岸田政権の国家大改造攻撃 「防衛費10兆円」の大軍拡許すな
週刊『前進』04頁(3264号02面01)(2022/10/10)
岸田政権の国家大改造攻撃
「防衛費10兆円」の大軍拡許すな
「防衛費、今後5年間の総額で40兆円」「27年度までに対国内総生産(GDP)比2%、年間10兆円超へ」——安倍国葬の大破産と支持率急落にあえぐ岸田政権は、10月3日に始まった臨時国会で戦後史を画する空前の大軍拡に踏み出そうとしている。防衛省が8月31日に発表した2023年度予算の概算要求は過去最大の5兆5947億円が計上され、その内実も中国侵略戦争を極めてリアルに想定した「戦争遂行予算」となった。全世界を覆う戦時下の大インフレのもと、日本でも10月から生活必需品をはじめ6699品目が値上がりし、無数の労働者階級人民がさらなる生活の危機に追い込まれる中で、岸田政権は一層の社会保障破壊と大増税を不可避とする大軍拡を強行しようとしているのだ。断じて許してはならない。
中国への攻撃が可能に
防衛費の大幅増額それ自体は安倍、菅両政権下でも進められてきたが、岸田政権はこれを継承しつつ、単なるその延長としての防衛予算の量的拡大ではなく、自衛隊の戦闘能力の質的・原理的転換をも一気に進めようとしている。それを示すのが防衛省の23年度概算要求だ。概算要求は、「防衛力の5年以内の抜本的強化」という自民党国防部会の提言をそのまま踏襲し、その具体的な中身として「七つの柱」を列挙した。すなわち、①スタンド・オフ防衛能力、②総合ミサイル防空能力、③無人アセット防衛能力、④領域横断作戦能力、⑤指揮統制・情報関連機能、⑥機動展開能力、⑦持続性・強靭(きょうじん)性の7分野である(表)。いずれも、自衛隊が米軍とともに中国侵略戦争を遂行することを具体的に想定したものだ。この7分野のすべてにわたって、金額を明示しない「事項要求」による予算の積み増しが規定されている。
①のスタンド・オフ防衛能力とは、政府・自民党が最近になって「反撃能力」と言い換えた敵基地攻撃能力に相当する長射程ミサイルのことである。日本のメディアはこれを「敵のミサイルの射程圏外から攻撃できる能力」などと説明する。だが正確には、他国の領空上の対空ミサイルの射程圏外から攻撃できる能力のことである。要するに、中国側の防空システムに妨害されずに中国本土を直接攻撃できる能力のことだ。
概算要求がその目玉としているのは、陸上自衛隊が保有する12式(ひとにいしき)地対艦誘導弾の射程を現在の100〜200㌔程度から最大1500㌔まで伸ばし、中国本土への直接攻撃にも使える長射程巡航ミサイルへと「改良」することだ。レーダーに探知されにくいようステルス性能も向上させ、艦船や戦闘機にも搭載できるようにした上で、26年度までに1000発以上の保有をめざすという。陸自ミサイル部隊の配備が進む南西諸島にこれらが置かれれば、中国沿岸部や北朝鮮を完全に射程に収める。
国産の高速滑空弾の開発や戦闘機搭載型ミサイルの購入、さらには音速の5倍以上で飛ぶ迎撃不可能な極超音速誘導弾(巡航ミサイル)の開発をも進める。同じ極超音速兵器でも「滑空弾」と「巡航ミサイル」とはまったく別物だ。極超音速巡航ミサイルはロシアや中国も保有せず、その研究と実用化において米国が最先端を行く。それを自衛隊にも配備するため、巨額の研究・開発費を計上するというのだ。中国にとって「防ぎようのない」攻撃手段の保有をあらゆる形で追求していることがわかる。
②は、具体的には昨年配備の断念に追い込まれた迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」に代わる新型イージス・システム搭載艦の導入で、27年末の就役をめざす。③は無人機の取得だが、これにはウクライナ戦争で猛威を振るう攻撃用・戦闘用の無人機も含まれる。④は陸・海・空の一体化に加え、「宇宙・サイバー・電磁波」といった新領域での戦闘能力の強化。⑤はウクライナ戦争でも戦況を大きく左右する決定的要因となった「情報戦」の強化。⑥は部隊の展開を迅速化するオスプレイなどの輸送機や船舶などの増加。⑦は戦争の長期化を想定した武器弾薬の製造能力と火薬庫の増備を進め、自衛隊基地を拡大し施設を拡充する。
これまで自衛隊は、憲法9条の存在とそれにもとづいて「専守防衛」の建前を掲げる関係上、敵基地攻撃能力に相当する「空母・戦略爆撃機・長射程ミサイル」の保有を禁じられてきた。だが、すでに空母保有は「いずも」型護衛艦の改修で実現され、続いて長射程ミサイルの保有も進められようとしている。その一切が、中国侵略戦争に向かって解き放たれようとしているのだ。
5年間で総額40兆円超
「防衛力の5年以内の抜本的強化」と称する大軍拡の予算は、年末に改定予定の中期防衛力整備計画(中期防)で、「23年度からの5年間総額で40兆円超」という形で具体化されようとしている。すでに22年度当初予算で5兆4千億円、補正予算を含めれば6兆円の大台を超え6兆1744億円に達した。23年度はこれを上回ることは確実で、さらに毎年1兆円ずつ増額させ27年度には現在のGDPの約2%に迫る10兆円以上にまで引き上げる(表)。岸田政権はその財源として、将来的に増税で賄うことになる「つなぎ国債」の発行を検討しているが、これについては大軍拡に前のめりな産経新聞ですら「増税で対応するなら消費税率2%引き上げに匹敵する国民負担が必要で、景気の下押し圧力が強まりそうだ」(10月1日付)と嘆かざるを得ない状況だ。財務相の諮問機関・財政制度等審議会も9月26日の会合で、防衛費増額について赤字国債に依存しない安定財源の確保を求めた。だが、財政破綻国家・日帝に「安定財源」など存在しない以上、結局は大増税、そして医療や教育、社会保障制度などを徹底的に削減し破壊しないかぎり、こんな途方もない大軍拡は不可能なのだ。
そして重大なことは、23年度予算要求を決定する防衛省内の調整過程で、陸海空自衛隊の指揮・命令を担う統合幕僚監部が初めて予算の査定に加わったことである。戦前と同様に上級軍人が戦争遂行上の都合から野放図な予算を要求し、それがどんな財政危機をもたらそうとお構いなしに強行されていく。そのプロセスが、23年度概算要求から具体的に始まったのだ。
また、9月30日に発足し初会合を開いた防衛費増額のための「有識者会議」は、省庁横断で防衛力強化に取り組むため各府省庁の関連費用を「国防関係予算」として新たに創設することを提言する見通しだ。岸田はこの会合で「政府全体の資源と能力を総合的かつ効率的に活用した防衛体制の強化を検討する」と述べ、防衛費増額に向けた「経済財政のあり方」についても議論を求めた。「戦争のための予算」の確保を一切に優先させる戦時国家体制への転換=国家大改造を進めようというのだ。それがもたらす社会の崩壊と人民の生活破壊、そしてそれに対する怒りと闘いの爆発も不可避である。