日経「緊急提言」を批判する 狙いは医療労働者の戦争動員だ
週刊『前進』04頁(3236号03面02)(2022/03/21)
日経「緊急提言」を批判する
狙いは医療労働者の戦争動員だ
2月21日付日経新聞が、1面、2面(社説)に加え、7面をすべて使って大々的に「医療改革」をめぐる緊急提言を打ち出した。日経新聞社と日本経済研究センターが組織した「医療改革研究会」がまとめたものだ。7面大見出しの「医療有事 政府に司令塔を」に象徴される中身はさらなる医療への国家統制と戦時医療化すなわち改憲・戦争であり、結論は医療費負担増と消費増税だ。コロナを口実に医療破壊を進める政府・財界に対し、職場・地域から反撃を組織しよう!
「医療総動員する有事の司令塔を」
提言は「新型コロナウイルスのパンデミックが日本の医療体制の脆弱(ぜいじゃく)性を浮き彫りにした」と切り出しながらも、公的医療の拡充や医療・介護現場の労働条件改善ではなく、医療への国家統制と民営化の推進、社会保障解体を要求している。この提言のキーワードが「政府のガバナンス」だ。「政府・都道府県が強制力を伴って医療提供体制の確保を維持できる仕組みを構築すべき」「医療界の資源や人材を総動員できる有事の司令塔が政府に必要である」という主張が全体を貫いている。「コロナ治療に積極的に取り組む医療機関とコロナ患者を忌避する医療機関との二極化」が顕在化したからだというが、これはまったくのウソだ。
コロナ下で明らかになったのは、新自由主義のもとで公的医療が極限まで破壊されてきたという現実だ。とりわけ、維新の会により府立・市立病院の独立行政法人化が強行され、公的病院の割合が全国平均の約半分に相当する10%まで減らされた大阪府では、看護師不足によりコロナ専門病院にコロナ患者をほとんど受け入れることもできない状況が現出した。その結果、昨年5月には人口当たりのコロナによる死者数が世界最悪となったのだ。
「政府の責任」でのトリアージを要求
さらに許しがたいのは、「今後、病床の逼迫(ひっぱく)の深刻度が増し、重症者治療がままならないような危機が予見される場合は、入院患者の優先づけなどに政府が全面的な責任をもつ態勢をつくれるようにしておく必要がある」と、命の選別(トリアージ)=戦時医療化の推進を求めていることだ。医療を破壊してきた張本人である政府によって労働者民衆の命が守られることなど絶対にない。労働組合に団結した医療・介護・福祉労働者の闘いと日々の労働こそがコロナ下で患者や利用者を含めた労働者民衆の命と健康を守り抜いてきた。労組の闘いで公的医療の拡充をかちとろう。
デジタル化の深化掲げ労働者を管理
さらに提言は「HCX(ヘルスケア・トランスフォーメーション)実現」を掲げ、「デジタル技術を活用し各医療機関から人材や病床の状況について報告を求める仕組みを構築すべき」と展開している。厚生労働省はすでに、デジタル改革関連法に基づいてマイナンバーを使った医師や看護師の住所や資格情報の一元的な把握・管理を打ち出している。「緊急時に人材確保を呼びかける」ためだという。まさに医療労働者の戦争動員であり、絶対に許すことはできない。あわせて「危機時には公共の利益を優先するために個人のプライバシー保護を一定程度、制限する仕組みも課題に」などと、「有事」を振りかざした実質的な改憲をあおっている。
また、感染症治療薬の開発をめぐっては「医薬イノベーション」をうたい、国家戦略としてバイオベンチャー企業の育成をめざすべきだとしている。これはさらなる規制緩和と医療の民営化だ。
社会保障の解体と増税許さず闘おう
提言は最後に「社会保障の負担・給付改革に着手せよ」というタイトルの章を設け、社会保障費の削減と消費増税を露骨に要求している。この章の冒頭では、「人口あたりの(コロナ)対策額は主要国で最も高く……、政府が抱える債務は急迫の度を増している。にもかかわらず日本経済は巨額の対策費に見合うだけの成長回復にはほど遠い」などともっともらしく書いているが、説得力はゼロだ。「コロナ対策」の中身も、「アベノマスク」配布やGoToトラベルなど、労働者民衆の切実な要求とはかけ離れ、パソナや電通をはじめとする大資本をもうけさせるものでしかなかった。そもそも、病床削減や公立病院の独法化のために巨額の予算を投入してきた連中が、政府債務や経済危機を口実に医療や社会保障の費用を削減したり自己負担を増やしたりすることなど絶対に許されない。
政府・財界の意思をむきだしにした「提言」の具体化を阻むのは現場の闘いだ。ウクライナ反戦のうねりの中で、命と健康を守る最前線に立つ医療労働者の闘いは敵を確実に追いつめている。医療・介護・福祉現場や地域から、医療と社会保障の解体を許さない闘いを巻き起こそう。何よりも、小池都知事の進める都立病院独立行政法人化を阻止するために闘おう。