●特集 デモとストが激発する欧州 Ⅰ ユーロ危機で大揺れのEU 戦後世界体制崩壊の発火点 EU危機とドイツの突出――世界大恐慌と戦争情勢を促進
●特集 デモとストが激発する欧州 Ⅰ
ユーロ危機で大揺れのEU 戦後世界体制崩壊の発火点
EU危機とドイツの突出――世界大恐慌と戦争情勢を促進
世界大恐慌が「恐慌のなかの恐慌」と言うべき深刻な危機に突入するなかで、ヨーロッパ28カ国を擁するEU(ヨーロッパ同盟)は、世界大恐慌と戦争の重圧が集中する地域となっている。その中軸をなす18カ国が形成する共通通貨体制=ユーロ圏は、「ユーロ危機」に揺さぶられ、戦後世界体制崩壊の発火点を形成している。恐慌・戦争か世界革命かが問われる情勢に突入している。そうしたなかで、各国で労働者階級のデモとストが闘われているのだ。
第Ⅰ章は、EU危機、ユーロ危機の現状を具体的に検討し、そのなかでのドイツ帝国主義の帝国主義間・大国間争闘戦での突出と新自由主義攻撃の実態を見ていく。
第Ⅱ章は、ヨーロッパ帝国主義の絶望的延命形態としてのEUの歴史的経過を追い、ウクライナ危機にも触れる。
第Ⅲ章は、「首切り自由」「賃下げ」に対する、イタリアとイギリスでの労働者階級の闘いに迫っていく。
2007年フランスのパリバ倒産、続く2008年アメリカのリーマン・ショックで開始された世界大恐慌は、7年にも及ぶ年月の中で、「恐慌のなかの恐慌」とも言うべき、深刻な危機に突入している。この間、アメリカを先頭とし日本・EU帝国主義が、こぞって、〝非伝統的〟とか〝異次元〟とか称する金融緩和、限度のない通貨政策、膨大な財政投入、成長戦略などの恐慌対策を行ってきたにもかかわらず、世界経済は停滞を続け、貿易は収縮し、例外的な成長を持続したかにみえた中国などBRICS諸国(ブラジル・ロシア・インド・中国・南アフリカ)と呼ばれる「新興経済」も、バブルの崩壊寸前のところまで来ている。
こうしたなかで、東アジア危機をはじめ、ウクライナ危機、イラク・シリア危機など、帝国主義間・大国間の争闘戦が、戦争的に熾烈化している。
新自由主義の破産のすべての結果が、労働者階級人民への犠牲の集中として、緊縮政策の強行として、そして侵略戦争への動員として、襲いかかってきている。
まさに、プロレタリア世界革命によって、労働者階級が社会の主人公になる以外に、生きていく道がないことが日々明らかになってきている。
世界経済が、例外なしに大恐慌にたたき込まれているなかで、ヨーロッパ28カ国を擁するEU(ヨーロッパ同盟)は、中東・アフリカ・ロシアに接するその世界的位置と「帝国主義の国家連合」という特異な内部構造ゆえに、世界大恐慌と戦争の重圧が、複合的に集中する地域となっている。その中軸をなす18カ国(イギリス、中東欧諸国は不参加)が形成する共通通貨体制=ユーロ圏は、通貨・財政・金融のきしみから深刻な「ユーロ危機」に揺さぶられ、70年にわたる戦後世界体制の崩壊の火点を形成している。以下、現状を検討していく。
⑴世界大恐慌の中で低成長のユーロ圏
ユーロ圏は、世界大恐慌のただなかで、低成長が続いている。本年度7〜9月期の域内総生産は前期比で0・2%増にとどまった。大恐慌突入後、2009年前半期において、マイナス5%にまで落ち込んで以来、若干回復に転じ、11年には2%にまで達したかに思われたが、再び低下傾向が続き、マイナス成長とゼロ成長の間を揺れ動き、1%台への回復さえおぼつかない。今後の予測についても、ECB(ヨーロッパ中央銀行)やIMF(国際通貨基金)などは、「きわめてゆるやかな回復傾向」とか「超長期の低率インフレ」などと、ほとんど絶望的なトーンの論調を繰り返している。
実体経済の現状を示す鉱工業生産指数は、8月で前月比マイナス1・8%。域外輸出は、同月マイナス0・7%、域外輸入は、1・0%増、貿易依存度の高いユーロ圏にとって、この趨勢は致命的である。
