■マルクス主義・学習講座 労働組合と国家―資本主義国家と闘う労働組合(1) 丹沢 望
■マルクス主義・学習講座
労働組合と国家―資本主義国家と闘う労働組合(1)
丹沢 望
目 次
はじめに
第1章 労働者と国家の闘い
・階級対立の非和解性の産物としての国家
・国家に対する階級闘争の歴史
・革命の主体、労働者階級の登場
・マルクスの労働組合論(以上、今号)
第2章 労働組合の発展史
・初期の労働者の闘いと国家による弾圧
・マルクスの労働組合論
・パリ・コミューンと労働組合
・サンジカリズムの台頭
・ロシア革命と労働組合
・30年代のアメリカ労働運動
・労働者階級の自己解放闘争と労働組合
・暴力について
第3章 パリ・コミューンと労働組合
・労働組合と革命
・コミューン時代の労働組合
・労働の経済的解放
第4章 ロシア革命と労働組合
・05年革命とソビエトの結成
・1917年2月革命と労兵ソビエトの設立
・労働者国家を担う労働組合
はじめに
現代革命への挑戦
国家と労働者階級が真正面から激突する時代が始まった。都知事選への挑戦は、「現代革命への挑戦」として決断され闘い抜かれた。何よりも権力闘争としてあった。日帝国家権力は、大恐慌と3・11情勢のもとでのプロレタリア革命の発展に恐怖した。昨年7月参院選挙における山本太郎氏の66万票は、青年労働者の怒りの爆発であった。その再来を恐れたのだ。安倍は、新自由主義の崩壊が「革命のうねりに転じる」ことを恐怖して、鈴木候補の徹底的な無視・抹殺攻撃を仕掛けた。この攻撃を打ち破ったのが1万
2684票である。
鈴木候補は連日都内を駆け巡り、「改憲と戦争、労働者を踏みにじる安倍政権を倒そう」と訴えた。既成政党の腐敗、総翼賛化に怒る人たちが新たな労働者党の展望を見て合流した。
都知事選決戦は極右ファシストやスターリン主義と対決し、2010年代中期の階級決戦、「戦争か革命か」を問う1930年代型の階級闘争の時代を切り開いた。階級的労働運動の新時代が到来し、革命の勝利に向けたうねりが始まった。同時に、韓国・民主労総の朴槿恵打倒のゼネスト、イギリスRMT(鉄道・海運・運輸労組)のロンドン地下鉄ストなどとの国際連帯をかけて闘い抜かれた。
国家とは何か
日帝・安倍は凶暴であるが脆弱だ。大恐慌と3・11情勢、米帝などとの争闘戦の激化の中での日帝の脱落的現実、資本主義の絶望的延命のための新自由主義政策の破産がある。米帝のアジア太平洋重視戦略と対日争闘戦の激化は日帝にダメージを与えている。
3・11東日本大震災・福島第一原発事故以降の労働者階級人民の爆発的決起の根底には国家への幻想の消滅があった。「絶対安全」の原発が事故を起こし、労働者階級人民に被曝を強制し続け、原発を再稼動したり輸出したりしようとしている国家とは何だ?
国家とは労働者階級人民のためにあるのではなく、資本家階級のためにあり、労働者の反抗を絶対に許さない存在であることが労働者階級全体の共通認識になってきた。
また、経済危機の乗り切りのためには、すべての矛盾を労働者に転嫁し、生きることができないまでに徹底的に労働者を搾取する資本家への怒り、資本家のために新自由主義政策を全面展開する政府への怒りが、反原発闘争と結合し、労働者人民の広範な怒りとなって爆発し始めている。
帝国主義・大国間争闘戦がさらに激化し、労働者の怒りが大爆発すれば、日帝が総崩壊する危機に直面する。だからこそ安倍は、米帝などとの争闘戦に対処するために、戦争のできる国家づくりを目指すとともに、労働者の闘いを抑え込み、搾取する制度をつくりあげようとしている。
だが、国家による暴力的な原発再稼動や、特定秘密保護法案などの反動法案の強行採決に対して、絶対反対の労働者人民が数百万の規模で登場している。安倍はこれらの労働者人民が、階級的労働運動と結合することを最も恐れている。革命を恐怖している。
国家と労働組合
最大の課題は、階級的労働運動を推進する労働組合の拠点を増やし、労働組合を通じて数百万の闘う決意を固めた労働者人民と結合する闘いを発展させることだ。動労千葉を中心とする国鉄決戦、動労水戸や国労郡山工場での被曝労働拒否の闘いに続こう。
今こそ、資本主義国家と非和解的に対決する階級的労働運動を発展させよう。国鉄闘争全国運動と反原発運動、改憲阻止闘争、無実の政治犯・星野文昭さん奪還の闘いの結合と一体的展開こそわれわれの唯一の勝利の道だ。
この闘いに勝利するためには、国家と労働組合の問題を徹底的に明らかにすることが重要だ。そうした観点から、国家と対決する階級的労働運動の決定的重要性について一から明らかにしていきたい。
第1章 労働者と国家の闘い
国家とは何か?
