■世界経済の焦点米財政危機さらに深化大恐慌下の階級矛盾で解決策なし
月刊『国際労働運動』48頁(0450号05面01)(2014/02/01)
■世界経済の焦点
米財政危機さらに深化
大恐慌下の階級矛盾で解決策なし
2012年末~13年冒頭の「財政の崖」への全面的な転落を先送りしたアメリカの財政危機は昨秋、より一層深刻な形で火を噴いた。14会計年度予算の不成立―政府機関の一部閉鎖と債務上限への到達によるデフォルト危機となって爆発したのだ。
暫定予算すら組めず
そもそもオバマ政権は発足以来まともに予算を組むことができず、暫定予算で繰り延べしてきた。大統領選を挟んだ13年度にいたっては12年9月、13年3月と半年間ずつの暫定予算で矛盾を先送りするという異例の事態のまま、14年度予算の成立期限を迎えた。それが今回は9月になっても予算協議が何も進展せず、暫定予算すら組めないまま、10月1日に1996年以来17年ぶりの政府機関一部閉鎖をもたらしたのだ。80万人の連邦公務員が強制休暇とされ、百数十万人の州公務員、民間関連産業の労働者が休暇や解雇を強制された。失業保険やフードスタンプ(無料食料券)も直撃した。「財政」を口実とした公務員労働者への激しい階級攻撃と生活破壊として展開されたのだ。
デフォルト危機に直面
さらに10月17日を期限とした債務上限引き上げ問題は、すでに約16兆7千億㌦の上限に到達し、新規国債発行不能による米国債の利払い不履行=デフォルトに直面する事態となった。10月3日には米財務省が報告を発表し「(米国債がデフォルトに陥った)場合は壊滅的な事態になる恐れがある。つまり信用市場が凍結し、ドルの価値が暴落、米国の金利が急伸する可能性がある。その悪影響は世界に及ぶだろう。そして金融危機やリセッション(景気後退)を引き起こし、08年当時と同様、あるいはそれよりも深刻な事態が繰り返される恐れがある」と危機感を吐露した。
10月15日には欧米系格付け大手のフィッチ・レーティングスが、米国債の格付けを最上級から格下げすることを検討すると発表した。
与野党協議は期限の1週間前になってやっと再開し、前日16日に、大きくは共和党が妥協する形で合意に達し、デフォルトそのものはギリギリで回避された。
連邦政府債務は17日時点で前日より3280億㌦急増し、17兆270億㌦に達した。
オバマケアめぐり対立
11年8月、米国の債務は当時の上限に到達し、デフォルト危機を迎え、米格付け大手S&Pが米国債を最上級から格下げした。それが世界を震撼させ、米国の財政危機は前面化した。それ以来、先延ばしに次ぐ先延ばしを繰り返してきたが、今回はその破綻性が極まり、財政危機の全面的爆発に向かって決定的転落を開始したといえる。何よりも、財政問題の解決不能性と米帝の没落を世界中にさらけ出すものとなったのだ。
今回の財政協議で共和党は14年1月からの本格的開始を控えたオバマケア(医療保険改革法)関連の予算を撤回させることを条件にした。11年8月に削減案をめぐっては大きな溝はあったものの(結局は先延ばしの上にまとめられなかったが)、「財政赤字削減を条件に債務上限引き上げ」という大枠はまとまっていたことと比べても、今回はオバマ政権の基本政策である「オバマケアの廃止かどうか」をめぐる対立となり、妥結の余地のないまま絶望的に展開した。予算成立の期限についてはほとんど問題とならず、16日間もの政府閉鎖という異常事態が平然と引き起こされ、債務上限の期限直前になって初めて協議が本格化するという綱渡りとなったのだ。
基軸国からの没落
いまひとつ決定的な事態は、米帝の基軸帝国主義としての歴史的没落が突き出されたということだ。政府機関閉鎖と財政協議の絶望的状況の中で、10月冒頭のオバマのアジア外遊は中止となり、年内合意のために設定されていたTPP(環太平洋経済連携協定)協議にも出席できない事態となった。
10月11日には、G20(財務相・中央銀行総裁会議)が「米国は財政の不確実性に対処するため、緊急の行動をとる必要がある」と米国を名指しして早期解決を求める異例の声明を採択した。
