・亜鉛鉱山(クーシュク鉱山)の労働者たちが労働条件の改善と未払い賃金の支払いを要求してストライキに入った。
労働組合の結成が禁止され、イスラム労働評議会という御用団体による労働者支配が継続しているイランにおいては、現政権の基本政策と徹底的に対決するこれらの民営化反対の闘いは画期的な意義をもつものである。
鉱山労働者を中心とする激しい民営化反対闘争の勝利的展開は、他の部門の労働者にとって、新自由主義政策の強化に対するロウハニ現政権に対する闘いののろしとなった。最近のものだけでも、
▼11月16日の建設労働者の大部分を社会保険対象から外す攻撃に抗議する1100人の政府建物前での抗議集会、
▼11月20日の雇用法改悪に対する数千人の労働者の抗議集会、
▼11月22日のギラン・タイル工場の労働者の未払い賃金支払いを要求するストライキと解雇撤回闘争の勝利、そして労働組合の立ち上げ、
▼11月24日のテヘラン市内交通の運転手による住宅手当支給を要求する抗議行動、
▼12月14日のテヘラン、イスファハン、ギラン、マザンダランなどの地方の看護師たちの低賃金、長時間労働に抗議する大統領府前での集会、抗議闘争など枚挙にいとまがない。
闘う独立労組の結成
このような情勢下で、御用労組(労働省、企業、政府に忠誠を誓う一部の労働者代表からなるイスラム労働評議会)の支配から抜け出し、労働者階級の利益を真に代表する独立の労働組合を結成する動きが活発化している。
イランでは違法とされている独立労組を結成しようとする活動家や組織は常に弾圧され、逮捕、投獄、処刑されてきた。例えば、2014年4月には50人の教育労働者が労働組合を結成し、組合活動をしたとして投獄された。これまでも教育労働者のなかには、組合活動を行うことで「神に対する戦争行為」を行ったとして何人も死刑にされている。
また同年6月には独立労組設立を支援する「労働組合結成支援共同委員会」の活動家ら60人が逮捕され、投獄されている。
にもかかわらずこの間、このような弾圧体制を打ち破って独立労組を結成する動きが全国で開始されていることは注目すべきであろう。
現在、独立労組は金属・機械、教育労働者、テヘラン市内・近郊バス、ハフト・タペー砂糖工場、ジャーナリストなどで結成されている。このうち教育労働者は、イラン教職員組合連合評議会という全国組織を結成して、現在もテヘラン、イスファハン、ケルマンシャーなどで活発に活動している。
これらの独立労組は全国的に連携して闘う体制も形成しようとしている。2014年のメーデーには既述の独立労組など7労組が独立労組設立の承認、賃上げ、弾圧反対、スト権の承認などの要求を掲げた共同声明を出している。
イランの労働者階級は1979年のイラン革命において百万人規模のデモと巨大なストライキによってパーレビ政権を実力で打倒した経験を持つ。当時は革命党の未成熟という条件下でホメイニなどのイスラム政治勢力によって権力を簒奪されたが、その後も地下で労働運動を継続した活動家も多い。新自由主義攻撃の激化のなかで、労働者階級は反撃の闘いに決起し、再び新たなイラン労働者革命に向かって胎動を開始している。