高率が続く失業率
一方、失業率は11・5%(8月)という高率が数年続いている。ギリシャ・スペイン・イタリアをはじめ、多くの国で失業が集中しているのは青年労働者であることは、周知の事実だ。新自由主義のもとにおける非正規職化攻撃によって、労働者の雇用形態は激変しており、失業率の公式発表の数字では、「ミニ・ジョブ」とか「ワン・ユーロ・ジョブ」などという超短期・不安定・低賃金・無権利の労働が拡大している現実は、隠されている。
こうした状況に対して、ECBは9月4日の理事会で、ユーロ圏の政策金利を、現行の0・15%から0・05%に、そして民間銀行のECBへの預金金利を現行のマイナス0・10%からさらにマイナス0・20%に引き下げるという決定を行った。これはこの間継続してきた低金利政策をさらに強化し、デフレ防止を狙ったものである。
しかし、このような極限的な金融緩和にもかかわらず、資金は企業の設備投資へとは向かわず、投機資金として金融市場に流れ込んでいるのである。世界大恐慌によって暴露された膨大な過剰資本・過剰生産力の重圧が、全経済を支配しているのである。
ドイツもマイナスに
さらに、ユーロ圏、そしてEU全体を揺るがす重大な事態が起こっている。それはドイツ経済が、4〜6月期において、ついに前期比でマイナス0・2%、年率換算でマイナス0・6%に落ち込んだことである。フランス・イタリア・スペインなどの諸国が、大恐慌のさなかで連続マイナス成長にあえいでいるなかで、「ドイツのひとり勝ち」などと言われ、ユーロ圏、EUの経済を牽引してきたドイツが、この時期において失速したことの意味は、きわめて重大である。ドイツ帝国主義のヨーロッパと世界における独自の位置については、あらためて述べることにするが、これをもたらした二つの特殊な要因について確認しておきたい。
一つは、中国経済の急成長が停滞化過程へ突入したことが与えた衝撃である。この間、日本・ドイツを押しのけて、アメリカに次ぐ、「第2の世界経済大国」にまで膨張した中国経済のバブル的発展は、破裂寸前の状態になっている。これ自体が、世界経済の総体にとって重大な事態であるが、中国が主要な貿易相手国となっているドイツ経済にはとりわけ大きな衝撃を与えるものである。
もう一つは、ウクライナ情勢をめぐるロシアに対する米欧帝国主義の経済制裁の強化が、ユーロ圏、EU、とりわけドイツ帝国主義に与えている重大な打撃である。ロシアとの関係は、天然ガスの主要な供給元であり、自動車・兵器などをはじめとする工業製品、さらに農業生産物の輸出先であるという有機的な関連にある。対ロシア制裁は、ロシア側からの報復措置を引き出し、通商関係の収縮を生み出し、ヨーロッパ経済に重大な打撃を与えつつある。
「諸国連合」と「共通通貨圏」の矛盾
以上の、言わば外的な要因に加えて、ユーロ圏、EUの独自の構造から来る内在的矛盾の爆発がある。共通通貨圏としてのユーロ圏が決定する統一的な通貨・金融政策を実行するのは、加盟各国政府である。共通通貨圏とはいっても、そもそも経済的政治的にそれぞれ独自の構造、利益を持った諸国の連合体であり、相互の利害の対立や争闘戦を内包しているのである。ここにユーロ圏の構造的矛盾がある。調和のとれた「自由貿易圏」「共同市場」「広域経済圏」などという青写真とはまったく裏腹に、戦後世界体制のもとでの帝国主義の特異な延命形態として生み出された「諸国連合」(EU)とその内部での「共通通貨圏」(ユーロ圏)に内在している問題性が、世界大恐慌の激化のなかで、各国の利害の違いとぶつかり合いとして爆発しているのだ。
