●特集 米帝のイラク侵略再開を許さない Ⅰ 大恐慌、新自由主義の崩壊、虐殺・破壊・戦争を世界革命へ 中東制圧力を喪失した米帝――破産する国防戦略と軍事力衰退
●特集 米帝のイラク侵略再開を許さない Ⅰ
大恐慌、新自由主義の崩壊、虐殺・破壊・戦争を世界革命へ
中東制圧力を喪失した米帝――破産する国防戦略と軍事力衰退
大恐慌が深化し、新自由主義が崩壊し、帝国主義間・大国間の勢力圏をめぐる争闘戦が軍事化し戦争化している。帝国主義の危機は、三たび虐殺・破壊の世界戦争に向かうか否かの大転換点にある。イラクの内戦の勃発(ぼっぱつ)は米帝の中東支配の崩壊的現実を暴露するものとなった。追い詰められた米帝は8月8日、イラク空爆に踏み切り、イスラエルはガザ侵攻と大量虐殺を行っている。全世界の労働者階級の国際連帯と世界革命が求められている。
第Ⅰ章は、米帝が中東に地上軍を派遣できない理由を、米帝の軍事戦略の分析によって明らかにした。
第Ⅱ章は、イラク内戦の現状と内戦の中東全域への波及の危機性について分析した。
第Ⅲ章は、内戦下で闘うイラクの労働者階級の階級闘争の発展こそが、内戦を終息させ、イラク人民の解放をもたらすものであることを明らかにした。
米帝はなぜ中東に地上軍を派兵できないのか
今日、イラクでは激しい内戦が勃発し、国土は三分解の危機に直面している。米帝は03年に始まるイラク侵略戦争でイラク人民の頑強な抵抗闘争にあい、無数の軍事的敗北を喫し、多数の戦死者を出し疲弊し、国内の反戦闘争の高揚があり、11年12月に敗退した。さらに01年に始まるアフガニスタン侵略戦争の長期泥沼化と敗北がある。米帝はその血の犠牲の上に新たに巨大な石油利権を獲得し、その利権を守るためにイラクに傀儡(かいらい)政権を置いた。だが、今や内戦で米軍の後ろ盾のない傀儡政権が崩壊の危機に瀕している。追い詰められたマリキ政権がイランやロシアの支援を受け入れるという事態に対しても、世界大恐慌下であえぎ、軍事力による世界制圧能力を失った米帝は歯止めをかけることができないでいる。
またイラクの石油利権に対する米帝の独占的支配も、独立国家を宣言したIS(イスラム国家)やクルド人による北部・中部の油田地帯の制圧によって一挙に崩壊しかねない状況も生じている。
イラクの隣国シリアでも激しい内戦が続いており、収拾の展望はまったく見えていない。ISIS(イラクとシリアのイスラム国家/ISの旧名)とシリアの反政府勢力・自由シリア軍などとの間の激突に見られるように内部分裂を起こした反政府勢力は、イランやレバノンのシーア派イスラム政治勢力ヒズボラ(「神の党」)などの支援を受けたシリア政府軍の反転攻勢で、次第に不利な立場に追い詰められつつある。こうして反政府勢力を支援し続けることでアサド体制を転覆しようとしてきた米帝のシリア政策も破綻し始めている。
さらにシリアやイラクにおける宗派間・民族間の内戦は、周辺諸国のレバノンや、トルコ、ヨルダン、ペルシャ湾岸の反動王政諸国などにも波及しかねない。シリア内戦とイラク内戦に軍事的に介入しているイランの動向に歯止めをかけることのできない米帝への不満をもったイスラエル軍のシリア領内空爆に見られるように、イスラエル軍のシリアおよびイラクの内戦への軍事介入はさらに拡大する可能性がある。
他方、サウジアラビアやクウェート、アラブ首長国連邦などの反動王政諸国は、米帝がシリア空爆を貫徹できず、イランの核開発問題に対しても断固たる態度をとりきれず、イラクやシリアへのイランの軍事介入を黙認している現状に激しい危機感を抱いている。そして米帝への不信感をあらわにし、フランスなどの西欧諸国やロシアに接近する姿勢を見せている。
