特集 中国の新自由主義政策の矛盾爆発 バブル崩壊、金融恐慌へ 香港を始め闘いが高揚 Ⅱ 鉄道輸出政策で争闘戦――東南アジア、インドの勢力圏化
特集 中国の新自由主義政策の矛盾爆発
バブル崩壊、金融恐慌へ 香港を始め闘いが高揚 Ⅱ
鉄道輸出政策で争闘戦――東南アジア、インドの勢力圏化
①危機乗り切りかけた鉄道輸出政策の展開
第Ⅲ章で見ていく「改革・開放」政策の末期的な危機の中で、中国スターリン主義は、激しい帝国主義との争闘戦を闘い、政治的・経済的・軍事的に勝ち抜くことで延命しようとしている。米帝の対中国重圧政策の展開に対して、積極的な戦争政策・外交政策を展開し、東南アジア、インド、アフリカ、中南米をはじめとする全世界への経済進出を進めている。
この中国スターリン主義の帝国主義との争闘戦、対外政策の核心となるのが鉄道輸出、とりわけ高速鉄道の輸出政策である。そして原発輸出である。
まず鉄道輸出の現状について、流れを見てみよう。
・6月24日、マケドニアの首都スコピエとの間で、内燃機関と高速列車のユニット6編成の売買契約に中国南車株式会社有限公司は調印。中国高速列車の初の対欧州輸出。
・7月25日、中国企業が建設に参加したトルコの首都アンカラと同国最大の都市イスタンブールを結ぶ高速鉄道の第2期工事が完成し、運行を開始した。
・8月7日、中国人労働者5000人がケニアに到着、国内最大級の鉄道建設。
・8月14日、中国の建設会社「中国鉄建」は建設を進めていたアンゴラを横断するベンゲラ鉄道を全線完成し、年内に運行を開始と発表。
・8月31日、高速鉄道の車両94台がアルゼンチンへ。
・9月2日の英・ガーディアン紙のウェブサイトは、タイが中国主導の高速鉄道建設計画を承認と報道。
・9月4日、北京で『環球時報』の取材に対して、南アフリカ外相が、「高品質で信頼できる中国高速鉄道の南アフリカ進出を歓迎する」と発言。
・9月11日の環球時報(電子版)は、ロシア初の高速鉄道に、中国企業が1兆円の投資を計画と報道
・10月17日、中国はメキシコへの高速鉄道プロジェクトで合意。
鉄道の基準の採用が排他的な支配力に
このように、中国の鉄道、高速鉄道輸出は極めて激しく国家政策として推進されている。アンゴラでのベンゲラ鉄道に関しては、「同プロジェクト開始前は、欧洲の基準と中国の基準、どちらを採用するかをめぐって激しい議論が巻き起こった。最終的に、中国の高速鉄道が近年急速に発展していることや、提出した工期や工事費、質が評価され、中国鉄建が請け負うことが決まった。劉氏によると、『同鉄道は設計から施工に至るまで、すべて中国の鉄道の建設基準が採用された。また、レールやセメントなどの建設資材、通信、大型機械、設備などもすべて中国から仕入れた。運営開始後に投じられる車両も中国企業が提供することになっている』」(レコード・チャイナ、8月17日)と言われているように、中国鉄道の基準を採用した鉄道となった。
鉄道の基準をどこの国のものを採用するかという問題は、その基準となった国が、その地域に及ぼす支配的な影響という意味で極めて重要である。鉄道はそれ自身がその地域の経済活動の軸となるし、その基準は排他的で他国が入ってくることをあらかじめ排除する性格を持っている。それは経済的な面はもとより、政治的軍事的な面でも支配的な影響力を持ち、その地域の勢力圏化に決定的な役割を果たす。戦前のニセ「満州国」のでっち上げとその支配にとって、満鉄が果たした役割を見ればそれは明らかである。
中国は毛沢東時代に、反米反ソの「第三世界論」を掲げて、米帝、ソ連スターリン主義とも別の独自の外交政策を展開し、アフリカ諸国などに独自の友好国をつくってきた。それが今の中国の鉄道輸出政策には重要な役割を果たしている。ここは日帝とは大きく違うところである。
そして今、最大の焦点となっているのが、東南アジアとインドをめぐる高速鉄道建設であり、日帝との激しい争闘戦を繰り広げている。
東南アジアの高速鉄道で日帝との争闘戦
まず東南アジアをめぐっては、レコード・チャイナ(9月19日)などの報道によれば、2015年にシンガポールとマレーシアを結ぶ高速鉄道の入札が行われる予定となっている。これに現在計画立案中のインドやタイなどを合わせると高速鉄道の総延長距離は1万㌔規模と言われている。中国政府は現在、中国・雲南省からラオスとタイ、マレーシア、シンガポールを結ぶアジア3000㌔を縦貫する高速鉄道計画を推進しており、東南アジアの高速鉄道をめぐる争闘戦は激化の一途をたどっている。
