3・11福島10年 終わっていない原発事故 JR常磐線を現地調査して 「被曝労働拒否」の重要性実感

週刊『前進』04頁(3184号03面02)(2021/03/01)


3・11福島10年
 終わっていない原発事故
 JR常磐線を現地調査して
 「被曝労働拒否」の重要性実感



(写真 JR双葉駅前では見せかけの「復興」のための工事だけで人はほとんどいない【2月上旬 福島県双葉町】)

(写真 住民がいないため庭には雑草が生い茂ったままだ【2月上旬 福島県双葉町】)

(写真 JR大野駅周辺はすべてバリケード封鎖されており人家へも脇道へも立ち入ることも出来ない【大熊町】)


 2月上旬、昨年3月に全線開通したJR常磐線の列車に乗り、福島県の双葉駅(双葉町)、大野駅(大熊町)周辺を含めた調査を行った。こちらが依頼し動労水戸前委員長の石井真一さんなどに同行して頂いた。

福一原発の直近を走行

 乗車したのは、上野駅を8時に出発した特急「ひたち3号」。列車は茨城県を過ぎて福島県に入った。だが、私たち以外に乗客はほとんどいない。
 広野駅から、車中で放射線量の計測を開始した。ここの値は0・054㍃シーベルト。富岡駅=0・068、夜ノ森駅=0・216と福島第一原発に近づくにつれ急上昇していく。同行した人からも驚きの声が上がった。駅は曲がりなりにも「除染」している関係で、数値は低く出る。駅間の線量はこれよりもっと高い。原発に最も近いゾーンに入った。大野駅で停車。ここは0・310㍃シーベルト。列車が動き出す。線量はさらに上昇。次の双葉駅との間は原発に最接近する地点だ(地図参照)。ここで最高値の0・756を記録。双葉駅に近づくとまた少しずつ低くなるが、それでも双葉駅の数値は0・446㍃シーベルト。
 最も高い0・756㍃シーベルトは、政府が作成したでたらめな換算式でも、年間約3・29㍉シーベルトとなる。大野駅は同約1・35、双葉駅は同約1・94。これは、チェルノブイリ原発事故の発生したウクライナなどで、被曝を避けるために法的に「移住の権利」(年間1〜5㍉シーベルト)が認められているほどの放射線量だ。しかも計測した線量は、列車内でのそれであり、車外はそれを大きく上回る。
 福島県の太平洋岸(浜通り)一帯はとくに放射能汚染の激しいところである。中でも富岡町の一部と大熊町、双葉町は年間50㍉シーベルト以上の帰還困難区域だ。住民が住むことは禁止されている。しかも地図で明らかな通り、常磐線は福島第一原発とそれを囲む中間貯蔵施設に沿っている。福島第一は廃炉作業もまったく進んでいない。2月13日の地震では、10年前の地震で損傷を受けた原子炉格納容器が影響を受け水漏れを起こしているのだ。
 こんな場所で列車を走行させることに驚愕(きょうがく)する。常磐線運行は乗務の労働者や乗客に大変な被曝を強いる。絶対に許されないと痛感した。

無人駅に特急停車

 双葉駅で下車した。ここは駅員がいない無人駅。乗客の姿も見えない。駅前では工事が行われているだけで、人の姿はまばらだ。駅の西側はほとんど更地状態。駅東側も除染土壌などを詰めたフレコンバッグの山が存在し、住民もほとんど戻っていない。
 大野駅に戻って見た。ここも無人駅で乗客もいない。駅を一歩出るともっと驚く情景が広がっていた。駅の周りはバリケードだらけだ。西に伸びるメイン道路が「避難解除」されているだけで、道路から脇道や人家への進入路はすべて封鎖されている。駅前に設置してあるモニタリングポストの表示は0・35㍃シーベルト。年に換算すると約1・5㍉シーベルト。大変な数値だ。
 双葉駅や大野駅のような住民もいない無人駅に特急列車が停車するなど聞いたこともない。この一事をもってしても、常磐線の全線開通がでたらめな「福島の復興」を演出し、「復興五輪」を強行するためであるとはっきり分かった。

内部被曝の危険は明白

 乗務する労働者と乗客以外にはどんな影響が出るのだろうか。それについて石井さんにお話を伺った。石井さんは現在、JR子会社の水戸鉄道サービス(MTS)で働いている。
 常磐線を走る車両のメンテナンスや洗浄、車内清掃はほとんど勝田車両センター(茨城県ひたちなか市)で行っているとのことだ。どれも、放射性物質による内部被曝の危険性が高い作業だ。とくに列車の床下に設置されたモーターの冷却装置のフィルターが問題となる。ここに付いたほこりには大量の放射性物質が付着しているからだ。ほこりを機械で吸い取るが、マスクを装着していても鼻の中が真っ黒に汚れる。また吸い取ったほこりは放射線量も計らず、一般ごみと一緒に捨てているとのことだ。
 列車の屋根にはエアコンが設置されており、これにもフィルターが付いている。この洗浄はMTSの労働者が行うとのことだ。エアーで吹き飛ばすが、その際、労働者は防塵(ぼうじん)マスクなど、身を守るものは何も付けていない。吹き飛ばした空気は車両センター内外に排出される。また放射性物質が付着した細かいほこりは列車内にも侵入するため、車内清掃を担う労働者はそれを吸い込んでしまうことになる。MTSは下請けということで、作業の上でJRが差別しているとのことだ。
 お話を聞いても、にわかには信じられない。労働者の健康はどうなる。会社は労働者の安全と健康に配慮する義務があるのだ。それを怠り、放射性物質が付着したほこりが舞い上がる環境で働かせるJRに怒りを抑えることが出来ない。
 労働者が口や鼻から放射性物質を吸い込めば内部被曝は避けられない。体内に入ったセシウムなどの放射性物質は放射線を出し続けながら血液やリンパ液の流れに乗って体中に運ばれ、がんなどの病気を発症する危険性が高いのだ。
 内部被曝の恐ろしさを学んだ者として、JRの職場環境に危惧(きぐ)の念と強い憤りを覚える。動労水戸や動労福島が掲げる「被曝労働拒否」が労働者の健康と命を守る重要な闘いであると、改めて強く感じる取材となった。
 高濃度の放射能汚染地帯を走り、関連する労働者を被曝させる常磐線の全線運行など絶対に許されない。
 全国から3・11反原発福島行動に集まろう。その怒りで、でたらめな「福島復興」宣伝を絶対に許さず、JR職場の現状を覆そう。
(本紙・北沢隆広)

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