まさにイラク内戦の勃発は、これまで微妙な均衡を保っていた中東地域を一挙に大動乱の中にたたき込んだ。そしてそれは単独で中東を軍事的に制圧する力を失った米帝の中東支配体制の総崩壊をもたらしかねないものとなった。にもかかわらず米帝はこのような中東危機の深刻化に対処するために、地上軍を派遣してシリア内戦やイラク内戦に軍事的に介入することができないでいる。
なぜか。それは、①アジア・太平洋重視戦略、②新自由主義の下での米帝の軍事力と世界支配力の衰退、③イラク・アフガニスタン侵略戦争の長期化・泥沼化・敗北の重圧、である。
東アジア重視戦略への転換
米帝は2014年QDR(「4年ごとの戦力の見直し」)でも、アジア・太平洋へのリバランス(重点の移動)を強調している。米軍の配備を他の地域では大幅に削減し、アジア・太平洋地域では大幅に増大するということだ。
これはかつての中東とアジアの2正面で戦争を行う能力を確保するという方針を転換した2011年のオバマ政権による「アジアへの旋回」、2012年の「国防戦略指針」で打ち出された軍事戦略の転換を引き継ぐものだ。
この方針に基づいてオバマ政権は2011年末にイラクから全米軍を撤退させ、その後アフガニスタンからの米軍撤退政策を推進し始めた。2014年5月27日には、オバマはアフガニスタンから戦闘部隊を年内に撤退させた後、残った米軍を段階的に削減し、2016年末までに完全に撤退する方針を明らかにしている。
2014年QDRは、「第1章 安全保障環境の将来」でアジア・太平洋地域に「米国は深く、持続的な経済的・安全保障的な絆を持ってきた」「アジア・太平洋地域は、ますます世界的通商、政治、安全保障の中心になってきている」と、この地域が米帝にとっての最重要の地域であることを再確認している。
そのうえでQDRは、「この地域の諸国が軍事的・安全保障的な能力を高めるにつれて、領土主権や天然資源をめぐる長年の緊張が破壊的な競争に拍車をかけたり、紛争を爆発させたりして地域の平和、安定、繁栄を逆転させるリスクが高まっている」として中国と北朝鮮を名指しで批判、非難している。
中国に関しては、「特に中国は、あらゆる分野に及ぶ軍近代化を速いペースで進め続けている。また軍の能力と意図について中国の指導者は、比較的透明性、公開性に欠けている」と批判している。中国スターリン主義が、米帝の対中国シフトへの転換で追い詰められ、軍事的に対抗することで延命しようとしていることに対して米帝は難癖をつけ、挑発しているのである。
北朝鮮に関しては「北朝鮮の長距離ミサイルと大量破壊兵器開発計画、とりわけ国際的義務に違反した核兵器の追求は、朝鮮半島と北東アジアの平和と安定に対する重大な脅威であり、米国に対する直接の脅威を増大させるものとなっている」と最大限の非難を行っている。
こうして米帝は、この最重要地域の経済的権益と安全保障を維持、強化するために、北朝鮮や中国に対する戦争態勢の確立に全力を集中する姿勢を示したのだ。そのために米海軍艦艇の6割をアジア太平洋に配備する方針を打ち出している。
安倍政権の動向に対処するリバランス
さらにこれに加え、米帝は、反米極右の日帝・安倍政権が成立し、米帝に対抗する形でアジア政策を展開し、アジアにおける膨大な経済的利権を守るために、アジア侵略戦争態勢を確立しようと独自に動き始めていることに激しく反応している。中国やインドネシア、バングラデシュなどの東アジア諸国の労働者の日帝資本に対する相次ぐ反乱やストライキに脅かされた日帝がアジアへの派兵態勢を確立することで対処しようと必死になり始めたことに対し、米帝は激しい危機感を抱いている。
日帝の独自の動向を押さえ込み、日帝の既得権益を奪取するためにも、米帝はこの地域への軍事力のリバランスを推進しなければならないのだ。圧倒的な米軍の力を誇示し、あくまで米帝主導の北朝鮮、中国、東アジア諸国への侵略戦争に目下の手先として日帝を動員することで日帝の独自動向を押さえ込もうとしているのだ。
