戦争下で加速する経済危機 インフレ高進と大恐慌の激化 出口は労働者革命以外にない
週刊『前進』04頁(3266号03面01)(2022/10/24)
戦争下で加速する経済危機
インフレ高進と大恐慌の激化
出口は労働者革命以外にない
米バイデン政権は10月12日に「国家安全保障戦略」を公表し、「次の時代を形成する大国間競争が始まっている」「中国に打ち勝ち、ロシアを抑制する」とした。中国侵略戦争―世界戦争へいよいよ突っ込もうというのだ。ウクライナ戦争によって米経済と世界経済は、インフレの高進と大恐慌の激化という破滅的な局面に入った。経済的・社会的な危機が戦争を引き起こし、戦争が経済的・社会的な矛盾をさらに深刻化する、という過程が始まっている。戦争下の米経済と日本経済の現状に肉薄していきたい。
ウクライナ戦争と米帝の経済危機の破局的激化
ウクライナ戦争は、米ロの全面戦争=核戦争へと発展しつつある。米帝は自ら大国化させた残存スターリン主義・中国に対し、基軸帝国主義としての存亡をかけて侵略戦争=世界戦争に乗り出した。それが今、ウクライナでの米ロの戦争となって進み、核戦争の瀬戸際に世界を引き込んでいる。核戦争の「破滅的結果」を食い止めるには、帝国主義とスターリン主義を打倒する以外にない。世界戦争の始まりに対して、反帝・反スターリン主義世界革命に向かって闘わなければならない。こうした戦争情勢は、世界経済の分断と分裂を一挙に加速させ、帝国主義間争闘戦、勢力圏争奪戦のすべてを極限的にエスカレートさせつつある。米経済と世界経済の現下の最大難関になっているインフレは、このようなウクライナ戦争による世界経済の分断・分裂の中で起きており、戦時下のインフレの性格を強めている。
しかも、この世界経済の分裂は、帝国主義国が抱える過剰資本をますます処理不能にしている。製造業が過剰資本状態に陥る中で、1990年代後半以降、情報技術(IT)分野の拡大によって乗り切ってきたが、それも行き詰まった。後述するように、米IT大手は一斉に軍需に傾斜している。全帝国主義国がどうしようもない過剰資本にさいなまれ、なんとしても延命するため、相互のつぶし合い、世界の再分割に打って出ている。ウクライナ戦争と中国侵略戦争―世界戦争情勢の根底には、こうした世界的事態がある。レーニンが『帝国主義論』で展開した世界戦争論がまさに現実となって進んでいる。
世界戦争に突入しつつある中で、米経済はさらに破綻的な状況に入り、戦争激化と軍需拡大、労働者人民への犠牲転嫁に突き進んでいる。米帝と世界は完全に革命的情勢を迎えたのだ。
戦争下で長期化する物価暴騰と人民の生活破壊
ウクライナ戦争・中国侵略戦争―世界戦争へと突入することによって、米帝の没落・衰退は、経済面で新しい局面に入っている。すさまじい物価騰貴・インフレが最大問題だ。6月の消費者物価指数は前年同月比9・1%も上昇し、1981年11月以来40年ぶりの高い伸びとなった。第2次石油危機(78年10月~82年4月)、80~82年世界不況の時以来の物価上昇だ。とりわけ卵や肉、野菜など基本的な食料品の価格はこの1年間で15~30%上昇し、家賃やガソリン代の値上げとともに人民の生活を直撃している。米連邦準備制度理事会(FRB)が金融引き締めに転じている中でもインフレは加速している。
インフレ・生活必需品高騰によって、米労働者人民は貧困・窮乏に突き落とされている。子どもがいて食料が不足している家庭は7月までに16%以上増加しており、5家族のうち1家族は食料が足りていないという調査結果もある。
なぜ、これほどの物価上昇となっているのか。基底的には、2008年リーマン・ショックによる大恐慌に対して財政支出が拡大され、金融も超緩和され、20年からのコロナ禍で財政も金融もさらに拡張されたことがある。米帝だけをとっても、21年3月には1兆9千億㌦の米国救済計画法、11月には1兆㌦のインフラ投資法が成立した。
FRBは米国債などを買い取る形で財政を補てんし、金融を緩和し続けたので、FRBの保有資産はわずか2年で4兆㌦から9兆㌦に倍増した。世界のワールドダラーはリーマン・ショック直前の2兆㌦から20年には9兆㌦を超えた。