例えば、ヨーロッパ中央銀行の理事会は、せっかく金融緩和を決めても、各国の「構造改革」「緊縮政策」の実行が進まなければ、その効果はない、と繰り返し主張している。その階級的核心は、すでに破産が明らかになっている新自由主義政策を、「労働市場の柔軟化」(=非正規職化の推進)や社会保障制度の解体などをつうじてもっともっと無慈悲に強行せよ、つまり、階級戦争をひるまずに行え、ということだ。
旧ソ連圏=中東欧諸国の包摂が危機の要因
「ユーロ危機」あるいは、「EU分解の危機」をもたらしている、もうひとつの内在的要因として、ソ連スターリン主義の崩壊と東欧ソ連圏解体を契機とするEU(そしてNATO)の東方拡大=中欧・東欧諸国の包摂である。これら諸国のEUとNATOへの正式加盟までには数年がかかり、ほぼ1999年から2004年の間に実現したが、すでにそれ以前の過程で、これら諸国のEU(そしてNATO)への包摂は、新自由主義の〝ショック・ドクトリン〟的手法で実質的に、直接投資(工場移転)とか金融支配の拡大などの形で強行され、中東欧諸国の社会・経済・政治構造、そして階級闘争のあり方を激変させてきたのである。これら諸国の労働者階級人民にとっては、EU理事会、ECB(欧州中央銀行)、IMF(国際通貨基金)という〈トロイカ〉によって、資金援助の条件として強制される財政・金融・経済政策(緊縮政策)は、怒りの的となっているのである。
世界大恐慌は、こうした「体制移行過程」にある旧東欧スターリン主義体制諸国を直撃している。財政破綻が爆発し、直接投資で流入していた西欧帝国主義資本の引き揚げ、労働者階級への緊縮政策のさらなる強行などで、これら諸国で、政権交代などの政治的激動が起こっている。こうした中東欧諸国の不安定化は、西欧帝国主義諸国に甚大な影響を与えずにはおかない。膨大な難民の東から西への移動がイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなどで軒並みに問題化してきているのだ。
こうした諸要因が、世界大恐慌の深刻化のなかで、解決不能の課題として、ユーロ圏、そして拡大したEUに襲いかかっているのだ。
⑵争闘戦で突出するドイツ帝国主義
延命かけ軍事的突出
ドイツ帝国主義は、今年中旬、ついに大恐慌のさなかにおけるマイナス成長を記録したが、延命をかけてますます争闘戦への軍事的突出にのめりこんでいる。
今年の冒頭、ドイツ・ミュンヘンNATO会議で、アメリカを含めた世界帝国主義列強の面前で、ドイツのガウク大統領が、次のような演説を行った。
「もはや戦後ではない」「アメリカが従来のような力を失っている今、ドイツこそが、その経済的力量にみあった世界への貢献を、政治的軍事的領域でも果たすことが必要である」「第2次世界大戦時の加害者ドイツという自虐的なイメージを脱却すべきだ」
その後、ウクライナ危機の爆発のなかで、ドイツ国防省が「バルト3国にドイツ連邦軍派遣の用意あり」と発言し、イラク・シリア危機に際して、イスラム国に包囲されたクルド地域に対して、ドイツ製の武器援助を行うことが決定されている。
しかし他方で、ドイツ・メルケル首相は、ロシア・プーチン大統領とは、ことあるごとに電話会談を行っているような関係にある。これは、米英帝国主義にとっては〔少なくとも当面は〕考えられないことだ。現にウクライナへのロシアの天然ガス輸送の再開交渉は、ドイツを中心とするEUの仲介で行われている。
このようなドイツ帝国主義の突出が、ドイツ経済成長の減速と同時に起こっており、延命のために、外へ向けての争闘戦、内へ向けての階級戦争をますます激烈化させていかざるをえない。
東西ドイツ統一とEUの東方拡大
