■News & Review 日本 安倍・黒田の「異次元金融緩和」の破産 日銀が株価を下支えする異常事態

月刊『国際労働運動』48頁(0458号02面03)(2014/11/01)


■News & Review 日本
 安倍・黒田の「異次元金融緩和」の破産
 日銀が株価を下支えする異常事態


 アベノミクスの総破綻が音を立てて始まっている。とりわけ13年4月から開始し「異次元緩和」と銘打った黒田日銀総裁の金融緩和政策のメッキが完全に剥がれ落ちた。「逐次投入せず、政策手段を総動員する」とうそぶいていたが、今やさらなる追加緩和に踏み込まざるをえないところに追い込まれている。
 こうした中で日銀は、中央銀行として極めて異常な政策に手を突っ込んだ。

マイナス金利の短期国債の購入

 ひとつは、マイナス利回りでの国債の買い入れだ。
 日銀は9月、4度にもわたって、マイナス利回りでの取引が続いている3カ月物や6カ月物の国庫短期証券(短期国債)を買い入れた。
 マイナス利回りとは、購入額が償還額を上回り、満期まで保有すれば損失が出るということだ。日銀が明示に損失を出して、その分の資金を金融機関に供給するという手段を強行したのだ。どんな状態でも買い取る意思を示すために、あえて購入に踏み切ったという。日銀はこれを「異次元緩和は第2段階に入った」などと言っている。デタラメにもほどがある。
 この間、市場でのマイナス取引が常態化しているのは、ユーロ圏でのマイナス金利(ECBへの預金金利のマイナス化)導入によって日本の債券市場に短期資金が殺到している(買った時点で損を抱えるが、それでも買う投資家が多い)とともに、日銀の国債大量買い入れによって国債が品薄になっているからだ。9月に入って市場に流通する国債は年20兆円強のペースで減っているという。国債市場の安定性や流動性を自ら破壊してきた日銀は、それでもなりふり構わず買い取りを進めているのだ。中央銀行として、異例中の異例、常軌を逸したやり方だ。

ETF買い取りで株価を下支え

 今ひとつは日銀が必死になって株価を支えるという異常事態だ。
 黒田の金融緩和策では、長期国債の大量買い取りとともに、ETF(上場投資信託)の購入規模を年1兆円に増額した。ETFは、TOPIX(東証株価指数)などと連動して運用される証券であり、この購入策自身が日銀自ら株式市場に資金を送り込むことによって投資を促進しようというものである。だが今やっているのは、そのレベルも超えた露骨な株価の下支えだ。
 日銀はETFの買い入れ基準は明示しておらず、そのやり方は恣意的で、TOPIXが午前中に1%下落したらすぐに買い入れるという「1%ルール」があると言われている。そして、株価が軟調(下落基調)だった7月には4日間連続で合計576億円、さらに8月初旬には6日間連続で924億円買い入れた。ETFの購入自身は白川総裁時代の10年12月に開始したが、最長で最大規模の連続買い入れとなった。株価の下落を日銀が必死に買い支えて食い止めようとしているのだ。

株式の売却は延期 株高の演出に必死

 さらに日銀は、安倍相場としての株価を守るというただ一点で、保有株式の市場売却を遅らせ続けている。
 日銀はETFとは別に、金融安定化と称して02年11月から04年9月、09年2月から10年4月の2回にわたり銀行から買い入れた株式を保有している。1回目の買い入れ終了後、07年からいったんは市中売却を始めたが、リーマン・ショックの爆発(08年9月)の中で同年10月に中止、09年2月からは再度買い入れた。
 この株式買い入れ自身は終了しているが、売却については12年1月の会合で延期、さらに13年12月に再び16年からの開始に先延ばしした。12年は欧州債務危機や3・11後の景気停滞を理由にしたが、13年については安倍・黒田のもとでの株式相場に一切の不安材料を持ち込ませないことだけを目的に売却開始を先送りしたのだ。
 日銀が銀行を救済するために株式を買い取って保有すること自身がそもそも異例のことだが、その上に一度決めた売却開始時期をくり返し先送りして、そういう面からも株価を下支えしようとあがいているのだ。
 これと一体で安倍政権は今、世界最大規模の130兆円を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用方針を見直し、現在6割を占める国内債券比率を引き下げ、日本株比率を引き上げようとしている。公的年金による株の大量買いで、株式相場を支えようとしているのだ。麻生財務相は「(GPIF)が10%動いたら13兆円」と小躍りしている。公的年金の流用そのものだ。
 こうやって、徹底して株価の高騰のみを追求し、「経済好循環」を演出する。経済政策の綱渡りをしているのだ。日経平均株価のリーマン・ショック前水準への「回復」の裏にあるのは、こうしたとんでもない粉飾とバブル化だ。

安倍の私的機関と化した日銀

 以上のように、安倍は日銀にリスクや損失をどんどん抱え込ませている。日銀の財務内容がどんなに悪化しようが、日本銀行券を刷り続ければいいというのだ。しかしこんなやり方は長続きするわけがない。日銀の信用が崩壊していく以外にないのだ。
 日銀の保有株式は今や7兆円を超える額となり、日本生命を抜き、GPIFに次ぐ第2の巨大保有者となった。国債保有も201兆円(3月末)で、保険会社を抜いて最大保有者だ。
 しかも、黒田の金融緩和策は財務省の毎月発行額の7割の規模の国債を買い取る政策で、ほとんど「財政ファイナンス」(日銀による国債引き受け)と同じだ。
 戦前の高橋是清のもとでの財政政策は、政府が国債を大量発行し、それを日銀が引き受け、その後に民間銀行に売却していくという方法だった。今の日銀は逆に、ほとんどの国債を買い取ったまま自ら溜め込んでいる。戦前の高橋財政以上に矛盾が膨れ上がっている。
 日本帝国主義は、安倍・黒田の金融政策のもと日銀がとにかく日銀券を刷り続ける緩和策=カンフル剤からもはや抜け出せない状態に入った。
 黒田の日銀総裁任命が安倍人事だったが、日銀は今や完全に中央銀行としての一切の「歯止め」をかなぐり捨てて、安倍の私的機関となり果てた。安倍政権が崩壊すれば、日銀の信用もぶっ飛び、国家としての体をなさないような事態に突入する。とんでもない危機に突入したのだ。