だが日帝・安倍政権は、このような米帝の戦略的意図を理解した上でなおかつ、独自に集団的自衛権行使の承認を閣議決定し、北朝鮮、中国を始めとする東アジア諸国に対する侵略戦争態勢の確立を必死で追求している。それは当面は米帝と共同で北朝鮮などへの侵略戦争に参加する態勢を整えるという形をとって行われようとしている。まさに帝国主義間の争闘戦が激化するなかで、それが戦争化する情勢が東アジアでも進行しているのだ。
リバランスがもたらす結果
このようなアジア・太平洋地域へのリバランスの結果、米軍は他の地域での紛争に対処する能力を喪失している。要するにアジア・太平洋地域への大量の米軍の集中によって、米軍を他の地域に派遣できなくなったということだ。だから、中東諸国で革命や内戦が勃発しても、米帝は、空軍や空母などの海軍兵力の一部を派遣できても、地上軍を派遣できない。実際、2011年のリビア侵略戦争の際、米帝はリビア政府軍に対する空爆を実施したのみで、地上軍は派遣していない。シリア内戦やイラク内戦では、戦闘爆撃機などの空軍を派遣できず、無人機による空爆も実施されていない。海軍も一部の空母やミサイル巡洋艦や駆逐艦がペルシャ湾に派遣されただけであった。毒ガス使用や核開発問題を口実としたシリアやイランに対する空爆も結局は中止されている。ましてや地上兵力は、シリアに対しては一部のCIA要員を派遣し、イラクに対しては300人ほどの軍事顧問団と600人ほどの米軍兵士を派遣したのみであった。
地上軍が派遣できない状況に対処するために米帝はどのような措置をとったか? 基本的には米帝の息のかかった反政府武装組織や、宗派や部族の民兵の地上兵力の動員である。米帝はこれらの武装集団に武器と資金を大量に供与し、CIAや特殊部隊などの指導下で訓練することで、リビアやシリアの反政府勢力を育成した。また米帝が直接コントロールできないアルカイダやISISなどのスンニ派イスラム政治勢力や中東諸国や中央アジア、北アフリカの外国人傭兵集団などに対しては、サウジアラビアなどの反動王政諸国による秘密裏の武器や資金の供与を黙認して反政府勢力の一翼を担わせた。
だがこれらの武装集団は、きわめて雑多な勢力からなっており、それぞれの利害関係が複雑に対立し合っているため、米軍のように統一的な指揮の下に行動することができない。米軍による管理も十分には及ばない。このためリビアやシリアにおいて見られたように、諸武装集団がしばしば内部分裂と対立を引き起こし、相互に利害をめぐって争い合う結果をもたらした。米帝はそれを知りながらシリアやリビアの政府の軍事力の消耗と、シリア社会の不安定化を促進するために、あえてこれらの勢力を利用した。米軍によって支配できないならば、シリアやリビアの政府を崩壊させるために、これらの勢力によって社会を解体し、不安定化させ、政権の弱体化を図るという政策だ。
だが、このような政策は、かえって米帝の中東支配を崩壊させることになった。米軍の地上兵力に支えられて有効な支配を貫徹できる安定した政府を樹立することもできず、恒常的に不安定なままに放置された社会では、予測できない事態が発生する。こうしたなかで、ついにはシリアで勢力を拡大したISISがイラクに侵攻し、米帝が巨費を投じて養成した25万人のイラク陸軍を一挙に総崩壊状態にたたき込み、マリキ政権は崩壊の危機に直面してしまったのだ。またその間隙を突いてクルド人の武装勢力がイラクの油田地帯であるキルクークを支配し、独立に向かって重大な一歩を踏み出すという事態が生じたのだ。米帝は満身創痍になりながら総力を投じたイラク侵略戦争で得た成果を一瞬にして失いかねない危機に直面しているのだ。