ドイツは、EUで最大の経済力を持ち、工業的にも金融的にも、英仏をはるかにしのぐ「大国」である〔GDPにおいては、現在、米中日に次いで、世界第4位〕。1990年の東西統一によって、その位置は中央ヨーロッパから東欧へ向けて明らかに強化された。しかし、東独スターリン主義経済の暴力的解体と「西」への包摂は、国力の増強という面を持ちながら、東独再建への財政負担が予想を超えた巨大な額に上り、ドイツ経済は1990年代をとおして低成長に陥り、EUの平均よりも低い経済成長を続け、一時は「ヨーロッパの病人」とさえ称されていた〔ちょうど、日帝経済の「失われた10年間」に対応する時期である〕。そこから、これから述べる新自由主義的改革を強行することによって、再浮上を経験してきた時点で、世界大恐慌に遭遇し、現在にいたっている。
この二十数年にわたって、ドイツ帝国主義は戦後世界体制を転覆する転換を強行してきた。
その柱の一つは、ロシアにつながる中欧・東欧諸国への経済的・政治的・軍事的影響力の、EU・NATOの「東方拡大」とあいまった、圧倒的強化である。
もう一つは、戦後〔西〕ドイツの「国是」ともなってきた「社会的市場経済」の軸をなす社会保障制度の体系的解体=新自由主義的再編、すなわち2003年に開始された「ハルツ改革」と呼ばれる政策である。
中東欧諸国などへの直接投資の拡大
第一の点から見ていこう。ソ連スターリン主義崩壊と東欧スターリン主義圏の解体、ドイツの東西統一は、ヨーロッパ中部からロシアへかけての広大な世界が、ドイツ帝国主義のかつての勢力圏の復活の絶好の場として開放されたことを意味した。これは、1974〜75年恐慌、1987年恐慌以来、成長の鈍化に直面していたドイツ帝国主義(そして、フランス・イタリアなど他のヨーロッパ帝国主義)にとって、新たな延命の可能性を示すものであった。
すでに述べたように、これら中欧・東欧諸国がEU加盟にいたる10年の過程で、EU諸国、とりわけドイツ企業がこれら諸国に対し、貿易の拡大ももちろんであるが、直接投資を嵐のように集中した。その内容は、主要に、自動車産業が、「低賃金と無権利の労働力」を求めて、中欧の中軸をなす3国、ポーランド、チェコ、ハンガリーなどの諸国に大規模な工場移転を行ったことである。加えて、金融資本の流通部門への進出が行われた。その結果、次ページの上の表で明らかなように、この10年間でドイツから中欧3国への直接投資は、額にして数十倍、ドイツの海外直接投資に占める比重からしても、数倍に増大したのである。
このようなドイツ資本の中欧・東欧への進出は、これら諸国の労働者階級を、スターリン主義支配下の圧政をも上回る過酷な状況に陥れたと同時に、ドイツ本国では工場閉鎖や操業短縮、低賃金の強制、さらには、産業別団体交渉・賃金協約制度の解体=事業所(個別企業)毎の賃金交渉への移行による労働者の分断が、体制内労組(ドイツ労働総同盟DGB)の協力によって進められていったのである。
このような「東方拡大」と並んで、新自由主義の世界的展開のなかで生まれたBRICS諸国という「新興国」に対して、ドイツは、他のユーロ圏、EU諸国に先んじて、商品輸出とともに直接投資による工業的参入を強化している。とりわけ、「開放経済」に転じた中国との経済関係を強化した。その結果、ドイツと中国は、相互に重要な貿易パートナー、さらに直接投資で結ばれる関係になっているのである。ドイツが、米ロについで、世界第3位の兵器輸出国であることを忘れてはならない。
米日とも違い、またユーロ圏、EUの帝国主義諸国とも違う、こうしたドイツ帝国主義の世界経済との結合の深さは、世界大恐慌の激化のなかで、有利な位置というよりも、重層的な危機にドイツを引きずりこんでいくものとなる。現に今、ウクライナ問題、イラク・シリア危機で生じていることは、それを示しているし、バブルの破裂寸前の残存スターリン主義中国と経済面にとどまらず、政治・軍事的な領域でも、関係を深めていくことは、世界大恐慌の激化のなかの争闘戦の熾烈化に、一層のインパクトを与えずにおかないであろう。
