〈コロナ×大恐慌〉が本格化 08年以来の延命策が総破産 米中対立は非和解的激突へ
〈コロナ×大恐慌〉が本格化
08年以来の延命策が総破産
米中対立は非和解的激突へ
新型コロナウイルスの感染者数は全世界で1億人に迫り、死者数は200万人を超えた。欧州諸国は再びロックダウン(都市封鎖)を余儀なくされ、前倒しで開始されたワクチン接種も目立った効果を発揮できないまま、コロナは変異種を生み出しながら広がっている。こうした中、2008年リーマン・ショック以来の恐慌対策によって膨張しきったバブルはいよいよ全面的大崩壊を迎えようとしている。〈コロナ×大恐慌〉の本格的爆発は、全世界で革命的情勢を急速に成熟させつつある。資本主義を終わらせる革命以外に出口のない時代が到来したことを鮮明にさせ、労働者階級の力でプロレタリア世界革命への道を切り開こう。
膨張したバブルは崩壊必至
今日の〈コロナ×大恐慌〉の特徴は、「08年以来の大恐慌から脱却できず、経済・社会の崩壊と階級闘争の激化が進む中でコロナ・パンデミックが起きた。08年以来、覆い隠してきた矛盾と破綻がコロナによって一挙に暴き出された」(本紙新年号政治局アピール)ということにある。コロナで大恐慌が始まったのではなく、08年リーマン・ショックで爆発した大恐慌が根本的に解決されず、金融緩和などの未曽有の恐慌対策でひたすら矛盾の先送りが図られながらも、その一切が破綻していよいよバブルが大崩壊する瞬間が迫っていたところに、コロナという新たな危機(これ自体も新自由主義の産物である)が襲ったのだ。
そして昨年来のコロナ・パンデミックは各国の実体経済を直撃し、一方では失業や貧困を蔓延(まんえん)させ、中間層を急速に没落させながら、他方では各国政府・中央銀行による「コロナ対策」としての金融緩和の継続を余儀なくさせたことで、「コロナバブル」と呼ばれる新たな巨大バブルを生み出した。現在の株式市場の異常な高騰はその産物である。
昨年末の時点で世界の株式時価総額は100兆㌦(約1京円)を超え、1年間で15兆㌦も増えた。「実体経済が悪化する中、強力な金融緩和が株価を押し上げる『不況下の株高』の本領発揮といったところか。......暗く沈む人々の生活実感とは裏腹に、株価が上がり続けている」(1月8日付日本経済新聞電子版)。
08年以降、空前の金融緩和により大量に供給された資金が株式市場に流れ込み、株価と実体経済の著しい乖離(かいり)が常態化した。コロナ対策としての金融緩和がこれに拍車をかけた。今や「多少の悪材料が出ても、ジャブジャブのカネ余りがその悪材料をすぐに隠してしまう」(同)という状況下で、投資家たちは「過去に経験したことのないユーフォリア(陶酔状態)にある」(1月13日付日経新聞)といわれる。
周知の通り08年以降、先進国の金利はほぼゼロまたはマイナスで下げ幅はほとんど残されておらず、そのため中央銀行の金融緩和策は、国債などを大量に買い込むことで市場に現金を供給する形をとってきた。その結果、今や世界の主要9中銀の資産は31兆㌦に膨張し、この1年間で9・7兆㌦(約4割)も増加。米欧日3中銀で見ると、1年間の総資産増加率はそれぞれ77%、49%、23%となり、総資産の合計額は20兆㌦を大きく突破した(図)。
だが、この異常なバブルが遠からず崩壊することは不可避だ。株価と実体経済の乖離すなわち株式市場のバブル化度合を示す指標として、上場企業の株式時価総額を年間の名目GDP(国内総生産)で割ったバフェット指数があるが、アメリカの幅広い銘柄を包含するウィルシャー5000をベースにしたバフェット指数はITバブルのピーク時(00年)の143%を大きく上回り、昨年夏の時点で過去最高の174%を記録した。バブル崩壊時の破壊力は計り知れない。
