米帝の大没落こそ世界戦争の根本原因 政府・企業の債務危機が深刻化 リーマン超え大恐慌の爆発迫る
米帝の大没落こそ世界戦争の根本原因
政府・企業の債務危機が深刻化
リーマン超え大恐慌の爆発迫る
ウクライナ戦争の帝国主義戦争としての正体がむき出しになり、それと一体で米日帝国主義による中国侵略戦争の策動がいよいよ本格化する中で、中東・パレスチナではハマスの「10・7蜂起」という形で爆発した民族解放・革命戦争に対する報復とその圧殺のための新たな侵略戦争が始まった。史上3度目の世界戦争はすでに始まっており、それは全世界の人民を戦火に巻き込む勢いで激化している。ここではっきりさせなければならないのは、この戦争の最大の根本原因は、第2次大戦後の帝国主義世界体制の基軸国=アメリカ帝国主義の大没落とその世界支配の崩壊にこそあるということだ。2008年リーマン・ショック以降の未曽有の恐慌対策は、米帝の没落を激しく促進すると同時に中国の台頭をもたらした。米帝はその世界支配の維持のために、中国・ロシアを相手に世界戦争を仕掛ける以外になくなったのである。米帝の大没落を雇用、産業・企業、金融、財政、貿易・投資、通貨の全面で構造的に明らかにしたい。
製造業就業者数は回復せず、生活困窮者急増し争議続発
まず、今日の帝国主義の危機の指標として極めて重要なアメリカ労働市場の現状を見ていきたい。
2023年7月の就業者数(民間非農業部門)の各産業のシェアを見ると、まず①製造・卸売・小売業の合計は25・9%。第2次大戦終結時点では製造業だけで35%を占めたが、今ではその割合は大きく下落、財の生産・流通の分野で就業者数が相対的に縮小する傾向が続いている。②情報・金融業の合計は9・2%で大きな変化はない。対して③専門・ビジネス・サービス、教育、ヘルスケアの合計は36・2%と上昇しており、米労働市場の中核と言える規模となっている。
衰退が叫ばれて久しい製造業では雇用回復の兆しは見られず、②や③では人工知能(AI)導入を進める動きが強まっている。こうした雇用の変化が労働者階級をますます貧困に陥れている。米国勢調査局が23年4月26日~5月8日に集計した家計実態調査によると、インフレの高止まりにより、米国の成人の約38・5%に相当する8910万人が日々の生活費の捻出が困難な状態にあると回答している。この割合は昨年同時期の34・4%、一昨年同時期の26・7%と比べても急速な上昇傾向にあり、コロナ禍の開始直後よりもさらに高い水準に達している。また今年3月時点で貯蓄も公的支援もない「給料ギリギリの生活」をしている26歳以下の成人(いわゆる「Z世代」の成年層)は65・5%に上った。
そうした中で、労働争議が歴史的な高揚を見せている。自動車3大メーカーの初の同時ストだけではない。ストライキによる業務停止日(=対象労働者数×停止日数)は23年1~8月累計で741万日と、過去20年の最高値を更新した。貨物輸送大手ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)の争議では、パートタイム労働者の時給を今後5年で少なくとも40%以上引き上げることがかちとられている。
テック企業含め軍需生産に傾斜
この雇用状況と対をなす企業・産業の実態を見れば事態はもっと鮮明になる。
08年リーマン・ショックに始まる大恐慌で、それまで米経済の根幹をなしていた自動車産業と金融業がどちらも崩れた。以降の米経済と株式市場をけん引してきたのは、アルファベット(グーグル)、アマゾン、アップル、メタ(旧フェイスブック)、マイクロソフトという「5大テック」だった。米経済は、製品生産や金融取引ではなく情報サービス提供や広告を最大産業にするまでに腐朽してしまったのだ。しかしサービス提供が永遠に拡大するはずもない。22年秋には市場の飽和化によってサービス供与が過剰になり、売上高・利益が激減する過剰資本状態に陥った。
5大テックはその打開をAI分野に求めているが、特に重大なことは、全体として米テック企業の軍需への傾斜が強まっていることだ。すでに世界戦争が始まっている中で、米経済はますます軍需に急傾斜しつつある。戦争が軍需生産を促進し、軍需生産が戦争を歯止めなくエスカレートさせるという、恐るべき過程に踏み込んでいるのだ。
他方で、低金利に依存しきって借金を重ねながら生き永らえてきた米企業は、昨年来の金利上昇で追い詰められている。米企業の債務残高は22年12月末時点で19・9兆㌦(約2961兆円)、国内総生産(GDP)比で76%にも及ぶ。