インフレの追求で実質賃金が低下

 こうして必死のテコ入れをしているにもかかわらず、実体経済の面で矛盾が噴き出してきている。
 4~6月期の実質GDP(国内総生産)は前期比7・1%減(年率換算)と大幅減に下方修正された。特に企業の設備投資が急減している。8月の鉱工業生産指数は市場のプラス予想に反して前月比1・5%減のマイナスに転落した。8月の自動車販売台数は前年同月比9・5%減で、前月より下げ幅が大幅拡大。特に軽自動車の落ち込みが激しい。個人消費は前年同月比4・7%減で5カ月連続減少となり、消費増税後の反動からまったく抜け出せない。
 そこには何よりも、実質賃金の低下という問題が横たわっている。8月の現金給与総額は実質ベースでは前年同月比2・6%減で14カ月連続の減少だ。勤労者世帯(2人以上)の7月の実収入は、同6・2%減であり、昨年10月から10カ月連続で前年を下回った。アベノミクスの核心である労働規制の全面撤廃と非正規職化の徹底推進こそその最大の原因だ。
 とりわけこの間の「物価上昇」「円安」の自己目的化が、労働者階級の生活を破壊している。安倍・黒田は「デフレ」「円高」を日本経済停滞の原因として攻撃対象にし、とにかくインフレと円安を促進してきた。しかしその本質は、一部の大ブルジョアジーの利益を徹底的に追求するということ以外の何ものでもない。大企業が潤うことがすべてという新自由主義攻撃だ。それを合理化するために「トリクルダウン政策」などを宣伝している。それは圧倒的な労働者階級人民にとっては実質賃金の大幅低下であり、「生きられない」生活の強制だ。
【注 トリクルダウン 「富める者が富めば、貧しい者にも自然に富がしたたり落ちる(トリクルダウン)」とする新自由主義の大ウソ】

過剰資本・過剰生産力の矛盾は解決不可能

 日本帝国主義(日帝)に出口はない。大恐慌と長期大不況の重圧から抜け出すことはできない。アベノミクスの総破綻とともに、大恐慌の本格的爆発に転げ落ちていく以外にない。
 日帝の危機の核心は、政策的問題ではなく、帝国主義の巨大な生産力の形成による過剰資本・過剰生産力という根本矛盾にある。74~75年恐慌をもって突き出された過剰資本・過剰生産力状態を資本主義は絶対に解決できない。最末期帝国主義の絶望的延命形態として登場した新自由主義は、金融自由化とグローバリズムに走ったが住宅バブルの崩壊となって大破産した。それが07年パリバ・ショック―08年リーマン・ショックで世界大恐慌が爆発した。
 だから、政策的にどうすることもできないのだ。どんなに日銀が資金をばら撒こうが投資に向かわない。日銀がどんなに株価を支えようとしても、流入するのは企業業績とは関係のない、ヘッジファンドなどの投機資金だ。結局のところさらなる大恐慌に陥り崩壊する以外にない。

アベノミクスの末路は戦時経済化

 安倍政権は7・1閣議決定で、憲法体制を踏み破って本格的な戦争国家=侵略帝国主義へと突き進み始めた。この中で、アベノミクスは壮大な破局を準備しながら、戦時経済化の道を開いていくしかない。
 とりわけ成長戦略の要として位置付けられている鉄道・原発を軸にしたインフラシステム輸出はアジア―全世界への侵略戦争そのものだ。「20年には受注額を約30兆円にする」(10年約10兆円の3倍化)と銘打って成長産業を謳うが、現実は米欧帝国主義や中国・韓国などとすでに激突している争闘戦の戦場であり、日帝は決定的に立ち遅れている。
 それはブルジョアジーにとって国内市場に一切の成長の余地がなく、この間の円安によっても貿易赤字が一向に解消されず、輸出国から転落し、もはやインフラシステム輸出にしがみつく以外に延命の道がないということだ。
 しかもそれは相手国を面的に支配する勢力圏化そのものであり、軍事力の行使なしには成り立たない。さらに最大の問題は、「アジア重視」「輸出倍増戦略」とTPPでアジア市場に延命をかける米帝との大激突である。この絶望的な展開の中、日帝は鉄道・原発と一体となって武器輸出に舵を切り始めた。日帝は延命のために戦争国家化・戦時経済化に突き進んでいくしかない。

11・2の爆発で安倍政権倒そう!

 世界大恐慌はこれからますます激化・深化する。すでに帝国主義間・大国間の争闘戦の軍事化・戦争化の段階に入り、大恐慌と戦争が一体で進行し始めている。戦争と革命の時代が本格的に到来している。
 今こそ安倍政権を打倒し、日帝に断を下す時だ。アベノミクスの虚飾など、労働者階級の闘いがたたきつけられた瞬間に吹っ飛ぶ。
 その力は国鉄決戦を軸にした階級的労働運動にこそある。外注化と鉄道輸出で日帝の柱となったJR資本と真っ向対決する動労千葉・動労水戸を先頭に、すべての職場から怒りの声を組織しよう。
 全国から11・2労働者集会に結集しよう。
(諸岡鉄司)