■特集 争闘戦下のアメリカ労働運動 Ⅰ 日米同盟の矛盾爆発と労働者の国際的な団結 反米極右=安倍政権――戦後世界体制との激突

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月刊『国際労働運動』48頁(0452号03面01)(2014/04/01)


■特集 争闘戦下のアメリカ労働運動 Ⅰ
 日米同盟の矛盾爆発と労働者の国際的な団結
 反米極右=安倍政権――戦後世界体制との激突

(写真 「NAFTAは国境の両側の労働者にとって悪だ」。労働組合の反NAFTA集会)

 全世界が歴史の岐路に立っている。「戦後レジームからの脱却」を掲げる安倍政権は、これまでの自民党諸政権の延長ではない。従来アメリカ帝国主義を基軸とする戦後世界体制の中で日米安保を基本政策としてきた日本帝国主義が、公然と反米極右・独自核武装路線で走りだしたのだ。

 これと連動し、アメリカとEUは互いに争闘しつつウクライナでナチ勢力を援助しクーデターをけしかけ、一線を越えた世界規模の勢力圏大分割戦に入った。
 第Ⅰ章では、米帝と全世界が安倍に激烈に反応し、争闘戦と階級戦争が堰を切って加速している現実を見ていく。
 第Ⅱ章で、すでにNAFTA(北米自由貿易圏)による外注化・労組破壊を経験している米労働者階級が、TPPとの闘いに立ち上がっていることを見る。
 第Ⅲ章で、日米韓を軸とした労働者階級の国際的団結で、世界革命が実現できる時が来たことを示す。

●特集 争闘戦下のアメリカ労働運動 Ⅰ 反米極右=安倍政権――戦後世界体制との激突

労働者の時代が来た


 労働者にとって今は、どういう時代か?
 革命の時代だ。ついに、労働者が社会全体を、全世界を獲得する絶好の機会が来た。
 そこで「現代革命への挑戦」として東京都知事選を闘い抜いた。
 世界大恐慌が一段と深まり、帝国主義は行き詰まり、互いに分裂し、死闘を始めた。今まで同盟を組んできたアメリカと日本の支配階級が、第2次世界大戦、日米戦争が「正義の戦争だった」と互いに公然と主張している。
 今までの日米の支配階級は、貿易や投資の面で対立していても、安保同盟(侵略戦争)の協力関係は強化してきた。対立は、外交辞令で握手しながら机の下で蹴飛ばし合っていた。だが今、公衆の面前で互いに罵倒し合っている。EU諸国とアメリカでも、戦後史上かつてなかった激烈な対立が始まった。
 世界革命の時代だ。

「異次元の金融緩和」=「異次元の反米路線」


 安倍政権は発足前から、アメリカ帝国主義と激烈に対立している。
 まず「アベノミクス」だ。黒田日銀総裁は「異次元の金融緩和」と称しているが、従来の政権とは画然と違うということだ。《労働者・人民から奪い巨大独占資本が取る》とともに《アメリカとの対立の一線を越える》政策ということだ。
 アメリカ、イギリスの金融資本を代弁する経済紙、ウォールストリートジャーナル、ファイナンシャルタイムズは、「通貨戦争の引き金を引いた」と言っている。
 基軸通貨ドルはアメリカ経済の最後の命綱だ。ドルが基軸通貨であることによって、最大の債務国アメリカが、毎年貿易収支、経常収支の赤字を垂れ流しつつ、現在の大恐慌の中でもかろうじて延命している。03年のイラク戦争突入の理由も、中東の石油支配、戦略的な世界支配のためということもあるが、イラクのサダム・フセインが、石油取引をドル建てからユーロ建てに変更し、ドルの基軸通貨を脅かしたことが決定的だった。
 安倍・日銀黒田は、アメリカ帝国主義に《「日本のサダム・フセイン」と見られてもいい。何が何でも金融緩和だ》と言っているわけだ。

