▼特集 争闘戦下のアメリカ労働運動 Ⅱ TPPへの米労働者の怒り――外注化・非正規職化との闘い
▼特集 争闘戦下のアメリカ労働運動 Ⅱ
TPPへの米労働者の怒り――外注化・非正規職化との闘い
大恐慌――全世界で階級激突
06~07年サブプライムローン破綻、08年リーマン・ショック以来、世界中でかつてない規模の階級闘争が爆発している。
共通する特徴は、新自由主義への怒り、資本主義そのものへの怒りだ。巨大金融資本は、30年間も「自由競争」「自己責任」「小さな政府」を説教してきたくせに、自分たちが野放図な投機や詐欺商法で破綻したものは公的資金で救済させる。そのつけは、労働者人民に回す。そして、大恐慌そのものを利用し、買い占めで価格を暴騰させ、労働者人民を食うこともできなくする。「バイオ燃料」なるものへの国家補助金政策は、国家ぐるみの穀物買い占めだ。そして巨大穀物商社は、金融恐慌で証券市場から引き揚げられ商品先物市場に流れ込んだ投機資金を使ってさらに買い占め、全世界で08年に食料価格が暴騰した。
それまで、アメリカ、EUなどの国家補助金による安価な食料の輸出攻勢によって地元農業が壊滅的な打撃を受け、食料のほとんどを輸入に依存せざるをえなくなっていた諸国は、今度は、その輸入食料の暴騰によって食っていけなくなったのだ。08年、メキシコやエジプトなど世界各地で一斉に食料暴動が起き、またストライキの波が高まったのは、そのためだ。
こうした新自由主義の破綻、大恐慌のつけの労働者人民への転嫁への腹の底からの怒りが、全世界の革命的決起を生み出していく。
10年末~11年初めチュニジアでは、官製御用労組の中から戦闘的階級的労働運動が生まれ、反乱から蜂起に進み、新自由主義独裁政権を打倒した。これは、エジプトの08年の食料暴動と4月大ストライキ以来の労働者階級の闘いに連動し、11年のエジプト2月革命をかちとった。革命的激動は瞬く間に北アフリカ・中東全域に広がっている。
地中海を経て隣接している欧州でも、米金融資本、特にゴールドマン・サックスの直接的な政府介入=略奪によって財政破綻が加速し、「国家破綻の責任の押し付けを絶対に拒否する」という労働者の巨大なゼネストが不屈に闘われ、EUの中心諸国にゼネストの波が広がっている。
中国では、80年代からの米日欧での新自由主義攻撃――外注化・生産拠点の海外移転――によって、膨大な工業が作り出され、労働者階級が生み出された。現在では、年間18万件以上の抗議・暴動が起き、当局と官製御用労組の抑圧をはねのけて、ストライキが闘われている。中国よりも低賃金で無権利な労働力を求めた移転先となってきたバングラデシュでも、繊維工場の火災や工場ビル崩壊という殺人的労働条件に対する怒りが爆発し、デモとストの波が起きている。
インドネシアでも、日本経団連の14年版『経営労働政策委員会報告』が日本企業の労働者を始めとした数百万人のゼネストの波に危機感をあらわにせざるをえない状況になっている。
かつて「アメリカの裏庭」と呼ばれた中南米は、今や「反米大陸」と言われるようになっている。中南米は、サハラ以南のアフリカと並んで、80年代からIMF(国際通貨基金)と世界銀行のSAP(構造調整プログラム)が世界で最も早く実施された。累積債務の取り立てのためとして、IMF・世銀が破産した国家の管財人となり、独裁権力をふるった。民営化、帝国主義巨大独占資本による公共資産の強奪、労働者人民の生活破壊が強行された。これに対する労働者人民の怒りの決起は、中南米全域を席巻している。
94年発足のNAFTA(北米自由貿易圏)に組み込まれたメキシコでは、政府補助金を受けたアメリカの巨大アグリビジネスに農業を壊滅的に破壊させられ、また、労働者の賃金は劇的に低下した。そしてISD(投資家対国家紛争)条項によって、これまで労働者人民がかちとってきた力関係、権利が専制的に踏みにじられた。たとえば、米資本による環境破壊施設のメキシコ現地での建設差し止め措置が「国際法違反」とされ損害賠償が強制された。こうしてメキシコでは生きていけなくなった農民と労働者は、命がけでアメリカとの国境を越え、「非合法移民」となった。こうした移民はNAFTA発足からの10年で、1100万人以上にのぼる。
AFL―CIO乗り越えるアメリカ労働運動
