岸田「新しい資本主義」の正体 戦時体制への絶望的転換 規制全廃で社会は最後的崩壊へ

週刊『前進』04頁(3250号03面01)(2022/06/27)


岸田「新しい資本主義」の正体
 戦時体制への絶望的転換
 規制全廃で社会は最後的崩壊へ


 6月7日、軍事力の抜本的強化と戦時財政への転換を宣言した骨太方針2022と一体で、「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画」(実行計画)と規制改革実施計画が打ち出された。新自由主義大崩壊下で国家主導の無制限の民営化・規制撤廃を進め、中国侵略戦争に突き進む絶望的計画だ。

国家主導で全社会民営化

 実行計画は骨太方針と同様、「平時」の経済成長戦略ではなくなった。
 「新自由主義は成長の原動力の役割を果たした」が経済的格差の拡大や経済安全保障リスクの増大、市場の失敗など多くの弊害を生んだと初めて論及。新型コロナ感染拡大、ロシアのウクライナ侵攻とともに「権威主義的国家(中国)による挑戦」を取り上げ、「権威主義的国家資本主義とも呼べる体制を採用する国は、自由経済のルールを無視した不公正な経済活動を進めることで急速な経済成長をなしとげ、国際政治における影響力を拡大してきた」と批判した。
 これに対し中国に対抗し国家の役割を強調。「市場か国か」「官か民か」(官から民へ)ではなく、市場だけでは解決できない社会的課題を「市場も国家も」「官も民も」の「新たな官民連携」で解決し成長を図っていくと明記。「市場のルールや法制度を見直すことにより、貢献の大きな企業に資金や人が集まる流れを誘引し......民間が公的役割を担える社会を実現していく」と言い放った。
 「国民の持続的な幸福を実現する」とうたうが、その正体は新自由主義の極限化であり、規制を取り払った無制限の民営化で、労働者人民が生きていく上で絶対に必要な公的制度・機能を資本が食い尽くす、社会の最後的崩壊への道だ。

「今や戦時経済だ」と叫ぶ仏マクロン

 フランス大統領マクロンは6月13日、ロシアのウクライナ侵攻以来、フランスは戦時経済体制にあるとして、軍事費と軍事産業の大幅な拡大を叫んだ。フランス軍事装備総局は民間の設備や工場を徴用して武器を製造することを可能にする法案を検討している。
 ウクライナ戦争と中国侵略戦争―世界戦争・核戦争情勢が急速に進む中で、各国帝国主義はしのぎを削って軍備増強と戦時経済・戦時体制への突進を始めた。日帝は骨太方針で大軍拡に踏み切った。実行計画は新しい資本主義の基礎的条件が国家の安全保障であり、経済安保の強化が前提であるとした。全てが戦争の言葉で覆いつくされようとしている。

戦後社会保障の一掃狙う

 実行計画は、「自由放任主義」でも「政府による社会保障を重視する福祉国家の考え方」でもない、新しい資本主義に向けた改革を進めると強調した。
 社会保障は第2次大戦の惨禍と戦後革命期以来の闘いの中で労働者階級が勝ち取ってきた成果であるとともに「ゆりかごから墓場まで」をうたった英帝をはじめ帝国主義の体制延命策としてあった。しかし今やそれは過去のものとして葬り去られようとしている。
 「民間が社会的課題の解決に貢献し公的役割を担う社会を目指す」というが、民営化で労働者階級の貧困やそれゆえに子どもを産み育てることも困難な現実、国鉄分割・民営化が行き着いたローカル線「一挙廃線」や郵政民営化、自治体の「平成の大合併」による「国土荒廃」は解決されるのか。全く逆だ。
 コロナ危機は民営化による医療崩壊の現実を暴いた。大阪のコロナ死者が全国最多なのは橋下徹に始まる維新の会の首長による公立病院・保健所つぶしが元凶だ。「医療と戦争は相いれない」と、労働組合を軸に地域からの大反撃が始まった。都立病院の独立行政法人化は民営化であり、これに対する闘いが労働者と患者・住民の共同闘争として発展している。
 実行計画は富裕層優遇の「資産所得倍増計画」を打ち出した。岸田は「労働移動の円滑化」=総非正規職化と一体で「最低賃金1千円」を唱えるが、時給千円でどうして貧困が解消するというのか。貧困と階級格差はいよいよ拡大し、労働者の怒りが地の底から噴き上がることは不可避だ。

