南西諸島「戦域化」を準備 海兵隊論文 米帝の戦争意志あらわ
週刊『前進』04頁(3374号03面01)(2024/12/09)
南西諸島「戦域化」を準備
海兵隊論文 米帝の戦争意志あらわ
南西諸島(琉球弧)とフィリピンに米軍ミサイル網を構築し、この海域全体を中国侵略戦争の「戦域」とする日米共同作戦計画(「台湾有事対応」を名目とする初の作戦計画)が年内にも策定されようとする中で、この作戦計画に対応する内容の米海兵隊幹部による二つの重大論文の存在が明らかになった。いずれも中国侵略戦争で南西諸島が戦火に包まれることを前提とした上で、この戦争をいかに完遂するかを追求する内容であり、断じて許すことはできない。
「米軍家族は事前避難を」
在沖米海兵隊(第3海兵遠征軍)のブライアン・カーグ中佐が昨年12月、米海軍協会の月刊誌「プロシーディングス」に寄稿した論文「第3海兵遠征軍を戦闘態勢に」は、中国との間で「有事」が発生した場合をシミュレートし、沖縄には中国からのミサイルが降り注ぐことを想定、このような事態に至る前にあらかじめ米軍将兵の家族を米本国など安全な場所に移しておくべきだと論じた。家族を沖縄に残したままでは「一部の海兵隊員は家族の避難に集中し、戦闘態勢を取れなかった」「避難する家族により航空・海上輸送能力が削られ、作戦に負担を生じさせた」とする一方、あらかじめ米軍家族を米本国などに移した場合のシミュレーションでは「輸送能力は作戦部隊へ投入できた」「海兵隊は前線部隊としての価値を証明できた」とした。さらに、米軍の司令部や将兵の居住施設などの地下化が「戦闘態勢を整え、戦争に勝利することになる」と結論づけた。先島諸島(宮古・八重山諸島)を含む沖縄全域を「戦域化」することを前提としながら、現地住民の存在には一切言及しなかった。
論文が追求しているのは、あくまでも中国侵略戦争における米軍の作戦遂行能力および継戦能力の最大化であり、特に海兵隊の前線部隊としての戦略的価値をいかに十全に発揮するかということである。非戦闘員としての米軍家族はそれを妨げる要因となるので、あらかじめ「戦域」から取り除いておくべきだとされる。重大なのは、論文では米軍家族のみに言及し現地住民の存在は無視されているが、いずれにしろ「有事」に際して非戦闘員の避難のために航空・海上輸送能力を割くような事態は、軍の作戦遂行にとって重大な障害となると強調されていることである。
実はこの考え方は、「台湾有事」に先立って先島諸島の5市町村の住民約12万人を九州各県と山口県に避難させるという、日本政府が推進している計画においても同様に貫かれている。「国民保護」などと称しているが、実際には住民の命や生活を守ることが目的ではなく、米軍・自衛隊の作戦遂行の邪魔になり「足手まとい」になる住民をあらかじめ強制的に島からたたき出すことが目的なのだ。
このように、米軍・自衛隊が中国軍との戦争を「心置きなく」行えるようにするための事前措置として米軍家族や住民の避難が位置づけられている以上、中国にとっては、避難が始まること自体が事実上の「宣戦布告」を突きつけられるに等しい。避難は住民を守らないばかりか、南西諸島を戦火にたたき込む戦闘開始の合図となるのだ。
日米安保条約改定も提言
いま一つ、第3海兵遠征軍のダニエル・ハフ中佐が今年9月、同じく月刊誌「プロシーディングス」に寄稿した論文は、「台湾有事」の際、米軍による日本国内の民間施設や民有地の利用手続きを簡素化するために「日米安保条約を改正すべき」と提言、さらに宮古・石垣・与那国の各島は「中国人民解放軍による台湾の孤立化を阻止する上で重要な地域」と明記し、「長期的な紛争に備えた(先島諸島への)米海兵隊の早期配備」のために外交的解決策を探さなければならない、と論じた。特に論文は、日本国内への米軍の配備や施設利用について、現行の日米安保条約に基づく日米地位協定のもとでは承認を得るまでに公有地で「約45日」、私有地で「約160日」もかかるとして問題視し、日米安保条約は「アクセスの明確化と日本の立法府(国会)が決定を下すまでの時間を短縮するための修正が必要」だと結論づけた。これは空港や港湾などの民間施設を、米軍が通告一つでいつでも軍事利用できるようにするということにほかならない。
海兵隊の部隊を南西諸島全域に分散させて臨時作戦拠点を設け、島々を移動しながら中国軍との戦闘を行うことを想定した「遠征前進基地作戦(EABO)」において、これらの島々の土地や施設を海兵隊が利用するための法的手続きをどうするのかが問題となる中で、安保条約の改定による手続きの大幅な簡素化をもってこの「障害」を突破せよと提言しているのだ。
在沖米海兵隊幹部による二つの論文は、いずれも南西諸島全域を地獄の戦火にたたき込む形での中国侵略戦争を、米軍当局が本気でやろうとしていることを示すものだ。他方で石破は、臨時国会で行った所信表明演説で、「在日米軍施設・区域の自衛隊による共同使用を進める」と述べ、米トランプ次期政権との間で「同盟をさらなる高みに引き上げる」と主張した。中国侵略戦争に向けて日米安保の大転換と米軍・自衛隊の一体化を加速させ、米軍新基地建設や自衛隊ミサイル配備を推し進める石破に対し、沖縄現地の怒りはかつてなく高まっている。この怒りと一つになり、今こそ安保・沖縄闘争の新たな爆発をかちとろう。