リーマン・ショック後に「プライベート・クレジット・ファンド」と呼ばれる新ファンドが急成長を遂げたが、機関投資家や富裕層から資金を集めて無格付けや低格付けの企業(多くは非上場)に対して直接融資を行うもので、信用リスクが高い。その資産規模は08年初め以降約6倍に拡大、現時点で1兆5千億㌦(223兆円)にも及ぶと見積もられている。社債でも銀行融資でもない、リスクの高い貸し付けが野放しで膨張してきたのだ。さらに低格付け企業向け銀行貸出(レバレッジド・ローン)、投機的格付け社債(ハイ・イールド債)を合わせると、低格付け企業の債務は計4兆4千億㌦(654兆円)であり、日本の22年のGDP(556兆円)を上回る。リーマン・ショックは住宅ローンという米家計の債務危機が噴出したものだったが、今や米企業の債務危機が爆発するのは必至だ。
しかも米企業債務は証券化されており、米国外の投資家が保有する証券化商品が5年間で7割も増えている。サブプライム・ローンという「住宅ローンの証券化商品」を根因にリーマン・ショックが起きたように、「企業債務の証券化商品」から新たな大恐慌が起きようとしているのだ。
金融引き締めで銀行が破綻、急落する商業用不動産価格
金融面では、世界的な戦時下インフレに対する金融引き締めを機に、3月にシリコンバレー銀行(SVB)など3行が経営破綻した。まったく新たな次元の金融危機であり、金融で延命してきた米帝の大没落を示す事態である。
①リーマン・ショック時に破綻した25行の債務合計は3736億㌦(55兆6千億円)だったが、今回破綻した3行の債務合計はそれを上回る5485億㌦(81兆6千億円)に達した。②SVBでは数日で預金の8割が流出した。パソコンなどによるオンラインバンキング、スマートフォンなどによるモバイルバンキングを合わせると銀行取引の計66%も占めており、新型の急激な取り付けとなった。③産業的にはテックバブル崩壊を土台にした金融危機だった。④歴史的な信用収縮が起き、通貨供給量(マネーサプライ)の指標の一つである「M2」が前年比4・05%も減少した。M2の減少は第2次大戦後初めてのことであり、世界大恐慌真っただ中の1933年12月以来、約90年ぶりのことだ。⑤連邦準備制度理事会(FRB)などは、リーマン・ショック時を上回る計3392億㌦(50兆5千億円)もの資金供給、信用供与の拡大で連鎖破綻を辛くも回避した。
こうした中で、いま巨大な危機を爆発させようとしているのが商業用不動産ローン市場である。米銀の商業用不動産向け融資残高は23年5月末時点で約2兆9千億㌦(431兆円)と過去10年で2倍に拡大した。用途別ではオフィス・商業が60%を占め(図1)、金融機関別では中小行が67%を占める(図2)。だが、この間の急激な金利上昇や景気悪化懸念に伴う不動産需要の鈍化により、米国の商業用不動産価格は22年4月から23年8月までに16・5%も急落、銀行から融資を受けてオフィスビルなどに投資してきた不動産投資会社の債務不履行(デフォルト)が相次ぎ、不良債権が増加している。27年までに返済満期を迎える商業用不動産ローンは総額で約2兆7500億㌦(409兆円)と見積もられており、危機が本格化するのはこれからだ。ローン債権を束ねて証券化した商業用不動産ローン担保証券(CMBS)も多くの投資家に販売されてきたが、これも不履行に陥ることになる。家計の住宅ローンの返済不能から爆発したリーマン・ショックと比較しても、企業債務と商業用不動産ローンという資本主義の本丸で危機が迫っているのだから、リーマン以上の大恐慌となるのは必至だ。
債務上限問題で国債格付け降格
国家財政も破滅的になっている(図3)。5~6月には債務上限引き上げをめぐってバイデン大統領と野党・共和党の協議が難航し、債務不履行の懸念により米国債への信認が急低下するまでになった。法律で債務上限を引き上げて新たな借金をしないと返済もできなくなるという惨状だ。さらに、歳出削減を要求する共和党が多数を占める下院で予算審議が難航、9月30日までに24会計年度予算が成立しなければ政府機関が閉鎖となるところを、土壇場で「つなぎ予算」を成立させて急場をしのいだ。
従来と異なるのは、階級的矛盾の激化を背景に予算をめぐる民主党と共和党右派との対立が非和解的になっていることだ。実際にデフォルトもありうる状況は続いている。そうなった場合、米国債の格付けは最低位の「D」に降格され、借金するコストの急増で今後10年間で約7500億㌦(111兆円)も財政支出がかさむとの試算もある。
格付け大手フィッチ・レーティングスは8月1日、米国債の格付けを最高位の「AAA」から「AA+」に1段階引き下げた。理由として、今後の財務悪化懸念に加え、債務上限引き上げをめぐる混乱、米政府の財政管理への信頼損失を挙げている。翌2日、フィッチ・レーティングスは、国債に依存する連邦住宅抵当金庫(ファニーメイ)と連邦住宅貸付抵当公社(フレディマック)の住宅金融2公社の格付けも「AAA」から「AA+」に引き下げた。国際金融では金以上に信用されたことすらある米国債が、ついに落日の時を迎えているのだ。
