ポーランド 女性10万人デモ 憲法裁の中絶違憲判決に抗議
週刊『前進』04頁(3171号04面02)(2020/11/23)
ポーランド
女性10万人デモ
憲法裁の中絶違憲判決に抗議
(写真 10月30日、人工妊娠中絶を実質的に全面禁止する判決に抗議し10万人が首都ワルシャワ中心部を埋めた)
ポーランドの憲法裁判所は10月22日、障害のある胎児の妊娠を人工的に中絶することを認める1993年の法律を違憲とする判決を下した。欧州で最も厳しい部類の93年の中絶関連の法律が今回の判決でさらに大幅に厳格化される。法制化されれば、中絶が認められるのは性的暴行などによる妊娠、母親の命と健康に危険がある場合に限られる。このようなケースは昨年ポーランドで合法的に実施された約1100件の中絶手術のうち2・4%しかない。もともと93年の中絶関連法の下、国内での合法的な中絶手術は年間約千件にすぎず、8万人から12万人のポーランド女性が国外で中絶手術を受けているとみられている。憲法裁の判決はほとんど全面的な中絶禁止を意味する。
女性たちの抗議行動は判決直後に始まった。首都ワルシャワでは、女性たちが「自己決定権を奪うな」「女性の権利や自由を奪うな」と叫び、政権与党で極右の「法と正義」党首カチンスキの自宅前に押し寄せ、警官隊と衝突した。女性たちはさらに市内の主要交差点を一時封鎖し、車や路面電車の通行を止めた。
「赤い雷」掲げる女性ストライキ
コロナ感染第2波と閣僚のコロナ感染を受けて、ドゥダ大統領と閣僚15人が10月24日から隔離態勢に入った。政府は感染防止策として飲食店や一部学校への閉鎖命令、外出制限令を公布した。10人を超える集会は禁止だ。厳戒態勢で闘いを沈静化しようとしたが、逆に女性たちの怒りの炎に油を注ぐものになり、闘いは全国50都市に広がった。中絶関連法の厳格化を歓迎するカトリック教会も標的となった。デモ隊は礼拝中の教会に乱入し、教会の壁にスプレーで中絶賛成のスローガンや中絶相談窓口の電話番号を書いた。
30日には10万人の女性がワルシャワの街頭を埋めた。「赤い雷」と「女性ストライキ」のプラカードを掲げ、カチンスキ宅へ向かってデモした。政府は軍隊を差し向けてデモを阻止する以外になかった。闘いは女子学生や女性労働者による連日1万人規模の夜間デモに発展している。
女性デモを主導しているのは、2016年10月に「中絶禁止法」の国会審議を「黒い抗議」運動で粉砕した経験を持つ「全国女性ストライキ(OSK)」という組織である。
2015年に政権を握った「法と正義」カチンスキ兄弟は、司法・教育・家族へのカトリック教会と国家権力の支配を強化するために「女性の権利主張の制限と中絶関連法の厳格化」に執念を燃やしてきた。16年10月に国会で審議された中絶禁止法案は妊娠中絶した女性に最高5年の刑罰を科すと規定していた。
このとき結成された「全国女性ストライキ」が黒い服を着た10万人の女性デモを組織し、同法案の成立を阻止したのである。
カトリックと結ぶ「法と正義」
ポーランドは欧州でも特にキリスト教カトリックの影響が強い。1989年の東欧政変においてもポーランド出身のローマ教皇ヨハネ・パウロ2世が決定的な役割を果たした。カトリックは中絶を認めないが、ポーランドでは長年、国民の過半数が中絶規制の厳格化に反対してきた。そのなかでポーランドのカトリック勢力は与党「法と正義」に中絶規制の厳格化を求めてきた。「法と正義」も伝統的なカトリックの価値観を支持し、中絶関連法の厳格化を追求してきた。
ところが2016年に中絶禁止法案は巨万の女性の決起で阻まれた。この敗北、そして女性やLGBTの権利の主張や怒りの声が高まることは「法と正義」にとって認めがたい。これを覆すために「法と正義」政権は憲法裁の判事の大半を保守派にした。また、今年2月に「裁判官が政府の改革に異を唱えることを禁じる」法律を成立させた。
しかし、今回の憲法裁判決は女性たちの怒りと反撃を呼び起こした。コロナ×大恐慌情勢下、闘いを押しとどめることはできない。