●討議資料 ■2014年版 経営労働政策委員会報告 (抜粋) 日本経済団体連合会

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月刊『国際労働運動』48頁(0451号04面01)(2014/03/01)


●討議資料
 ■2014年版 経営労働政策委員会報告
 ―デフレからの脱却と持続的な成長の実現に向けて― (抜粋)
 日本経済団体連合会

序文

 安倍政権の経済政策によって企業を取り巻く環境が大きく改善したことを受けて、今年は、長期にわたってわが国企業を苦しめてきたデフレからの脱却を実現する好機を迎えている。
 現在生じつつある変化をわが国経済の再生と持続的な成長に向けたダイナミックな奔流へと転じていく役割を担うのは企業である。ようやく企業家精神をいかんなく発揮できる状況となってきた今、経営者には、政府の諸施策に呼応し、一層の競争力強化に努めることで、グローバル競争を勝ち抜き、自社
の成長と発展を通じて経済社会に貢献していくことを求めたい。
 経営者の明確なビジョンのもと、新たな成長の機会を切り拓いていくための原動力となるのが労使間の信頼と協力である。春の労使交渉・協議は、企業がおかれている環境や乗り越えるべき課題などについて認識を共有しながら、自社の未来について互いの知恵を出し合う絶好の機会である。
 企業活力が最大限に発揮されるよう、政府の一層の取り組みも重要である。経営環境のさらなる改善に向けて、法人実効税率の引き下げや、社会保障制度の重点化・効率化、大胆な規制改革など、成長戦略の着実な実行に全力を傾注していただきたい。企業が世界で一番活躍しやすい国づくりを進めることによって、内外からの投資は加速し、持続的な経済成長の基盤は揺るぎないものとなっていこう。
 本報告書は、1974年の「大幅賃上げの行方研究委員会報告」を嚆矢とするものである。当時、わが国は「狂乱物価」と呼ばれた危機的なインフレと大幅な賃上げという悪循環に陥ろうとしていた。そこで、日本経済の先行きを憂慮した経済界が労使交渉に臨む基本的な方針を示し、その後の日本経済の安定と発展に大きく貢献したという歴史がある。
 本報告書は発行40冊目となるが、最初の報告書と同様、労使の建設的で、実り多い議論のための参考となれば幸いである。
 2014年1月
 一般社団法人 日本経済団体
 連合会  会長 米倉 弘昌

第1章 わが国企業を取り巻く経営環境と経済成長 に向けた課題

1.わが国企業を取り巻く経営環境

 安倍政権による異次元の経済政策(三本の矢)により、わが国企業を取り巻く経営環境は大幅に改善してきている。
 「第一の矢」である「大胆な金融緩和」を受け、行き過ぎた円高は2013年年央にかけて急速に是正された。
 こうしたなか、円高の是正や好調な内需を背景として、自動車などの輸出関連産業、建設業などの内需関連産業を中心に、企業業績が大幅に改善している。
 ただし、中小企業における業況判断や収益の改善は大企業に比べて遅れている。
 経営環境のさらなる改善に向けて、今後は「第三の矢」である成長戦略を着実に進めていくことが求められる。とりわけ規制改革は、事業活動における創意工夫の可能性を拡げてイノベーションを促進するとともに、高コスト構造を是正し自由で円滑な事業環境を整備するうえで極めて重要であり、成長分野のみならず、あらゆる事業分野にわたる不必要な規制について、早期かつ大胆に見直すべきである。また、TPPをはじめとした経済連携の推進などによって、内外の潜在需要を顕在化させつつ、民間投資を喚起していくことが不可欠である。
 企業としては、厳しいグローバル競争のなかにあって、海外企業と伍して、付加価値を創出し続けなければならない。企業家精神を発揮して、イノベーションを創出していくとともに、労使一丸で生産性の向上に取り組むことが求められる。

