南西諸島を戦場にするな 長期戦想定し自衛隊増強 安保3文書 沖縄「捨て石」に対中戦争狙う

発行日:

週刊『前進』04頁(3277号03面01)(2023/01/16)


南西諸島を戦場にするな
 長期戦想定し自衛隊増強
 安保3文書 沖縄「捨て石」に対中戦争狙う


 昨年12月に岸田政権が閣議決定した安保3文書の最も際立った特徴の一つは、南西諸島を〝戦場化〟することを前提化した中国侵略戦争の戦略構想とそのための具体的準備を明記したことだ。「自民党の国防族議員が『沖縄文書だ』と表現するほど、今回改定された3文書は沖縄に焦点が当たった」(12月17日付琉球新報)と報じられている通りであり、岸田自身も閣議決定直後の記者会見で「南西地域の陸上自衛隊の中核となる部隊を倍増する。日本全国から部隊を迅速に展開するための輸送機や輸送船舶を増強する」と強調した。これに対し、沖縄現地では「沖縄戦を繰り返すな!」と怒りの声が広がっている。

開戦への準備進める米日

 安保3文書のうち「最上位の政策文書」と位置づけられる国家安全保障戦略は、その冒頭の「策定の趣旨」において、「本戦略に基づく戦略的な指針と施策は、我が国の安全保障に関する基本的な原則を維持しつつ、戦後の我が国の安全保障政策を実践面から大きく転換するもの」と明記している。「専守防衛の堅持」といった文言はあくまでもお題目として「維持」しつつ、「実践面」では戦後史を画する大転換に踏み出すということだ。
 安倍政権による2013年版国家安保戦略と最も異なるのは、何よりもアメリカ帝国主義が基軸国としての存亡と世界的覇権の維持をかけて中国侵略戦争を決断し、すでにその具体的策動を激しく進めている中で、今回の岸田政権版国家安保戦略が策定されたことである。昨年10月に発表された米バイデン政権の国家安保戦略(NSS)は、中国を「米国にとって最も重大な地政学的挑戦」「唯一の競争相手」と位置づけ、軍事を含むあらゆる手段をもって「中国を打ち負かす」ことを国家戦略としたが、これに対応する形で打ち出したものが岸田の安保3文書である。18年末策定の防衛計画の大綱、中期防衛力整備計画をそれぞれ改定・名称変更した国家防衛戦略と防衛力整備計画も、この米帝による中国侵略戦争・世界戦争への突入に規定されたものである。
 しかも米帝・米軍はすでに「台湾有事」という形で中国との戦端を開くことを具体的に想定し、開戦に向けて急ピッチで準備を進めている。米日政府は15年策定の「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)」の改定に向けた調整もスタートさせており、新ガイドラインでは台湾有事における米軍・自衛隊の共同作戦計画などが盛り込まれようとしている。
 米日帝国主義が構想する中国侵略戦争の作戦上の要は、米軍のみならず自衛隊をこの戦争の実戦部隊として動員することであり、南西諸島の島々を出撃・兵站(へいたん)拠点とすることである。それなくしては米日帝の中国侵略戦争は成り立たないのだ。