国家は労働者階級にとっていかなる意味を持つか?
新自由主義を全面的に推進する今日の国家と対決して闘うためには、何が必要か?
階級的労働運動を発展させていく上で、これらの問題を見据えることはきわめて重要である。なぜならば、階級的労働運動は、労働者階級が生きていくことさえできない状態を強制している資本家と資本家階級の国家と徹底的に非和解的に対決し、打ち倒し、労働者階級のための社会を建設する運動だからだ。そして国家の問題をあいまいにしたり、誤った認識を持った労働運動は必ず敗北させられてしまうからだ。国家と労働者・労働組合との関係を徹底的に理解したときに、労働者階級は確信をもって階級的労働運動の主体的担い手として登場することができる。
国家の起源
国家は支配階級のための国家であり、「支配階級による被支配階級の搾取の手段」である。
国家は、太古の昔から存在していたわけではない。人類史数百万年、ところが国家が誕生してからの歴史は数千年に過ぎない。
エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』によると人類の発達は、三つに区分される。第1の段階が、既成の天然産物の取得を主とする時代、狩猟・漁労・果実などの採取で、人間の工作物は主としてこの取得のための補助道具である。
第2の段階は、牧畜と農耕を習得し、人間の活動による生産増大のための方法を取得する時代。この時代に、牧畜の生産の拡大、灌漑技術の増大による農業生産力の飛躍的発展と、需要を上回る剰余生産物の生産が行われ、剰余生産物の一部の家族による独占が始まった。こうして氏族・部族制度が解体されていった。
手工業が農業から分離し、奴隷制度は社会制度の本質的な構成部分となった。商業が生まれた。略奪と戦争が恒常的な生産部門となった。
それにつれて軍指揮者・評議会・民会が生まれ、しだいに世襲となり、世襲王位と世襲貴族が形成された。こうして氏族制度の諸機関は、「自分たち自身の事項を自由に処理するための諸部族の組織から、隣人の略奪と抑圧のための組織となり、またそれに応じてその諸機関は、民衆の意志の道具から、自己の民衆に対する支配と抑圧の自立的な機関となる」(『家族・私有財産・国家の起源』)。
こうして国家が誕生した。第3の段階(文明)、階級社会に入った。
階級対立の非和解性の産物としての国家
レーニンは『国家と革命』の中で以下のように述べている。
「国家は、階級対立の非和解性の産物であり、その現われである。国家は階級対立が客観的に和解させることができないところに、またそのときに、その限りで、発生する。逆にまた、国家の存在は、階級対立が和解できないものであることを証明している」
レーニンは、階級対立の非和解性の産物としての国家を明らかにしている。
エンゲルスの『家族・私有財産・国家の起源』を引用して続けている。
「国家の特徴の第一は、『国民を領域によって区分することである』」
「第二は、『自分を武装力として組織する住民とはもはや直接的には一致しないひとつの公的権力をうちたてることである。この特殊な公権力が必要なのは、階級に分裂して以来、住民の自主的に行動する武装組織が不可能になったからである......こういう公権力はどの国家にもある。それは武装した人間から成っているばかりではなく、さらに『氏族社会のまったく知らなかった物的付属物、すなわち監獄やあらゆる種類の強制施設から成っている』」
国家とは何か。「自分を武装力として組織する住民とはもはや直接的には一致しない一つの公権力」である。それは社会から生まれ、社会の上に立ち、社会からますます外側に立って社会を抑圧する権力である。
その特殊な公的権力の実体とは警察であり、軍隊であり、そして特殊な付属施設である監獄などである。
国家とは、警察や軍隊や監獄を実体とする国家の暴力で、支配階級の意志を被支配階級に強制することである。つまり被支配階級の反乱を抑圧・弾圧することである。支配階級に対する被支配階級の抵抗の激化、反乱、その結果引き起こされる社会の滅亡から支配階級の搾取制度を守るもの、それが国家である。
レーニンはさらに、国家が階級対立の非和解性の産物であるならば、被支配階級の解放のためには、暴力革命なしには不可能であり、国家権力を破壊することなしには不可能である、と言っている。