2.本格的な成長軌道に乗せるための諸課題

⑶電力価格の抑制・安定供給の確保
 原子力発電所の稼働停止を火力発電で代替する状況が続いており、燃料費の増大に伴う電気料金の値上げによって、事業運営コストが高まっている。最近の値上げは原発の早期再稼働を前提としており、再稼働が実現しない場合、さらなる値上げが行われる可能性が高いことに留意する必要がある。
 電力価格の上昇は、国内での事業活動の大きな阻害要因となっており、産業や雇用の空洞化に拍車がかかるおそれもある。
 当面は、経済性のある価格での電力の安定供給を確保するため、今後3~5年程度の工程表を提示し、実行に移すことが急がれる。そのため、安全性の確保を前提に、地元自治体の理解を含め原発の再稼働プロセスを加速化していくべきである。
⑷社会保障制度改革の推進
 従業員や企業が負担する社会保険料負担が増大するなか、社会保障給付費の安定財源を確保すべく、消費税率を2014年4月に8%に引き上げることが決定され、2015年10月には10%となる予定である。しかし、予定どおりの引き上げが行われてもなお、社会保障給付費の急速な増加ペースに追い付くことができず、保険料負担は今後とも上昇すると見込まれている。
 勤労者や企業が負担する社会保険料は賃金に対して課されるため、なし崩し的な負担の拡大は、賃金の引き上げや雇用の拡大を抑制し、企業や個人の活力の発揮や経済成長を阻害する。こうした状況に歯止めをかけるためには、社会保障給付の重点化・効率化などの社会保障制度改革の断行が不可欠である。
⑸法人税負担の軽減
 法人税減税をめぐっては、企業だけが優遇され、恩恵を受けているのではないかとの批判がある。しかし、減税によるキャッシュフローの増加により、各企業は、研究開発や設備投資など、自社の成長に向けたさまざまな取り組みを行い、その成果は雇用の拡大や賃金の上昇などの形で従業員に還元される。
 短期的な政策税制にとどまらない法人実効税率の引き下げは、中長期的にわたって、わが国の立地競争力を強化し、国内の生産・開発拠点などを維持するとともに、国内外の企業による投資促進や新規産業の創出を進めるうえで不可欠である。わが国の法人税実効税率をアジア近隣諸国並みの約25%まで引き下げるため、早期に道筋を付けるべきである。 第3節 3.雇用・労働市場の現状
⑴雇用・労働市場の現状
 ①非正規労働者の実態
 近年、非正規労働者が増加している。2013年1~11月平均で非正規労働者数は約1906万人、雇用者全体に占める割合は36・6%に達している。
 非正規労働者全体の人数や割合が増加していることを捉えて問題であると論じられることも多いが、非正規で働く人々の年齢や雇用形態の構成、増加の要因などを十分踏まえておく必要がある。非正規労働者数の内訳をみると、全体の45%が女性のパートタイム労働者であり、そのうち約70%が「世帯主の配偶者」である。このように、家計補助的な主婦パートが、非正規労働者全体の約30%を占めていると考えられる。
⑵改革の方向性
 ①多様な働き方の推進
 非正規雇用の実態は多様であり、一律には論じられない。正社員自体も多様なものとなっている実態を踏まえれば、「正規雇用、非正規雇用の二極化論」から早期に脱却すべきである。
 ③勤務地等限定正社員の活用
 正社員という呼称とその雇用・就労形態は、「時間外労働があり、勤務地や職種の変更について企業の人事権が強く、勤続を重ねるごとに高い役割が期待される期間の定めのない労働者(従来型の正社員=無限定無期労働者)」を指すことが多い。
 しかし、従来型の正社員と異なる就労形態を望む者も少なくない。企業としては、労働者の多様なニーズに対応しつつ、生産性を維持・向上させるため、勤務地や職種、労働時間を限定した正社員(以下、限定正社員)を積極的に活用するなど、正社員の多様化を図っていく必要性が高まっている。
 限定正社員に対する使用者の雇用保障責任は、従来型の正社員と同様、労働契約法第16条に規定される解雇権濫用法理が適用されるが、その判断において当然には同列に扱われないと解釈されており、この点をより明確にする法整備が必要である。
 ④裁量労働制の見直しをはじ
 めとする労働時間制度改革
 グローバル競争が激化するなか、海外企業と伍していくうえで、労働者の知的生産性の向上が一層求められる。特に、独創的なアイデアや課題解決策をつくりだす能力=クリエイティビティの発揮が不可欠であり、企業は、健康確保措置の徹底と恒常的な長時間労働の見直しを行いながら、労働者が活躍しやすい環境を整備しなければならない。
 現行の労働基準法は、明治時代にできた工場法の流れを汲むため、費やした時間に比例して仕事の成果が現れる労働者の時間管理には適するが、業務遂行の方法や時間配分を自らの裁量で決定し、仕事の成果と労働時間とが必ずしも比例しない一部事務職や研究職就労実態とは乖離している。
 働き方そのものの多様化に対応した時間管理を行うには、法律で画一的に律するのではなく、労使自治を重視した労働時間法制に見直すべきである。
 企画業務型裁量労働制は、実際の労働時間にかかわらず労使で決めた時間分を労働したものとみなす効果をもつ。近年、子育てや介護をしながら働く社員が増えており、限られた時間で効率的に働き、成果をあげた者を支援する意味でも、本制度の重要性が増している。
 そこで、健康確保に十分配慮することを前提に、企画業務型裁量労働制の対象業務・対象労働者の範囲拡大を行うほか、手続きの簡素化を図るべきである。
 また、高度な裁量をもって働く一部事務職や研究職等を対象に、健康確保措置を強化し、労働時間・深夜労働の規制の適用を除外する制度を創設すべきである。
 現在、労働者の働き過ぎ防止が課題となっているが、もとより安心・安全な職場づくりは経営の大前提であり、企業は、これまで以上に過重労働防止に向けて取り組む必要がある。特に、三六協定の設定上限時間は、労働時間の延長の限度に関する基準に適合させるとともに、特別条項付き三六協定を締結し、やむを得ず月100時間以上の時間外・休日労働が発生した場合には、一定要件のもと、労働者に医師の面接指導を受けさせることを徹底すべきである。