日米同盟の前提=アメリカの戦後処理に反対

 そして靖国参拝は、そうした反米路線を露骨に戦争の言葉で語ったということだ。日米帝国主義は、もはや引き返すことは不可能な絶対的な激突関係に入った。
 昨年12月26日の靖国参拝後、アメリカが「失望」を表明し、全世界が非難したにもかかわらず、その直後の元日に安倍政権の閣僚が参拝している。
 A級戦犯が合祀されてから昭和天皇は一度も参拝していない。天皇は、戦犯問題が焦点化し、自分自身が最大の戦犯として指弾されることを何よりも恐れていたからだ。
 さらに言えば、アメリカ帝国主義が、ウルトラA級戦犯である天皇を免罪し、日本の階級支配のために、そして戦後世界体制形成のために利用した経緯を知り尽くしている天皇は、自分の靖国参拝が、その構造を崩壊させることに震え上がったのだ。
 その後、確かに80年代に中曽根首相が参拝した。しかし中曽根は、労働者人民に弾劾され、中国に弾劾され、さらにアメリカにも制止されたため、一回限りでやめている。それまで反米的な言動を多々行っていた中曽根も、首相になった時は、問題を棚上げし、あいまいにしていた。また、小泉は首相就任後に繰り返し参拝し怒りをかったが、合祀されている戦犯についてはごまかし、問題の焦点化を避けようとした。
 だが、安倍は、A級戦犯・岸信介の孫であることを売り物にして「東京裁判史観反対」運動――A級戦犯の判決を認めない運動――の最先頭に立ってきた人物だ。
 「東京裁判」=極東国際軍事裁判は連合国(実質的にアメリカ)が行ったものだ。そして、51年のサンフランシスコ講和条約で「極東軍事裁判の判決を受け入れる」ことを日本が誓約し、それを前提にして日米安保同盟が成立し、戦後世界体制が作られた。
 したがって、「東京裁判史観反対」の主張は、45年にポツダム宣言を受諾して無条件降伏し、51年にサンフランシスコ講和条約に調印したことを覆すということだ。これを今の時点でわざわざ蒸し返すということは、アメリカ基軸の戦後世界体制に公然と衝突するということで、日米安保同盟をも壊していくという政治的宣言になる。第1次大戦での敗戦・降伏を覆すために「ベルサイユ体制打破」を叫び第2次大戦に突入したナチスの扇動とそっくりだ。
 日本共産党などの体制内の「批判者」たちは、靖国参拝が安倍個人やその取り巻き連中の失策であるかのように言っている。現実は正反対だ。《確信犯》なのだ。安倍個人の問題ではなく、支配階級による階級戦争と対外戦争への突進の問題なのだ。
 時代を遡って問題を直視することが重要だ。一貫して安倍=靖国だった。日帝ブルジョアジーが自民党内の靖国参拝の急先鋒=安倍を総裁に選んだ。

日本の前途と歴史教育を考える議員の会

(写真 「南京大虐殺はなかった」という「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」の出版物)