国家に対する階級闘争の歴史
マルクス・エンゲルスは『共産党宣言』の冒頭でこう書いている。
「これまでのあらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史である」
「自由民と奴隷、都市貴族と平民、領主と農奴、ギルドの親方と職人、すなわち抑圧者と被抑圧者は、つねに敵対関係にあり、ときにはいんぜんとした、ときには公然とした闘争をたえまなく行ってきた。この闘争は、社会全体の革命的変革をもって終わるか、さもなければ互いにたたかう階級の共倒れに終わるかが常だった」
▼奴隷の反乱
最も有名なのはスパルタクスの反乱だ。紀元前73年に開始された十数万人の奴隷(鉱山や農場で働く労働者)の反乱は、各地で最強のローマ軍を何度も撃破し、ローマ帝国を崩壊の危機に叩き込んだ。だが再編されたローマ軍の反撃によって紀元前71年に壊滅させられ、6万人が殺された。
マルクスは最も尊敬する歴史上の人物として反乱の指導者スパルタクスの名を挙げ、エンゲルスへの書簡でスパルタクスを「全古代史の中でもっとも素晴らしい人物」と絶賛し、「古代プロレタリアートの真の代表者」と評した。
▼アメリカ大陸の黒人奴隷の反乱
1831年の米黒人奴隷のナット・ターナーの反乱がある。アメリカでは1791年から1810年の20年間に40件の黒人奴隷の反乱が起きた。1804年のハイチでの黒人奴隷の反乱は勝利している。
1000万人の黒人奴隷がいた中南米では、16世紀以降、メキシコ、ブラジル、ジャマイカなどで頻繁に奴隷の反乱が起きている。第2次大戦以前にはプランテーションの奴隷労働者の反乱を米帝・ユナイテッド・フルーツ(ブッシュ一族が経営)が徹底して弾圧した。
▼農民反乱
封建社会においては、世界中で数限りない農民の反乱が起きた。16世紀、教会と諸侯の抑圧に苦しんだ農民の反乱、農奴制廃止を求めるドイツ農民戦争、ロシア、中国、イギリス、フランスの農民反乱などがあった。
日本では戦国時代に浄土真宗本願寺教団によって組織された土豪的武士や自治的な農村に集結する農民の一向一揆(加賀の守護を滅ぼし、武家政権の基盤を脅かすが、1580年、信長との抗争に敗れる。加賀のほか、三河や長島、越前も支配した)があった。江戸時代も団結した農民一揆が起きている。
だがこれらの反乱は、勝利した時は階級的力関係を変えることができたが、支配階級を打倒し、それに代わって階級支配のない新たな社会をつくるものではなかった。
奴隷や農民が反乱した時代には、奴隷や農民が国家権力を奪取し、新たな社会を建設するための歴史的条件はまだ成熟していなかった。それは資本主義社会の到来と資本主義社会の墓掘り人であるプロレタリア(労働者)の登場を待つしかなかった。
革命の主体、労働者階級の登場
労働者階級は労働組合が結成される以前から革命運動に参加していった
▼フランス革命(1789年)
フランス革命はブルジョア革命だが、労働者階級として階級形成される以前の職人や徒弟、商人などが、王制に抑圧されていたブルジョアジーとともに参加し、国王、聖職者と貴族の支配(封建制)を打倒して国民議会を設立した。
だが最終的に権力を取ったブルジョアジーは革命勢力を形成した労働者を支配し弾圧する体制を確立した。プロレタリアートはこの段階ではブルジョアジーのイニシアチブの下に革命に参加したのであり、革命の主体とまではいえないものだった。
▼1848~51年の革命
48年革命が全ヨーロッパを席巻した。フランス2月革命を始め、ウイーンとベルリンの3月革命、ミラノ3月蜂起、ハンガリー3月蜂起、プラハ6月蜂起など一斉に燃え上がった。
48年の革命の背景には、45~47年のヨーロッパを覆った大凶作と恐慌があった。鉱工業生産は縮小し、失業者が街にあふれた。フランスでは反政府派のブルジョアジーが、選挙法改正のための宴会運動を47年後半から進めていた。
2月22日、パリで労働者学生の大規模なデモが起こり、ブルボン宮を包囲した。人民と軍隊の間に衝突が起こり、国民軍が鎮圧行動に消極的な態度をとり、武装を解除された。国民軍の12連隊のうち、政府側についたのは2連隊だけだった。バリケード、市街戦ののち国王の退位宣言、臨時政府の成立となり、25日には第2共和政が成立。臨時政府には社会主義者、ルイ・ブランらが入閣した。