対中貿易・投資規制を強め経済収縮とブロック化加速
貿易・投資の面では、中国を最大の対象として、半導体などのハイテク製品の輸出入・投資を禁じるとともに、補助金を注ぎ込んで保護主義を強めている。
トランプ前政権による中国企業からの半導体の輸入規制に続き、バイデン政権は22年秋、先端半導体の製造に必要な装置や技術の中国への輸出を強く規制。事実上、輸入も輸出もすべて禁止としたのだ。さらに23年夏には、半導体に加え量子技術・AIの3分野で米企業や米国人による中国への投資を規制した。中国企業の買収や合併、ベンチャー企業や未公開株への投資も規制対象になる。
一方で、半導体については国内に有力な製造会社がないため、巨額の補助金を投じて半導体受託生産の世界最大手・台湾積体電路製造(TSMC)の工場をアリゾナ州に誘致した。電気自動車(EV)でも、北米で組み立てて電池部品の現地調達比率を50%以上などにすると1台あたり最大7500㌦(111万円)の税額控除が受けられる制度を4月に設けた。
こうした貿易・投資策は第一に、18年10月のペンス副大統領(当時)の中国非難演説とほぼ同時期に始まっている。米帝が中国侵略戦争を構える中で発動されているのだ。カナダ当局が米政府の要請を受けて中国通信機器大手・華為技術(ファーウェイ)の副会長を逮捕したのも18年末だ。
第二に、米帝の世界支配をさらに後退させ、世界経済のブロック化の歯止めを外すことになる。バイデンは5月に「税金はすべて米国の製造業、米国の製品、米国人の従業員のために使われる」と強調した。そもそも基軸国とは本来、自国の経済発展が他の帝国主義と世界経済の利益ともなり、逆に他の帝国主義と世界経済の拡大が自国の利益ともなるものである。だが、今や米帝はそれとは逆に、自らが生き延びるために世界と他国の経済をとことん破壊しつくすあり方に転じている。
だからブロック化も完全に本格的な過程に入った。世界貿易機関(WTO)の試算によると、ブロック化によって供給網が目詰まりすると世界の生産額の5%にあたる5兆㌦(744兆円)弱が失われるという。日本の年間GDPに相当し、これほどの消失となれば世界経済は収縮し、大恐慌は深まり、国家間対立はさらに激化する。新自由主義とグローバル化が大破産し、ブロッキズムに転じているのだ。
第三に、米帝の貿易・投資での強硬策は、米経済を再建できるどころか逆にますます没落させる。半導体政策は台湾企業に依存するものでしかなく、米帝の競争力の完敗にしかならない。しかも、ファーウェイが8月末に予告なく発売した最新スマートフォンでは、高速通信規格5Gに対応した高性能半導体を搭載し、米帝に衝撃を与えている。〝半導体だけは中国に逆転させない〟という戦略が打ち破られつつあることに米帝は焦りを深め、中国侵略戦争への衝動を今まで以上に強めている。
基軸通貨ドルがついに失墜、米帝の世界支配は大崩壊へ
最後に、以上のすべての総和として、ドルの国際的失墜が急進展している。 22年末時点の世界外貨準備における米ドルの比率は58・36%と、7年連続で低下した。一番の要因はやはり米国債の信認低下であり、連邦政府のデフォルト危機の慢性化である。しかも、ウクライナ戦争で米帝はロシアが保有していたドルの外貨準備を問答無用で凍結したが、「それを目の当たりにし、有力な新興国ほど、超大国の通貨や決済システムに身を預けるリスクを敏感に察知している」(7月24日付日本経済新聞)。イエレン米財務長官は「(ロシアに対する)米国の厳しい制裁がドルの国際的覇権を弱体化させつつある」と漏らす。すでに、「親米国」だったサウジアラビアや東南アジア諸国連合(ASEAN)、インドが米ドル依存からの脱却を公然化させている。
第2次大戦以降の米帝は、ドルと軍事力を世界支配の中軸としてきた。1971年の金ドル交換停止以降も、ドルは「有事に強いドル」であり続けた。そこがついに崩れたのだ。これこそ米帝大没落の最大事象である。23年5月22日発売の米誌「ブルームバーグ・ビジネスウィーク」は「THE DECLINE OF AMERICAN PRESTIGE(米国の威信低下)」との見出しを表紙に、世界で高まる「ドルへの不信感」に注目した。
これは、ドルを基軸通貨としてきた世界と各国の金融システムの弱体化に直結する。1929年の大恐慌は、第1次大戦後の再建金本位制の解体と相乗しながら発生し深刻化した。今や、第2次大戦後のドルを基軸とした国際通貨体制の崩壊を伴って、米経済と世界経済が一層破滅的になっていくのは不可避である。
帝国主義とスターリン主義が共に歴史的に行き詰まり、その全矛盾の世界戦争への転化が始まっている。帝国主義とスターリン主義を共に打ち倒すしかない。世界革命は今こそ現実的になっているのだ。確固たる信念をもって反戦闘争の爆発をかちとり、11・19労働者集会に突き進もう。
〔島崎光晴〕