FRBがどんなにあがいても、インフレの制御などできない。なぜなら、今や米帝のインフレはウクライナ戦争・中国侵略戦争によって、根底的に加速されていくからだ。世界経済は分断される。これはたんに原油や食糧にとどまらず、全面的な経済の囲い込み、ブロック化として進行し、世界経済全体を収縮させていく。インフレは戦争下のインフレとして長期化し、超インフレ化していくのだ。
生活必需品の暴騰によってインフレが第一級の階級的問題と化し、しかもインフレを放置すると物価の累乗的な上昇という悪性インフレに転化するのである。FRBが七転八倒しても解決できるものではない。
金融引き締めで大恐慌は再加速
FRBは政策金利を今年6月以降、3会合連続で0・75%ずつ大幅に引き上げ、政策金利の誘導目標は3・0~3・25%となった。また、6月から米国債などの保有資産を圧縮する量的引き締め(QT)にも乗り出した。減額ペースは月475億㌦としていたが、9月からは2倍の950億㌦に引き上げた。年間で1兆1千億㌦のペースで金融市場から資金を回収する計算になる。この利上げとQTで株価は急落し、大恐慌が再加速しつつある。すでに4~6月期の実質成長率は前期比年率0・9%減、2四半期連続のマイナスとなった。実質マイナスが2四半期続くと「景気後退」とされる。物価高で個人消費が減速し、急速な利上げで住宅投資も冷え込んでいる。本格的な引き締めの前から下降しているのだから、23年はもっと急激に落ち込む。
IT大手先頭に軍需産業と戦争にのめりこむ米帝
この歴史的大インフレ問題の根底にあるのは、08年大恐慌が暴露した過剰資本の歴史的累積である。米経済は、企業面でも、国家の貿易・財政・通貨の面でも、一段と没落・衰退している。供給不足だった半導体市場で、22年春以降はコンピュータの主記憶装置として主流の半導体メモリ・DRAMの在庫がだぶつき始め、価格も急落してきた。一方で世界の半導体メーカーの設備建設計画は29件にも及び、23年には設備過剰が劇的に露呈するのは必至だ。歴史的な〈産業実体での過剰資本〉の発現となる。米国では、支払利息を営業利益で賄えない「ゾンビ企業」は時価総額上位3000社の2割を超えており、大打撃となる。
国家財政の面で見ても、10月3日に米連邦政府の総債務が初めて31兆㌦を超えた。デフォルト(債務不履行)を回避するために議会は来年初めまでに債務上限を引き上げる法案を可決する必要がある。
21年の米国の貿易赤字は1兆783億㌦と初めて1兆㌦台に達し、過去最大を更新した。米帝はドル高を容認しているが、ドル高は輸出競争力を低下させて貿易収支をさらに悪化させる。
これは結局、ドルの信認を揺るがしていく。すでに海外の米国債の保有額は、21年末の7兆7476億㌦から今年7月末には7兆5012億㌦に減少した。中国が987億㌦減、日本が697億㌦減と最も多く減らした。現在は金利差でドルが買われているが、水面下では米国債とドルへの信認が低下し崩れつつある。基軸帝国主義としての没落は、今やドル体制の崩壊的危機というレベルにまで達している。
戦争のあり方を一変させるIT
ウクライナ戦争が世界戦争へと突き進み、米帝の没落と危機が深まる中で、米IT大手がこぞって軍需に傾斜しはじめている。8月13日付の英『エコノミスト』誌「中国警戒で軍需に傾く米テック」(8月16日付日本経済新聞)から引用する。「テクノロジーは戦争のあり方を変えている。ハイテク大手も新興企業も、年間1400億㌦(約18兆7000億円)規模の国防総省の調達と全体で相当な規模に上る米同盟諸国の軍事費に目を向けている」
「兵器や指揮統制システムに高度なコンピューティング、特にAIが取り入れられつつあり、国防総省は取引先としてシリコンバレーに目を向け始めている。国防総省は、センサーと部隊がリアルタイムでデータを共有する『全領域統合指揮統制(JADC2)』を構築しようとしている」
「ハイテク大手はすでに軍隊や法執行機関にクラウドストレージ、データベース、ロジスティクスなどを納入しているが、次は戦場に近づこうとしている。アルファベット、アマゾン、マイクロソフト、オラクルは、『JWCC』という国防総省がクラウドを導入する90億㌦規模のプロジェクトの5年契約を共同受注しようとしている」
