侵略軍への転換示す防衛白書 台湾に言及し中国への先制的武力行使も狙う
週刊『前進』04頁(3207号03面01)(2021/08/23)
侵略軍への転換示す防衛白書
台湾に言及し中国への先制的武力行使も狙う
米日による中国への戦争策動が進む中、菅政権はかつてない大軍拡=自衛隊の本格的な侵略軍隊化を一気に推進しようとしている。防衛省が今月中にまとめる2022年度予算案の防衛費概算要求は、過去最高だった今年度当初予算5兆3422億円を大きく上回る見通しだ。「4月の日米共同声明に日本の『防衛力の強化』を意味する文言が入ったことが(予算膨張の)背景にある」(8月12日付朝日新聞)と報じられた通り、4月日米会談が決定的な転換点となった。この転換を踏まえた日本帝国主義の軍事戦略を最も集中的に表現するのが、7月13日に防衛省が発表した「2021年版防衛白書」である。
米中戦争は不可避として参戦を示唆
今回の防衛白書では、4月日米共同声明に続いて、台湾情勢に初めて言及。しかも「台湾をめぐる情勢の安定は、わが国の安全保障にとってはもとより、国際社会の安定にとっても重要」という言い方で、いわゆる「台湾有事」が「日本の安全保障」にかかわる問題だという認識を示した。これは、中国があくまでも「内政問題」と位置づける台湾海峡での軍事的緊張や衝突に対し、日本政府の判断で「集団的自衛権」を行使して自衛隊を投入し軍事介入に踏み切ることを公然と示唆するものであり、「両岸問題の平和的解決を促す」とした日米共同声明よりもはるかにエスカレートした表現だ。
副首相兼財務相・麻生太郎が7月5日の講演で、「台湾海峡は石油に限らず日本の多くの輸出入物資が通る。台湾で大きな問題が起きれば(集団的自衛権行使の要件となる)存立危機事態に関係する。日米で台湾を防衛しなければならない」と発言したのも、日帝国家権力中枢から噴き出す戦争衝動の一端を示したものとして今回の防衛白書の記述と完全に一体だ。
加えて重大なことは、新たに米中関係についての一節を設け、米中対立の分析にかなりの長文を割いていることだ。米バイデン政権が「インド太平洋における軍事プレゼンスを最重視する」と表明したことに注目し、中国との対決姿勢を明確にしたと評価。今後の米中関係については、「バイデン政権が軍事面において台湾を支援する姿勢を鮮明にしていくなか、台湾を核心的利益と位置づける中国が、米国の姿勢に妥協する可能性は低い」と明記した。「中国の台湾進攻は6年以内」との米インド太平洋軍前司令官デービッドソンの議会証言も引用した。
台湾をめぐる米中の激突にはもはや妥協の余地がなく、近いうちに米中戦争が勃発することは不可避である——このような認識を、防衛省として公然と明記したのだ。米中戦争が不可避である以上、日本もまた帝国主義としての「存立」をかけてこれに参戦する以外にない、米中の間をうまく立ち回ろうなどと考えるのではなく、対中国戦争を決断して挙国一致でその準備に入れということである。防衛白書がここまで踏み込むのは異例中の異例だ。
防衛費の大増額へ中期防を年内改定
さらに今回の白書では、釣魚島(尖閣諸島)の周辺での中国の活動を「国際法違反」と初めて断言し、これまでになく「国土防衛」を前面に押し出した。また、明確な武力攻撃ではない「グレーゾーン事態」への対処にも紙幅を割き、これが長引けば「明確な兆候のないまま、より重大な事態へと急速に発展していくリスクをはらむ」と危機感をあおっている。グレーゾーン事態とは、例えば海軍ではなく海警局が釣魚島に上陸するようなケースを想定していると言われるが、いずれにしろ明確な武力攻撃に至らない段階であっても、日帝・自衛隊が先手を打って「対処」し、場合によっては中国に先んじて武力行使に踏み切ることをも示唆するものだ。日帝の側からの「武力行使の前倒し」の宣言であり、これ自体が中国への挑発だ。
こうした戦略に基づいて、防衛白書は国産の長射程ミサイルの開発、「日本版海兵隊」こと陸上自衛隊水陸機動団の拡充、海上輸送部隊の新設、潜水艦増強などのために、来年度予算でさらなる防衛費増額を求めることを盛り込んだ。
これを受け、政府は19〜23年度を対象期間とする現行の「中期防衛力整備計画(中期防)」前倒し改定のための調整に入ったと報じられている。早ければ年内にも改定するという。大幅な予算増額のための中期防改定は例がない。もはや安倍政権時代に打ち立てた大軍拡計画ですら追いつかないほどの急速度で中国侵略戦争への具体的な準備を進めようとしているのだ。
菅は7月29日に行われた米誌ニューズウィークのインタビューで、防衛費を「GDP(国内総生産)の1%以内に抑えるというアプローチを取っていない」と述べ、軍事費を際限なく増大させる意思をむき出しにした。また、台湾有事に関して「沖縄を確実に守ることが、日本政府の非常に重要な目標だ」と語った。これは実際には、沖縄を再び戦場とし、「日本防衛の捨て石」にするという宣言に他ならない。
小中学生をターゲットに
今回の防衛白書の表紙には、「騎馬武者」の墨絵を掲載した。戦前の皇国史観のもとで「忠臣のかがみ」とたたえられた楠木正成がモデルであることは明らかだ。「天皇の軍隊」の復活を図ろうとしているのだ。これと一体で、防衛省は8月16日から防衛白書を小中学生向けにまとめた「はじめての防衛白書」なるものを公式HPに掲載。「国の防衛はなぜ必要か」「(防衛費は)必要なお金」「日本と地域、そして世界の平和を守るための日米同盟」などとイラスト付きで展開し、最後は「自由で開かれたインド太平洋」で締めくくっている。中国とのインド太平洋の権益のぶん取り合いのために自衛隊が必要だと押し出している。
もはや菅政権も日帝そのものも、排外主義をあおり立てて中国侵略戦争に絶望的に突き進む以外に延命の道がない。青年・学生を先頭に改憲・戦争阻止を闘い、11月集会の大結集で日帝・菅を打倒しよう。