完全に、米帝の世界支配の崩壊と、米帝(ドル・米国債)の信用の崩壊に向かって舵を切ったのだ。それは世界経済を収縮・崩壊へとたたき込んでいくと同時に、分裂化・ブロック化、むき出しの争闘戦と戦争を現実化させていく。
矛盾は先送り
10月16日の合意を受けて成立した14年歳出継続法の内容は以下のようなものである。①連邦債務上限の縛りを来年2月7日まで凍結(期限到来時の上限は6千億㌦増加し17兆3千億㌦になる)。
②13年度と同水準の歳出を来年1月15日まで認める14年度暫定予算を編成。
③中長期の財政再建策に関する超党派の協議機関を設置。今年12月13日までに結論を出す。
④オバマケアで補助金の受給者の所得確認を厳格化。実施延期などの抜本的な修正は見送り。
階級的怒りと闘いの中で、さしあたりデフォルト危機と政府機関閉鎖だけをなんとか解決するための合意内容であり、根本的には矛盾は深まったまま先延ばしされたのだ。
その上で、12月10日に超党派の財政協議が合意し、14年1月からの歳出強制削減措置の一部緩和(14、15年度分)と財政削減策を決め、予算案として上下院で可決した。しかし、再びの政府閉鎖と大幅な強制削減を回避するためだけの最低水準の内容であり、財政赤字削減にしても今後10年で200億㌦規模と、何一つ解決に向かうものではない。2月冒頭の債務上限問題については、まったく協議すらできていない状態であり、若干の息継ぎはあるにしても、財政危機の全面的爆発は不可避なのだ。
大恐慌の現実としての財政破綻問題の爆発
米財政問題を考えるとき、それ自身が破綻に向かって進んでおり、大恐慌の現実そのものとして爆発していることについて強烈に確認しなければならない。エコノミストの多くが国家破綻・体制破綻的現実を見据えることができず、「米財政は破綻するような状況ではない」「米経済は堅調なのに、財政協議が足を引っ張っている」などと言ってごまかしているからだ。しかし、これほどデタラメなものはない。目の前で火を噴いているのは、米帝の財政破綻問題なのである。▼債務は歴史的高水準
第一に、累積債務残高が天文学的な規模に膨れ上がっていることである。米帝の債務残高は第2次大戦後、GDP(国内総生産)比では減少し、70年代には30%程度まで低下していた。70年代からの財政赤字増大、「双子の赤字」で対外純債務国に転落した80年代を経て70%近くまで拡大し、リーマン・ショック後にさらに急拡大した。いまや額にして17兆㌦超、GDP比では100%超であり、このレベルは米帝の歴史を見ても極めて異常事態なのである。
また、いま問題になっている債務上限を規定した「第二自由公債法」(リバティーボンド法)は、もともとは第1次大戦ただ中の1917年に、戦費調達のために、上限の範囲内で自由に発行するように制限を緩和したものだった。これがいまや米帝の桎梏になってしまっていること自身が破綻性を示している。オバマが上限そののものの撤廃を叫んでいるが、これは戦時下の財政膨張への突入なのだ。
▼大恐慌対策の破産
第二に、米帝の財政危機は08年リーマン・ショック後の大恐慌対策としての空前の財政投入の結果、膨れ上がったものである。米帝は09会計年度以来(08年10月~)、5年間で7兆㌦ものとてつもなく巨額の債務を積み上げた。それは、金融機関や大独占資本を救済するために国家財政を湯水のようにつぎ込んできたからだ。民間の債務は政府債務に移し替えられた。つまり、大恐慌の現実からまったく抜け出せないまま、財政危機が大恐慌の現実そのものとして爆発しているということだ。
これはいま、昨年7月のデトロイトをはじめ、地方自治体の財政破綻が爆発していることにも示されている。米帝連邦政府の財政破綻へ向かっての序章である。
▼階級対立の極限的激化