もともとインターネットは軍事部門を土台にして登場し発展したものであり、IT大手が軍需に活路を求めるというのは本来的なことだ。米帝がIT大手に世界戦争に向けた再編を迫り、IT大手が歴史的に行き詰まって資本としての延命を軍需に託そうとしている。軍事システム・軍事ソフトで優位に立つことで、ウクライナ戦争・中国侵略戦争を有利に構え、帝国主義間争闘戦でも優勢に進めるという狙いがある。米経済を「代表」するまでに至ったIT大手が軍需に傾くことは、米帝をますます戦争へと向かわせる重大事態だ。まさに世界戦争が始まりつつあることが浮き彫りになる。
大軍拡と戦争に一切かけ破滅の道に突き進む日帝
世界戦争過程に突入する中で、帝国主義間争闘戦でますます弱い環と化している日帝経済の最大問題は、円安の加速でインフレが本格化しつつあることだ。9月の企業物価は前年同月比9・7%上昇し、比較可能な1981年以降で過去2番目に大きな伸びとなった。主因は円安である。1~6月の円の対ドル下落率は20%に達し、1973年以降の変動相場制のもとでは最大となった。9月の輸入物価指数は前年同月比48%も上昇し、過去最大の伸びとなった。こうした輸入物価、企業物価の高騰が消費者物価を押し上げつつある。8月の消費者物価は前年同月比2・8%上昇し、消費増税の影響があった期間を除けば、バブル景気直後の1991年9月以来、30年11カ月ぶりの水準となった。
インフレ下では、名目賃金が上がらなければ実質賃金は減少する。8月の勤労統計調査では、1人あたりの賃金は実質で前年同月比1・7%減と、5カ月連続で前年を下回った。平均1㌦=140円が続く場合、2人以上の世帯の22年度の家計負担は平均で約7万8千円増えるとの試算もある。20年の家計調査では、世帯収入200万円未満だと生活必需品の割合が58%を占めており、物価高騰に直撃される。
円安の原因は、政府・日銀が金融の超緩和を続けていることにある。日帝は中国侵略戦争への参戦と大軍拡を決断し、その予算捻出のために国債価格の維持を最優先し、マイナス金利政策を続けている。マイナス金利のままで、ドル売り・円買いの為替介入だけで円安を止めることはできない。
国債増発の先には大増税が待つ
これほど野放図な財政・金融政策を続けているため、ついに日本国債の信認が低下し崩れている。日銀が買い入れた長期国債は6月下旬に発行残高の50・4%に達した。「日銀による大量の国債買い入れで市場機能が落ちたことで、日銀の政策の限界が露呈したとみて国債売りをしかける海外勢が増えている」(7月21日付日経新聞)。外国人投資家の国債売りは6月に4兆円を上回り、過去最大となった。売りは現物債だけでなく先物でも膨らみ、海外勢による長期国債先物の売越額は年初から7月初めまでで4兆円を超えた。
10月初めには、新発10年国債の売買が3日続けて成立しなかった。1999年3月に新発10年物が指標銘柄となって以降初めてだ。
また、4~9月に海外投資家は日本の現物株を1兆5281億円売り越した。株式・債券・通貨のすべてにおいて日本が売られる、という惨状なのだ。
岸田政権は、5年で総額40兆円超の軍事費で大軍拡をたくらんでいるが、その財源は大増税・社会保障費削減か国債増発しかない。いずれにしろ、戦争に向けた国家大改造に伴って経済的・社会的な危機は深まり、「最弱の環」としてさらに破滅的になる。
革命的情勢を革命に転化する闘いをやりぬこう
このように見てくれば、現在の世界と日本の情勢が革命的情勢そのものであることは明白だ。帝国主義の矛盾が爆発し、帝国主義とスターリン主義の対立がウクライナ戦争、中国侵略戦争としてすでに激発している。その中で桁外れのインフレ、実質賃金の急低下、大失業と生活破壊が進み、政府と資本に対する労働者人民大衆の怒りがどこの国でも爆発し、さらに発展しつつある。今や本格的な革命的情勢が到来したことは明らかではないか。しかし、レーニンも言っているように、革命的情勢を革命に転化するためには「旧来の政府を打ち砕く、(または揺るがす)に足りるほどの革命的大衆行動を行う革命的階級の能力」が必要なのである。このことを肝に銘じて、今こそ全階級、全人民のあらゆる怒りを結集して立ち上がろう。
最大の鍵を握るのは日本での闘いだ。12月の国家安全保障戦略など安保3文書の改定をめぐり、安倍国葬に続いて労働者人民の怒りが巻き起こるのは確実だ。改憲・大軍拡の岸田打倒の闘いを、中国侵略戦争阻止―世界戦争阻止の大決戦として闘おう。戦争絶対反対の闘いを11・6労働者集会に集めよう。
〔島崎光晴〕