『戦争と看護婦』を読んで 戦時招集された看護師の史実を示す
『戦争と看護婦』を読んで
戦時招集された看護師の史実を示す
「大戦中、看護婦が『戦時召集状』によって召集された事実を知っていますか?」----日本赤十字看護大学名誉教授・川嶋みどりさんら4人の共著『戦争と看護婦』(2016年 国書刊行会)の表紙の帯はこの言葉で始まります。表紙カバーには1937年8月、全面化する中国侵略戦争への従軍を前に日赤看護婦教養所(東京・渋谷区の現・医療センター)で特攻隊と同様に水杯を交わす看護婦(看護師)の写真が使われています。まさに命がけの従軍です。
今なぜ世に問うのか
川嶋さんは冒頭、戦争のあるところ必ず看護婦の姿があり美談とされてきたが、戦後、兵士の悲惨な最期と看護婦の体験した不条理が明るみに出たと指摘。なぜ今、この本でその記憶を呼び覚まし、「国のありようの今日的意味を問いたい」のかを述べていきます。
日本で職業としての看護婦が誕生して日清、日露、日中戦争から敗戦に至る50年は戦時下であり、看護婦は野戦病院や病院船で働くことを求められた。人々の尊厳あるいは命を守る専門職としても再び戦争への道を歩むことは止めてほしい----。新たな戦争への動きの中で、この訴えが全編を貫きます。
ウクライナ戦争に続く中国侵略戦争―世界戦争が再び始まった今だからこそ、戦争と看護の史実を多くの体験者のインタビューと資料によって示した本書は貴重な書だと強く思います。
従軍看護と加害責任
第1章では「戦時召集状」で乳飲み子を残して動員された看護婦が中国・上海で病死するまでの、夫にあてた痛切な手紙が紹介されます。そして「先の大戦では日本だけでも230万人の戦死者と80万人の民間犠牲者......しかし他国の犠牲者数はこの比ではなく、それが日本軍の侵略によるものであるとしたら、そこで何が起きたのか、歴史の事実から目を背けてはいけない」と、加害者としての責任の問題を訴えます。中国での731部隊などの人体実験、沖縄戦に動員されたひめゆり学徒隊の実例をあげて「その時看護婦はどこにいたのでしょう」と厳しい問いかけがされます。
戦後、帰国した看護婦らが異口同音に「二度と戦争だけは繰り返すな」と述べていることに触れ、婦人民主クラブ全国協議会の機関紙でも引用される「徴兵はいのちかけても阻むべし 母・祖母・おみな牢に満つるとも」の短歌で結ばれます。
次章以降、戦争と看護のすさまじい実態が示されます。日赤だけで延べ3万3156人が動員され、そのほとんどが10~20代の女性。日赤以外の看護婦、果ては高等女学校の卒業生・生徒まで動員され、日赤だけで1120人が殉職。犠牲者全体がどれほどかは正確にはわからないとしています。この歴史を胸に刻む必要があります。
昨年7月に独立行政法人化された都立病院機構の定款には有事の医療動員が明記されました。コロナ下の医療崩壊の下、医療労働者・労働組合が「戦争と医療は相いれない」と立ち上がっています。戦争に絶対反対し、軍拡・戦争国会粉砕へ総力で闘いましょう。(大迫達志)