臨時政府は、30年7月革命ののち即位したルイ=フィリップの7月王政を共同して打倒したものの、その利害関係は相敵対する種々の階級の妥協の上に成り立っていた。共和主義的ブルジョアジーと小ブルジョアジー、王朝反政府派、そして労働者階級。そこには階級対立が厳然とあった。
▼6月蜂起とその敗北
2月の蜂起の中心部隊だった労働者階級は、労働時間、賃金、労働請負制の廃止など具体的な要求をめぐって臨時政府と対立した。ブルジョアジーは、労働者大衆の決起を自らの権力奪取のために利用しただけだった。
6月22日、パリの労働者は巨大な反乱に立ち上がった。「現代社会を分裂させている二階級間の最初の大会戦であった。それはブルジョア秩序の存続か滅亡かの闘いであった。共和制を覆っていたヴェールは、引き裂かれた」(マルクス『フランスにおける階級闘争』)
ブルジョアジーの鎮圧軍は前代未聞の残虐性を発揮し、3000人以上の捕虜を大量虐殺した。多くの労働者がアルジェリアに流刑にされた。
この6月の蜂起には、「大胆で革命的な闘争スローガンが現れた。ブルジョアジーの転覆! 労働者階級の独裁!」(同)。
1848年2月は、世界のプロレタリア革命運動が、本当の勝利の道を切り開く世界史的な出発点として記憶すべき時となったのである。
『共産党宣言』の意義
同じ1848年に、『共産党宣言』が発表された。
『共産党宣言』は、労働者階級の解放を任務とする共産主義者の党、革命党の綱領的文書として書かれ、次のことを明らかにした。
第一に、「近代のブルジョア社会は、封建社会の没落の結果生まれてきたが、階級対立を廃止したわけではなかった」と、ブルジョア社会が最後の階級社会であることをはっきりさせている。
そして「プロレタリアートは、労働(仕事)があるかぎりで生きることができ、その労働が資本を増殖するかぎりで労働にありつける。自分を切り売りしなければならない労働者とは、他の販売品目と同じ一商品」という状況に置かれている。
第二に、労働者は資本主義社会を打倒する以外に自己を解放することができない。そのために労働者は階級的団結を固め、自らを階級として形成していく。
「労働者は、ブルジョアに対する同盟を結成し、賃金要求のために結集するようになる」「労働者はときどき勝利することがある。その勝利は一時的なものにすぎない。労働者の闘争のほんとうの成果は、直接の成功にあるのではなくて、労働者の団結がますます広がっていくことにある」
第三に、労働者の階級的解放の核心は、「自分自身のこれまでの獲得様式、そして同時にすべての獲得様式を廃止することによってのみ、社会的諸生産力を奪取することができる」ことである。
さらに「プロレタリアートは、公的社会を形成しているいくつもの層の上部構造全体(国家やイデオロギーなど)を空中に吹きとばさなければ、起き上がることも、身をのばすこともできない」
「内乱が、ついに公然とした革命となって爆発し、ブルジョアジーの暴力的打倒をとおして、プロレタリアートが自分自身の支配をうち立てる地点まで到達した」
「労働者革命の第一歩はプロレタリアートを支配階級に高めること」「プロレタリアートはその政治支配を利用して、ブルジョアジーからしだいにすべての資本を奪い取り、すべての生産用具を国家、すなわち支配階級として組織されたプロレタリアートの手に集中」する。
ここでは暴力革命とプロレタリアート独裁の内容を提起している。
最後に、「プロレタリアは、この革命において鉄鎖以外に失うものは何もない。プロレタリアが獲得すべきは全世界である。万国のプロレタリア、団結せよ」と国際連帯と世界革命を呼びかけて締めくくられている。
資本主義は、圧倒的多数の農民の土地を奪い、自らの労働力を売る以外に生きる術を持たない労働者階級に突き落した。
資本主義社会は、産業革命による機械制大工業の導入によって生産力が飛躍的に発展し、資本主義社会にとって代わる社会主義社会の建設を可能にする物質的基盤が形成された。
そして労働者階級の最大の強みは、機械制大工業の下で労働するなかで、組織的に規律をもった存在として形成され、団結して資本家やその国家と闘うために自らを組織し、労働組合を結成したことだ。労働者階級は労働組合を通じて階級的団結を強め、みずからを階級に形成し、革命の主体に鍛えあげた。