 現在の安倍政権の閣僚19人のうち9人が「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」のメンバーである。これが今に続く問題だ。
 この会は、93年からの自民党の「歴史検討委員会」に参加していた若手議員が、97年に安倍晋三を事務局長として作ったものだ(当時は「若手議員の会」という名称)。この会は、96年結成の民間組織の形をとった「新しい歴史教科書をつくる会」とともに、「東京裁判史観反対」「自虐史観反対」を強調して活動してきた。
 その後、安倍は、小泉政権の官房副長官、自民党幹事長としても「価値観外交」を強く主張してきた。極めてイデオロギッシュで国家主義的な強硬路線外交だ。
 小泉政権の後、06年第1次安倍政権が誕生した。
 第1次安倍政権は改憲を公約に掲げた初の政権である、「戦後レジームからの脱却」がスローガンだった。80年代の中曽根政権の「戦後政治の総決算」と似ている。実際、中曽根も改憲を目標にして、国鉄分割・民営化をやったのだ。しかし、安倍が、あえてカタカナの「レジーム」を使っている点に特徴がある。
 確かに憲法は、単なる国内問題ではない。日本の労働者人民の戦後革命への決起の結果として作られたものだが、直接にはアメリカの日本占領当局の原稿だ。その後も日本国内の階級関係の枠組みであると同時に、戦後世界体制の中で日本帝国主義が生きていく枠組みになってきたものだ。だが、中曽根は、まずは国内の労組破壊と政治システムの転換に当面の全精力を注いだ。それに対して安倍は、戦後世界体制に対する挑戦を直接に打ち出したのだ。
 「レジーム」という用語は98年クリントン政権時代に成立した「イラク解放法」の立法目的として「レジーム・チェンジ」が言われてから、多用されるようになった。ブッシュ政権のイラク戦争は、まさにこれが公然と戦争目的に掲げられた。「レジーム・チェンジ」とは、「限定的戦争ではない。外国の政府を打倒するまで戦争を止めない」という激しい意味で使われる合言葉なのだ。
 「戦後レジームからの脱却」とは、安倍らが唱える「東京裁判史観反対」の別の表現だ。日本帝国主義が無条件降伏して、アメリカ基軸の戦後世界体制を受け入れたことを覆すということだ。
 第1次安倍政権による防衛庁の防衛省への昇格、教育基本法の改悪は、戦後世界体制と戦後憲法の根本にかかわる問題で重大な踏み切りだった。

米下院121号決議

(写 真 下院決議第121号の決議5周年レセプション。元慰安婦、在米韓国人、さまざまな民族の代表に加えて、マイク・ホンダ議員、ロスレシネン外交委員長な ど多くの議員も参加し、ますます第121号決議が重要になっていることを示した【12年7月24日、米議会ビジターセンター】)
(写真 靖国神社の遊就館には対米戦に使われた人間魚雷・回天を展示 )

 民主党内の極右議員は、安倍らの「日本の前途と歴史教育を考える議員の会」と連携しながら07年3月に「慰安婦問題と南京事件の真実を検証する会」を結成し、河野談話の見直しを目指した。安倍は、この会に同月国会で八百長質問をさせ、「慰安婦の強制性を示す証拠はなかった」と答弁した。これまで議員としてやってきた「東京裁判史観反対」「自虐史観反対」キャンペーンを、今度は、政府を代表する公式見解として、そして超党派極右運動として、大々的に展開しだしたのだ。
 これは何よりも慰安婦にされた当事者への極悪の攻撃、襲撃であり、排外主義で労働者階級人民を分断支配し、階級的労働運動を破壊して戦争に動員するためのものだ。それは同時に、戦後世界体制の枠組みと正面衝突するものだ。
 アメリカの共和・民主両党は超党派で対日決議を上げた。同年6月の下院外交委員会で、7月本会議で、「慰安婦に対して日本政府の謝罪を求める決議」――下院第121号――を可決したのだ。
 日本国内では、安倍の支持者らが「第121号は韓国・中国のロビー活動によるものだ。米国内で日本側の主張をもっと宣伝し巻き返そう」という運動を展開した。だが第121号決議は、アメリカ帝国主義自身の怒りの表明だ。安倍政権の慰安婦責任否定キャンペーンへの踏み切りが、「日本が第2次大戦を行ったことは正しかった」と極限的な形で主張し、戦後処理・戦後世界体制の枠組みそのものを破壊するものだからだ。
 すでに06年9月15日、小泉から安倍への交代期に、同じ外交委員会(当時の名称「国際関係委員会」)の公聴会で、共和党のハイド委員長が「遊就館が第2次大戦は日本による西側帝国主義からの解放だと若い世代に教えていることに困惑する」と批判し、「次の安倍首相には、靖国参拝をやめてほしい」と明確に述べている。
 民主党のラントス委員(07年の第121号可決時は委員長)も「靖国参拝はナチスのヒムラーやゲッペルスの墓参りと同じ」と激しく非難した。実際、靖国にある遊就館は展示物もゼロ戦、回天など日本の対米戦争に関するもので、その説明文も対米戦争を美化するものだ。民主・共和両党は、日中・日韓関係の問題を言いつつも、むしろアメリカへの公然たる敵対にこそ、激烈に反応しているのだ。
 だから、米帝の対日圧力は、急速に大きくなった。
 そして国内でも、年金問題を始めとして自民党支配への国民的な怒りが高まり、安倍政権は参院選で惨敗した。
 安倍は、小泉と同じく、一切の矛盾を労働者階級にしわ寄せして乗りきろうとしたが、階級的労働運動が立ちはだかった。
 中曽根政権以来の新自由主義政策の突破口であり軸であり続けている国鉄分割・民営化政策が、動労千葉を先頭とする闘いに阻まれ、貫徹できない状態を強いられた。動労千葉は全国で唯一、検査修繕の外注化を阻止し続けた。それは、全国の国鉄闘争にも巨大な影響を及ぼした。これとの対比で、JR総連ばかりか国労本部もが外注化で労働者を売り渡している裏切りがあらわになり、1047名解雇撤回闘争の終結策動を破綻に追い込んでいった。06年2月には動労千葉争議団と国労闘争団、全動労争議団が、労働組合の違いを超えて団結し、「1047名連絡会」が結成された。体制内指導部は、必死になってこれを破壊しようとし、「4者4団体」を作って1047名解雇撤回闘争に政治和解を強制する策動に走ったが、1047名を支援してきた100万人に示される、労働者の闘う力をつぶすことはできなかった。
 教育基本法改悪反対闘争・「日の丸・君が代」不起立闘争は、安倍政権の改悪強行と日教組本部の屈服にもかかわらず、現場の教育労働者の団結、職場の闘いを基本的に守り抜く力になった。前記のように発足時から安倍と一体の関係にある「つくる会」教科書の採択は進まず、「つくる会」自体が分裂・抗争を繰り返す事態となった。
 内外ともに八方ふさがりになった安倍は、就任後1年もたたずに政権を投げ出した。その後、福田も、麻生も、そして「政権交代」をした民主党鳩山―菅―野田も同様な結果に終わった。日本帝国主義自体が、ずり落ち、展望も何もない状態なのだ。