他方で、リーマン・ショック以降の金融市場に生じた大きな変化として、ハイイールド債(低格付け・高利回りの債権)やレバレッジドローンと呼ばれる信用力の低い企業への融資、それを原資とした金融商品であるCLO(ローン担保証券)などの高リスク資産が急拡大した。IMF(国際通貨基金)は、これらの高リスク資産が過去10年間で9兆㌦近くに倍増したと発表し、米FRB(連邦準備制度理事会)や日本の金融庁も「金融安定性への脅威だ」と警告を発している。
CLOの原資となるレバレッジドローンは、リーマン・ショックの原因となったサブプライムローン(低所得者向け住宅融資)の企業向けローン版ともいえるが、借り手となる企業は幅広い業種にまたがるためリスクは分散されているといわれる。だが、コロナ下で企業破綻が広範囲に広がれば巨額のデフォルト(債務不履行)が発生する。すでにアメリカでは昨年の連邦破産法の申請件数は7128件と前年比29%増、負債総額5千万㌦以上の大型倒産も相次いでいる。日本の金融機関も大量にCLOを購入しており、今後の展開次第では巨額の損失を出すことになる。
対中強硬引き継ぐバイデン
多くのブルジョア経済学者や評論家は、リーマン・ショックを単なる一過性の金融危機のように描き、中央銀行の資金供給で危機は収拾され、その後はアメリカを始め各国で「好況」が訪れたかのような軽薄極まる論評を繰り返してきた。だが実際は、これまで見た通り、史上未曽有の恐慌対策によってバブルを肥大化させながら危機の再爆発をかろうじて食い止めてきたにすぎない。しかもその間、米欧日の帝国主義諸国は、過剰資本・過剰生産力の重圧のもとで新たな成長産業の創出を図ることもできず、長期にわたる低成長にあえいできた。
他方で、リーマン後の世界の激変という場合、米トランプ政権に代表される保護主義の台頭、世界経済の分裂・ブロック化、そしてそれが米中対立の果てしない激化へと行き着いたことを指摘しなければならない。言い換えれば、アメリカ帝国主義の没落を最大のメルクマール(指標)とする戦後世界体制の崩壊が、急激かつ特異な発展を遂げた残存スターリン主義国家・中国と米帝との軍事衝突の危機も含んだ非和解的激突という形で劇的に進行したのだ。
トランプ政権は1月13日、バイデン新政権への交代を前に「インド太平洋における米国の戦略的枠組みに関する覚書」と題する18年2月15日付の機密文書を公開した。「米国の対アジア政策の『パラダイムシフト〔原理的転換〕』となった文書」(米政府関係者)とされる。公開の狙いは言うまでもなく、トランプ政権の対中強硬策を次期政権に引き継がせる(そのことを同盟国にも印象付ける)ことにある。文書では、九州・沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」を防衛ラインと位置付ける中国軍に対し、このラインを超えた中国側の空域、海域も米軍が「防衛する」(=中国軍の制空・制海権を奪う)と明記。またそのために日本の自衛隊の「近代化を支援する」とし、米日豪印4カ国による軍事協力の推進にも言及した。
また19日には、バイデンが次期国務長官と国防長官に指名しているブリンケンとオースティンが上院公聴会で証言を行い、それぞれ「中国の台頭は米国にとって最大の挑戦」、「(中国は)米国が直面する最も懸念すべき競合国」と主張。トランプ政権の対中強硬路線を基本線において継承することを明言した。
他方で中国は、昨年12月30日、EU(欧州連合)との間で相互に企業の進出などを促進するCAI(包括的投資協定)を結ぶことで大筋合意した。東アジアのRCEP(包括的経済連携協定)に続く大型協定で、米帝を排除した貿易・投資協定を急ぐ中国・習近平政権と、コロナによる経済危機からの脱却をめざすドイツ・メルケル首相らEU側との思惑が一致した。
