開かれたアメリカ革命の展望 BLM運動と発展する米階級闘争 警察解体・資本主義国家打倒へ

週刊『前進』04頁(3172号04面01)(2020/11/30)


開かれたアメリカ革命の展望
 BLM運動と発展する米階級闘争
 警察解体・資本主義国家打倒へ

(写真 手書きのボードを掲げてブルックリン橋を占拠する抗議行動参加者【6月4日 ニューヨーク市ブルックリン】)

 東京のなんぶユニオンが10月25日、BLM(ブラック・ライブズ・マター)運動と発展するアメリカ階級闘争についての学習会を開催しました。その場で組合員が行った提起のリポートを掲載します。(編集局)

アメリカ史上最大の運動

 われわれが生きている時代は、間違いなく激動の時代である。
 ミネソタ州ミネアポリス市で無抵抗の黒人ジョージ・フロイド氏が冷酷に殺された5月25日以降、市民による抗議行動が激しく行われた。抗議行動参加者が2日にわたり警察署前を占拠し衝突を続けた結果、市長と警察は署を守ることができないと判断し、フロイド氏を殺害した警官が所属していた第3警察署からの撤収を指示した。その直後にデモ隊が警察署に駆け込み、建物から出火。警察署は全焼し、10月現在もがれきの山となっている。
 このようなことはアメリカ史上初めてだ。暴動や反乱はあっても、警察署そのものが全焼したケースは前例がない。まさに未曽有のできごとが起こったのだ。
 その後、抗議は全国規模に拡大。全50州で550もの抗議行動やデモ、集会が開催されることになった。
 新型コロナウイルスのパンデミックにもかかわらず、5月に始まった抗議行動は6、7、8月と続き、同期間中、40%以上の郡で抗議デモが闘われていたという。当時の世論調査では1500万人から2600万人がどこかの時点で参加したという。革命に転化しかけたベトナム反戦デモを超え、アメリカ史上最大の抗議行動となったのだ。

労働組合が各地で闘いをリード

 労働組合も闘っていた。5月29日、ミネアポリス市でATU(都市交通労組)ローカル1005が、逮捕された抗議行動参加者のバス輸送を拒否した。「運輸労働者として、組合員として、われわれは自らの階級と先鋭的な若者の輸送を拒否する」と宣言したのだ。ニューヨーク州ニューヨーク市のTWU(全米運輸労組)ローカル100も、逮捕されたデモ参加者の輸送を同様に拒否した。
 米西海岸で働くILWU(国際港湾倉庫労組)の組合員は6月19日、フロイド氏が警官のひざで首を押さえつけられていたのと同じ8分46秒のストライキを行った。南カリフォルニアからワシントン州まで全西海岸の港湾機能が停止するなか、ILWUは港から市街への大デモを指揮した。
 ニューヨークではブルックリン橋を占拠する大規模な抗議行動が巻き起こり、ワシントン州シアトル市では警察署から警官を退去させた後に人民が「CHAZ」(キャピトル・ヒル自治区)を設立して警察予算の50%削減を要求した。
 BLM運動の波は全国に広がり、6月、首都ワシントンDCに連邦政府が州兵を派遣してデモ隊を排除する事態に至ってピークを迎えた。アメリカ史上、人民による革命に最も近い状況まで生み出したこの運動を、ただ単に警察の暴力に対する抗議運動という形で片付けてはならない。

経済破綻が促進する暴力

 アメリカにおける警察の暴力の裏には、新自由主義による経済の破綻がある。
 ジョージ・フロイド氏は、なぜ殺されたのか? コロナ禍で失業していた彼は、コンビニで2千円相当の偽札を使った疑いで逮捕された。最終的にそのことは立証されていないが、周辺ではコロナ下でこのような札が出回っていたと報道されている。
 2014年にミズーリ州ファーガソン市で警官に射殺された黒人青年マイケル・ブラウン氏も、ほとんど信号がないエリアでの「道路横断罪」で逮捕されようとしていた。ファーガソン市では、白人警官がスピード違反や歩行者に対して犠牲者なき「犯罪」をでっちあげて罰金を科し、警察予算を成り立たせることが日常になっていたのだ。周辺の黒人人民を食い物にする司法システムができあがっていたということだ。
 アメリカで現在蔓延(まんえん)している警察による暴力のあらゆるケースが、経済的な条件と密接にリンクしている。
 ミネアポリス市とファーガソン市はいずれも、アメリカでかつて製造業の拠点であったラストベルトに入っているか隣接している。
 米製造業の雇用者数は1979年のピークから723万人、37%減少している。2000年から16年にかけては製造業で500万人の雇用が失われ、うち150万人分は警察の暴力が目立つ中西部に集中している。同じ期間にチップ、蛍光灯、LCD(液晶ディスプレイ)などの製造業は業界ごと消失した。コストを下げて効率を上げ、激化する競争に勝ちぬくため、また労働条件を低く抑えるため、米経済の心臓であった製造業が次々と海外に移転され、地域経済が空洞化していった。日本の状況と似ている。