第3章 2014年春季労使交渉・協議に対する経営側の基本姿勢

1.「労使パートナーシップ対話」充実の重要性

⑴多様なチャネルによる労使
 コミュニケーションの強化
 企業活動を活性化し、業績を安定的に改善・向上していくためには、労使コミュニケーションの強化を通じて、自社の置かれた状況について正しく認識を共有しながら相互理解を図り、より強い信頼関係をつくり上げることが前提となる。
 多少の考えや認識の違いこそあれ、企業にとって労働組合や従業員は、いわば同じ船に乗るパートナーである。良好な労使関係を構築し維持していくことはもちろん、絶えず最善の方向へ舵を切ることができるように、常に深化させていくことが、経営の要諦である。良好な関係のもと、労使が一定の距離感と緊張感を持ちながら、課題解決型の話し合いとしての「労使パートナーシップ対話」をさらに充実させることが望まれる。
⑵「労使自治」原則の堅持
 わが国は歴史的に企業別労使関係を最も重視しており、それが経営環境の変化に対して企業ごとに柔軟かつスピーディーに対応できるという強みをもたらしている。良好で安定した企業別労使関係を背景として、「労使自治」は有効に機能しており、今後も堅持すべきである。
 賃金等の労働条件は、個別企業労使が自社の実態を踏まえて話し合ったうえで、自社の支配能力に即して労使自治で決定するものである。労使交渉の基本である労使自治と労使協調を大切にしながら、企業経営上の諸課題の解決に向けて、中長期的な視点に立って真摯に話し合い、自社を望ましい方向へと導いていくことが、労使に求められている。
⑶いわゆる春闘不要論に対する
 考え方
 近年、「春闘は不要ではないか」との指摘がある。労働組合がベースアップを要求せず、定昇実施や賃金カーブ維持の回答が大勢を占めていることや、それによって賃金水準の波及効果が失われてきていることなどが、その理由としてあげられている。
 確かに、労働組合が実力行使を背景として賃金水準の社会的横断化を意図して闘うという意味での「春闘」は、もはや終焉している。しかし、近年の春季労使交渉・協議は、月例賃金や賞与・一時金だけでなく、労働条件全般に関する事項はもとより、従業員のモチベーションや人材力の向上、中長期的な経営課題、自社の将来ビジョンなどさまざまなことを協議している。自社の経営環境や課題を共有しながら、競争力をいかに強化するかを労使で虚心坦懐に話し合い、方向性を模索し確認し合う建設的な討議の場として、春季労使交渉・協議の意義や重要性はむしろ高まっている。

