■News & Review ヨーロッパ 英公共ストなど労働者の闘いがEU揺るがす 対ロ・対IS臨戦態勢に入ったNATO

月刊『国際労働運動』48頁(0458号02面02)(2014/11/01)


■News & Review ヨーロッパ
 英公共ストなど労働者の闘いがEU揺るがす
 対ロ・対IS臨戦態勢に入ったNATO

(写真 2013年のグラスゴーでのデモ。スローガンは〝「空きベッド」口実の増税を粉砕するぞ〟〝払えないものは払えない〟〝われわれは絶対に出て行かないぞ〟などだ)

 ヨーロッパは、世界大恐慌のただなかで、長期にわたる経済成長の停滞にたたき込まれる一方で、ウクライナ情勢の激化のなかで、EU・NATOをめぐる争闘戦の軍事的先鋭化に突き進んでいる。こうした最末期帝国主義の絶望的あがきは、すべて労働者階級人民への犠牲の集中、階級戦争として襲いかかっている。これに対して、労働者階級は、ストライキをもって、新自由主義攻撃に対する反撃を開始している。

英公共部門労働者が3日間のストへ

 10月13日から15日まで、イギリス公共部門労働者が3日間のストライキに突入する。まず、第1日目、公共医療部門(NHS)で働く30万人の労働者を組織するUNISONが全国の病院などの医療機関でストを開始し、14日には地方公務員労組がこれに合流する。そして、15日に公共サービス・商業労働者労組(PCS、25万人)が、全国でストに決起する。
 これは、7月に100万人の公共部門労働者の全国ストが、1926年の炭鉱・鉄道・運輸労働者を軸とした歴史的なゼネストを思い起こさせる衝撃を与えたことを受け継ぎ、保守党内閣の緊縮政策に反撃する闘いだ。

高まる労働者の怒り

 2010年以来の賃金凍結で、公共部門労働者の賃金はインフレ率で換算すると、この間、実質20%低下している。だが、労働者の怒りは、低賃金に対してだけでなく、いわゆるゼロ・アワー労働(電話一本の呼び出しで働かせる極限的な非正規労働)の拡大や社会保障の解体に対しても向けられている。
 「もうこれ以上、がまんはできない」「闘いへの決断を下す時だ」「情勢は厳しいが、時代はわれわれのものだ」という戦闘的活動家の声に突き動かされて、労働総同盟(TUC)は、18日に「いま必要なのは賃上げだ」というスローガンを掲げて大デモを行う。

スコットランド住民投票の意味するもの

 イギリスの階級闘争、労働運動は、新たな局面を迎えている。
 先日のスコットランド独立の住民投票は、緊縮政策への怒りを爆発させるものであった。
 9月18日、スコットランド独立住民投票の結果が、NOと出たことに対し、保守党政権、労働党、財界が、こぞって「安心した」と報道されている。しかし、「イギリスからの独立」を超えて、実際に起きたことは、大恐慌の激化のなかで保守党と労働党が、ともにこの20年あまり強行してきた新自由主義の緊縮政策への怒りの爆発だった。
 「独立キャンペーン」を主導してきた現スコットランド政権党=スコットランド国民党を突き動かしているのは、こうした労働者階級人民の「生きさせろ」の怒りの爆発への恐怖である。実際、投票の結果、首都グラスゴーなど、労働者人口の比率が高い選挙区では、独立賛成の票が多数を占めていた。
 スコットランドは、全国の国土の3分の1を占め、人口では8%。グラスゴー・エディンバラという金融・学術の中心都市のほか、造船業、北海油田があり、軍事的にはアバダンの英国海軍の原子力潜水艦基地を有している〔今回の住民投票をめぐって、この核戦力の撤去を求める声も大きい〕。イギリス帝国主義にとってスコットランドは、戦略的な意味から言っても、重要な拠点である。
 歴史的には、スコットランドは、「大英帝国」への併合(1707年)まで、イングランドと激しい対立関係にあった。労働党の伝統的牙城であり、トニー・ブレア、ゴードン・ブラウンなどの元党首・元首相は、いずれもスコットランド出身である。しかし、彼らは独立反対派である。

