■News & Review 韓国 セウォル号沈没事件に民主労総が反撃 「命より金」の新自由主義への怒り爆発

月刊『国際労働運動』48頁(0454号02面01)(2014/06/01)


■News & Review
 韓国
 セウォル号沈没事件に民主労総が反撃
 「命より金」の新自由主義への怒り爆発

(写真 「沈没する大韓民国、朴槿恵が責任を取れ」「誰のための国家なのか、これ以上殺すな」というスローガンを掲げたメーデー大会【5月1日 ソウル駅前広場】)

 4月16日にセウォル号沈没事件が発生! 日を追うごとに韓国全土を抑えがたい怒りが覆い尽くしている。「命より金」「安全無視」の新自由主義が引き起こした許しがたい惨事だ。

民主労総が声明

 4月23日、民主労総(全国民主労働組合総連盟)が声明を発した。「失踪者救助と被害当事者たちの傷を治癒する社会的力量を集中することを望む」と押さえた上で、「惨事の背景には構造的な原因があるという点を必ずや見抜かなければならない。これを強調して正さなかったらまた再び悲劇は繰り返すからだ」「人間や生命に対する責任より利潤を先に掲げる企業たちは貪欲(どんよく)を効率性で包装してより大きな貪欲の自由を要求してきた。そのような企業活動にもたれかかった政府与党は各種特恵と規制緩和政策で気脈を通じることを躊躇(ちゅうちょ)しなかった」「マスコミでは船会社らが零細で安全管理に粗忽(そこつ)だったという……そのような船会社が接待費と広告費にどれほど使ったか。零細である以前に安全は営業に助けにならないという企業認識が問題だ。その結果、韓国はOECD国家中、産業災害死亡1位になった。何よりも大型惨事が起きてはならないが、3時間毎に1名が死に、毎年2400余名の労働者が死亡する残酷な産業災害の現実も、これ以上続いてはならない」と、資本と政権を根本的に弾劾し、これと闘う社会的役割を担うことを宣言した。

船長までが非正規職

 李明博(イミョンバク)政権による規制緩和が老朽船の継続営業を可能とし、船長までが1年契約で、全乗組員の半数以上が非正規職、核心部署である甲板員と機関部船員17人中、非正規職が12人(70%)を占めていた。この船長を含む非正規職と正規職との分断の上に、非常時の安全対策訓練も行われず、年間の安全教育予算はたった54万1000㌆(約5万3000円)だった。いつどこで大事故が起こってもおかしくない危機的状況だったのだ。
 しかも、これは氷山の一角に過ぎない。韓国では航空機のパイロットや鉄道施設の保守、バスの運転手などですでに非正規職化が進み、安全対策への予算削減と労働者の雇用不安が安全崩壊へと直結した状態なのだ。大韓航空の場合、2003年から非正規職の外国人パイロットを採用し、12年末時点ですでに15%が外国人非正規職パイロットだ。これまで雇用労働部は数回、不法派遣を指摘しているが、大韓航空側はこれを逆手に取ってパイロットと客室乗務員の派遣を合法化しろと派遣法改悪案を提出している。
 また、鉄道保守の外注会社であるコレールテック所属の労働者のうち非​​正規職の割合は96%に達している。11年12月には線路保守作業中の非正規労働者5人が列車にはねられ死亡する事件が起きるなど、事態は深刻だ。
 しかし、朴槿恵(パククネ)政権は、大統領任期中に経済関連の約3千件の規制を撤廃するとし、「反対は罪悪。抵抗する者は許さない」とまで言い放った(3月20日)。公共部門の全面民営化・外注化・総非正規職化と労働組合解体を狙う階級戦争に打って出ている。まさに「命より金」の新自由主義攻撃だ。
 だが闘う労働者階級は黙っていない。昨年12月、鉄道労組はKTX分割・民営化反対で闘った23日間の大ストライキを貫徹した。この歴史的ストライキによって、韓国社会に「民営化=悪」という認識が常識となって広がった。そして今回のセウォル号事件だ。全人民の怒りは噴出し、朴槿恵政権打倒へと向かっている。