2.海外労使紛争の現状と課題

⑴海外労使紛争の現状
 わが国企業の主な進出先であるアジア各国において、2000年代半ば以降、労使紛争が増加している。その背景として、賃金の引き上げや社会保険の加入など労働条件の改善を求める声の高まりに加え、各国で最低賃金が近年、大幅に引き上げられたことへの反動として、賃金以外の労働条件の引き下げ、労働契約の解除等が行われたことに対する不満、非正規労働者の正社員化や労働組合結成の要求が強まっていることなどが指摘されている。
 実際に日系企業においても、怠業による生産性の低下やストライキ、抗議行動の発生による操業停止、長時間の軟禁、暴力行為、会社側に対して過度に労働者を保護する内容を求める「誓約書」への署名強要などの被害が報告された。
 被害は個別企業の労働者における要求行動だけでなく、外部組織の介入によっても発生している。例えば、インドネシアは労働団体等によるデモが頻発しており、日本企業の集積する東部ジャカルタ地区の工業団地を中心に、道路の封鎖や従業員に対する職場放棄の強要などが行われ、デモの度に入居企業は一時的な操業停止に追い込まれている。
 深刻化する海外労使紛争への対応は、海外進出を計画中の企業にとっても重要な課題である。
⑵未然防止と事後対応
 労使紛争の未然防止のためには、その兆候や原因の早期発見と早期対処が肝要であり、まずは、職場の中核となる現地従業員との相互理解を図り、信頼関係を構築することが求められる。
 具体的な対応として、日本から派遣した従業員に対して、文化や習慣、言語、宗教、労働諸法令、労働慣行など、現地に関する知識や情報を習得させるべく、派遣前はもとより、必要に応じて派遣中も研修を実施するほか、現地従業員との面談、社員旅行や食事会などの社外活動、本社幹部が出席する会合などを積極的に活用し、コミュニケーションを誠実に重ねることがあげられる。その際、自社の状況や現地従業員への期待、処遇・人材育成に対する考え方などのメッセージを発信して相互理解を深めつつ、現地従業員の問題意識を把握し信頼関係を高める取り組みを通じて、現地労働組合と良好かつ緊密な関係を構築することが望ましい。このことは、上部団体等の外部からの不当な介入を防ぐうえでも重要である。

3.賃金等を決定する際の基本的な考え方

⑴総額人件費管理の徹底
 ①基本的な考え方
 企業の総額人件費は、従業員を雇用するために支出しているすべての費用を指し、その内容は所定内給与や所定外給与、賞与・一時金、福利厚生費、退職金・年金などで構成される。
 総額人件費の決定に際しては、企業が安定的な成長を確保しつつ、人件費を払うことのできる支払能力に即して判断しなければならない。なぜなら、総額人件費のパイ(原資)は、企業が生み出す付加価値だからである。
 企業が生み出す付加価値と人件費の整合性を確保していく観点から、中長期的視点に立った適切な総額人件費管理を徹底していくことが必要である。総額人件費については、自社の付加価値額の増加率を十分に踏まえたうえで、決定していくことが望ましい。
 労使双方にとっての課題は、総額人件費のパイとなる新たな付加価値をいかに生み出すかであり、めまぐるしく変化する経営環境に対応できる競争力の強化と生産性の向上に邁進していくことである。
⑵賃上げとは何か
 従来から、春季労使交渉・協議の時期になると、「賃上げに関しては、月例賃金の水準そのものをあげるベースアップが焦点になる」、「賃上げの実現には、ベースアップが必要である」などの報道が多くみられ、「賃上げ=ベースアップ」との誤解が多い。賃上げとは文字どおり、賃金を引き上げることではあるものの、ベースアップはその選択肢の一つであることを正しく認識すべきである。
 近年では、定期昇給の概念を持たない職務給や役割給の単一項目のみ、あるいは複数の賃金項目の組み合わせにより賃金体系が構成される企業もあり、賃金制度そのものが多様化している。所定内賃金を改定するほかにも賃金の引き上げには多様な方法が含まれることから、賃上げという場合、「年収ベースでみた報酬の引き上げ」として捉えていくべきである。
⑶昇給制度のあり方
 ②春の賃金水準改定の実態
 すでに多くの企業で、評価査定により個々人の賃金が変動する査定昇給が柔軟な形で運用されている現状や、そもそも定期昇給という概念がない賃金制度を有する企業があることなどを踏まえると、毎年春における、賃金水準の改定を「定期賃金改定」として捉えることが、名実ともに実態に合致していると言える。
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■労働者派遣制度の改正について(報告書) (抜粋)

2014年1月29日 労働政策審議会職業安定分科会労働力需給制度部会

Ⅰ 基本的考え方(略)