第三に、議会の機能不全の根底にある階級対立の極限的激化である。今回の財政協議の破綻的展開は、直接にはティーパーティー(茶会)系の議員が「オバマケアの廃止」を条件に、デフォルトも辞さずという強硬姿勢で登場し主導したことによるが、オバマケアという医療保険問題が焦点化している根底には「生きていけない」現実が横たわっている。
実際には民間保険会社による収奪の場をつくり出すためのオバマケアすら、「公的医療反対」「政府は社会保障に金を出す必要はない」という理由で反対する茶会系議員の主張の核心は「貧困層に金を回すな」である。まさに資本主義的な幻想が一切吹き飛んだ、新自由主義の絶望的で破綻的な末路である。
同時に、民主党・オバマ政権自身が、「労働権」や協約破壊攻撃によって労働組合をたたきつぶし、無権利・低賃金の非正規労働者を膨大につくりだし、自らの支持基盤を掘り崩している。
いわゆる「中間層」が崩壊して、超富裕層と貧困層(労働者階級)に社会が二極化し、
対立が非和解的に激化しているのである。まさに1%対99
%の闘いである。この現実が、議会の機能不全を不可避としている本質であり、議会的に解決することなどできない。
ドル・米国債暴落は不可避
米財政はもはや破綻必至の綱渡りであり、この破綻の現実化は世界大恐慌の決定的激化・深化への引き金となる。米帝はここから抜け出すことはできない。米経済も財政も、あらゆる意味で金融緩和によってかろうじて成り立っている脆弱な構造であり、緩和マネーがなくなっていけば米経済の大後退、バブル崩壊へと進み、それは財政破綻を現実化させ、それらが一体となって歴史的な大恐慌として爆発する。しかし金融緩和を継続すれば、バブル化の拡大とともに、財政の悪無限的拡大はますます進行し、その矛盾の中で財政破綻の現実性は高まり、米帝の信用崩壊からドル暴落・米国債暴落への引き金を引いていく。米帝にとって出口はない。12月18日のFOMC(公開市場委員会)における、QE3(量的緩和第3弾)の規模の850億㌦から750億㌦への縮小も、どちらにも進んでいけない絶望的姿を示している。
労働者階級にとっての唯一の展望は「大恐慌をプロレタリア革命へ」だ。動労千葉労働運動が切り開いている階級的労働運動と国際連帯こそその勝利の道だ。
(諸岡鉄司)
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米財政問題は先延ばしを続けてきた
11年8月 債務上限到達によるデフォルト危機切迫で格付け大手S&Pが米国債を最上級から格下げ財政赤字削減法の制定と連動して債務上限を16兆4000億㌦に引き上げ
11月 協議決裂で財政赤字削減法成立せず
13年度からの強制削減条項発動が決定
12年9月 13年度の半年間の暫定予算
※9月 FRBによるQE3開始
※11月 大統領選でオバマが再選
13年1月 「財政の崖」一部回避のための合意
歳出強制削減開始を2カ月延期
1月 債務上限を16兆7000億㌦に引き上げ
3月 協議決裂で13年度分で850億㌦の歳出強制削減発動
3月 13年度暫定予算を年度末まで半年間延長
10月 14年度予算成立せず政府機関の一部閉鎖
10月 与野党合意でデフォルト回避と3カ月の暫定予算。債務上限を2月7日まで引き上げ
12月 超党派財政協議で歳出強制削減を一部緩和。14年度予算成立
14年2月 債務上限の引き上げ期限
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「オバマケア」とは何か
オバマケアは、2010年3月に成立。13年10月から「エクスチェンジ」(オンラインでの医療保険購入システム)が稼動開始。州による仲介所もスタート。14年1月からは個人の保険加入義務化(未加入者への罰金)。従業員向け保険提供の義務付けは、企業側の準備不足を理由に1年間延期。90年代から「皆保険」が階級闘争の重大テーマとなり、その要求の中で制定されたものだが、実際には公的保険の部分は骨抜きにされ、罰則規定によって民間保険会社への加入を義務化するものとなった。