■News & Review インドネシア最賃引き上げなど求め200万人ゼネスト

月刊『国際労働運動』48頁(0450号02面03)(2014/02/01)


■News & Review インドネシア
最賃引き上げなど求め200万人ゼネスト
ユドヨノ政権、日帝資本の侵略と対決

(写真 東ジャカルタのプロガドゥン工業団地で最低賃金50%増を要求してデモ【10月31日】)

「上げ幅10%以内」の大統領通達撤回せよ

 昨年10月31日と11月1日の2日間、インドネシアの労働者階級は200の都市と自治体でゼネストを打ち抜いた。「大統領通達を撤回しろ!」「生きられる賃金をよこせ!」「アウトソーシング(外部委託)を禁止しろ!」「派遣労働をなくせ!」「(雇用主負担の)社会保険制度を実施しろ!」。200万人の怒りの声が全土にとどろいた。
 一昨年10月に続く史上二度目のこのゼネストは、何よりもユドヨノ政権に対する怒りの爆発だった。ユドヨノは、14年1月からの各州の最低賃金が策定される11月1日を前にして、最賃の引き上げ幅を10%以内とする大統領通達を出してきた。6月には石油燃料への補助金削減を強行。レギュラーガソリンは44%、電気料金は4月以降15%、生活必需品も大幅に高騰、消費者物価は前年同月比8%を超え上がり続けている。最賃をめぐる労働者の要求は全国平均で50%増であり、10%以内など問題外だ。
 国家を挙げて資本の救済に乗り出す露骨な賃金闘争圧殺に対して生きるためには大統領通達撤回、大幅賃上げのゼネスト以外にない。直後から怒りのデモが巻き起こった。
 追いつめられたブルジョアジーは「ストは投資環境を悪化させる」「外部委託を規制すれば1千万人が失業する」と叫び立てた。そしてユドヨノ政権は大量の国軍と武装警察を配置し、自警団も動員してストを抑え込もうとした。

体制内労組の逃亡を打ち破りストを貫徹

 最賃をめぐる国家・資本との非和解的関係が鮮明となり、緊迫の度を増す中で、一昨年のゼネストに加わった三つの労組ナショナルセンターのうち二つが逃亡した。一つは全インドネシア労働組合総連合。1998年に打倒されたスハルト独裁政権下で形成され唯一の公認労組としてあった御用労組の本質が暴き出された。もう一つは、日本の全労連と友好関係にあるインドネシア福祉労働組合総連合。国際経済機関に改革と民主化を求める体制内労組もまた正体をさらけ出した。
 この事態にマスコミは「スト強行派は孤立している」と宣伝し、日系メディアは「スト回避か」と期待を込めた。しかし、自動車、電機など五つの産別労組からなるインドネシア金属労働組合連合を軸とするインドネシア労働組合総連合は、「全国ストライキへ!」を呼びかけ、組織化に入った。さまざまな労組が連日のように各地でデモに立ち、ゼネストへ上りつめた。
 ゼネスト3日前から全国一斉デモが始まった。大日本印刷などがあるジャカルタのプロガドゥン工業団地では、150人から始まったデモが6千人にふくれ上がった。ゼネスト当日も各地で数千数万の労働者が路上にあふれ、武装警察を圧倒した。入り口に有刺鉄線を張りめぐらせる市や州の庁舎を包囲・弾劾し、大幅賃上げを要求した。
 国際貿易の玄関口であり全コンテナの半分を取り扱う国内最大の港、タンジュンプリオク港では、荷役労働者が入り口を封鎖して物流を止めた。経済特区のあるリアウ州バタム島でもストで道路を封鎖し、ジャカルタの西隣のタンゲラン市では高速道路の出口をデモ隊が占拠した。
 ジャカルタ特別州とその東隣の国内最大の工業地帯であり日系企業が集中する西ジャワ州ブカシ県・カラワン県などの工業団地では、ストに入った労働者が工場門前に座り込んだ。パナソニックなどが入居する東ジャカルタ工業団地では、自警団の襲撃を負傷者を出しながらも撃退し、ストを貫徹した。ジャカルタのアパレル産業の女性労働者5万人もストに入った。
 いずれも労組のもとに団結した労働者の力を存分に発揮した。

