ウクライナ戦争 全面激化 NATO支援下で「反転攻勢」 兵器供与急ぐ米欧 人民の被害拡大

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週刊『前進』04頁(3299号03面01)(2023/06/19)


ウクライナ戦争 全面激化
 NATO支援下で「反転攻勢」
 兵器供与急ぐ米欧 人民の被害拡大


 6月10日、ウクライナ大統領ゼレンスキーは、カナダ首相トルドーとの首脳会談後の共同記者会見で、ウクライナ軍のロシア軍占領地域への「反転攻勢」が始まっていると述べた。作戦がどの段階にあるかは言えないとしながらも、かねてより予告してきた「大規模反攻作戦」がすでに開始されていることを初めて明言した。これをもってウクライナ戦争は、質・量ともに従来の延長ではない新段階に突入した。想像を絶する人的・物的被害の発生が不可避となる中で、この戦争の帝国主義戦争としての正体もいよいよむき出しになろうとしている。

米も劣化ウラン弾提供へ

 ウクライナ軍の攻撃は東部ドネツク州、中南部ザポリージャ州のロシア軍占領地域に対して5日の時点で始まったとみられ、ウクライナ政府は13日までに7箇所の集落をロシア軍から「奪還」し、東部の要衝バフムトでも前進を開始したと発表した。だがウクライナ軍も激しい反撃に遭ってロシア軍の防御線を突破できず、供与された米国製歩兵戦闘車「M2ブラッドレー」109両のうち16両、ドイツ製戦車「レオパルト2」85両のうち4両などを、この数日の戦闘で失ったと報じられている。
 ウクライナ政府は、損失は想定の範囲内だとしながらも「さらに多くの欧米製の戦車、歩兵戦闘車などの装甲車を緊急に必要としている」(メルニク外務次官)として、ドイツ政府に対してレオパルト2の供与を当初の予定の3倍に増やすよう求めた。攻勢開始から1カ月以内にウクライナ軍が高性能車両の3分の1を失う可能性も指摘されており、米政府は戦闘車の追加供与を急ぐ構えだ。
 また米紙ウォールストリート・ジャーナルは13日、国防総省が以前から要求していた通り、ウクライナに提供する米国製戦車「エイブラムス」の砲弾に劣化ウラン弾を含めることをホワイトハウスが承認したと報じた。これまでは国際的な非難の高まりを恐れて政府内に慎重論もあったが、ウクライナで本格的な戦車戦が始まったことを受け、「激論」の末に供与を決めたという。おびただしい数の兵器を投じた「手段を選ばぬ」消耗戦が、ウクライナの大地を放射能で汚染しながら繰り広げられようとしているのだ。
 ウクライナ軍の当面の目標は、ロシア軍の防御線を突破してザポリージャ州を南へ進軍、要衝メリトポリを占領しロシアからクリミア半島への陸上補給路を断つことにあるとみられる(地図参照)。「クリミア奪還は戦争終結の必須条件」と公言するゼレンスキーにとって、この作戦の成功は絶対条件だが、もちろんプーチン・ロシア軍も絶対に引き下がれない。ウクライナ軍が激しい抵抗に遭うことは不可避だ。さらにクリミアへ本格的に侵攻するにはアゾフ海まで南下しなければならず、その実現可能性は米欧の専門家も疑問視する。だがゼレンスキーは、どれほど戦闘が長期化し兵士・住民の死傷者が増えても強行する構えだ。
 6日に発生した南部ヘルソン州の巨大ダムの決壊はすでに70万人以上を飲料水不足の状態に追い込み、ドニエプル川流域の広大な農地に水を供給する灌漑(かんがい)設備を破壊、国連世界食糧計画(WFP)が「ウクライナ産の穀物に依存する全世界の3億4500万人の飢えた人々の希望が消えつつある」と警告する事態となっている。ウクライナ軍の大規模反攻とそれに伴う両軍の戦闘激化は、この被害を果てしなく拡大しようとしている。

