台湾海峡問題とは何か 中国に照準合わせた侵略戦争 改憲・戦争阻止!大行進 高山俊吉弁護士講演

週刊『前進』04頁(3212号04面03)(2021/09/27)


台湾海峡問題とは何か
 中国に照準合わせた侵略戦争
 改憲・戦争阻止!大行進
 高山俊吉弁護士講演

(写真 講演する高山俊吉弁護士)
(写真 台湾有事を想定し南中国海で共同演習する海自護衛艦いずも(手前)と米原子力空母ロナルド・レーガン)


 米日帝国主義の中国侵略戦争への動きが強まる中、9月14日、東京・中央区で「改憲・戦争阻止!大行進」が主催して、高山俊吉弁護士(大行進呼びかけ人)を講師に「台湾海峡問題とはなにか?」学習講座が開かれました。40人の労働者・学生が熱心に講演に耳を傾け、その後討論が行われました。歴史から学んで闘うことの重要性を訴えた高山さんの講演(要旨)を紹介します。(編集局

日本の侵略と敗戦の歴史

 菅が辞める話が出た翌4日の朝日新聞の川柳欄に「初めてだ国民のために働いた」という投句がありました。12日の朝日歌壇には「このひとが寄り添うことなどありえぬと誰もが思った広島の朝」という歌が選ばれていました。端的にたたきのめす。やはり歌も武器ですね。
 ただ、人物の問題に収斂(しゅうれん)するのは少し気になる時があります。人が代われば状況が良くなるかもしれないという議論に簡単になってはいけない。ものごとは、なぜこんなことになったのかを知ること、つまり原因を探ることが大切です。
 最近「台湾海峡問題」が叫ばれ、「中国の動きはおかしい」という議論が盛んです。「台湾海峡問題」とは何なのか。今日はそこを探ってみたいと思います。
 話は日清戦争にさかのぼります。1894年、日本は李王朝統治下の朝鮮半島を侵略し、宗主国清国との戦争に突き進みました。結果、勝った日本は清国から遼東半島、台湾、澎湖諸島などの領土のほか、途方もない賠償金を奪い取りました。1895年のことでした。
 50年という歳月が経過し、1945年8月15日、日本は太平洋戦争で敗北する。そして戦争の終結を確認する1952年のサンフランシスコ平和条約の第2条(b)で、「日本国は台湾及び澎湖諸島に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄する」ことを承認した。
 そこからさらに20年が経過した1972年に日中国交回復の前提として日中共同声明が発表された。そこで「中華人民共和国政府は、台湾が中華人民共和国の領土の不可分の一部であることを重ねて表明する。日本国政府は、この立場を十分理解し、尊重し、ポツダム宣言第8項に基づく立場を堅持する」と誓約したのです。
 ポツダム宣言は、日本が大戦敗北を宣した1945年8月15日の20日ほど前に出されたもので、第8項は「カイロ宣言の条項は履行せらるべく、また日本国の主権は、本州、北海道、九州及び四国並びに我等の決定する諸小島に局限せらるべし」とうたっていました。日中共同声明は、日本がポツダム宣言の堅持を再確認したことにより成立したのでした。
 履行せらるべしとされた「カイロ宣言」は太平洋戦争開始約2年後の1943年11月に連合国側が自分たちの戦争方針を確認したものでした。宣言は「台湾など日本国が清国人から盗取したすべての地域を中華民国へ返還させることが同盟国の目的である」と言っています。日中共同声明が明らかにした内容は、日本のアジア侵略の歴史をここまでさかのぼるものだったのです。
 さて、共同声明からさらに35年が経った2007年、日中首脳会談に臨んだ福田康夫首相は「台湾問題に対する日本の立場は一貫している」「我が国は台湾の独立を支持しない」と表明します。長い期間を間に挟んで日本政府の代表が日中共同声明の確認を堅持するとあらためて言ったのでした。
 しかし、2012年に日本政府(民主党・野田佳彦内閣)が釣魚群島(尖閣諸島)の「国有化」を宣言したことなどをきっかけに、それまで散発的に発生していた領有権をめぐる紛争は一気に深刻化します。2013年に提唱された「一帯一路」構想に象徴される中国の海洋進出や陸路交流拡大に向けた国際戦略も情勢を大きく変えました。
 米国は、中国が新たな覇権政策を画策しているとして対中戦略を大きく転換し、2018年には「太平洋軍」の名称を「インド太平洋軍」に変えて照準を中国に合わせました。
 対して19年1月、中国の習近平国家主席は台湾政策について、「武力の使用を放棄しない」と表明し、20年5月、李克強首相はそれまで常用していた「台湾の平和的再統一」という言い方をやめ、「台湾再統一」と言い切りました。