中国はタイに対して高速鉄道の建設費用をコメなどで代替する提案を行ったり、財政が厳しいラオスに対しては同国の鉄道資産や鉱山収入などを担保に7000億円を融資して、高速鉄道を建設する計画を提案している。すさまじい攻勢をかけている。8月2日に英紙・ガーディアンのウェブサイトは〝タイ軍事政権は中国と接続の鉄道プロジェクトを承認した〟と報道している。
この中国の攻勢に追いつめられているのは日帝である。ベトナムは中国との過去の対立関係から、日本の新幹線導入の方針を取っているが、建設費用が5兆円にのぼり、国会で反対されている。ラオス計画投資省政策顧問を務める鈴木基義氏は、「コストの回収はその後の車両やメンテナンスで何とかカバーすることを考えればいい。たとえ0円でも、なんとしても落札しなければならない」と発言したとされる(レコード・チャイナ、9月19日)。
「0円でも落札」というのは、要するに〝建設費はタダでも良い〟ということであり、経済の常識を逸したすさまじい発言である。中国との高速鉄道をめぐる争闘戦の激しさを反映している。またこの発言は、高速鉄道建設が、もはや単なる経済にとどまらない、政治や軍事問題をはらんでおり、それは東アジアをどの国が勢力圏とするのかという問題そのものであることを示している。
インドでも激しい争闘戦
そしてインドをめぐる情勢である。
安倍首相は今年1月25〜27日にインドを訪問し、その中で新幹線をインド政府に売り込んだ。5月にインドでモディ政権が発足するや習近平中国国家主席は王毅外相を訪印させた、8月31日から9月3日まで、モディ首相は日本を訪問した。その際、安倍はモディ首相に新幹線を売り込み「新幹線の輸出を含め、日本がインドに今後5年間で350億㌦を投融資するとの目標」が共同声明に明記された。
この直後の9月18日に今度は習近平がインドを訪問し、モディ首相と会談した。5カ年の経済・貿易協力計画に署名し、計画には高速鉄道整備に向けた協力の強化や中国による200億㌦のインドへの投資も盛り込まれた。さらにインドに鉄道大学を創設することも今後、検討するという。またモディ首相は、中国と民生用原子力における協力に向けた協議も開始すると発表している。
この過程を見れば明確なのは、インドでも高速鉄道建設をめぐって日帝と中国スターリン主義が激しく激突しているということである。
米帝市場でも日中激突
日帝と中国スターリン主義の鉄道輸出をめぐる争闘戦は、米帝市場をめぐっても激しく激突している。安倍晋三首相は10月22日に、東京都内で開かれた東海道新幹線開業50周年記念レセプションで、「米国北東部への(新幹線技術の)導入を提案している」と述べた。これに対抗して中国政府系の鉄道車両メーカー・中国北車は、米カリフォルニア州への高速鉄道の売り込みを現在計画している。また同じ22日には、米マサチューセッツ湾交通局は、ボストン市の地下鉄にこの中国北車に地下鉄車両284両を発注し、2路線に導入すると発表した。
リニア新幹線でも
なお中国では世界で唯一、すでに2003年よりリニアモーターカーの営業運転も実用化されており、浦東国際空港駅と上海市郊外の竜陽路駅の間(約30㌔)を時速430㌔で走っている。〔さらに中国は、上海市と杭州市を結ぶリニア線高速鉄道を計画していたが、これはコストの高さや電磁波による健康被害を懸念する住民の反対運動で現在凍結されている。〕
日帝とJRは今、必死でリニア新幹線の開発を進めている。この日帝とJRによるリニア新幹線の開発は、単に国内経済のためだけではなく、高速鉄道輸出をめぐる海外での中国などとの争闘戦に勝つためにも絶対に必要であり、そのために開発が急がれていると思われる。
原発の輸出も推進
モディ首相の発表にも見られるように、原発の輸出も中国スターリン主義は積極的に推進している。イギリスは25年ぶりに英南西部ヒンクリーポイントに原発の新設を進めようとしているが、そこにフランス企業2社とともに中国企業2社が初参入することとなった(2013年10月21日、朝日新聞)。またパキスタンがカラチで進める95億9000万㌦規模の原子力発電所プロジェクトに中国が65億㌦を融資することが、2013年12月にパキスタン当局者の話で明らかになっている。今年10月には、ロシアと中国の世界の原発市場への共同進出を確認している。インドへの原発の輸出も進もうとしているのである。
中国は鉄道と並んで原発輸出を国策として推進しようとしており、ここでも日帝をはじめ世界の帝国主義との間での激しい争闘戦が今後展開されていくだろう。
