投稿 戦争が人の心をむしばむ ―沖縄戦に見る精神トラウマ 精神科医療労働者 櫛渕秀人
週刊『前進』04頁(3229号04面04)(2022/01/31)
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戦争が人の心をむしばむ
―沖縄戦に見る精神トラウマ
精神科医療労働者 櫛渕秀人
「ガジュマルに肉片がたれ下がり……爆風でやられたらしく、体が大きく膨らみ、目を見開いてにらむように死んでいるおじいさん」「(防空壕で)赤ちゃんが泣き出すと区長さんがハンカチを口に押し込み……赤ちゃんの顔がみるみる青ざめていきます」「キビ畑を出た途端、私は死体を踏んでしまい……肌にペタっと吸い付くような感じがずっとあり」
「遺体収容の時の母や弟妹、祖母の姿がよみがえり、睡眠不足から寝込む日が続いた。……40年間封じ込められていた記憶のフラッシュバックは、彼女を苦しめ続けた」「当時9歳だった女性は……掃除機の音は、上空から急降下してくる戦闘機の音を連想させるので、怖くて使えない」「当時4歳の男性は、花火が怖い……『あの時』の壕の中で爆発した火薬の匂いを連想するので、マッチをすることができない。梅雨になると壕の匂いやカビ臭さを思い出す」「(高齢者施設で)夜中に1人の女性がふらふらと自分の部屋から出て来てがらんとした人気の無い食堂に入って……独り言を始めた。……汗を流しながら、憑(つ)かれたような表情で方言でしゃべり始めた」。これらは、沖縄戦の時の幼少時体験が高齢者となり心的外傷後ストレス障害(PTSD)となって表れたものです。
さらに「フィリピンで敗走する日本軍と一緒に銃弾の下を逃げた。晩年になり、毎年お盆の頃に1カ月間、夜に死体の匂いと強烈な不眠を呈するようになった」——。これらは沖縄タイムス社出版の『戦争とこころ―沖縄からの提言』(沖縄戦・精神保健研究会)からの引用です。
戦争が人の生命を奪うだけでなく生き残った人たちの精神を残酷に蝕(むしば)んでいく、その一端を明らかにしています。
残念ながら戦争と精神障害・PTSDなどの関連研究は日本では極めて少ないのです。精神科医の岡田靖雄氏は『もうひとつの戦場 戦争のなかの精神障害者/市民』という著書の中で、日本の敗戦時、全国の精神科病棟で入院患者さんの餓死が多数に上ったこと、デング熱の人体実験が精神科病院内で行われていたことなどを突き止めています。66年に沖縄で行われた「精神衛生実態調査」の時に、精神疾患有病率が沖縄では本土の2倍に、統合失調症は3・6倍に達しています。沖縄戦が県民の精神状態に大きな影を落としているといえます。
今、「台湾有事」を声高に発して軍備拡張・戦争体制に移行しようとする日本の支配者たち。そして沖縄を舞台に、米軍に加え琉球弧全体に自衛隊という日本軍が占領軍のような顔をして住民無視の軍事展開・戦争訓練をしています。「沖縄は消されてもかまわない」と豪語するやからまで出てきています。日本帝国主義の中国侵略戦争に向かう道は絶対に止めなければなりません。
私は精神科医療労働者として、また一人の本土の人間として改めて沖縄戦の実相に向き合わなければならないと痛感しています。
沖縄人民の戦争をまたぐ戦前戦後の塗炭の苦しみと地獄。しかし不屈に闘い続ける沖縄人民と固くつながるため、全国、全世界の民衆と力を合わせてこの戦争・核戦争を必ず止めるために共に闘いに立ち上がろうと訴えます。