首都圏を狙い撃ちする賃金抑制と対決

 31日夜、ジャカルタ特別州の政労使による最賃評議会では、提案のあまりの低さに労働者委員の全員が審議をボイコット。しかし州知事は13年比10・4%増の決定を強行した。労働者の要求は68%増の「月額220万ルピア(約1万9千円)を370万ルピア(約3万2千円)に」。首都圏では、石油燃料が値上げされた6月以降、公共運賃が最大6割も値上げされた。州決定は生きるためのぎりぎりの要求を踏みにじる暴挙だ。
 すでに全34州の最低賃金が決定されている。賃上げ率は西カリマンタン州30・2%、バンカ・ブリトゥン州29・6%、中スラウェシ州25・6%で、全国平均は17・0%だ。大統領通達「10%以内」は打ち破られた。しかし要求にはほど遠い。とりわけジャカルタの10・4%はきわだって低い。経営者側が当初設定していた15%すら下回った。ジャカルタを突破口に首都圏の賃金を抑え込むものだ(ブカシ県・カラワン県は22%止まり)。
 資本の側は、コスト増を口実に繊維産業で40万人を解雇する可能性に言及し、ジャカルタ保税区の25社が最賃支払いの免除を申請するなど攻勢を強めている。
 労働者側も、ジャカルタやバタム島などで州決定を拒否し数千人が集会とデモを行った。また、ブカシでは解雇撤回を求め数百人が企業に押しかけ、東ジャカルタでは、国営企業の委託労働者が正規職化と外部委託禁止を要求して議会前で抗議行動に出た。
 11月27日には医師会の数千人が史上初の全国ストを打ち抜いた。妊婦が死亡した事故を医療審議会も地裁も医師に過誤はないとした。にもかかわらず最高裁が逆転有罪としたことを弾劾し、再審・無罪判決を求めたストだ。
 ゼネストは労働者階級を揺り動かし、その階級性を呼び覚ましている。

民営化・規制緩和の中で日系企業が進出

 日系企業は12年6月時点で1255社がインドネシアに進出、38%がジャカルタに、48%がその近郊に集積している。86%が最賃をめぐる攻防の焦点、首都圏にある。
 インドネシアは、80年代前半までは輸出総額に占める石油・ガスの割合が8割を超える典型的な産油国だった。ところが、82年の国際石油価格の下落により国内経済が減速すると、スハルト政権は外国からの直接投資を誘致し、輸出志向の工業化を推進する経済構造調整を進めた。87年には高速道路建設と石炭生産に民間企業の参入を認め、88年には金融緩和で民間銀行の新設や外国銀行の新規開設を解禁した。
 この80年代末にジャカルタから東へ延びる有料道路沿いに日系商社など内外企業が開発・運営する工業団地が次々と出来た。90年には、MM2100工業団地(出資は丸紅)、東ジャカルタ工業団地(同住友商事)が設立され、国営企業52社の株式公開が順次始まった。94年からは外資100%出資の企業の設立が可能になり、これら工業団地のあるブカシ県・カラワン県に日系を含む企業が進出、自動車・二輪車、電気・電子、金属、機械、化学産業の一大生産拠点となった。近年では部品関連産業の進出が著しい。
 首都圏の日系企業のもとで次々と労組を結成し、組織を拡大してきたのが、ゼネストを呼びかけ主導したインドネシア金属労連だ。日帝は、資源と市場、超低賃金の労働力を求めて資本を投下した先で、労働者階級を育ててしまったのだ。

