自衛隊の危機示す防衛白書 隊員不足とハラスメント侵略軍隊化が腐敗を拡大 反戦闘争の爆発で自衛官の決起を
週刊『前進』04頁(3355号03面03)(2024/07/29)
自衛隊の危機示す防衛白書
隊員不足とハラスメント侵略軍隊化が腐敗を拡大
反戦闘争の爆発で自衛官の決起を
防衛省が2024年版「防衛白書」を7月12日、公表した。白書が公表された当日は、「特定秘密」の漏洩(ろうえい)や海上自衛隊の手当不正受給などを受けて酒井良海上幕僚長をはじめ計218人もの自衛隊員・防衛省職員の処分が発表された日だが、これは単なる偶然ではない。戦争に突き進む日本帝国主義・自衛隊の矛盾が反映されているのである。「防衛白書」の内容を暴露することを通じて、そのことを明らかにする。
今回の防衛白書の特色は、冒頭に展開される「特集」に示されている。特集は二つのテーマで組まれ、「特集1」では自衛隊創立70年として、自衛隊の「役割」が拡大してきた歴史を振り返ることを通じ、その侵略軍隊化の歴史を正当化しようとしている。「南西防衛体制の強化」が初めてコラム付きで言及され、琉球弧における自衛隊増強の必要性を強調。また、白書の他の部分の「解説」コーナーでは「核兵器の脅威に対しては核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠」と核戦争体制の構築をむき出しで訴えている。
「特集2」では、「私はこうして日本を守る!」と石垣駐屯地(沖縄県)所属の隊員をはじめとして22人の自衛隊員が登場し、自衛隊がいかにやりがいのある仕事かをアピール。「防衛力の中核は自衛隊員」とも訴え、隊員の処遇改善に取り組んでいることを必死に押し出している。白書全体でも現役自衛官が登場する「VOICE」というコーナーが格段に増加し、「親しみやすさ」をアピールしている。
この二つの特集には、中国侵略戦争へ向けた本格的な侵略軍隊化と、それと一体で深まる深刻な要員不足という自衛隊の矛盾が端的に表現されている。
採用達成率は最低に
昨年度の自衛官採用は、陸海空で1万9598人の募集計画に対し9959人、 達成率は過去最低の51%となった。中途退職者や防衛大学校卒業生の任官辞退者も増加傾向にあり、自衛隊ではあらゆる方面から要員不足が深刻化していることが見て取れる。背景には自衛隊の侵略軍隊化が激発させる腐敗がある。元自衛官・五ノ井里奈さんの告発をきっかけに自衛隊内のセクハラ・パワハラの実態が暴かれた。これを受けて昨年行われた調査では陸上自衛隊で245人が処分される事態となったが、この中で被害を訴えることも難しい自衛隊の実態が明らかとなった。昨年の白書でも「防衛省・自衛隊では、隊員からの相談に対応するホットラインを設置している。その相談件数は、2016年度の常設当初、年間109件であったところ、2023年度は857件と増加傾向」と述べ、ハラスメントの激増を認めざるを得なかったが、これは氷山の一角にすぎない。自衛隊の「南西シフト」が本格的に進むのは2010年代中頃からだが、安保戦争法制定とも一体で自衛隊の実戦部隊への転換が進む中、隊内の矛盾が激化しているのだ。
要員不足は組織としての余裕を奪い、さらなるハラスメントの温床となるとともに、訓練不足などから事故も激発させる。今年4月に海自の哨戒ヘリコプター2機が墜落した事故は、夜間における潜水艦追跡という実戦さながらの危険な訓練の最中に起きた。軍事ジャーナリストの清谷信一が「海自パイロットは中途退役が目立ち、人手が圧倒的に足りない。規模を縮小しないと成り立たないはずなのに、実際はその逆で隊員にしわ寄せが来ている」と指摘する通りである。中国侵略戦争へ突進する自衛隊の矛盾が鮮明に表れた象徴的事例といえる。
陸自でも昨年4月、第8師団長ら幹部が搭乗したヘリが沖縄の宮古島付近で墜落し、全乗員10人が死亡する事故が起きた。墜落したUH60ヘリは実績ある信頼性の高い機体と言われてきた。原因はいまだわかっていないが、これまでは考えられなかったような事故が起きたのである。
他方で、海自と川崎重工の癒着・裏金づくりが発覚するなどの腐敗も拡大。この裏金づくりは何十年も前から続いているという。軍需産業の株高とぬれ手にあわの利益拡大は、このような腐敗をますます加速させる。
反戦の声圧殺できず
このような中、自衛隊は一線を越えて隊員募集活動を強化している。自衛隊が昨年9月、札幌市内の子ども食堂約80カ所に就職勧誘を打診、実際に約10カ所を訪れて採用案内を配布していたことが今年5月に判明した。自衛隊基地を一般開放しての祭りの開催や、小学校での防災訓練への参加なども増えており、自治体が18歳と22歳の名簿を自衛隊に提供する事例も増えている。さらに、今回の白書では初めて「女性・平和・安全保障」(WPS)に数ページを費やして言及し、一部の部隊を除いて女性の配置制限を解除して配置を進めていることを記述。女性の戦争動員をますます進めようとしている。
しかし昨年7月、NHKが行った世論調査「日本が戦争に巻き込まれたらどうするか」では、「戦闘に参加せず戦争反対の声を上げる」が最多の36%を占め、「戦闘に参加する」はわずか5%という結果が出た。労働者人民は支配階級のために戦争で命を差し出す気などない。ここに自衛隊の要員不足の根本的な原因があるのだ。
米帝の歴史的没落の中で、日帝・自衛隊は自らの帝国主義としての飛躍をかけて海外派兵や国内・国外演習、扱う装備の種類、危険な訓練を増加させてきた。中国侵略戦争への突進はこれを画然と促進し、任務は激増する。戦争国家化によって深まる腐敗とも重なり自衛隊の要員不足は深刻化してきた。今回の防衛白書には、侵略軍隊化する自衛隊とその矛盾の象徴としての要員不足が鮮明に表れているのである。
自衛隊員は「軍服を着た労働者」だ。反戦闘争の爆発で、自衛隊員とその家族の反戦決起をつくり出そう。