安倍再登板を求めた日帝ブルジョアジー

 安倍の政権投げ出しは前代未聞のぶざまなものだったが、支配階級にとって、安倍の他に選択肢があるわけではなった。だから、安倍政権復活を求める運動が起こっていった。日帝支配階級全体の総力を挙げた労働者攻撃=国鉄分割・民営化の先頭に立った「国鉄改革三羽がらす」の一人、JR東海会長の葛西敬之が安倍擁立運動の中心的実力者だ。そして「安倍晋三総理を求める民間人有志の会」が作られていった。代表幹事・長谷川三千子を始め、「新しい歴史教科書を作る会」元会長の藤岡信勝、元航空幕僚長で公然たる日本核武装論を扇動している田母神俊雄、70年安保闘争時の公安・警備警察の佐々淳行、そして百田尚樹らだ。(このうち長谷川と百田は、第2次安倍政権でNHK経営委員に任命された)
 日帝ブルジョアジーの新自由主義の最先頭の勢力が、安倍を支持し、自民党国会議員の多数を固め、極右勢力を集めて第2次安倍政権を実現していったのだ。日本経団連、日本経済新聞は、民主党政権時代から、安倍待望論をあおっていたのだ。そして12年の自民党総裁選の時には、アメリカとの衝突を承知の上で、安倍の超金融緩和路線を礼賛していった。

第2次安倍政権の発足時から冷遇した米帝

 12年末の第2次安倍政権の発足に対して米帝は、これが同盟国かと思うほど、極端に冷遇した。訪米した安倍と内容がない極短時間の面会をしただけで、共同記者会見も、晩餐会もなしだった。共和党の政治家も財界団体なども安倍を無視した。通常の外交儀礼ではありえない。その前後の中国、韓国、EU諸国の首脳の処遇とは天と地の差だった。安倍の反米極右路線は絶対許さないという意思表示なのだ。