機械制大工業の導入により巨大工場に集中された労働者の団結が形成された。労働者の集団住宅や労働者街が形成された。労働組合には、職場と居住地域をともにすることで強い団結が自然発生的に形成された。日常の家族ぐるみの付き合い、冠婚葬祭などの相互扶助から、ストライキまでが含まれた。
労働組合は、労働者階級の基礎的団結形態である。労働者の利益を守る団体は労働組合以外に存在しない。同時にそれは、労働者の利益と権利を守るとともに、資本や国家と闘う共同体へと発展していく。
労働者階級は、労働組合を基盤として全国的に組織されていった。だが、労働組合は、本来資本の搾取と抑圧から労働者を守るものであるとともに、資本家と労働者の階級的力関係を根本的に変えてプロレタリア革命を達成していくための組織であった。
マルクスは、資本による支配と賃労働制度を廃絶するプロレタリア革命を担う労働組合論を提起している。
マルクスの労働組合論
マルクスは第一インターナショナルの第1回大会(1866年)の決議『労働組合、その過去・現在および将来』を執筆してマルクス主義の労働組合論を展開した。この時代はまだ労働組合が形成され始めたばかりの時代であるにもかかわらず、マルクスは労働組合の可能性と革命的役割を正しく見抜いた。さらに労働組合の組合的団結の発展と労働者階級の政治的組織化の前進を一個二重のプロセスとして提起した。
▼その過去 労働組合の形成期
ここでは労働組合が「労働者たちの唯一の社会的力である彼らの数」の力が、「労働者たちの不可避的な相互競争によって生み出される不統一によって敗れることを防ぐために、この競争をなくそうとする労働者たちの自然発生的な企図から生じた」としている。
個人間の競争を止揚する団体として形成された労働組合の直接の目的は「日常の諸要求に、資本の間断ない侵略に対する防衛の手段に、一言でいえば賃金=および労働時間問題に局限された」と述べている。
しかし、マルクスは労働組合のそうした活動は正当であるばかりでなく、必要だとしている。経済闘争の重要性を強調している。労働者階級は経済闘争を通じて階級意識を高めるということだ。
その上で、労働組合は「資本と労働との間のゲリラ戦のために必要だとすれば、賃金制度および資本の支配一般の廃止のための組織された動力(機関)としてさらにいっそう重要である」と述べて、経済闘争を超えた、資本主義体制打倒の闘いの機関として重要だと強調している。ただ、この時期にはそういう闘いはまだ開始されていない。
▼その現在 労働組合の現状
マルクスは、「労働組合は、資本に対する局部的および直接的な闘争に専念するあまり、賃金制度そのものに対するその行動能力をまだ十分には把握していない。だから労働組合は、一般的な社会的および政治的運動を余りにも控えすぎている」と述べて、現在でもまだ資本主義社会を打倒する闘いがまだまだ十分に展開されていないと言っている。
しかし、にもかかわらず、「最近の労働組合においてはその偉大な歴史的使命に関する一定の感情が目覚めたように見える」として、こういう闘いがついに開始されつつあると指摘している。政治運動への労働組合の参加と、国際的な労働者階級の団結が進んでいることをその証拠としてあげている。
▼その将来 労働組合の将来のあるべき姿
「労働組合は......いまや、労働者階級の中心組織たることを意識して、労働者階級の完全解放という大利益において行動することを学ばなければならない」「労働組合は、この目的を達成しようとする一切の社会的および政治的運動を支持しなければならない」「労働組合が、みずからを全労働者階級の前衛および代表者とみなし、またそういうものとして行動する......」
要するに、労働組合はプロレタリア革命の担い手であり、プロレタリア革命をめざすすべての運動とつながり、その前衛となるように行動すべきだとしている。
ここには労働組合の役割とあるべき姿が極めて鮮明にされている。労働組合が形成され始めた段階ですでにその革命的役割を見抜いたマルクスの先見性がある。だが、ほとんどの労働組合は、長い間「過去」および「現在」の労働組合にとどまった。
それでは、労働組合は、実際にはどのように発展してきたのか。以下、労働組合の歴史を検討したい。
(つづく)