数千の規制撤廃は安全の崩壊に直結

 規制改革実施計画は、膨大な規制撤廃項目を列挙した。6月3日にデジタル臨時行政調査会(デジタル臨調)が策定し法の大改悪を目指す「デジタル原則に照らした規制の一括見直しプラン」は4千条項に上る。それに基づく全面的な実施計画だ。年内にさらに1千の条項を加えるという。
 これまで実地・対面で行ってきた目視、実地監査、定期検査・点検、常駐・専任などの規制の撤廃は一つ一つが安全崩壊に直結する。
 対象は国土交通省や原子力規制庁など全省庁に及ぶ。ダムや堤防などのインフラ点検はドローンで済ませ、建設現場の巡視はカメラで代替。工場の汚染物質測定は定期検査からデジタル監視に。デパートやホテルの消火設備はリモート点検。介護施設の管理者の常駐はテレワークに----。災害や事故がこれまで以上の規模と深刻さで激発することは必至だ。
 さらに行政や民事訴訟・刑事司法の手続き、労働時間規制や雇用、教育、保育、医療・介護など全般にわたる。在宅医療では看護師が行う点滴薬剤の交換や床ずれに薬を塗る作業などを薬剤師が代行する「職務シェア」。介護分野では介護施設の入所者3人につき最低1人の職員を配置する基準を特例で柔軟に運用できるようにする。2024年度中に保険証を原則廃止しマイナンバーカードに一体化させたマイナ保険証の利用を促進。運転免許証も統合し、事実上のマイナンバーカード義務化と医療情報や学習履歴、資産などあらゆる個人情報を一元管理する監視国家化が進められようとしている。
 全てが社会のあり方を変え命の危機に直結する。労働者人民の命と健康、権利などは度外視される戦時国家への転換そのものだ。

情勢変える大反戦闘争を

 骨太方針と実行計画、規制改革実施計画が示した攻撃は根底的で全面的だ。日帝は中国侵略戦争へ絶望的にひた走ろうとしている。そのことが攻撃の一切を規定している。
 参院選は全政党が「国防政党」であることを競い合うおぞましい姿をさらけ出している。6月19日に発足した「令和国民会議」(令和臨調)には連合会長・芳野友子が加わった。中国侵略戦争に向けた大政翼賛会と産業報国会への突進だ。
 参院選で戦争絶対反対の候補はいない。情勢を変え改憲・戦争の流れを断つ大反戦闘争が必要だ。全ての労働者・学生は今夏・今秋、総力で決起しよう。
 階級矛盾は激化し、怒りがあらゆるところから火を噴いている。職場・地域から総反乱を作り出そう。規制撤廃・民営化、安全破壊は全産業・産別の職場が最大の攻防となる。動労千葉が編み出した反合理化・運転保安闘争戦術を駆使して激突し粉砕しつくそう。階級的労働運動の飛躍と国際連帯をかけ戦争を内乱へ、日帝打倒へ闘いぬこう。

------------------------------------------------------------
新しい資本主義実行計画
権威主義的国家資本主義の不公正な経済
・権威主義的国家資本主義の国(=中国)はルールを無視した不公正な経済活動で急激な経済成長を遂げ、その挑戦にさらされている
「市場も国家も」の新たな官民連携
・市場だけでは解決できない大きい社会的課題を「市場か国か」「官か民か」ではない「市場も国家も」の新たな官民連携で解決目指す
・市場のルール、法制度を見直し、民間が公的役割を担う社会(=全社会の民営化)へ
・経済安全保障が新しい資本主義の前提
規制改革実施計画
デジタル原則を踏まえた4千条項見直し
・目視、実地監査、定期検査・点検、常駐・専任など安全に係わる規制の撤廃、行政手続き
個別分野ごとの全般にわたる規制撤廃
・司法手続き、労働時間、教育・医療・介護など

このエントリーをはてなブックマークに追加