Ⅱ 具体的措置について

1 登録型派遣・製造業務派遣について
 経済活動や雇用に大きな影響が生じるおそれがあることから、禁止しないことが適当である。
 ただし、これらの派遣労働に従事する者については、雇用が不安定になることを防ぐため、後述の雇用安定措置等を講ずるものとすることが適当である。
2 特定労働者派遣事業について
 特定労働者派遣事業と一般労働者派遣事業の区別を撤廃し、すべての労働者派遣事業を許可制とすることが適当である。
 その際、派遣労働者の保護に配慮した上で、小規模派遣元事業主への暫定的な配慮措置を講ずることが適当である。また、現在の特定労働者派遣事業の許可制への移行に際しては、経過措置を設けることが適当である。
3 期間制限について
⑴新たな期間制限の考え方
 労働者派遣事業は、労働市場において、労働力の迅速・的確な需給調整という重要な役割を果たしている。その一方で、派遣労働の雇用と使用が分離した形態であることによる弊害を防止することが適当である。すなわち、派遣労働者の雇用の安定やキャリア形成が図られにくい面があることから、派遣労働を臨時的・一時的な働き方と位置付けることを原則とするとともに、派遣先の常用労働者(いわゆる正社員)との代替が生じないよう、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とすることが適当である。
 また、派遣労働への固定化及び派遣先の常用労働者との代替の防止のためには、後述する直接雇用や均衡待遇の推進及びキャリアアップ措置を併せて講じることも有効である。
 26業務という区分及び業務単位での期間制限は、分かりにくい等の様々な課題があることから撤廃し、26業務か否かに関わりなく適用される共通ルールを設けることとした上で、雇用の安定やキャリアアップが図られる等の一定の条件を満たすものを除き、派遣労働者個人単位と派遣先単位の2つの期間制限を軸とする制度に見直すことが適当である。その際、期間制限が派遣労働者の雇用の機会やキャリア形成に悪影響を与えないよう、必要な措置を講ずることが適当である。
 また、制度見直しの時点で現に行われている26業務への派遣については、新制度への移行に際して経過措置を設けることが適当である。労働者代表委員からは、派遣労働を臨時的・一時的な働き方とする原則の実効性を担保し、派遣先の常用労働者との代替の防止を図るため、期間制限の在り方について、26 業務を今日的な視点から絞り込んだ上で、引き続き業務単位による期間制限を維持すべきとの意見があった。使用者代表委員からは、有期雇用派遣の問題点を強調し、派遣労働の利用を臨時的・一時的なものに限ることを原則とすることは、派遣という働き方を自ら選択している多くの派遣労働者への配慮を欠いたものであり、労働者の多様な働き方の選択肢を狭めることになるとの意見があった。
⑵個人単位の期間制限について
 派遣先は、⑸で述べる例外を除き、同一の組織単位において3年を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当である。
 組織単位は、就業先を替わることによる派遣労働者のキャリアアップの契機を確保する観点から、業務のまとまりがあり、かつ、その長が業務の配分及び労務管理上の指揮監督権限を有する単位として派遣契約上明確にしたものとすることが適当である。
 派遣先が、同一の組織単位において3年の上限を超えて継続して同一の派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用の対象とすることが適当である。
⑶派遣労働者に対する雇用安定措置について
 派遣元事業主は、⑵の上限に達する派遣労働者に対し、派遣労働者が引き続き就業することを希望する場合は、以下の措置のいずれかを講ずるものとすることが適当である。
 ①派遣先への直接雇用の依頼
 ②新たな就業機会(派遣先)の提供
 ③派遣元事業主において無期雇用
 ④その他安定した雇用の継続が確実に図られると認められる措置
※①から④のいずれを講じることも可とする。①を講じた場合に、直接雇用に至らなかった場合は、その後②から④のいずれかを講ずるものとする。
 1年以上継続して派遣先の同一の組織単位に派遣された派遣労働者が、上記⑵の派遣期間の上限に達する前に当該組織単位での派遣就業を終了する場合であって、派遣労働者が引き続き就業することを希望するときには、派遣元事業主は、上記①から④の措置のいずれかを講ずるよう努めるものとすることが適当である。
 派遣先は、上記⑵の派遣期間の上限に達する派遣労働者について、派遣元事業主から①の直接雇用の依頼があった場合であって、当該派遣労働者を受け入れていた事業所で従事させるために労働者を募集するときは、当該情報を当該派遣労働者に周知するものとすることが適当である。
