人口戦略会議 「消滅」の脅しで自治体統制 戦時人口政策への転換狙う

週刊『前進』04頁(3345号02面02)(2024/05/20)


人口戦略会議
 「消滅」の脅しで自治体統制
 戦時人口政策への転換狙う


 大資本家などで構成される「人口戦略会議」(議長は三村明夫・日本製鉄名誉会長)は4月24日、744の自治体が今後30年の間に消滅する可能性があるという報告をセンセーショナルに発表した。「消滅可能性自治体」は全国の市区町村の約4割に当たる。衝撃的な表現をあえて使い、人口減少による国家の崩壊への危機感を叫びたてたのだ。
 同会議は今年1月、「人口ビジョン2100」という提言を出し、日本の総人口を8千万人以下に減らさないための「国家ビジョン」の策定を求めた。この提言は、「出生率の向上というテーマは、かつての『産めよ殖(ふ)やせよ』という人口政策への反省もあり、個人の価値観に関わる領域であることを理由に長らくタブー視され」てきたが、今後は「『国難』とも言えるこの課題に」「国民全体で意識を共有し、官民あげて取り組む」ことが必要だと言う。また、対策を実行するため内閣に「人口戦略推進本部」を置き、その諮問機関として「総理直属の勧告権を有する強力な審議会」を設けることも主張する。1980年代に国鉄分割・民営化を強行した第二次臨時行政調査会のような組織をつくり、戦時下の人口政策を行えというのだ。
 同会議はさらに、人口が減少しても生産性は向上させるとして、「生産性の低い企業、産業、地域の構造改革が重要となる」と唱える。公的部門をはじめ、もうからない産業は地域から撤退させるということだ。だが、新自由主義下で続けられたこうした政策こそ、人口減少をもたらした最大の要因ではなかったのか。

「増田レポート」が少子化を加速した

 人口戦略会議の副議長は、「896自治体が消滅の危険にある」とした2014年の日本創成会議の報告を作成した元総務相の増田寛也だ。「増田レポート」と呼ばれるこの報告は、「すべての町は救えない」という挑発的なスローガンを掲げ、「選択と集中」の名で、存続させる自治体と消滅させる自治体との線引きを唱えた。同報告は、地方より出生率の低い東京への人口流入を阻むことが人口減少を食い止めるとして、「地方中核都市」を「人口ダム」にせよと主張した。「地方中核都市」に選ばれた地域には公共投資を集中し、人口も集積させるが、それ以外の地域は徹底的に切り捨てるという構想だ。
 「消滅」の脅しによって自治体が強いられたのは、絶対的に減少する人口を奪い合う絶望的な競争だった。東京一極集中を否定する体裁をとった増田レポートが実際にもたらしたものは、地方全体の衰退だ。
 それから10年を経て、地方の崩壊と人口減少はさらに進んだ。この危機を日本帝国主義は中国侵略戦争によって突破しようとしている。前回の増田レポートは、生産性の観点で生き残る自治体を国家が選別せよと極限的な新自由主義を唱えた。今回の人口戦略会議の報告は、戦争を遂行するために国家が自治体も生殖も統制せよと言う。同会議の「人口ビジョン2100」は、8千万人台の人口の維持は、日本が「国際社会の中で……存在感と魅力を有し、国際貢献をなし得る国家として存続しつづける」ために必要だとする。彼らが言う「国際貢献」とは戦争のことだ。

没落深める日帝は「消滅可能性国家」

 岸田は戦争への突進とともに「異次元の少子化対策」に政権の命運をかけている。「消滅可能性国家」の日本など、戦争をしても守るべき存在なのかという労働者人民の根深い疑念を打ち消さない限り、戦争への動員はできないからだ。
 だが、人民の命が帝国主義の戦争によって無慈悲に奪われる現実を絶えず見せつけられていて、誰が子どもを産み育てる希望を持てるのか。中国侵略戦争を阻止して帝国主義を打倒することが、社会を社会として存続させる唯一の道だ。
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