長射程ミサイル大量配備

 以上のような戦争の性格に規定され、安保3文書は沖縄を徹底的に重視する内容となった。
 第一に、沖縄本島を含む南西諸島のミサイル基地化である。今回、いわゆる「反撃能力」の要として、相手国の防空システムの圏外から攻撃できる長射程の「スタンド・オフ防衛能力」の保有が明記され、具体的には陸自12式地対艦誘導弾の長射程化などが盛り込まれたが、真っ先にその配備先となるのが沖縄だ。
 すでに陸自は奄美駐屯地(鹿児島県奄美市)と宮古島駐屯地(沖縄県宮古島市)に地対艦ミサイル部隊を配備済みで、23年度内に石垣駐屯地(石垣市)にも同部隊の配備を完了する見込みだ。さらに沖縄本島で初となる地対艦ミサイル部隊を勝連分屯地(うるま市)に配備し、南西諸島の4部隊を指揮する地対艦ミサイル連隊本部をそこに置く予定となっている。誘導弾の能力向上は射程距離を1000~3000㌔に伸ばすだけでなく、艦船、潜水艦、戦闘機などに搭載して陸海空どこからでも中国本土を攻撃できるものとして新たに開発・量産化されようとしている。ミサイル攻撃を成功させるために中国の防空レーダーや通信機器を電磁波攻撃で無力化する電子戦部隊も、23年度末に最西端の与那国島に配備される予定だ。
 第二に、南西諸島を〝戦場化〟する米海兵隊の対中国作戦計画「遠征前進基地作戦(EABO)」を共同で担う自衛隊の実戦部隊の配備・増強である。
 那覇市に拠点を置く陸自第15旅団(現在約2200人)を27年度までに最大8千人規模の「師団」へと格上げすることが、今回の防衛力整備計画に明記された。また、5年以内に南西地域に陸自「補給処支処」を設置することも同計画に盛り込まれ、ただちに沖縄訓練場(沖縄市)内に弾薬・資材を保管して各部隊に補給する兵站拠点を新たに設けることが発表された。長期戦を戦うための火薬庫の整備や主要司令部の地下化も明記され、石垣駐屯地の作戦室や与那国駐屯地の司令部などが地下に造られることも判明している。さらには県外の8個師団、5個旅団、1個機甲師団は、戦争勃発に際して南西諸島へ迅速に部隊を展開できるよう「機動運用」を基本とし、南西地域への部隊・装備品の展開能力を強化するため24年度末までに海上輸送部隊を新編成する。
 いずれも、「再びの沖縄戦」というべき事態になることを完全に想定した動きであり、住民を動員し虐殺した旧日本軍(第32軍)の再来に等しい暴挙だ。

防衛研が「縦深戦略」提言

 第三に、「防衛上のニーズを踏まえ、特に南西地域における空港・港湾などを整備・強化する」(国家防衛戦略)として、平時から公共インフラを軍事目的で利活用する方針が明記されたことである。防衛相・浜田靖一は昨年12月8日の衆院安全保障委員会で、成田空港とともに3千㍍級滑走路を持つ下地島空港(宮古島市)を挙げて「自衛隊が平素から柔軟に利用できるようにすべき」などと述べた。11月の日米共同統合演習「キーンソード23」で先取り的に強行された民間空港・港湾を使っての訓練が今後日常化していくということだ。加えてそれは、実際に戦争が始まった際に住民が民間の航空機や船舶などで避難する手段が米軍・自衛隊によって奪われることをも意味する。
 こうした内容は、防衛省のシンクタンク「防衛研究所」の高橋杉雄防衛政策研究室長らがまとめた研究報告書を色濃く反映したものだ。同報告書では、「統合海洋縦深防衛戦略」なるものが唱えられ、中国との戦争で南西諸島がミサイル攻撃を受けることを前提に、半年から1年にわたり「時間を稼ぐ」長期戦を戦うことが提言されている。第2次大戦末期の1945年1月に策定され、「皇土防衛ノ為ノ縦深作戦遂行上ノ前縁ハ……沖縄本島以南ノ南西諸島」「(敵が上陸した場合は)極力敵ノ出血消耗ヲ図リ且(か)ツ敵航空基盤ノ造成ヲ妨害ス」として沖縄を「捨て石」とした「帝国陸海軍計画大綱」とまったく同じ発想だ。
 高橋は1月1日付琉球新報のインタビューで、「住民の被害が生じるのではないか」との記者の問いに対し、「中国軍は米軍・自衛隊の拠点をピンポイントで狙うので民間人の巻き添え被害はほとんど出ない」などと無責任極まる回答を返しているが、基地労働者や空港職員が被害に遭うことは否定できなかった。
 こうした動きに対し、沖縄現地では「再びの沖縄戦を許すな!」の声が高まり、体を張って軍事演習に抗議する住民の闘いが新たに始まっている。石垣市議会で昨年12月、長射程ミサイル配備は容認できないとする意見書が可決されたのもその反映だ。沖縄の闘いと連帯し、中国侵略戦争阻止・岸田打倒の1〜3月国会闘争に総決起しよう!
このエントリーをはてなブックマークに追加