鉄道労組が強制配転反対でハンスト

 鉄道公社は昨年のストに130人の解雇を含む大量報復処分に加え、ストライキの主力である機関士・整備士を中心に850人の労働者を強制配転する攻撃に出てきた。
 この強制配転を苦にチョサンマン組合員(釜山本部)が4月3日、命を絶った。7日、鉄道公社は726人に強制配転を通知。怒りに燃えた鉄道労組は午後2時、大田駅前で2千人が結集し、故チョサンマン組合員追慕、非人間的な強制配転中断を要求する鉄道労働者決意大会を開催した。
 キムミョンハン委員長は「故人が願っていた強制転出の中断と民営化阻止、労組の団結のために闘おう」と呼びかけた。すでに各地で組合員が自発的に断髪し、ソウル機関車支部、竜山機関車支部の配転対象となった組合員が「強制転出反対無期限ハンスト座り込み」に突入した。
 さらに4月9日朝、イヨンイク前鉄道労組委員長とユチサン前事務局長が水色駅前で鉄塔高空籠城に突入した。約45㍍の鉄塔には「1人も送れない。強制転出撤回!」と大型横断幕が掲げられた。同日、鉄道労組ソウル地方本部のオムギリョン本部長とソウル本部所属の支部長を始め労組幹部40人ほどがソウル西部駅で「強制転出撤回、故チョサンマン同志追慕」の無期限ハンストに突入。10日にソウル機関車乗務支部の機関士3人が無期限ハンストに入ったのを始め、全国の拠点に闘いは拡大した。
 鉄道労組は団結を守り、全面ストをも射程に決戦体制に入った。この渦中でセウォル号惨事が起こったのだ。

KEC支会が整理解雇撤回かちとる

 5・1メーデーから6・4地方選挙へ、朴槿恵政権が進める鉄道・医療、さらに全面的な公共部門の民営化・外注化と非正規職化攻撃との大激突を迎えようとしている。世界大恐慌下の帝国主義間争闘戦がついに現実の戦争へと転化し始め、東アジア情勢も緊迫化しつつある。この時代に、労働者階級はいかに闘えば、解放の未来をつかむことができるのか。
 4月16日、東京西部ユニオン鈴木コンクリート工業分会が解雇撤回・職場復帰の完全勝利をかちとった。その翌17日、韓国・クミでは金属労組KEC支会が、148人の整理解雇撤回をかちとった。
 2012年5月、解雇撤回闘争中のKEC支会の日本遠征闘争を動労千葉が支援。日本遠征闘争の最終日には、オムジョンフン教宣部長(当時)ら遠征団は鈴コン分会とともに門前闘争を闘った連帯関係だ。
 今年3月、会社が再び148人の整理解雇を発表。解雇撤回の条件に賃金削減をのめと迫る会社に対し、KEC支会は断固拒否して会社との全面戦争を選んだ。以後、1カ月間の波状ストライキと宣伝戦を駆使し、御用労組の組合員をも獲得し、ついに整理解雇予定日に解雇撤回をかちとったのだ。この日韓2労組の解雇撤回闘争の完全勝利は、資本と非妥協に闘う労働組合の存在と闘いこそ労働者の希望であること、最も困難な職場で闘うことが国際連帯であることを示している。今こそ労働者の国際連帯が力を発揮する時だ。労働者の敵は一つ、団結して闘おう。