社会保障の新自由主義的再編=「ハルツ改革」
次に、もう一つの戦後世界体制転覆、すなわち社会保障制度の体系的解体=新自由主義的再編としての「ハルツ改革」について見ていきたい。
1990年東西統一後のドイツ帝国主義資本が、中東欧諸国に向けて嵐のような「東方への進出」を強行していった過程は、先に述べたように、ドイツ経済は失速し、そのなかで失業率は増加し続け、1993年の8・9%から、97年には11・4%、2005年には、再び11・7%という高率を記録するにいたっていた〔その要因の一つとして、中東欧諸国への工場移転による解雇の激増があることは明白である〕。
こうしたなかで、東西統一を担った保守党コール政権は98年の総選挙の敗北で退陣に追い込まれ、代わりに登場したのがシュレーダー政権である。社会保障制度の体系的解体=新自由主義的再編を行ったのが、この社民党政権であった。政権4年目の2003年に発表したのが「2010年へ向けての緊急課題(アゲンダ)」という戦後制度の抜本的改革をうたった政策であり、その核心部分が社会保障制度改革であった。この計画を遂行する政府主導の委員会の委員長ハルツ(フォルクスワーゲン社の役員)の名から「ハルツ改革」と呼ばれることになった。
ハルツ改革の狙いは、ドイツ経済の陥った財政危機、経済成長の低下の危機を、「戦後的遺産」としてあった社会保障制度と雇用制度の抜本的改革をもって打破しようとするもので、戦後的制度からの歴史的決別を意味した。ハルツ改革の開始にあたって、シュレーダー首相は、連邦議会で次のように述べた。
「われわれは欧州において、再びトップの座に返り咲くためには、必要な変革に踏み切る勇気を持たねばならない」「われわれは、社会保障制度による国家的サービスを削減しなければならない」「自己責任を促し、一人ひとりの負担を引き上げなければならない」
この演説は、社民党内部に激甚なショックを与えたが、体制内労働運動であるDGBは、ハルツ委員会への参加をもってこれに応えたのである。
ハルツ改革の核心は、巨大な財政負担を強いている膨大な失業者への給付をはじめとする社会保障関係支出の大規模な削減であり、財政政策と同時に、失業者数を低下させるための労働力市場(雇用市場)の改変、すなわち非正規職化の拡大である。失業手当を削減し、それによって生きられなくなった失業労働者に、選択の自由を与えず、低賃金職場を強制するとか、年金生活者への支給額を削減し、〈ボランテイアの社会奉仕労働〉という形をとった非正規職労働者として動員し、教育、医療、福祉関係の職場に派遣して、正規職労働者の解雇を強行する、などというやり方が、ドイツ社会を一変させたのである。【くわしくは、本誌2014年1月号「ドイツ/非正規職化攻撃と闘う労働者」参照】 第1節 その結果、公式発表で明らかなだけでも、ドイツの正規職労働者の全就労者に対する割合は1991年から2012年にかけて、77・5%から66・8%へと減少し、代わりに非正規職労働者の割合が12・8%から21・8%へと激増した。これが、低賃金、賃金カットと結びついていることは言うまでもない。現在、ドイツは、EU諸国における低賃金労働者の比重の大きさで、ハンガリーとイギリスに次いで3位である。これが、現在ドイツの6・7%という失業率の数字の背後にある真実である。
こうしたドイツ社会を一変させる新自由主義政策の強行は、ドイツ労働者階級人民の怒りを爆発させ、シュレーダー政権は2005年の総選挙で敗北を喫するが、その政策は、保守党のメルケル政権(当初は、社民党との連立政権)によって継承されていくのである。
シュレーダーは、「ドイツのサッチャー」とか「ゲアハルト・ハルツ・シュレーダー」とか呼ばれて人民の憎しみの対象になっている。