戦争突入下のトランプ関税 防衛産業基盤の整備へ 「国家非常事態」を宣言

週刊『前進』04頁(3391号03面01)(2025/04/14)


戦争突入下のトランプ関税
 防衛産業基盤の整備へ
 「国家非常事態」を宣言


 米大統領トランプが仕掛ける関税戦争は、世界を大混乱と恐怖にたたき込んでいる。トランプは4月5日にすべての国に対する一律10%の「相互関税」を発動し、9日には約60カ国・地域を対象により高い関税率の適用を開始した。税率は日本には24%、欧州連合(EU)には20%などだ。同日中にトランプはこの措置を90日間、一時停止すると発表したが、アメリカに対抗関税を課すと表明していた中国には、直ちに125%の高税率を適用すると宣告した。

中国侵略戦争突入を決断

 トランプによる関税戦争の基底にあるのは、基軸国でありながら大没落しつつあるアメリカ帝国主義が、生き残りをかけて中国侵略戦争―世界戦争に突入したという歴史的な事態だ。
 2日に「相互関税」措置を発表したトランプは、その大統領令で「貿易赤字は......国内生産能力、特に米国の製造業と防衛産業基盤の生産能力の萎縮に寄与している」「工業能力の損失は、軍事的即応性を損なっている」と言明した。
 同日の大統領演説でもトランプは、「(貿易の)不均衡は我々の産業基盤を破壊し、我が国の安全保障を脅かす」「中国にあるたった一つの造船所が、米国内の全造船所よりも多くの船舶を造ることができる。つまるところ、慢性的な貿易赤字はただの経済問題ではなくなった」「(この状態では)戦争など、何かがあっても対応できない」とまくし立てた。
 すでに中国との戦争に実質的に突入しているからこそ、それを遂行するための産業基盤をアメリカ国内に確立しなければいけないということだ。だからトランプは、継続的な貿易赤字を「国家非常事態」と認定し、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づくものとして相互関税措置を発動したのだ。
 それは、トランプの恣意(しい)的政策では決してなく、中国侵略戦争を決断した米帝支配階級の意思に基づく政策だ。

「同盟国」も意図的に圧迫

 これは同時に、むき出しの帝国主義間争闘戦として貫徹される。トランプは米帝一国の利益を押し貫くために「同盟国」を踏みにじり、とことん圧迫することをためらわない。
 相互関税の発表に際してトランプは、「韓国や日本などが(米国に)課してきた非関税障壁は特にひどい」「敵も味方も同じだ。味方のほうがひどいケースもある」と、あえて日本などに言及した。
 トランプ政権はすでに3月12日に鉄鋼・アルミニウムに対する25%の追加関税を、4月3日には自動車に対する25%の追加関税を発効させている。メキシコとカナダに対する25%の追加関税は、3月4日に発動された。
 打ち続く米帝の動きに、カナダやEUは対抗措置を講じると表明し、世界経済は激しく分裂・ブロック化しつつある。
 他方、日本帝国主義は対抗措置などまったく打ち出せず、トランプの関税戦争に打つ手がない。だからこそ石破政権は、中国侵略戦争の最前線に立って「血を流す」ことを日本に求めるトランプに応じ、むしろその強圧を戦後的制約を突き破るために積極的に利用して、日米安保の侵略軍事同盟への転換を率先して推し進めようとしているのだ。
 トランプ関税は、中国侵略戦争をさらに手前に引き寄せている。

戦後世界体制を自ら破壊

 トランプ関税は米帝自身にも大きな打撃をもたらさずにはおかない。
 トランプが「相互関税」を発表した翌日の4月3日、ニューヨーク株式市場のダウ工業株30種平均は1679㌦下落し、下げ幅はコロナ禍の2020年6月以来の大きさになった。4日も株価は2200㌦を超えて下がり、株式の時価総額は2日間で約6兆6千億㌦(約970兆円)が消し飛んだ。株価の下落は世界に波及し、7日の東京株式市場で日経平均株価は2644円下落、史上3番目の下げ幅を記録した。
 こうした事態にトランプは5日、「これは経済革命だ。耐え抜け。簡単ではないが、最終的な結果は歴史的なものになる」とうそぶいた。
 関税引き上げは何よりもアメリカ国内の深刻なインフレを高進させ、労働者階級を直撃する。サプライチェーンは寸断され生産は停滞する。インフレと不況が同時進行する「スタグフレーション」は避けられない。それは、リーマンショックを超える激震をもたらすと予想される。
 だが、どんなに混乱と破綻を引き起こそうと、トランプは関税引き上げを絶対にやめることはできない。それは、この政策が中国への戦争行為として位置づけられているからだ。
 トランプが夢想するように関税措置でアメリカに製造業が復活することは断じてない。アメリカの24年の貿易赤字総額は約1兆㌦(146兆円)で、うち中国への赤字が最大の2700億㌦、2位がメキシコの約1500億㌦、3位がベトナムの1100億㌦、対日赤字は5位の約690億㌦だ。

ドルの基軸性の否定に踏み込む

 中国を最大の相手として貿易赤字が構造化される危機の中、これまで米帝はドルの基軸通貨としての位置を死守し、アメリカに資金を還流させる構造を維持することに血道を上げてきた。トランプの関税戦争は米帝が歴史的にとってきたこの政策を原理的に否定し、ドルの基軸性を自ら踏みにじる要素をはらんでいる。それほど米帝の没落は深刻なのだ。
 報復関税についての大統領令でトランプは、「戦後の国際経済システムは誤った仮定に基づいていた」と述べ、それはアメリカに「不公正」のみをもたらしたとして、「戦後の国際経済システム」への敵意をむき出しにした。
 戦後世界秩序を自ら破壊しなければ米帝は延命できない。それがもたらすのは世界戦争―核戦争だ。
 だがそれは、帝国主義による世界支配が最後の時を迎えたことを意味する。プロレタリア世界革命の完遂だけが人類の生存を保障する。トランプ反革命を粉砕し中国侵略戦争―世界戦争を阻止する決戦に、何としても勝利しよう。
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主な国・地域への追加関税(4月2日発表時)
中国 34%
欧州連合(EU) 20%
ベトナム 46%
台湾 32%
日本 24%
インド 26%
韓国 25%
タイ 36%
スイス 31%
インドネシア 32%
マレーシア 24%
カンボジア 49%
ラオス 48%
南アフリカ 30%
レソト 50%
バングラデシュ 37%
イスラエル 17%
フィリピン 17%
パキスタン 29%
スリランカ 44%
ニカラグア 18%
ノルウェー 15%
ヨルダン 20%
マダガスカル 47%
ミャンマー 44%
チュニジア 28%
フォークランド諸島 41%
全ての国・地域に一律で10%
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