市民殺した警官の99%が不起訴

 こうした地域を制圧するために米支配階級が選んだ手段が、むき出しの警察暴力だ。
 警察の暴力は完全に野放しにされている。アメリカでは毎年約1100人が警察によって射殺されている。隣国のカナダの36倍だ。2000年時点では毎年平均約400人だったが10年以降に急増した。また13年から19年、市民を殺害した警官の99%は刑事訴訟を起こされておらず、起訴され有罪となったのは35人、殺人罪で有罪となったのは4人だ。最も貧しい階級区分に入っている黒人が犠牲者になりやすく、黒人が警察に殺される可能性は白人の3倍以上だ。
 また、刑務所の増設、大量投獄という問題がある。1925年から80年までの間に、アメリカの刑務所人口は15万人から25万人へと緩やかに増加していた。しかし、83年から2016年までの間に、民間刑務所も含めた刑務所人口は150万人に急増した。刑務所人口全体の40%を黒人が占めている。重大犯罪で刑務所に入れば投票権も失う。

軍から自治体へ軍事物資を配布

 また、侵略戦争から帰還した軍人や武器が自治体の警察と一体化していく流れがある。92年に連邦政府が立ち上げたLESO―1033プログラムは、戦場から国内の警察署に米軍の武器、車両などの装備品を再配布するものであり、2010年のイラク侵略戦争の敗北と段階的な撤退の開始以降、米国内に大量に軍事物資を流通させた根源でもある。
 このプログラムのもと、FBI(連邦捜査局)やDEA(麻薬取締局)、大統領警護人も含めた約7500の政府機関に計20万3千回もの供給品譲渡が行われた。例えばカリフォルニア州ロサンゼルス市の学校警察には、耐地雷待ち伏せ防護車両1台及びライフル61丁、擲弾(てきだん)発射筒3台が配布された。
 実際、14年にマイケル・ブラウン氏の射殺に対して黒人を先頭とした市民が抗議行動を行った際には、弾圧のためにファーガソン市の警察が戦争用の装甲車両を出動させていた。今でもアメリカのデモは、重武装した警察と頻繁に対峙(たいじ)させられている。

政治権力の奪取が課題に

 経済破綻及びそれに応じた暴力支配の増強に対して、アメリカの抗議運動は警察の解体や予算削減を要求として掲げている。これが提示している課題はただ一つ、政治権力の奪取に挑戦することである。地域まるごとの破壊、産業の消滅、社会の衰退——これらを資本主義は自ら解決できない。貧困は深まり、根付き、社会を変貌(へんぼう)させていく。資本主義国家はこの流れを止めようとしない。ゆえに、この国家の打倒が必然的な課題になっているのだ。
 コロナ禍が進行するなか、世界経済フォーラムや米資本家階級は「グレート・リセット」を呼びかけ、パンデミックにより多くの労働者が失業に追い込まれた地域を含めて社会に対するコントロールを強めようとしている。リモートワークをしているうちに職場が解体され外注化される。席がなくなり失業状態に突入する——遠い未来ではなく数週間、数カ月間のスパンでコロナ規制の破壊的効果が痛烈に見えてくる。
 ジョージ・フロイド氏の殺害を引き金とした大規模な抗議行動は、この新たな社会秩序に対する大きな挑戦となった。パンデミックだから黙るということは決してない。労働組合だから警察の暴力を止めようとしないとか、白人やアジア人だから関係ないということも当然ない。最大の抑圧手段である警察の解体や予算削減は当然の要求だ。黒人・アジア人・白人などの大規模な参加と蜂起的な行動がそれを証明している。

東アジアの戦争阻むことが連帯

 大統領選挙に向けてトランプ自身がコロナに感染しながら中国敵視をあおり、対中包囲戦略を強めている。ベトナム戦争以来の本格的な戦争に乗り出すことまで示唆している。
 一方でバイデンは94年の暴力犯罪取締法を書いた張本人であり、刑務所の増設、取り締まりの厳格化、そしてアメリカ黒人の幾世代にもわたる苦しみに対して責任を負っている。
 トランプとバイデンという二つの選択肢のどちらにも出口はない。空洞化した米資本主義の延命の原動力は組織された暴力だ。この国の民主主義・資本主義の夢は一切の説得力を失っている。米資本主義は内包する矛盾から逃れられない状況にあるからこそ、中国や北朝鮮への新たな戦争を仕掛けようとしているのだ。
 国際連帯は様々な形をとりうるが、東アジアでの新たな戦争を止めることが最優先だ。基地を持つ日本が戦争の前線となり、核攻撃を受ける可能性も高い。日本が米軍の出撃拠点になることを拒もう。戦争という手段をなくし、米支配階級が必死に探している出口をふさぐことが、日本の人民が今の米階級闘争に最も貢献できる連帯闘争だ。
(なんぶユニオン F・C)
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