このような事態は、結局米軍がアジア・太平洋地域へのリバランス戦略を維持するために、戦力を他の地域に派遣することができなくなったことから生じたのだ。
2014年QDRでは、中東危機について一定のスペースを取って論じ、中東における安全保障上のリスクの大きさを強調しているが、にもかかわらず米帝は中東に地上軍を派遣することはできないのだ。
なお、米帝は欧州においても駐留米軍を削減する方向で動いていたが、そのためウクライナをめぐる欧州諸国とロシアの争闘戦激化とその戦争化という激動情勢に迅速に対応することができなくなっている。ここでもリバランス戦略は破産の危機に直面しているのだ。
新自由主義の侵略戦争の破産
米帝がアジア・太平洋へのリバランス戦略を維持しなければならない状態に追い詰められたのは、新自由主義的軍事戦略の下で、米帝の軍事力が急速に衰退したからである。軍事力が衰退すれば、必然的に最優先地域を守るために、そこに戦力を集中しなければならなくなる。
米帝の軍事力の衰退は、一般的には軍事予算の減少に原因があると言われている。2014年QDRでも軍事予算削減が米軍事力を衰退させる原因であるかのように主張し、軍事予算を削減しないように政府や議会に圧力をかける表現が多々見受けられる。
だが、実際には軍事予算はそれほど削減されてはこなかった。確かに財政危機のなかで戦費は削減されてきたが、米国防予算の戦費を除く基本予算は2010年度以降横ばい状態である。2014年会計年度(13年10月~14年9月)の国防予算は、むしろ前年度比0・2%増の5266億㌦である。米帝は緊縮財政下でも国防費だけは確保しようと必死なのだ。
米軍事力の衰退は、むしろ米帝の軍事戦略の新自由主義的な軍事戦略への転換がもたらしたものだ。
80年代のレーガン政権以降、米帝は新自由主義政策を全面展開しだすが、この政策は米軍にも及んだ。米帝の巨額の軍事予算が資本の利潤獲得の対象となり、それが米軍の軍事力を急速に侵食していった。軍事産業にとって最も利益の上がる、核兵器、ミサイル防衛技術、精密誘導兵器、高性能戦闘機、無人機などに膨大な予算が投入され、軍事産業は莫大な利益を上げた。
だが、核兵器やミサイル防衛技術、高性能戦闘機などはイラクやアフガニスタンでの地上戦闘では無用の長物であり、地上軍の支援と強化にはまったく貢献しなかった。
他方で利益の少ない地上軍の装備には予算はあまり投入されず、歩兵の命を守る防弾チョッキや輸送車両の装甲や防弾ガラスなどの劣悪化が進んだ。装甲車、戦車、艦艇、輸送機なども老朽化したまま放置された。このためイラクやアフガニスタンでの侵略戦争では、市民権の付与や大学の授業料の供与などを餌にして募兵した貧困層の青年の命が多数奪われた。
さらに陸軍では急速な民営化が行われた結果、その戦闘力も衰退した。民間軍事会社への兵站、施設部門の委託のみでなく、戦闘部隊まで民営化された。利益重視の民間軍事会社は施設の手抜き工事や、食事や給水などの兵站の劣悪化などによって多額の利益を上げた。民間の戦闘部隊は、実際に戦闘をしていないのに戦闘をしたかのように報告して多額の報酬を得た。このような状況は、一時的なものではなく、現在の米地上軍においては構造化している。
以上の結果として米軍の地上軍は急速に衰退したのだ。地上軍の消耗は、人員面でも大きく、イラクやアフガニスタンへの侵略戦争の際に露呈したように、もはや長期の継続的動員がきかず、戦場配備のローテーションさえできない状態になっている。その上さらに2014年QDRでは、空軍、海軍は現状を維持するとされているのに、陸軍は現在52万人の人員を44万~45万に削減する方針が出されている。
米帝は陸軍の衰退を、核兵器の拡充、ミサイル防衛、宇宙空間の利用などによって乗り切ろうとしているが、それらの手段では大国間の戦争では役に立つかもしれないが、イラクやシリア、ウクライナなどにおいては、ほとんど何の意味も持たない。