日米共同声明と麻生発言

 さて今年です。日米首脳は、4月の日米共同声明で日米同盟の意義と日本の軍事力強化を確認し、中国に対し「台湾海峡の平和と安定の重要性」「両岸問題の平和的解決を促す」と言いました。「平和的に解決しないなら考えるところがあるぞ」という恫喝(どうかつ)含みの表現は、中国の台湾政策のありようをとらえて中国を挑発するものでした。
 7月5日、麻生太郎副総理兼財務相は、「台湾で大きな問題が起きると(日本の)存立危機事態に関係してきてもおかしくない。そうなると、日米で一緒に台湾の防衛をやらないといけない」と言いました。中国が自国の一部とする台湾に武力を行使した場合にも、日本は米国とともに軍事行動に立つぞと言ったのですから、それはこれまでの日中共同声明の中身や日中不再戦の姿勢を根底からひっくり返すものです。
 これは麻生財務相の個人的な発言ではない。今年の防衛白書には、「強権をもって秩序を変えようとする者があれば、断固としてこれに反対しなければならない」「台湾情勢の安定は日本の安全保障や国際社会の安定に重要である」とあります。戦国武将の騎馬姿を表紙に掲げた今年の防衛白書は「臨戦態勢の軍事方針書」というべきものです。
 今や日本の軍事政策の照準はアメリカ同様、明確に中国に絞られています。陸上自衛隊は今月から2カ月にわたり九州各県で10万人を動員する大演習を実施します。隊員総数13万8千人の4分の3近くを国内で最も中国に近い地域に集める異様な規模の演習です。
 自民党は防衛費を抜本的に増額せよと要求しました。政府は日米同盟のもとで、中国に対し「懲罰的抑止の姿勢を明示する必要」を強調し、自衛隊の元幹部は朝日新聞紙上で今日の東アジア情勢を「日清戦争前夜に似ている」と言いました。日清戦争は明々白々な侵略戦争です。恥ずかしげもなく戦機到来と言い切る姿勢に驚愕(きょうがく)します。その発言に何のコメントもしない朝日新聞の神経にも驚きますが。

国際的な反戦のうねりを

 「台湾海峡問題」。それはこの国が再び中国侵略戦争に向かう口実に、あろうことか日本の大陸侵略が原因で生じた「中国の国内問題」を理由に戦争を起こそうと謀る政治的用語です。武力行使を公然と言う中国要人の言は到底承認できませんが、だからと言って日本の侵略戦争が許されるという理屈を許せる訳がない。私たちはものごとを透徹した目で見る必要があります。
 戦争を起こさせない力はどこにあるのか。労働者民衆が反戦と改憲阻止の旗を掲げて立ち上がる。その声が国中に燎原(りょうげん)の火のように広がる。そしてその波が韓国・北朝鮮、中国そして世界の民衆に力強く伝わる。彼らは自国政府の戦争欲求に正面から対決する。あるいはすでに立ち上がっている勢いを一層強める。国際的な反戦のうねりがこの戦争を阻止する確実な力になる。
 11・7全国労働者集会は、様々な場面や分野で闘っている人たちが文字どおり一堂に会し、そこでお互いに力を分け合い力をもらい合う場にしたい。そしてその経験を各自の持ち場に持ち帰り、それぞれがこれまでつくり上げてきた運動をあらためて何層倍にも広げ深めるきっかけにしたいと思います。

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