このNAFTAが生み出した大量の「不法移民」は、資本にとっては、いつでも強制送還可能で、雇用主に従順になるほかない極低賃金労働者の確保であった。そして、それをアメリカの労働者全体の賃金と労働条件のカット、労組破壊のテコとした。
だが、強制退去の恫喝で反乱を抑えつけたはずの移民労働者たちが、06年5月1日には全米1000万の移民メーデーに決起した。彼らの大多数の職場で労働組合結成がつぶされてきたにもかかわらず、デモ参加によって職場を全面的にストップさせた。事実上の全米ゼネストだ。それが今、屠殺・食肉工場、ファストフード店、さらには超ブラック企業ウォルマート倉庫・店舗でも「ストの力で労働組合結成をもぎとる実力闘争」に発展している。ウォルマートの雇用人数は全米最大で、世界最大のスーパーマーケット企業だ。世界的な生産下請け網を持っている。
また、06年の移民労働者によるメーデーの復権は、30年代以来の戦闘的な伝統を持つILWU(国際港湾倉庫労働組合)のランク&ファイル(現場労働者)運動と結合し、08年のイラク反戦全港湾封鎖メーデーが実現した。そしてILWUの闘いは、同年秋のリーマン・ショック以後の全米的なウォール街への怒りの高まり、11年2月のエジプト革命と連帯して闘われたウィスコンシン州議事堂占拠闘争・公務員山猫スト、11年夏のILWUローカル21(第21支部)の穀物輸出ターミナル積み込み実力阻止闘争、そして9月のウォール街のオキュパイ運動として発展していった。
世界で最も凶悪な帝国主義の総本山であるアメリカの内部から、従来の民主・共和二大政党制とAFL―CIO(米労働総同盟・産業別組合会議)の統制を食い破った闘いが巻き起こっているのだ。
AFL―CIO既成指導部にとって特に深刻な脅威は、非常に大衆的な規模の国際連帯の闘いがまきおこっているということだ。
AFL―CIOは単にアメリカの労働運動を抑圧・統制する機関であるだけでなく、世界中の労働運動に介入し、歪曲し、破壊する機関だ。日本の戦後革命をつぶすための労働運動分裂工作も、AFL―CIO(当時はAFLとCIO)が担当した。戦後、フランスでもギリシャでも同じ工作が行われた。73年のチリの軍事クーデターも、AFL―CIOの右派労組育成がなかったら成功しなかった。11年のエジプト2月革命にも介入している。「AFL―CIO会長の執務時間の8割は対外工作に使われている」(ベテラン労働運動指導者、ハリー・ケルバー氏)
そのAFL―CIOが労働運動を破壊した諸国から移民してきた労働者たちが、今度はアメリカ国内で戦闘的・階級的労働運動を作り出している。また、AFL―CIOがアメリカ国内でランク&ファイルに譲歩を強い、外注化を認めさせた結果としてある、移転先、外注先の諸国での闘いと、アメリカ本国のランク&ファイルの闘いの連帯が今発展している。
12年からのウォルマートのストライキと外注先であるバングラデシュの労働者の闘いは、まったく同時期に起こり、互いに励まし合って前進している。
外注化が80年代からの労組破壊の柱
アメリカの労働運動は、1934年の三つのゼネストを始めとした30年代の大激動で巨大な勢力に成長した。
特に、アメリカを代表する基幹産業である自動車産業で、座り込み工場占拠闘争に勝利し、圧倒的な組織化をかちとったUAW(全米自動車労組)は、中西部デトロイト地域を中心に全米に組合員を持ち、アメリカ労働者階級の代表となった。
だが重大なことは、新自由主義の登場とともに、このUAWの指導部が、闘わずして外注化を受け入れ、裏切っていったことだ。
74~75年恐慌後の日本の集中豪雨的対米輸出の中で、米自動車資本は、外注化と工場移転を切り札にしてUAW破壊に乗り出した。これに対して、70年代、カーター政権の末期の時、UAW指導部は、「雇用を守るために国際競争力が必要」と言い出し、団体交渉の場で経営側から要求される前に、労組側から先制的に譲歩条件を出すのがベストと言って、譲歩を提案した。これが、その後の繰り返される「コンセッション(譲歩交渉)」の始まりだ。
これに対して、ランク&ファイル(現場組合員)の戦闘的な活動家たちを先頭にして、猛烈な反対がたたきつけられ、反ダラ幹闘争が行われた。それに対して、UAW本部は、「PATCOの二の舞になってはならない」として激しく抑圧していった。