米政府の警告を無視し春の例大祭に参拝

(写真 「主権回復の日式典」を弾劾する沖縄1万人集会【13年4月28日】)
(写真 「震災にあった隊員の激励のため」として航空自衛隊松島基地を訪問し、T4練習機731番に乗ってポーズをとる安倍【13年5月12日】。「また安倍が挑発」「731部隊の犯罪までなかったことにするのか」と全世界で報道された)

 13年4月の例大祭を前にアメリカは、副首相麻生に対して直接に靖国参拝をしないように警告した。だが、その直後の例大祭に多数の議員、閣僚、そして麻生本人が参拝した。安倍は真榊奉納をした。この参拝と奉納は、中、韓、米だけでなく、イギリスの『エコノミスト』などでも大きく取り上げられた。
 さらに4月28日、サンフランシスコ講和条約発効61周年の日、「主権回復の日式典」の開催を強行した。この条約は、第3条でアメリカが沖縄の施政権を持つことを取り決めている。この式典の開催自体が、力ずくで沖縄の闘いを圧殺し、辺野古の新基地建設をするという宣言だ。

【囲み】日本国との平和条約(サンフランシスコ講和条約)
第十一条 日本国は、極東国際軍事裁判所並びに日本国内及び国外の他の連合国戦争犯罪法廷の裁判を受諾し、且つ、日本国で拘禁されている日本国民にこれらの法廷が課した刑を執行するものとする。......

 もちろん、サンフランシスコ条約は、第11条の極東国際軍事裁判所の判決受諾条項が決定的なポイントだ。これを絶対的条件としてアメリカ帝国主義は、戦争状態・日本占領の終結を認めたのだ。だが安倍内閣は、靖国例大祭の大量参拝で第11条を平然と無視し、直後に「主権回復の日式典」を開催した。米帝にとっては、「喧嘩を売っているのか!」ということだ。
 10月には、ケリー国務長官とヘーゲル国防長官がそろって千鳥が淵で献花するという異例の行動をし、「戦没者を慰霊するなら千鳥が淵だ」と示した。そして11月には、靖国参拝の了解をとりつけるために訪米した衛藤首相補佐官に、ラッセル国務次官補は「靖国参拝は2国間関係を傷つける」と最後の警告をした。「日韓関係、日中関係に懸念する」という外交的な婉曲表現ではなく、ずばり、アメリカは怒っていると突きつけたのだ。
 それを蹴って、12月26日、ついに安倍自身が靖国に参拝した。
 アメリカは、それを予測し、対応を準備していた。在日大使館、本国国務省は安倍参拝を確認した直後に「失望」のコメントを発表した。全マスコミが非難報道をした。外交用語では、「懸念」でも単なる批判ではなく強い非難を意味するが、「失望」は、それをはるかに超える重大な言葉だ。
 日米同盟は断崖絶壁だ。
 だが、元旦には新藤総務相が靖国参拝した。VOA(アメリカの対外放送)は、「傷口に塩を塗った」と報道した。2月に出した衛藤の「『失望』にわれわれが『失望』」発言は、対米戦闘モードに入っている安倍政権全体の空気を示している。

原子力基本法改定 日帝の核武装

 日米安保の柱は、「アメリカが核の傘を提供し、日本は核武装しない」ということだった。
 だが福島事故後、安倍のブレーンである葛西JR東海会長を先頭に「安全保障のために原発が必要」というキャンペーンが展開され、日経などの全国紙でさえ、公然と「核武装できる力を失ってはならない」という論文が掲載されるようになった。
 3・11以前は、原発は核兵器開発のためのものという反原発側からの批判に対して、彼らは懸命に否定していたが今、公然と核兵器開発を居直っている。原子力基本法は改定され、原子力の目的として「安全保障」が加えられた。
 第2次大戦の戦勝国、米英ロ仏中に与えられた核武装の権利を敗戦国日本にも与えろということだ。これは日米安保からの決裂要求に等しい。
 こうした安倍の反米極右路線が全世界の帝国主義間・大国間の一線を越えた争闘戦の開始と連動している。