②東南アジア・インドをめぐる激しい争闘戦
中国スターリン主義の東南アジア、南アジアへの鉄道の輸出政策は、米中対峙対決構造、米帝の対中重圧政策の展開の中で、米帝や日帝に対抗した争闘戦の展開であり、勢力圏づくりそのものである。よってそれは単に鉄道にとどまらず、海外での港湾の建設計画とも一体で進んでいる。
9月16日、インド訪問に先立って習近平中国国家主席はスリランカを訪問したが、ここで〝中国を核とした海上経済圏「21世紀の海のシルクロード」建設〟への支持を取りつけたという。
スリランカでは2010年に南部ハンバントータで大型船の寄港が可能な同国最大級の港湾施設が中国の支援で完成している。さらにバングラデシュのチッタゴンでも中国企業が港湾建設にあたっている。さらに去年2月にパキスタン政府が南西部グワダル港の港湾管理権をシンガポール企業から中国国有企業に移譲すると決定した。中国政府は、さらにインドの港湾・道路建設や河川プロジェクトに500億㌦を投資する計画を持っている。
「真珠の首飾り」戦略
バングラデシュからスリランカ、そしてパキスタンの港湾を線で結ぶと、インドがすっぽり囲まれる「首飾り」のような線を引くことができる。これを指して、アメリカ国防総省は〝中国の「真珠の首飾り」戦略〟と言っている。米帝がこういう言葉で中国の対外政策を呼ぶ背景には、米中対峙対決構造、米帝の対中国重圧政策の展開の中での米帝のアジア戦略への危機感が反映している。日帝のみならず、米帝と中国スターリン主義の間での南アジアをめぐる争闘戦がここにはあるのだ。
中国スターリン主義の鉄道輸出戦略は、こうした海洋政策と一体と見るべきである。南アジアと東南アジアをめぐる帝国主義・大国間争闘戦が、こうした形をとって進行しようとしているのである。
安倍晋三首相は習近平国家主席のスリランカ訪問に先立って、9月6〜8日、スリランカとバングラデシュを訪問した。中国が港湾建設を進めている国である。その狙いはスリランカへの中国の影響をそぎ落とすことにあった。安倍首相同行筋は「(この訪問によって)『真珠の首飾り』は切れる」と言ったとされている。日帝としては、東南アジアで中国の高速鉄道が採用されることは、東南アジアを日帝が失うことに等しく、絶対に認めることはできない。
日帝の新幹線輸出政策は、破綻に破綻を重ねている。ベトナムのみならず、日本からの新幹線システムの導入を検討しているブラジルでも、必要資金が高すぎて、現在は棚上げしている状態である。こうした日帝の新幹線輸出戦略の破産を突く形で中国は高速鉄道を国家戦略として東南アジア、南アジアへ、全世界へと輸出しようとしている。
③15年ASEAN経済共同体(AEC)の設立をめぐる主導権争い
2015年に、ASEAN加盟10カ国でASEAN経済共同体(AEC)が設立されようとしている。高速鉄道をめぐる争闘戦は、より直接的には、この創設されるASEAN経済共同体で、誰がその主導権を握るのかという問題である。
このASEAN経済共同体が予定通りに設立されるなら、ASEAN内部の経済活動がさらに自由化され流動化していく。その経済活動の根幹をなすのが鉄道である。
中国の高速鉄道をASEAN各国が採用するならば、それは「中国がASEAN各国の物流ネットワークの主導的な地位を手に」し、中国がこのASEAN経済共同体の経済の主導権を握ることを意味する。そうなれば、日本はASEAN経済から弾き飛ばされ、「日本の損失は計り知れないものとなる」(レコード・チャイナ、9月19日)
高速鉄道をめぐる争闘戦は、ASEAN経済をめぐる争闘戦になっている。だから安倍も習近平も必死で自ら高速鉄道の売り込みに動いているのだ。
中国はさらに10月24日、21カ国とアジアインフラ投資銀行の創設で合意し、世界銀行やアジア開発銀行と似た役割の銀行にしようとしている。この銀行の創立によって中国は、鉄道輸出や原発輸出などを全アジアに進め、経済の主導権を握ろうとしている。
2015年のAEC設立と一体で、この争闘戦はますます激化していくことは必至である。
東アジアをめぐる戦争政治の展開へ
ウクライナをめぐるロシアとEU、米帝の軍事的な介入、さらにシリアへの空爆など、すでに世界の各地で戦争の火が噴き出している。さらにそれは朝鮮半島や中国を焦点としながら、東アジアをめぐる戦争政治の本格的な展開になろうとしている。
南アジアと東南アジアをめぐる、日帝と中国スターリン主義の鉄道輸出をめぐる激しい争闘戦は、東南アジアの危機を促進するのである。