PATCO(連邦航空管制官労組)は、むしろ伝統的には、右派の組合だったが、重大な安全にかかわるストレス職場の過酷な労働条件の改善を求めたやむにやまれぬストライキに立ち上がった。
レーガン政権は、改善要求のごく一部にさえ応じず、ストライキを挑発してやらせ、前から計画的に準備していたスト破りを投入しつつ、直ちにPATCO組合員に最後通牒を突きつけ、容赦なく全員を解雇した。PATCOの指導者、組合員が手錠をかけられ、連行される姿が全米で放映された。
凶暴な弾圧で、見せしめを作ること。これがPATCO弾圧だった。日本で国労破壊のために全マスコミを投入して、連日「ヤミだ」「「カラだ」「国賊だ」と叫びたてた手口と同じだ。イギリスのサッチャーが炭鉱労組にかけた弾圧と同じだ。これが、世界の新自由主義の突破口となった三大労組破壊である。
UAWの譲歩交渉の核心は、ゼネラル・モーターズ(GM)などの分社化、外注化を認めたことだ。
労働運動の大拠点、デトロイト一帯の工場から、「生産の一部分」が他工場に移された。そして工場そのものが、労働組合がないアメリカ南部に移された。すると、他の工場でも、工場移転されないために、南部に近い労働条件に譲歩しようというUAW幹部の譲歩交渉が始まった。
そして、工場の外注化と移転の波は、次々に拡大した。移転先も、米南部からメキシコ、さらには南米、中国へと広がっていった。
そして、UAWは、労働者の二層化を受け入れていくことになる。「二層化」とは、《これまでの従業員の労働条件は下げない。その代わり、今後雇用する新規採用の労働条件は低いものにする》ということだ。同じ職場に、別の労働条件の労働者がいることになる。重大な団結破壊だ。また、この下の層の労働者は、雇用の保障も上の層とは別になる。こうして非正規職化が進められた。
既存の労働者、上の層は、紙の上では労働条件・雇用条件が守られた。しかし、実際にこれが運用されると、資本は下の層の労働者を次々に大量採用し、上の層の労働者をさまざまな理由をつけてレイオフしていった。レイオフは、「一時帰休」ということだが、「一時」が際限なく長引き、「解雇」に等しくなった。それを防ぐためとして、今度は、上の層の団体交渉でUAWは「大胆な譲歩」を提案していった。
この自動車産業をモデルとして、他産業でも外注化・非正規職化が襲った。
94年からのNAFTAは、この外注化・非正規職化、工場移転――体制内労働運動のすさまじい裏切り――を雪崩のように引き起こした。
だからNAFTAは、アメリカの労働者階級の恨みの的なのだ。
今では、極悪のAFL―CIO指導部といえども、言葉の上では、NAFTAを批判しなければ労働組合の顔をしていられなくなっている。
TPP(環太平洋経済連携協定)は、その交渉過程から、NAFTA以上に悪質だ。NAFTAの時は、交渉内容を記した文書などは公表されていた。しかし、TPP交渉では、国会議員にさえ文書を見せていない。しかし、巨大企業の代表には見せている。ブルジョア民主主義の建前さえ公然と投げ捨て、巨大資本の専制的支配を露骨に実現しようとしているのだ。
「ステロイド(ドーピング剤)を注射したNAFTA」――これが、アメリカ労働運動全体の共通認識だ。
TPP反対闘争は、最初から国際連帯闘争だ。今年になってからも、全米各地、メキシコ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、マレーシアなどで、巨大な反TPPデモが闘われている。
日本の巨大商社、三井・丸紅・伊藤忠は、TPPを実現し、アメリカ産穀物を大量輸入するために、米西海岸に巨大な穀物ターミナルを建設した。その港湾で働くILWU組合員をロックアウトし、暴力的な労組破壊攻撃をかけている。TPPは、各国の資本家階級同士の通商協定である以上に、互いの労働者階級に対する攻撃のための協定なのだ。
03年以来、動労千葉を先頭にしてILWU組合員との国際連帯を深めてきた日本の階級的労働運動は、今こそ、ともにTPPを粉砕する時だ。
日米対立は急激にエスカレートし、TPP交渉も行き詰まっている。国際連帯の力でやつらを打倒する巨大なチャンスが到来したのだ。