怒りのメーデー大会

 5月1日、ソウル。1万人の労働者がソウル駅広場に集まり、セウォル号惨事と引き続く労働者たちの死に怒りの声を上げた。民主労総は全国15地域5万人がメーデー大会(うち全北と全南、光州は4月30日)に集まり、「切実なる願いが深い悲しみを超えて憤怒になった!」「沈没した国家の安全、朴槿恵が責任者だ!」「誰のための国家なのか、これ以上殺すな!」と追悼の祈りではなく、怒りの行動を訴えて闘い抜いた。
 民主労総のシンスンチョル委員長は「もし民主労総が力強い政治ゼネストを行っていれば、あるいはセウォル号の犠牲者たちも死なずにすんだのではないかと思うと残念で申し訳ない。口先だけで戦うのはやめよう。会議だけで決意するのはやめよう。私たちが暮らすこの世の中で(命より金の)価値観を変えることができなければ、挫折して悲しむことしかできない。悲しみをのりこえ、怒りへと進む道へ、80万組合員の決意を込めて言う。朴槿恵政権は責任を取って退陣せよ。80万民主労総は今、この瞬間から民衆が権力と資本のために死ぬことがない世界のために最後まで闘う」と非常の決意で宣言した。
 「命より金」の新自由主義は、労働現場での安全崩壊を必然的に引き起こし、労働者を殺している。
 メーデー当日に予定されていた行政訴訟判決を前に4月30日、公共運輸労組全北地域バス支部の解雇者であるチン組合員が社内の国旗掲揚台で首をつった。1日の判決は、彼の勝訴の判決だった。現代重工グループ傘下の造船所ではこの2カ月で8人もの労働者が命を落としている。双龍自動車では4月23日、昌原工場の解雇者が心筋梗塞で亡くなった。彼は、2月に高等法院で整理解雇無効判決を受け、職場復帰へと闘っていた最中だった。
 サムスン半導体工場で働き、白血病で亡くなったファンユミさんの父親がメーデー大会で発言に立った。「セウォル号とサムスンは似ている。サムスンは労働者に何の有害物質を使っているのか教えなかった。セウォル号も船員に安全教育をさせず、乗客も対処方法を知らなかった。労働者を消耗品扱いしたから、こんな問題が発生した」と怒りを語った。
 金属労組双龍自動車支部のキムジョンウ元支部長も「全国が喪中だ。今は追慕を超えて怒りを組織し、無気力を超えて政府と資本の世界観を壊さなければならない」「最近25人目の双龍車犠牲者が発生し、また1人仲間を失った。自ら叱責するのをやめ、これ以上死なないように闘おう」と訴えた。
 大会後、ソウル市庁前に設置されたセウォル号焼香所までのデモ行進が始まった。しかし、車椅子でデモの先頭に移動しようとした障害者たちに対し、デモコースから外れたと警察部隊が許し難い妨害行動に出た。怒りが爆発! その中で活動家が警察に連行された。デモ隊全体が立ち止まって即時釈放を要求、奪還するという場面も。怒りに燃える労働者たちを止めることなど誰にもできない。

学生、女性らもデモ

 セウォル号惨事に対し、行動を起こしているのは、労働者だけではない。メーデーを前後して教育労働者や学生、女性たちなどがデモに立ち上がっている。「沈黙がこれほど申し訳ないとは思いませんでした」「私たちが沈黙すれば、セウォル号は続きます」など、思い思いのプラカードが掲げられた。「動かないでください」と書かれたメッセージボード、「政府とマスコミは、セウォル号の船長が言ったように私たちにただ動くなと言うだけだ。多くの人々とともに『動くな』という言葉に疑問を投げたかった」と大学生の沈黙デモを呼びかけた学生が語った。
 セウォル号で死んだイヒョンウさん、19歳。彼は徴兵前に友人たちとセウォル号で3日間アルバイトをして11万7000㌆(約1万1500円)の小遣いを稼ぐつもりだった。しかし清海鎮海運は、アルバイトは正規職員どころか非正規職員でもないと葬儀費用も支払わず、弔問にも来なかった。
 毎日午後7時、光化門を始めソウル市内28カ所、全国154カ所でキャンドル集会が開かれており、5月3日にはソウルで中・高校生ら数百人の青少年を含む2千人のキャンドルデモになった。
 「多くの子どもたちが冷たい海に沈んでいるのに、なぜ大統領は暖かい青瓦台で眠れるのか」「これは国家が犯した殺人だ!」――鉄道ストライキで民営化=悪と認識した韓国人民は、さらに鮮明にこの社会のウソを知ってしまった。黙っていたら殺されるばかりか、自ら殺す側に立たされるのが新自由主義だ。
 この怒り渦巻く中、韓国に足を踏み入れたオバマ米大統領がやったことは何か。全人民の怒りに背を向けた朴槿恵は、韓米FTA(自由貿易協定)の完全履行に努力することで合意し、TPP加入への道をつけた。これはイコール朝鮮半島の軍事的押さえ込みであり、日帝を牽制しつつ、対中国シフトを強め、東アジアをめぐる戦争危機を醸成させる行為だ。
 日韓労働者の国際連帯で東アジアから世界革命の火の手を上げる時がやって来た。
(室田順子)