集中された新自由主義攻撃

 現在のスコットランドの状態は、サッチャー保守党政権によって開始された新自由主義による労働運動の破壊、戦後的「福祉国家」解体の攻撃、労働党政権を経て現在に引き継がれている緊縮政策が生み出したものだ。とりわけ炭鉱業など産業革命以来の伝統的な産業を、戦闘的労働組合もろとも壊滅させるための「脱工業化」と既得権剥奪の攻撃がスコットランドに集中して加えられたのだ。イギリス全土のなかでとりわけスコットランドでは、「サッチャー=憎悪のシンボル」となっている。
 現在、スコットランドをはじめとする全イギリスの労働者階級人民の怒りの的になっているのが、現キャメロン政権の2012年の社会福祉改革によって導入されたベッドルーム・タックスである。この税は、住居費援助対象の公共住居で、「空いたベッドルーム」(〝余分な部屋〟)があればその分、課税する(実質上の援助費の削減)というもので、これが払えなければ居住資格なしとして立ち退きを強制するというものである。写真で見るように、昨年来、グラスゴーをはじめとする各地で、ベッドルーム・タックス反対のデモが行われている。
 実際、スコットランドでは、この間の社会保障制度の解体のせいで、病人の数が激増しているという。「それは新自由主義のせいだ」という声が、増税反対デモで掲げられている。
 スコットランドの独立問題は、他のEU諸国のなかにある独立傾向運動(スペインのカタロニア・バスクなど)へのインパクトが大きいと言われている。しかし、現体制への怒りを独立要求に収斂するのではなく、新自由主義・緊縮政策の根源、労働者階級人民が生きられなくしている帝国主義そのものを打倒する闘いに発展させなければならない。職場の闘いに基礎を置き、労働組合を軸とした階級的労働運動と国際連帯こそが、スコットランド、そしてイギリスをはじめ、全EUの労働者階級人民のプロレタリア世界革命への道を切り開くのだ。

EU危機に欧州中銀が緊急策

 欧州中央銀行(ECB)は、9月4日の理事会で、政策金利の引き下げや資産購入などの金融緩和措置を決定した。累積債務処理のためのリファイナンス金利を0・05%、短期利付預金の金利を0・20%へとそれぞれ引き下げるとともに、10月からの資産担保証券(ABS)やユーロ建てのカバード債について、ともに10月からの購入開始が決定された。
【注:資産担保証券(ABS)とは、銀行融資などを裏付けとした証券。カバード債とは、金融機関が保有する債権を担保として発行される社債】
 ECBは、これに先立ち、すでに6月に、ほとんどゼロ金利あるいはマイナス金利に等しい利下げを含む金融緩和策を実施していたが、それに引き続く今回のさらに拡大した追加金融緩和措置への踏み切りは、欧米マスコミでは「サプライズ」(不意打ち)として報道された。
 今回の決定をECBに強制したのは、何よりも、世界大恐慌下でEU経済を支配している長期停滞である。9月の欧州中央銀行月報は、次のようなポイントを挙げている。
 ①4四半期にわたる経済成長の低調、年間成長(実質)予測は、2014年0・9%、15年1・6%、16年1・9%、②インフレの低率の長期継続(事実上のデフレ)の重圧、③失業率の引き続く高さ、④非金融部門への資金供給が依然低調=資金が実体経済への投資に向かわない、⑤設備稼働率の低さ、産業活動の萎縮、⑥貿易活動も縮小、⑦こうした状況に対し、金融政策だけでなく財政出動が必要、⑧EUとしての金融監視機関のフル稼働が今こそ決定的、⑨遅れている労働市場の柔軟化・規制緩和(=〝解雇の自由〟、非正規職化の促進)を貫徹すること、⑩こうしたEUの経済環境の不安定さの背後にあるのは、ウクライナ情勢のインパクトだ。
 欧州中央銀行は、以上のように危機感をあらわにしている。だが、今回の金融緩和政策がどれだけ有効かは、ブルジョアジー自身にとってもきわめて疑わしいことである。ユーロ相場は前日まで対米ドルで1・31台半ばでの推移だったが、利下げ発表後に、1・30台を下回る水準まで売られた。
 米帝が、「量的緩和」の終結に向かうなかでの今回のECBの金融緩和政策の決定は、世界大恐慌下の帝国主義世界経済の危機の一層の深化・激化を示すものだ。とりわけ、EUの基軸国であるドイツの経済成長が、日本とならんで第2四半期でマイナスに転落したこと、独自の通商・交易関係をもっているロシアとの関係が、ウクライナ情勢の激動によって、危機的状況にあること、さらに輸出依存度の高いEUの経済にとって重要なパートナーである中国経済のバブル崩壊が時間の問題となっていることなどが、事態の絶望的展開を物語っている。マスコミには、「29年世界大恐慌よりも深刻」というような論調が出てきている。
 30年代の階級闘争で打倒できなかった帝国主義との決着を全世界の労働者階級がつける時が来ている。