空軍演習でロシアを挑発

 重大なことは、今回の大規模反攻が、アメリカ帝国主義を盟主とする北大西洋条約機構(NATO)の全面支援のもとで準備され、実行されているということだ。米紙ニューヨーク・タイムズによると、NATOは、ウクライナ軍を「NATOの戦術で戦う現代式の軍にする計画の一環」として今回の作戦を位置づけ、戦車、大砲、戦闘機、歩兵部隊などが常時意思疎通を図る統合兵器作戦を遂行できるよう訓練したウクライナ軍3万人を反転攻勢に投入したという。
 そしてこの作戦の開始と完全に並行する形で、「NATO史上最大の航空演習」と呼ばれる大規模合同空軍演習「エアディフェンダー23」が6月12日からドイツで始まった。日本を含む25カ国から最大1万人・約250機の戦闘機が動員され、米空軍はF35戦闘機をはじめ100機以上を投入。架空の「東方軍事同盟」に対してNATO諸国が集団的自衛権を発動して戦うことを想定し、ドイツ上空のみならずロシアと対峙(たいじ)するバルト海やチェコなど東欧諸国の上空にも航空戦力を展開する。ウクライナの大規模反攻開始と完全に連動した、ロシアへの激しい威嚇・挑発行為だ。
 NATO加盟国以外で演習に参加するのは、加盟申請中のスウェーデンを除けば日本のみだ。戦闘機は送らず、航空自衛隊の将官がドイツ空軍基地で情報共有のあり方を探るとのことだが、その主眼は「7月にリトアニアで開催されるNATO首脳会議を前に、NATOと日本の協力関係を確認する機会」(6月12日付産経新聞)とすることにある。なおスウェーデン政府はこれに先立ち、同国のNATO加盟を承認する条件としてトルコが要求した「テロ容疑者の引き渡し」に応じるため、クルド労働者党(PKK)のメンバーのみならずその「協力者」とみなした亡命クルド人も拘束・強制送還できる新たな反テロリズム法を6月1日から施行した。NATOの拡大と戦争突入に伴い、国家による民族抑圧・民族排外主義の凶暴な攻撃が急激に強められているのだ。日本帝国主義・岸田政権がNATOとの一体化=参戦国化と並行して、今国会で入管法改悪を強行したのもその表れだ。

参戦狙う岸田を許すな!

 G7広島サミットで「必要とされる限りウクライナを支援する」(首脳声明)と確認した米欧日帝国主義は、中国侵略戦争への本格的な準備と一体で、〈ウクライナを前面に立たせた対ロシア戦争〉としてのウクライナ戦争をあくまでも継続・激化させようとしている。
 ウクライナ政府とその頭目ゼレンスキーは、この米欧日帝国主義の先兵であり、世界戦争の推進者であり、米帝バイデンやロシア・プーチンと並んでウクライナ人民を地獄の戦場に引きずり込み、今もなお無残な死と塗炭の苦しみに追い込んでいる元凶だ。この戦争は、ウクライナ解放のための戦争でも、ロシア軍の侵攻からウクライナ人民を守るための戦争でもなく、ウクライナ人民をどこまでも犠牲にしながら、帝国主義の利益と延命のために行われる世界戦争の一環にほかならない。その背景に「ロシアを抑え込み、中国を打ち負かす」(国家安保戦略)という米帝の世界戦略がある以上、帝国主義はこの戦争をやめることはできず、むしろ戦争を通じて国内統治形態の転換と戦時経済体制への移行を進めることで、命脈の尽き果てた資本主義の体制的延命を図る以外にない。
 だが重要なことは、この全過程を通じて、戦争とインフレ、生活破壊への労働者階級人民の怒りはますます高まり、階級対立・階級闘争のさらなる先鋭化は避けられないということだ。すでに米欧など多くの国で闘う労働組合が先頭に立ち、「戦争をただちにやめろ!」「ウクライナに武器を送るな!」「NATO解体!」を掲げた反戦デモが次々と闘われている。戦争の真の元凶である帝国主義=自国政府を打倒する国際反戦闘争、反帝国主義・反スターリン主義世界革命を完遂するまでやむことのない労働者階級の闘いこそ、すでに始まっているウクライナ戦争・中国侵略戦争―世界戦争の破局から人類を救い出す唯一の道だ。
 サミット粉砕広島決戦の地平を引き継ぎ、岸田のNATO会議出席を弾劾する7・11新宿反戦デモから8・6広島―8・9長崎闘争へ攻め上ろう!
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