ルポ 石垣島「避難計画」説明会 先島諸島12万人に退去を強制 全島を中国侵略戦争の軍事要塞に転化
週刊『前進』04頁(3365号03面01)(2024/10/07)
ルポ 石垣島「避難計画」説明会
先島諸島12万人に退去を強制
全島を中国侵略戦争の軍事要塞に転化
中国侵略戦争に向けたミサイル基地化が進む沖縄県の石垣島で、8月1日、「国民保護に係る住民避難実施要領」についての石垣市主催の「意見交換会」なるものが行われた。参加した黒島善輝さん(同市出身)から寄せられたルポを紹介します。(編集局)
やじ飛び交う会場
政府は、先島諸島(宮古・八重山列島)の全島民約12万人を九州・山口県に強制避難させる計画を具体化しつつある。自治体によるその実行計画(実施要領)も作成段階に進んでいる。ミサイル基地建設や軍事演習と並んでこの「作戦」が進められている。「国民保護」を掲げているので、住民の安全や生命・財産を保護するかのように聞こえるが、実際には何の補償もなく全島民を無条件かつ強制的にたたき出し、生活を根こそぎ破壊し、踏みにじることにほかならない。石垣市では、8月1日に市主催の第1回「意見交換会」が行われ、会場の市民会館大ホールに250人以上が集まった。異様に張り詰めた雰囲気が支配する中、中山義隆市長をはじめ市側、国・県の役人ら16人が不自然に密集し、参加者と距離をとって向かい合う。私も市長らの顔がよく見える場所に陣取った。
市は「国民保護について」という資料を使って避難の概要を説明し、また市役所敷地の地下に保安員のためのシェルターを建設する計画の概要を報告したが、市と政府の役人の説明は何の説得力もなく完全に破綻的だった。何より、なぜ避難するのかに関する基本的な説明がデタラメ、具体的な実施要領に関してもおよそ理解不能で、会場からは激烈にやじが飛び交った。説明会は、こんな避難は何がどうであれ認められるものではないという強い思いを残して終わった。
軍隊のための計画
一番の問題は、誰が何のためにこの計画を必要としているのかということだ。石垣市の配布資料によると、安保法制における「武力攻撃事態等及び存立危機事態」(武力攻撃予測事態を含む)で国民保護のための措置としての避難が規定され、国は「予測事態」の段階で避難措置の実行を関係公共機関に指示し、都道府県と市町村は避難の経路や交通手段、避難先を確保し、避難実施要領を実行に移すことになっている。避難などの準備はそれ以前の「平和時」に行われなければならない。ここでいう「武力攻撃の予測」とは、①相手国における「軍要員の禁足、非常呼集、予備役招集」、②「我が国を攻撃するためとみられる軍事施設の新たな構築」のいずれかの形で、「相手国」が攻撃態勢に入っていると判断できる事態を指す。
「相手国」が中国を指すことは明らかだ。すでに今、中国に対する米日の対応は十分に軍事的・攻撃的で挑発的であり、当然中国側も対抗的な動きを行っている。今の状態を「平時」として、避難措置が実行される「武力攻撃予測事態」への移行が、日本側の極めて勝手な判断になることは明らかだ。中国の側の状況の変化や動きというよりも、米日が具体的な攻撃態勢に入る決断を行った時、それが武力攻撃事態(予測を含む)への突入とされる構造になっているのだ。
説明会で中山は、「まだ安全な時に避難するのが前提」「攻撃が始まった段階では安全が保証されないので、避難行動には移りません」と繰り返したが、避難措置が実行される武力攻撃(予測)事態とは、すでに日本がアメリカとともに戦時に突入している事態にほかならない。その段階で住民が避難を開始したという事実そのものがむしろ全面的戦闘開始の合図になる。「宮古・八重山の全域を完全に戦闘地域とするために住民を退去させる。そうしてこの地域を自衛隊と米軍だけが展開する一つの軍事要塞(ようさい)に転化し、思う存分攻撃に突入する」という宣言となる。宮古・石垣・与那国島はそういう最前線基地として想定されている。住民の安全など何も保証されず、戦闘行動の邪魔だから出ていけということなのだ。避難とは、かつての沖縄戦の疎開と同じように、軍隊(自衛隊と米軍)にとって足手まといになる住民をあらかじめたたき出してしまうという軍事的判断から出てくる「作戦」にほかならない。
新たな闘い始まる
根本がそういうものだから、具体的な話になると無責任極まりない。市の実施要綱によれば、①小学校の学区ごとに住民をまとめ、当日「避難登録センター」に集結させバスで空港に運ぶ。②荷物は各人手荷物1個に制限し、避難期間は1カ月、避難場所は九州と山口県。避難先での住居、学校や医療などへの質問に、市は「まだ具体的なことはわからない」と返答。③避難期間中、島の住居・家屋敷、土地や畑のメンテナンス、家畜の世話などは誰がどう保証するのかなどの説明は全くなかった。市はこの問題から逃げた。④飛行機には1機あたり二百数十人を乗せる。中山は「夜も運航すれば数日で何とかなる」と発言。⑤障害者団体からは、聴覚障害を持つ人は混乱の中で身動きがとれなくなるがどうするのかと質問が出たが、中山の回答は「なんとかしたい」「とにかく全員出るのです!」。⑥寝たきりや施設に入っている高齢者、入院患者、ペットと同行したい人は「船で運ぶ」。
かつて日本軍は戦争の邪魔になる住民に「自死」を強制したが、これと同じことが今、進行しているのだ。説明会では多くの住民が「受け入れられない」とはっきり述べた。戦時中の疎開を経験した人は、「疎開は悲惨だった。多くの犠牲が出た。全島民に疎開を強制するなど受け入れられない。自分はどんなことがあっても島の生活を守りたい」と訴えた。
自民党右派や日本会議と直結した右翼・中山市長は自衛隊を引き込み、中国を挑発するために「尖閣」上陸をうかがい、全島民避難という「大作戦」をも強制しようとしている。戦争のために先島諸島の住民の生活や文化、生命・財産を踏みにじるものだ。9月の石垣市議会では中山市長問責決議が可決された。中山の議会軽視の態度への問責だが、決議を提起したのは自衛隊基地に反対してきた議員らだ。市長リコールの動きも始まるかもしれない。
8・1「説明会」は、住民にとって、侵略戦争の現実と向かい合い、対決していく新たな闘いの始まりの日となった。
(黒島善輝)