米帝のシリア介入政策の失敗
米帝は、以上に見たように、東アジアへの戦略的重点の移行という制約の下で、中東における安全保障政策を展開せざるを得なくなっている。これまでのように中東地域に軍事力を全面的に展開する能力を失っている。米帝の世界支配力の圧倒的後退という現実の下で、2011年のエジプト革命の中東全域への波及、中東全域における革命と内戦の爆発という情勢に対応できなくなっているのだ。したがって米帝の打ち出す中東政策は弥縫的なものにならざるを得ず、それがまた中東危機を爆発的に深刻化させるという事態を生み出しているのだ。
米帝は当初2011年に開始されたシリア内戦への直接的介入を回避してきた。当時米軍はイラクやアフガニスタンからの撤退を目指しており、戦略的に東アジアへの戦力の移動を開始していた。このため米帝はシリア内戦が石油権益などの米帝の基本的国益を脅かさないとして、アサド大統領の退陣の呼びかけや反政府グループへの軍事的支援の約束など、最小限の外交的努力しかしなかった。
従来から米帝にとっての中東政策の戦略的要は、イスラエルの安全保障の確保と、ペルシャ湾岸の産油諸国における石油権益を護持し、石油・天然ガスの流通を保全することであった。これに加えて最近では、オバマはイランの核開発阻止を挙げている。当初米帝は、シリア内戦がこの三つの死活的な戦略的利害を脅かすものとは見ていなかったのだ。またシリアの石油産業の規模が極めて小さく、産油量も微々たるものであることから、米帝のシリアに対する関心が低かったことも大きい。
米帝がこうした消極的態度を転換する姿勢を示したのは、2013年8月21日にシリアで化学兵器が使用された直後からであった。この時期以降、米帝は反政府グループへの援助を急速に増大するとともに、米軍などによるシリア空爆を主張し始めた。
なぜこのような転換が行われたのか。第一の理由は、サウジアラビア、クウェート、アラブ首長国連邦などの産油国が、反政府勢力支援のための軍事介入を米帝に激しく要求したからである。すでに見たように、湾岸産油国の多くが反政府勢力と同じスンニ派が主流派の国家であり、シーア派が主導権を握るイランが、革命防衛隊やレバノンのシーア派組織ヒズボラを大量にシリアに派遣し、アサド政権を全面的に支援していたことが、湾岸の反動王政諸国の危機感を高めていた。したがってこの要求を無視すれば、これら諸国の激しい反発にあい、これら諸国における米帝の石油権益が脅かされる可能性があった。
第二の理由は、シリア内戦がイスラエルとの国境地帯にまで波及し、シリアの政府軍のみならず、イランの革命防衛隊や、レバノンに拠点を持つヒズボラの部隊が国境地帯に進出し、イスラエルの安全保障を脅かし始めたからだ。またヒズボラを通じて、レバノン内部に大量の武器が持ち込まれ、ヒズボラ勢力が軍事的に強化されることへのイスラエルの危機感もあった。イスラエルは米帝の軍事的介入によってこのような危機的状況が改善されることを強く期待していた。米帝はこのような圧力の下で対シリアの消極的態度をいったん転換したのだ。
だが、その結果はどうであったか。結局米帝は、ロシアによる仲介を受け入れ、シリア空爆ではなく、国連主導の下のシリアの化学兵器の廃棄と国外搬出でシリアと合意するという外交的解決策を選択した。米帝は、最終的にシリアへの直接的な軍事介入を選択することはできなかったのだ。このことは米帝の中東支配力の衰退を米帝自ら告白することを意味した。その結果、イスラエルやサウジアラビアがますます独自の行動をとるようになったのである。
シリア内戦に続いて勃発したイラク内戦は、米帝の中東制圧力の急速な低下をさらに鮮明にするものとなった。