〝ナチスの犯罪から自由になる〟と宣言したドイツ帝国主義

(写真 今後は、ナチスの犯罪を気にせず、積極的に海外で軍事活動をすると宣言したドイツのガウク大統領の安全保障会議での開会挨拶【1月31日 ミュンヘン】)

 今年1月末、ミュンヘンで開催された安全保障会議では、世界主要国の軍事・外交担当相の前で、ドイツ大統領ガウクが長い開会あいさつを行った。
 「これまでドイツは過去の犯罪の影に隠れて、世界的な責任を十分に果たせなかった」
 「中央アフリカ......を含む地域でも、ドイツは積極的に安全保障上の責任を果たす」
 「アメリカが対応できる問題は限られている」
 「ドイツは世界の列強としての責任を果たす」
 つまり、《ドイツの第2次大戦の責任なんて関係ない》《NATOの枠なども関係ない。NATO地域外のどこにでもドイツ軍を派兵する》《アメリカだけが世界大国ではない。ドイツも世界大国だ》ということだ。
 日本とともに第2次大戦の敗戦国としての国際的地位にあったドイツが、「世界大国」としての地位を公然と要求しだしたのだ。

ウクライナのナチスをアメリカが支援

(写真 ウクライナのナチの街頭デモ)
(写真 スボボダ党の党首と会う米共和党幹部マケイン)

 オバマ政権は、ウクライナの反政府勢力を支援し続け、クーデターを起こさせた。反政府デモの先頭に立ち、政府の治安部隊との銃撃戦をしかけたのが、スボボダ党や右翼セクターなどのナチ党派だ。彼らは、第2次大戦当時、ドイツ軍ナチスに合流し、ユダヤ人大虐殺を始めとした大犯罪を犯した勢力で、当時の党首の写真を先頭に、隊列の全員が右手をまっすぐ前方に掲げたナチ式の敬礼をしながらデモンストレーションをしている。
 このナチを先頭にしたクーデターをオバマ政権が、「民主化だ」とって言って支持しているのだ。共和党も、物質的援助をしているだけではなく、元大統領候補マケインが公然とスボボダ党の党首と会っている。
 これまでの米帝の右翼独裁政権支援の延長ではない。第2次大戦の表向きの建前だった「民主主義とファシズムの戦い」の看板さえ投げ捨て、なりふりかまわず、対ロシア、対EUの三つ巴の争闘戦に入っているのだ。
 1945年以来の戦後世界体制が、大分裂、大崩壊を開始した。
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 以上、この章では、日本帝国主義・安倍政権の突出とドイツ、アメリカ帝国主義の相互の激突を見てきた。
 だが、さらに大きいことは、この帝国主義間・大国間の争闘戦の根底に、支配階級そのものを打倒する労働者階級の革命的闘いがあるということだ。
 あらゆる社会の歴史は階級闘争の歴史である。時には隠然と、時には公然と、しかし絶え間なく闘われ、必ず倒すか倒されるかの革命に至る階級闘争こそが歴史を根底で規定する。
 支配階級が一見して無謀な戦争を何度も繰り返してきたことは、階級闘争を軸にして見なければけっして理解できない。
 なぜ、安倍は、過去の戦争の正当化にそれほどこだわるのか。その安倍を支配階級が首相にまで押し上げたのか。
 なぜ、戦前の日本の支配階級は、15倍とも20倍ともいわれる国力の差にもかかわらず、アメリカに「無謀な」戦争を挑んでいったのか。
 現在も戦前も日本支配階級にとって共通なことは、とどまるのも地獄、突き進むのも地獄という事態だ。大恐慌と階級闘争の激化で、階級闘争→革命によって打倒されるか、それとも戦争に突き進むかしか選択肢がない。ならば戦争へということだ。
 このように支配階級が延命をかけた死闘戦に突入している時、労働者階級はいかにして新たな次元の闘いをし、勝利するのか。次の第Ⅱ章、第Ⅲ章で見ていく。