これに先立ち、中国共産党は10月の第5回中央委員会全体会議(5中全会)で「双循環戦略」と称する新たな戦略を採用。国内経済と対外戦略の双方を強め、「内需経済の活性化と自立型サプライチェーン(部品供給網)の拡大」、製造強国化、デジタル経済化、先端技術産業の育成などで米中対立の長期化に備える方針を決定した。EUとの接近の背景には、従来の経済協力関係の深さに加え、「海外経済の活力も生かして、国内経済の底上げを図る『双循環』を掲げる中国にとって、欧州からの投資の誘致拡大も欠かせない」(12月31日付日経新聞)という事情がある。
こうした中国の動きに、バイデン政権と米帝ブルジョアジーは激しく危機感を募らせている。だが、これも米帝自身のなりふり構わぬ対中制裁が招いたものだ。中国の通信機器大手ファーウェイ(華為技術)への制裁に対しては、米国内でも次のような反対論が上がった----「こんなことをすれば中国は、エネルギー貯蔵から機械学習まで幅広い戦略的技術分野にわたる最先端技術を手中に収めるための投資を加速させるだけだ。一方でアメリカには、それと比肩し得るような、21世紀の米経済建設のための前向きな計画は存在しない」(9月1日付米ニューズウィーク誌)。
もはや基軸国=米帝が世界の覇権を維持するために残された最後の手段は、日本などの同盟国を動員した軍事的・戦争的手段以外になくなっているのだ。
全世界で階級対立が先鋭化
〈コロナ×大恐慌〉の激化は全世界で労働者民衆の命と生活を破壊している。感染者数・死者数ともに世界最多のアメリカでは半年以上仕事のない人が400万人に達し、この3カ月間で150万人以上増えた。無料の食糧配給所には連日、何時間も長蛇の列が並ぶ。1929年大恐慌時の写真と同じ光景が全米の至るところに広がっている。
「パンデミックの最大の被害者は、在宅勤務やモバイル・ワークなどとはおよそ無縁な労働現場で、対人接触を避けることができない介護、医療、清掃、配送、運輸、食品小売り、建設、ゴミ収集などに携わる中下層の人々である。彼らの多くはアフリカ系アメリカ人、移民労働者、シングルマザーであり、貧しい労働・住環境に置かれた彼らからは、人口比を大きく上回る高率の感染者が出ている」(古矢旬著『グローバル時代のアメリカ』)
日本でも状況は同じだ。食料の無料配布に並ぶのは若い女性や家族連れ、外国人、10代や20代の青年世代も多いといわれる。総務省の最新の労働力調査によると、昨年11月時点で非正規雇用は約2124万人で3月から9カ月連続で減少、そのうち女性の非正規労働者が職を失う割合は男性の2倍に相当する。女性の自殺者数は1〜11月で6384人で6カ月連続で前年を上回る。実態はこの統計よりもはるかに過酷だ。
ILO(国際労働機関)は昨年9月、コロナの影響で同年1〜9月の世界の労働所得が前年同期比10・7%減、損失額は3兆5千億㌦(約367兆円)で4億9500万人が失業した換算になると発表した。他方で「保有資産10億㌦以上の2千人余りの超富裕層はこの1年足らずで資産を200兆円増やした。同じ地球に食べ物にも事欠く人がコロナ前から6億9千万人いる」(12月21日付日経新聞)。こんな状態がいつまでも続くはずがない。
今、必要なことは、渦巻く怒りの声と生きるための闘いを結集し、この時代に本当に通用する中身をもった階級的労働運動を創成すること、その力でプロレタリア革命へ進むことだ。
レーニンは共産主義インターナショナル第2回大会(1920年)の報告で、「ブルジョアジーにはもはや活路がない」ということを単なる情勢分析だけで前もって「証明」しようとすることに反対し、どんな凶暴な手段でも使って延命しようとするブルジョアジーに対して、問題となっているのは「実践」であるとして次のように訴えた。
「ブルジョア制度は全世界で最大の革命的危機にある。革命的諸党は、この危機を利用して革命を成功させ、勝利させるにたる自覚、組織、被搾取大衆との結びつき、決意、能力をもっていることを、いまやその実践によって『証明』しなければならない」(レーニン全集第31巻)
ついに到来した革命的情勢を現実の革命へと転化するために、今こそ階級的労働運動の飛躍と反帝・反スターリン主義の革命的労働者党建設をかちとろう。
〔水樹 豊〕