中国侵略戦争狙う 戦時経済への全面転換
週刊『前進』04頁(3264号03面01)(2022/10/10)
中国侵略戦争狙う
戦時経済への全面転換
防衛費10兆円超の大軍拡に関連していま一つ重要なのは、国家の総力を挙げた防衛産業の育成や武器輸出の推進を柱とする日本経済そのものの戦時経済化(経済の軍事化・戦争化)が狙われていることである。
23年度防衛予算の概算要求には、初めて「防衛産業強化基金」が盛り込まれた。さらに岸田政権は、年内に改定を予定する国家安全保障戦略に、武器輸出を「国主導」で推進する方針を明記する見通しだ。これまで企業が行ってきた外国政府との交渉に政府が全面的に関与し、さらに防衛関連企業への財政支援を強化するという。
戦後長らく武器および関連技術の輸出を原則禁止してきた「武器輸出3原則」は、安倍政権下の2014年4月、従来の規制をほぼ全面的に撤廃する「防衛装備移転3原則」へと変更され、日本企業による武器輸出が解禁された。だがそれ以来、外国政府との間で完成品の輸出にこぎつけた例は、三菱電機のフィリピンへの防空レーダー輸出契約(20年)ただ1件のみである。目玉となる大型事業として安倍政権が全力を挙げた三菱重工業などのオーストラリアへの潜水艦輸出をはじめ、武器輸出はことごとく失敗した。
こうした中で、今や日本企業の防衛産業からの撤退ラッシュが止まらない。最近では、自衛隊の主要航空機の電装品や部品を製造し、修理・メンテナンスをも一手に担う島津製作所が、現状では低収益事業でしかない防衛事業から撤退する意向を防衛装備庁に伝えた。この他、小松製作所が軽装甲機動車の、住友重機械工業が機関銃の製造事業から撤退の意向を表明したという。
日帝政府はこれに激しい危機感を抱き、年間10兆円という大軍拡予算で防衛産業の立て直しを図ろうと必死だ。単に政府・自民党と結託する一部企業をもうけさせるためにではなく、中国を相手に長期にわたる大規模な戦争―世界戦争を遂行するために、国家を挙げての軍需産業の全面的強化とそれを通じた戦時経済の構築が不可欠なのだ。実際、「有事の継戦能力を維持するには、装備品を生産する防衛産業は欠かせない」(9月25日付読売新聞)が、この軍需産業強化という点での日帝の絶望的ともいえる立ち遅れを巻き返すには「自衛隊以外への販路拡大を助け、防衛産業の経営基盤を強化する」(同)以外にないと、岸田政権は焦りに駆られ、てこ入れを急いでいるのだ。
ここでもやはり、中国を相手に実際に戦争をやることがリアルに想定されているのである。
戦争でもうける軍需産業を育成
武器輸出の推進と一体で、岸田政権は10兆円大軍拡予算の「大盤振る舞い」によって、軍需産業を低収益事業からぬれ手に粟(あわ)の大もうけができる分野へとつくり変えようとしている。「大激変!軍事ビジネス&自衛隊 10兆円争奪戦」と題する「週刊ダイヤモンド」22年8月27日号の特集は、「降って湧いたチャンスを前に陸海空の自衛隊や軍事関連企業はそろばんをはじき、『バブル予算争奪戦』の様相を呈している」「米国の軍需産業が日本にどんな装備を売りつけようかと、手ぐすね引いて待っている」と報じる。同誌が掲載している「防衛省契約高ランキング上位20社リスト」と「防衛産業の政府や自民党との癒着の実態」のデータから一部を抜き出すと、防衛費の膨張が軍需産業に巨大な利益をもたらし、それが政府・自民党に還流される仕組みが浮かび上がる(表)。だが経団連は、これでも企業が防衛産業に安心して投資するには不十分だとして、今年4月、諸外国に政府の「言い値」で武器を売りつける「対外有償軍事援助(FMS)」制度を米国にならって日本も創設すべきだと提言した。
アメリカの軍産複合体に典型的なように、また明治以来の大日本帝国がそうだったように、戦争は政府と結託した一部巨大資本に途方もない利益をもたらし、それによって資本を軍需生産へ動員するのである。第1次大戦の真っただ中でレーニンが繰り返し暴露した通り、「祖国防衛」「民主主義擁護」といった口実で行われる帝国主義戦争は「資本家のふところをいっぱいにふくらましており、彼らのふところには、諸大国の国庫から大量の黄金が流れ込んでいる」のだ(レーニン全集第21巻「戦争についての檄〔げき〕」)。
そして米日をはじめ帝国主義は、今日の大恐慌と新自由主義の大崩壊、戦後世界体制の最後的崩壊のもとで、このような腐りきった帝国主義侵略戦争にのめり込んでいく以外に延命できなくなったのである。
〝ウクライナで商機逃した〟 元防衛相・河野太郎が暴言
安倍政権で防衛相を務め岸田政権でデジタル相となった自民党・河野太郎が、「週刊ダイヤモンド」8月27日号のインタビューに答え、「日本で開発した装備の実力は(実戦で)試したことがない」「今回、ウクライナから日本にミサイルなどの供与の依頼がありましたが、残念ながら受けていません」「チャンスがあれば供与して、実力を試す必要がある。実力があるなら輸出ができる。今回もそういうチャンスを逃した」などと語った。ウクライナの人民に塗炭の苦しみをもたらし、動員されたロシア兵にも無残な死を強制しているウクライナ戦争を、河野は日本製兵器の威力・効果を試す千載一遇の「チャンス」と見て心を躍らせ、それが実現できなかったことで武器輸出が遠のいたと地団太を踏んでいるのである。そもそも戦争当事国のウクライナへの攻撃用兵器供与は、武器輸出基準を大幅緩和した「防衛装備移転3原則」にも反しており、防弾チョッキやヘルメットの供与すら極めて重大な踏み込みである。だが河野はそれも不満だとして、今後は輸出規制を撤廃し政府主導で「防衛産業を育成する方向を示す」ことを同じインタビューの中で要求した。
この暴言は河野一人の考えではなく、現にウクライナ戦争に乗じて改憲と大軍拡を推し進め、中国侵略戦争に向けて産業構造まで含めた全面的な国家改造を急いでいる、岸田政権と日帝支配階級全体の本音に他ならない。実際、米帝は今年5月に武器貸与法を第2次大戦時以来77年ぶりに復活させ、ウクライナの戦場で米国製の威力・効果を全世界に誇示しつつ、軍需産業に巨額の利益を与えることで、空洞化した米製造業の立て直しを図ろうと全力を挙げている。
これが最末期帝国主義の腐りきった姿だ。戦争とインフレ、生活破壊に抗して決起する全世界の労働者階級人民と固く団結し、腐敗した支配階級を打倒・一掃する反帝・反スターリン主義世界革命へ進もう。