(写真 インドネシアは人口2億4千万人、東西5000㌔。首都ジャカルタのあるジャワ島は総面積の7%に過ぎないが、総人口の6割弱の1億4千万人が居住。日系企業のほとんどがジャワ島に集積している)

日帝資本にとっての最も重要な投資先に

 日本政府が100%出資して設立した国際協力銀行が、昨年、海外に拠点を持つ製造業1千社を対象に調査を行った。その結果、今後3年で有望視する投資先の1位に、中国に代わって前年3位だったインドネシアが浮上した。世界大恐慌が深まり、釣魚台(尖閣)問題を契機に中国との政治的軍事的緊張が増す中で、日帝にとってインドネシアの位置は決定的となった。
 13年第1四半期に日本から同国に直接投資した額は約1100億円と前年同期と比べ倍増し、最大の投資国となった。自動車産業での大型投資が中心だ。同国の自動車販売台数は11年にタイを抜き、ASEAN(東南アジア諸国連合)で首位になった。12年にはシェアの95%超を日系企業が占めた。これは、他国との競争に勝ち抜き、シェアを維持し拡大し続けなければ、過剰資本・過剰生産力の重圧で日帝が押しつぶされることを意味する。
 ジャカルタの最低賃金が10・4%増の低率だったことで、日系企業の間には〝安堵の声〟が広がったという。ゼネストは、首都圏での賃金闘争が日帝の死命を制する闘いであることを突き出した。

JCMと日共スターリン主義の敵対弾劾

 ゼネストを圧殺するために国家と資本が軍・警察という暴力装置を始めあらゆる手段で襲いかかった。だがスト破壊者はそれだけではない。
 まず日本の連合傘下のJCM(金属労協=注)だ。
 JCMは、もともと資本と一体となって労働者の闘いを抑圧する体制内労組として存在してきた。07年からは「海外での健全な(!)労使関係の構築」へ向け国内労使セミナーを開始。10年からは海外でのワークショップを展開するようになった。目的は「海外労使紛争防止」(機関誌10年秋号)。日系企業の現場での労働運動を体制内に押し止め、資本を救済するためだ。
 初の海外ショップは10年6月、ブカシ県のMM2100工業団地にインドネシア金属労連委員長ら労資双方を呼んで開催している。同国では毎年行うなど、アジア各国の中では最も力を注いで労働運動つぶしに躍起となっている。資本の手先、別働隊だ。
 日本共産党スターリン主義の敵対は次元を異にする。委員長の志位は、ユドヨノが「賃上げ幅10%以内」の大統領通達を出した9月27日、インドネシアを訪問し、なんと外務副大臣と会談。「野党の立場だが両国関係のいっそうの発展のために努力したい」と語り握手を交わした。解雇自由を進める安倍政権、超低賃金を強いるユドヨノ政権と一心同体で、両者の連携を強めるために働くと誓ったのだ。
 しかも機関紙『赤旗』は、ジャカルタ州知事が「労働者の要求を一部受け入れ、11%増を認めた」と賛美している。州決定の後ただちに州庁舎に押し掛け撤回を迫った闘い、6~8日の3日間連続で包囲デモに立った首都の11労組からなるジャカルタ労働フォーラムの闘いを無視抹殺するものだ。日共こそ労働者の敵だ。
 全情勢を革命的に突破していく鍵は階級的労働運動の前進と国際連帯闘争の発展だ。外注化阻止・非正規職撤廃、大幅賃上げ獲得へ、14春闘を闘おう。
 (今井一実)

     ◇

(注)全日本金属産業労働組合協議会。1964年の結成以来、IMF―JC(国際金属労連日本支部)の名で通ってきたが、12年6月にIMFが解散し他の産別とともに製造系国際産業別組織を結成したため、JCM(JCメタル)に名称を変更。自動車総連、電機連合、JAM(機械・金属産業の労働組合)、基幹労連、全電線で構成。