 また、派遣先は、1年以上継続して同一の組織単位に派遣された派遣労働者について、派遣元事業主から①の直接雇用の依頼があった場合であって、当該派遣労働者が従事していた業務と同一の業務に従事させるため労働者を雇用しようとするときは、当該派遣労働者に対し労働契約の申込みをするよう努めるものとすることが適当である。
⑷派遣先における期間制限について
ア 過半数組合等からの意見聴取
 派遣先は、⑸で述べる例外を除き、同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れてはならないものとすることが適当である。
 派遣先が、事業所における派遣労働者の受入開始から3年を経過するときまでに、当該事業所における過半数労働組合(過半数労働組合がない場合には民主的な手続により選出された過半数代表者。以下「過半数組合等」)から意見を聴取した場合には、さらに3年間派遣労働者を受け入れることができるものとすることが適当である。その後さらに3年が経過したとき以降も同様とすることが適当である。
 意見聴取にあたり、派遣先は、当該事業所における派遣労働者の受入開始時からの派遣労働者数と無期雇用労働者数の推移に関する資料等、意見聴取の参考となる資料を過半数組合等に提供するものとすることを指針に規定することが適当である。
イ 適正な意見聴取のための手続
 過半数代表者は、管理監督者以外の者とし、投票、挙手等の民主的な方法による手続により選出された者とすることが適当である。
 過半数組合等が、常用代替の観点から問題があり、現在の状況を是正すべきとの意見を表明した場合は、派遣先は、当該意見への対応を検討し、一定期間内に過半数組合等に対し対応方針等を説明するものとすることが適当である。
 派遣先は、意見聴取及び対応方針等の説明の内容についての記録を一定期間保存するとともに、派遣先の事業所において周知するものとすることが適当である。
 派遣先が、過半数組合等の意見を聴取せずに同一の事業所において3年を超えて継続して派遣労働者を受け入れた場合は、労働契約申込みみなし制度の適用の対象とすることが適当である。
 派遣先による過半数代表者への不利益取扱いを禁止することが適当である。
 使用者代表委員からは、過半数組合等への意見聴取の手続き違反として、労働契約申込みみなし制度を適用することは、ペナルティーとして重すぎるとの意見があった。
⑸期間制限と常用代替防止措置の特例について
 以下に該当する者及び業務に関する派遣について⑵から⑷の措置の対象から除外することが適当である。
 ①無期雇用の派遣労働者
 ②60歳以上の高齢者
 ③現行制度において期間制限の対象から除外されている日数限定業務、 有期プロジェクト業務、育児休業の代替要員等の業務
 派遣元事業主は、無期雇用の派遣労働者を派遣契約の終了のみをもって解雇してはならないことを指針に規定すること、また、派遣契約の終了のみをもって解雇しないようにすることを許可基準に記載することが適当である。
 有期プロジェクト業務に係る派遣については、終期が明確である限り派遣期間を制限しないことが適当である。
4 直接雇用の推進について
 派遣元事業主は、雇用する派遣労働者の希望に応じ、派遣労働者以外の労働者として雇用されることができるように雇用の機会を確保し、これらの機会を提供するよう努めることとすることが適当である。
5 派遣先の責任について(略)
6 派遣労働者の処遇について
⑴均衡待遇の推進
ア 賃金について
 派遣先は、派遣元事業主の求めに応じ、派遣元事業主に対し派遣労働者と同種の業務に従事する労働者の賃金に係る情報提供等の適切な措置を講ずるよう配慮するものとすることが適当である。
 以下の内容について、指針に規定することが適当である。
・派遣先は、派遣料金を決定する際に、就業の実態や労働市場の状況等を勘案し、派遣される労働者の賃金水準が派遣先の同種の業務に従事する労働者の賃金水準と均衡が図られたものとなるよう努めるものとする。
・派遣先は、派遣契約を更新する際に、就業の実態や労働市場の状況のほか、派遣労働者が従事する業務内容や当該派遣労働者に要求する技術水準の変化を勘案して派遣料金を決定するよう努めるものとする。
・派遣元事業主は、派遣料金が引き上げられたときは、それをできる限り派遣労働者の賃金の引上げに反映するよう努めるものとする。
・派遣元事業主は、派遣先との派遣料金の交渉が派遣労働者の待遇改善にとって重要であることを踏まえ、交渉にあたるよう努めるものとする。
・派遣元事業主の通常の労働者と有期雇用の派遣労働者との通勤手当の支給に関する労働条件の相違は、労働契約法第20 条に基づき、諸般の事情を考慮して不合理と認められるものであってはならない。
イ 教育訓練について(略)
ウ 福利厚生施設について(略)
エ その他
 派遣元事業主は、派遣労働者の均衡を考慮した待遇の確保の際に配慮した内容について、派遣労働者の求めに応じて説明するものとすることが適当である。(以下、略)