NATOの対ロシア・シフト強化と独帝の軍事的突出

 ウクライナ情勢をめぐって、NATOは対ロシアのシフトに明確に転換し、対IS(イラクおよびシリアの「イスラム国家」)問題をも含めて、臨戦態勢に入っている。
 NATOは、緊急事態に対応する「即応部隊」(数千人規模)を新たに設置した。そして、9月15日、NATOの12日間にわたる合同軍事演習が、ウクライナで開始された。ウクライナは、加盟以前に事実上、NATOに組み込まれてしまっている。そしてバルト3国(旧ソ連邦の構成国で2004年にNATO加盟)が、この対ロシア・シフトの軍事演習に積極的に参加している。こうした状況のなかで、スカンジナビア諸国(スウェーデン・フィンランド)が「有事のNATO軍駐留」を認めることを決定した。
 こうしたなかで、ドイツが軍事的領域への進出を開始し、バルト3国への連邦軍派遣を検討中である。さらに、ISへの対抗策として、イラクのクルド勢力への大量の武器供与と訓練要員の派遣を決定した(ドイツは、すでに世界第3位の武器輸出国になっている)。
 また、EUレベルでもドイツは、次期EU大統領選出にあたって、ポーランド(EU加盟は2004年)を強力に推薦し、当選させた。中東欧諸国からのEU中枢への登場は初めてのことであり、しかもそれが歴史的にポーランドにとって侵略国であったドイツ帝国主義との「接近」をとおして実現しているということは、1990年に東西統一を果たしたドイツ帝国主義を新たな軸に、ヨーロッパの政治地図を塗り替える大きな変動が生じていることを意味している。
 1991年ソ連スターリン主義崩壊を結節点とする戦後世界体制の解体過程が、ウクライナ問題(さらにIS問題)を契機として、新たな決定的段階に入ったということだ。
 このような動向に対し、米帝オバマは、先日のNATO会義出席に先立って、ポーランド、バルト3国訪問などを行い、対独対抗的なテコ入れを行っている。
 NATOの対ロシア・シフトの強化の一方でロシアは、ドイツをはじめEUにとって天然ガスの主要な供給国であり、EU諸国からは、農産物輸出、さらには武器輸出の重要な相手国(とりわけフランスにとって)であるという経済・通商上の関係があり、米ロ関係よりもはるかに密接・有機的である。こうした事情が欧州諸国とロシア間の争闘戦の複雑な性格を形成している。
 ヨーロッパ労働者階級は、イギリス公共部門ストをはじめ、ドイツ(鉄道労組)、フランス(空港労働者)や、中東欧諸国を含めて、ストライキで闘っている。今こそまさに、階級的労働運動と国際連帯が真価を発揮すべき時だ。
(川武信夫)