「黒い雨」訴訟 国は内部被曝を認めろ 被爆者の苦しみ、原告が陳述

週刊『前進』04頁(3186号03面03)(2021/03/15)


「黒い雨」訴訟
 国は内部被曝を認めろ
 被爆者の苦しみ、原告が陳述


 広島市への原爆投下直後に降った放射性物質を含む「黒い雨」を浴びたにもかかわらず、国によって援護対象区域外とされてきた住民らが被爆者認定を求めて起こした訴訟の控訴審第2回公判が、2月17日に広島高裁で開かれた。
 意見陳述した原告の高東征二さん(80)は、定年退職後に多くの黒い雨被爆者を訪ねた経験を語り、「病気だらけの人生に苦しみ、満足に働けず、お金にも困っていた。『自分の体が弱いせいだ』と無理に言い聞かせ、多くの方が亡くなった」「黒い雨被爆者は1日1日をやっとの思いで生きてきた。原告だけでなく、その行方を見守っているすべての黒い雨被爆者を被爆者と認めて」と訴えた。
 裁判はこの日で結審。原告団長である高野正明さん(82)は「速やかに審理を進めてくれた。勝訴判決が出ることを期待している」と語った。
 昨年7月29日、広島地裁は黒い雨被爆者84人に被爆者健康手帳の交付を命じる画期的判決を下した。国・厚生労働省と広島県、広島市はこれを不服として控訴したが、広島高裁は控訴人の証人申請をことごとく却下した。一審に続く住民側勝利が確実な情勢だ。判決日は7月14日と決まった。

放射線防護基準の再検討を迫る判決

 昨年の広島地裁判決の画期的意義は第一に、放射性微粒子による内部被曝を真正面から認めたことだ。「『黒い雨』が人に健康影響をもたらす過程として……外部被曝に加え、放射線微粒子を含む『黒い雨』が混入した井戸水等を飲用したり、『黒い雨』が付着した食物を摂取するなどの内部被曝を想定できる。……内部被曝による身体への影響には外部被曝と異なる特徴があり得るという知見が存することを念頭に置く必要がある」(判決書)
 これによって法定上の被爆者の範囲が大幅に拡張した。「黒い雨」を直接浴びたかどうかにかかわりなく、降雨地域の周辺にいて11種の健康管理手当支給対象疾患相当に罹患(りかん)した者は、被爆者と認めると断じた。
 第二に、現在の国の援護対象区域に妥当性がないことを認めたことだ。「黒い雨」は、3雨域(宇田・増田・大瀧)より広範囲で降った可能性を認めた。
 第三に、一切の被曝線量論を排し、本人の証言と病歴だけで被爆者と認めた。放射性微粒子による内部被曝は健康被害の定量的観測が困難であり、健康影響についても科学的コンセンサスが存在していないが、その可能性があることは確かであり、内部被曝を証明するのに本人の証言と病歴だけで十分とした。
 これらは、被曝と健康影響に関する従来の説を根本から揺るがすものである。放射線防護の国際基準の基となった放射線影響研究所(旧ABCC)のデータは、原爆が爆発した直後の初期放射線に限った健康影響調査でしかない。ところが、放影研や広島大学が持つ被爆者のデータベースには、初期放射線量では説明できない、内部被曝の影響としか考えられない事例がいくつも存在してきた。昨年の広島地裁判決は、この内部被曝を念頭に従来の放射線防護基準の再検討を迫るものだ。それは核政策の根本を崩壊させる。これが地裁判決に日本政府が激しく反発する本当の理由だ。

核禁条約発効と並ぶ世界史的事件

 広島・長崎の人々は、爆心地からの距離や線量で分断・屈服を強いられ、核政策の踏み台にされてきた。同じことが福島でも繰り返された。だからこそ広島地裁判決は、黒い雨被爆者のみならず、被曝と闘う全世界人民の勝利であり、核兵器国による核抑止力論(=核支配体制)を拒否した核兵器禁止条約発効と並ぶ世界史的事件である。被爆者を中心に、世界の人民の闘いがここまで敵を追いつめてきた。しかし闘いはまだ道半ば。これからが本番だ。
(8・6ヒロシマ大行動実行委員会・A)
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