書評  「非正規待遇改善」はぎまん 非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度 上林陽治 日本評論社 税込2090円

週刊『前進』04頁(3197号02面04)(2021/06/07)


書評
 「非正規待遇改善」はぎまん
 非正規公務員のリアル 欺瞞の会計年度任用職員制度
 上林陽治
 日本評論社 税込2090円


 自治労・自治総研の上林陽治氏の『非正規公務員のリアル 欺瞞(ぎまん)の会計年度任用職員制度』が2月、日本評論社から出版されました。
 今や市区町村職員の半数に迫る非正規職の雇用・労働条件は劣悪です。この本はその理不尽な現実を、丹念な取材・調査に基づいて批判。「非正規職の待遇改善」と称して昨年4月から導入された1年任期の会計年度任用職員制度が欺瞞であったことが突き出されます。自治労本部はこの制度の「意義」を説き、旗振り役を務めてきました。しかし現場では、当該の会計年度職員の中から「失望と落胆」を超える激しい怒りが湧き起こり、団結して闘う機運が広がっています。

半数が非正規職に

 著者は、コロナ下で「DV(配偶者や恋人からの暴力)や児童虐待の相談、生活困窮者への支援業務が格段に増加し……困難を抱える人々の声に耳を傾け、公的支援につなげてきた非正規公務員は、地域社会を支えるエッセンシャルワーカー(必要不可欠な労働者)と呼ばれ……人を支えるという使命感だけで対面の支援を進めてきた」と書き出します。そしてその労働者が声を上げ始めたことでこの本を書くことができたと述べています。
 自治体の非正規職は昨年時点で112万人超、その4分の3は女性。政令指定都市を除く市区町村では職員全体の44・1%に達し、豊富な経験を要する専門職・資格職から非正規職化されてきたと指摘。賃金は正規職の3分の1から4分の1。ハローワークや図書館の職員、臨時教員、相談員などの状況が示され、正規職の削減と一体で急速に拡大されてきた過程が明らかにされます。
 特に会計年度職員制度は「官製ワーキングプアの法定化」だと断罪。非正規職の「待遇改善」の願いを逆手にとって一層の雇用・労働破壊の悪法が作られた経緯が示されます。在職10年のベテランでさえ任期更新のたびに1カ月の試用期間で脅され、「従前の年収さえも確保できない事態さえ続出」。フルタイムの職員をパートタイムにして賃金を下げ、手当を出さなくて済むようにする脱法行為が横行していることを暴きます。まぎれもなく労働者の権利侵害・団結破壊、賃金破壊であり、総非正規職化の水路となる攻撃です。

分断を乗り越えて

 しかし、この本が暴いた現実を打ち破る労働組合の闘いが進んでいます。会計年度職員が労組に結集して全員パート化を阻んだり、継続雇用や手当支給を勝ち取ったりする闘いが各地で繰り広げられています。ここにこそ希望があります。
 民営化・外注化が非正規職化を加速し、公的業務の破綻と社会崩壊の危機をもたらしています。それは国鉄分割・民営化以来の新自由主義による階級戦争の結果です。〈コロナ×大恐慌〉情勢下の改憲と戦争、国家と革命の問題であり、労働組合の闘う路線が問われています。
 特に正規・非正規職の分断を乗り越える上で、この本は役立ちます。民営化・外注化絶対反対の闘いと結合して会計年度職員制度の廃止、非正規職撤廃・正規職化を求めて闘うことこそ基本方針です。マイナンバー制度とデジタル合理化・総非正規職化に協力する連合・自治労本部と対決する階級的労働運動推進の立場に立つ時、この本は大いに活用できると思います。
(大迫達志)
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