イギリス看護師スト 命を守れる賃金求め10万人が医療を奪い返す戦時下の闘い
イギリス看護師スト
命を守れる賃金求め10万人が医療を奪い返す戦時下の闘い
イギリスで12月15、20日の2日間、労働組合の王立看護協会(RCN)に所属する看護師約10万人がイングランド、ウェールズ、北アイルランドでインフレ率プラス5%の賃上げを求めて史上初のストライキに立ち上がった。1948年につくられた国営医療制度(国民保健サービス=NHS)史上でも最大規模の看護師ストだ。政府は交渉に応じていないのでRCNは1月18、19日にもイングランドでストに入る予定だ。
イギリスでは、戦時下でのエネルギー価格高騰に加え、前年同月比10%を超える記録的なインフレが続く。労働者民衆の困窮が極限的に進み「もうたくさんだ!」という民衆の声が街頭にあふれ出している。とりわけ12月には全国で、鉄道・海運・運輸労組(RMT)を先頭に、教育、郵便、港湾、エネルギー、公共機関、高速道路、空港などでの長期ストや連日の産別統一行動が闘われた。看護師に続いて救急隊員も約1万人がストを行った。
イギリスでは、新型コロナウイルス感染症の爆発的流行で現在までに21万人以上が命を落としている。これは「集団免疫獲得」を目指すとして命を守るためのコロナ対策を意図的に放棄したジョンソン政権による虐殺に等しい。
こうしたなか、命がけで治療にあたった医療労働者は一時的に英雄扱いされたものの、支払われる賃金は「侮辱的」(スト参加者)な低さにとどまっている。そこへ物価高騰に直撃され、食料を買えずにフードバンクに頼らざるを得ない看護師も多い。家賃も高騰し、あるスト参加者は「給料は家賃ですべて消えてしまう」と語る。長時間の激務に見合わない低賃金のため、看護師にはアジアや中東、アフリカ出身の移住労働者が多いことも特徴だ。 労働者の労働条件の低さは患者の命に直結する。退職者も後を絶たず、イギリスでは現在、看護師が5万人も不足している。こうしたなかで看護師たちは、このままでは患者の命も自らの命も、NHSという制度自体も守ることができないと訴えて立ち上がった。
続々と寄せられる労働者市民の支持
「12月15、20日には私たちは働きません。ピケットラインでお会いしましょう」。歴史的決戦となったストに上りつめる過程でRCNはウェブサイトに特設ページをつくり、組合員にはストとピケットラインへの参加、市民にはスト支持の行動を呼びかけ続けた。
スト1日目の15日、ロンドンでは氷点下5度の冷え込みのなかでも多くの労働者・支援者が病院前などでのピケに駆けつけ、手に手にプラカードを掲げて「人員不足は患者の命を奪う」「労働者に公正な賃金を」と訴えた。患者や労働者市民は共感を寄せ、温かい飲み物やピザの差し入れ、車の運転席からのクラクションなどで応えた。ある市民は「みなさんのすばらしい仕事は、まともな賃金と労働条件、敬意に値します。闘い続けてください。勝利を願っています」とのメッセージを携えて合流した。
12月16〜19日に行われた世論調査では看護師スト支持が66%に達し、反対の28%を大きく上回った。
王室制と戦争協力乗りこえる闘いへ
今回のストは、新自由主義の「本家」であるイギリスで、王室制度のもとでつくられてきたRCNのあり方を乗りこえる可能性を秘めた闘いでもある。
1979年に英首相となり、80年代を通じて米レーガン政権や日本の中曽根政権と並んで新自由主義攻撃を推し進めたマーガレット・サッチャーは、公的医療を目の敵にし、NHSへの業績評価制度や市場原理導入に道を開いた。その結果もたらされた医療の崩壊を団結した労働者の闘いで乗りこえ、公的医療を奪い返す過程が始まったのだ。
さらに、王室の名を冠したRCNからの決起には大きな意義がある。
RCNの前身である看護学校は1916年、第1次世界大戦のただなかで設立された。当時、多くの女性が前線や野戦病院で負傷兵の看護に携わっていた。
26年には王妃メアリーがRCNの公式パトロンとなり、39年には国王ジョージ6世が第2次大戦下で「看護師の供給を確保する上で重要な役割を果たした」として「王立」の称号を与えた。46年には、戦争での「功績」を認められ、王室から紋章を付与されている。女性の団体(当時)としては初めて、軍務を示す盾を紋章に使用することが許可されたのだという。
このように、イギリス帝国主義は当初から看護師とその組合を戦争の道具として位置づけ、特別な地位を与えてきた。しかし、今回の戦時下でのストは必ず、この構造そのものを打ち破り、ウクライナ戦争に深々と加担するイギリス帝国主義を打ち倒す力を生み出すものとなる。
ストライキの波はアメリカにも拡大
1月9日には米ニューヨークでも看護師7千人以上が賃上げや労働環境の改善を求めてストライキを決行した。医療・福祉・介護労働者の闘いが持つ位置は巨大だ。連帯して闘おう!