「特需」に沸く軍需産業 軍事化する日帝経済 「軍事で経済成長」のペテン

週刊『前進』04頁(3350号03面02)(2024/06/24)


「特需」に沸く軍需産業
 軍事化する日帝経済
 「軍事で経済成長」のペテン


 「防衛・宇宙の受注は過去最高になった。防衛力強化のもと、多数の大型案件を受注したことが寄与した」――三菱重工業の小沢寿人最高財務責任者(CFO)は今年3月の決算発表に際してこう述べた。岸田政権が2022年末に決定した安保3文書を背景として、軍需産業=「死の商人」が「特需」に沸いている。
 三菱重工の軍事関連事業の受注は前年度比3・4倍の1兆4781億円となり、総受注髙は前年度比48・5%増の6兆6840億円へと上昇、軍需だけで総受注髙の2割を超えた。三菱電機は鎌倉製作所(神奈川県)など3カ所で軍需品の生産工場の新設を発表、2期連続で過去最高の連結純利益を見込む。川崎重工業も25年3月期には過去最高の連結純利益を予想している。IHIは31年3月期の軍事事業の売上収益を、23年3月期の2・5倍の2500億円規模まで伸ばす計画だ。三菱重工とIHIは英伊と共同で行う次期戦闘機の開発にも参画する。
 4月の日米首脳会談で設置を決めた「日米防衛協力・取得・維持整備定期協議(DICAS)」は6月9~11日に会合を開き、①ミサイルの共同生産②米軍艦船・航空機の日本での補修・整備③サプライチェーンの強化を当面の協議項目とした。これらもまた、軍需産業にとっては受注増・利益拡大の機会だ。
 防衛省は23年度から、企業と契約する際に8%ほどに設定していた利益率を最高15%に引き上げた。開発中の材料費高騰などで実際の利益率は3%前後が多く、「もうからない」と事業から撤退する企業が相次いできたためだ。
 23年10月に施行された防衛生産基盤強化法は、軍需品の海外輸出やサイバー攻撃対策などにかかる費用を助成し、重要な軍事関連企業の事業承継がうまくいかない場合には国が買い取って国有化することまで可能とした。
 これら軍需産業への優遇と「成長」は株価にも反映。日本最大の軍需企業である三菱重工の株価は、安保3文書の閣議決定前の22年5月と比べ一時約3倍に達した(図)。
 中国侵略戦争―世界戦争情勢の中で、世界中で軍需産業は活況だ。米国では、ニューヨーク株式市場のダウ平均株価はウクライナ戦争前の3万4千㌦後半から、今年5月後半には4万㌦を超えた。巨大な軍産複合体を形成するアメリカ帝国主義は、戦争で軍需産業だけではなく経済全体が「買い」になるのである。

一般企業の倒産と人民の困窮を拡大

 国家安全保障戦略は「安全保障と経済成長の好循環」を掲げた。防衛省が今年2月に発表した「日本の安全保障政策」では「防衛関係費の約8~9割は国内向け支出。今後の防衛力の抜本的強化は……経済成長の観点からも重要」だと述べる。SMBC日興証券の金融財政アナリスト・末沢豪謙も「増税でコストを負担する国民の納得が防衛力強化の持続可能性を左右する。防衛費を種銭にして経済を回す発想も必要」(5月29日付日本経済新聞)と訴える。
 だが、軍需産業が日本経済の「再生」をもたらすかのような主張はまったくのペテンだ。戦時経済は、軍需生産を受注するごく一握りの大資本を肥大化させ、裏金を通じて自民党など政治家連中の財布を膨らませる一方で、圧倒的多数の人民を重税と社会保障解体でますます困窮に追い込んでいく。そして軍需生産への転換は労働現場に「生産性向上」=労働強化をもたらすばかりでなく、「適正評価(セキュリティクリアランス)」制度のもとで労働者を政府の調査・監視下に置き、厳罰の脅しで支配することになる。さらに、軍需生産の増大がもたらす資材費の高騰は非軍事部門の経営を直撃し、国が保護する軍需企業以外は倒産に追い込まれていく。労働者階級にはさらなる貧困と大失業、無権利状態がもたらされるのである。
 そもそも、いま狙われている中国侵略戦争では南西諸島をはじめ日本全土が戦場となる。「安全保障と経済成長の好循環」など絵空事であり、それは中国侵略戦争のために巨額の軍事予算を確保することを目的としたペテンにほかならないのである。

軍事予算の拡大と一体で深まる腐敗

 昨年に導入された陸上自衛隊の「18式防弾ベスト」は、性能に難があるとともに価格が異常に高く(特に防弾板の価格は米軍などと比べて約10倍)、軍事ジャーナリスト・清谷信一は「完全に時代遅れの失敗作」「調達が自己目的化」と酷評している。この件を象徴として、自衛隊の装備調達には不可解なものが多い。軍需産業は国家が制度的に利益を保障することによって経営が成り立ち、腐敗が付き物だ。実際、18式防弾ベストは国産にこだわった結果として高価となった。拡大する軍事予算と一体で腐敗が深まることは不可避である。
 それでも絶望的危機に駆られる日本帝国主義にとって、中国侵略戦争と戦時経済が階級支配を支える唯一の道なのだ。ここに腐り切った日帝の最末期の姿が示されている。
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