年収200万で窓口負担2倍化 高齢者から医療奪うな
週刊『前進』04頁(3197号02面03)(2021/06/07)
年収200万で窓口負担2倍化
高齢者から医療奪うな
「自分は年金があまり出ないし、ほとんど医療費のために働いている。それを2倍化するとはどういうことだ! もっともっと働けということか」——シルバー人材センターの会員でダブルジョブで働く70代後半の労働者は、公園清掃の手を止めて声を荒らげた。
コロナ下で、75歳超の高齢者の医療費窓口負担を現行の1割から2割にする法案が衆議院を通過し参議院での採決が迫っている。「国家財政の負担となる医療費抑制」「現役世代の負担軽減」へ「年収200万円以上」の単身世帯、「同320万円以上」の夫婦世帯は「負担能力がある」として窓口負担を2倍化するというのだ。
受診を抑制して重病化招く危険
対象は370万人というが、これは始まりに過ぎない。法案には対象となる高齢者の具体的な収入額は示されず、政令によっていくらでも対象を広げられる。医療費負担の引き上げは高齢者から医療を奪い社会保障を破壊する。この暴挙を許してはならない。年収200万円では食費・水道光熱費、家賃や住民税、国民健康保険料、介護保険料の支払いだけでギリギリだ。この状況で医療費の窓口負担が2倍になったら、受診を控えて切り詰めるしかなくなる。政府試算ですら2割負担の導入で受診控えの影響額が1050億円になるという。受診控えが重病化を招く危険性を多くの団体が指摘し法案への反対を表明している。
菅政権は5月21日成立の改悪医療法に基づき、このコロナ下でも全国の公立・公的病院の再編・統合、病床削減を恒常化し、医師・看護師不足の解消ではなく「過労死ライン」をはるかに超える医師の超長時間労働の継続と、「受診自体の抑制」を意識的に進めようとしている。すべてが命の危機に直結する問題だ。窓口負担2倍化はその重大な水路となる攻撃だ。
国保料、介護負担引き上げて収奪
「現役世代の負担軽減」は大うそだ。国民健康保険料や地方税、介護保険利用者負担の引き上げが同時に進められようとしている。法案は自治体への国保料・税の値上げ圧力を法定化する。国保料などを抑えるために実施されている自治体独自の公費繰り入れの解消を求め、保険料水準の統一を都道府県の運営方針に記載させて値上げを促すことを明記している。
4月26日の経済財政諮問会議は「後期高齢者の自己負担割合引き上げを円滑に実施……医療・介護制度の不断の改革に取り組む」と議論。財務省の財政制度等審議会は5月21日、「介護保険サービスの利用者負担を原則2割とする」ことなどの検討を求めた。
医療・介護・社会保障の全領域で、全世代に対する徹底的な収奪の強化が狙われているのだ。
医療費の圧力で高齢就労を迫る
医療費引き上げは高齢就労の強制と一体だ。4月1日、「70歳までの就業機会確保」を企業の努力義務とする70歳就業法が施行された。旧法の65歳までの「雇用」を「就業」に変えて労働者としての権利を否定・後景化させ、70歳までに延長。政府は年金支給開始を70歳超へ遅らせることと一体で「就業機会確保」の義務化も言い出している。それに加えて医療負担を2倍化、国保料・介護負担を引き上げ、年金支給額は下げることで、いよいよ高齢者を労働に駆り立て文字通り「死ぬまで」搾取し収奪し続けようとしているのだ。
「なめるんじゃない。団結だ!」。学校職場で最低賃金以下で働くシルバー人材センターの労働者は力を込めて声を上げた。全世代の大幅賃上げが必要だ。オリンピックや軍事費に際限なく金を使いながら労働者の命や健康は切り捨てる国や資本への怒りは、青年から高齢者まで全世代で噴き出している。闘う労働組合の団結をいたるところでつくり出そう。医療破壊と対決し菅打倒へ闘おう。
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ポイント
・「年収200万円以上」にとどまらない
・「現役世代の負担軽減」掲げて収奪強化
・自治体に国民健康保険料アップ求める