裁判IT化法成立阻止を 狙いは改憲と労働組合弾圧 公開原則破壊し裁判が形骸化

週刊『前進』04頁(3244号03面04)(2022/05/16)


裁判IT化法成立阻止を
 狙いは改憲と労働組合弾圧
 公開原則破壊し裁判が形骸化


 法制審議会(法相の諮問機関)は2月14日、民事裁判の提訴から判決までの手続きをIT化するための民事訴訟法の改定要綱を古川禎久法相に答申し、「民事訴訟法等の一部を改正する法律案」が今国会に提出された。衆議院では、法務委員会でわずか3回の審議を経ただけで4月21日に可決し、現在、参議院で審議中である。秋の通常国会では刑事裁判への適用も狙われている。これは改憲攻撃そのものであり、戦時体制づくりの司法版だ。絶対反対で闘う「現代の治安維持法と闘う会」呼びかけ人の山本志都弁護士の訴えを掲載します。(編集局)

財界の要請を受け裁判をビジネス化

 裁判の「IT化」とは、弁護士など訴訟代理人に対し、訴状や準備書面のオンラインでの提出を義務づけ(本人訴訟は除く)、口頭弁論や証人尋問、判決言い渡しなどの手続きを、当事者・代理人が裁判所に行かなくても進められるようにし、訴訟記録を紙媒体から原則電子化し、当事者らは裁判所のサーバーに外部からアクセスできるようにする、という内容だ(2025年度までに順次実施するとされている)。
 実はこのIT化は、首相官邸の日本経済再生総合事務局で07年から検討が開始され、「未来投資戦略2018」で推進することが打ち出されており、裁判を「通常のビジネス実務」に近づけたいという財界の強い要請を背景にしている。

ウェブ裁判実施で傍聴も尋問も阻害

 法案では、当事者が同意しなくても、弁論準備手続や書面による準備手続きをオンラインで行い、口頭弁論もウェブ会議で実施できるとしている。
 裁判の公開は裁判の公正を確保するための制度的保障であって、特に労働事件では労働組合関係者が傍聴に参加することで、裁判の緊張感が維持されてきたが、この原則が潜脱される。裁判支援は、口頭弁論の傍聴を通じ、法廷で行われていることを法廷外に伝えるという形で行われてきた。傍聴を媒介として、裁判は社会とつながり、社会内での運動と法廷での裁判とが両輪となって進むことになるのだが、公開主義が破壊されれば、傍聴のこの働きは大きく阻害される。
 また法案では、「証人の住所、年齢又は心身の状態その他の事情により、証人が裁判所に出頭することが困難であると認める場合」「証人が裁判長及び当事者が在席する場所において陳述するときは圧迫を受け精神の平穏を著しく害されるおそれがあると認める場合」「当事者に異議がないとき」のいずれかにあたり、裁判所が相当と認めれば、ウェブ会議方式での尋問ができるとする。しかし、モニター越しでは迫力を持って証人に迫ることは不可能で反対尋問は極めて困難になり、傍聴席から見守ることもできないため、事実に反する証言が行われるおそれが高くなる。この改悪を許せば、裁判の形骸化はさらに進んでしまう。

期間限定の訴訟で拙速な審理が横行

 この法案では、期間を限定する「新たな」訴訟手続きが、IT化とは無関係に創出されている。手続き開始から口頭弁論終結まで6カ月以内、当事者の攻撃又は防御の方法提出は5カ月以内とされ、当事者はその期間内に可能な主張と立証しか行えない。判決には控訴できない(異議を申し立てることはできるが、異議後に審理・判決を行うのは同じ裁判官である)。
 現在でも、人的証拠や訴訟法上の証拠収集手続きが却下され、審理を早期に打ち切る傾向は強まっている。異常に短期の手続き終結を強制するこの制度によって、拙速審理が横行することは間違いない。適正な手続きで十分な審理を受ける権利は侵害される。
 個別労働関係紛争や消費者契約に関する訴えは、現時点では対象から除かれ、当事者の同意が必要とされているが、制度導入後にその規定が撤廃される可能性も指摘されている。当事者間の主張の対立が大きく、証拠の偏在が著しい裁判でこの手続きが導入されれば、労働者や市民の負担はあまりにも大きくなる。

参院での成立阻むため立ち上がろう

 当事者や証人のなりすまし、尋問時のカンニングペーパーの提供などの不正をどうやって防ぐのか、データ管理の安全性は保たれるのか、いわゆる「IT弱者」対策をどうするのか、運用上もさまざまな問題点が指摘されているが、それらについても具体的な対応策は全く示されていない。
 参議院法務委員会での審議は始まってしまったが、今国会での法案成立を阻むために立ち上がろう。
(弁護士・山本志都)
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