「デジタル化」その正体(6) SNSは有害か ―「監視資本主義」の実態

週刊『前進』04頁(3171号02面03)(2020/11/23)


「デジタル化」その正体(6)
 SNSは有害か
 ―「監視資本主義」の実態

(写真 「SNS依存症」とは SNSに頻繁にアクセスして更新の確認や投稿などを間断なく行ったり、長くアクセスしないでいることに極度の不安を感じたりする状態)

 動画配信サービス・ネットフリックスでドキュメンタリー映画『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』が配信されている。SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)やAI(人工知能)がいかに倫理的に有害であるかを描いた作品だ。
 登場人物は元グーグルのデザイン倫理担当者であるトリスタン・ハリス氏をはじめ、SNSに実装されているテクノロジーを開発した技術者たちである。彼らは自分自身や子どもまで「SNS依存症」となっている現状や、SNSによって独裁政権によるプロパガンダ(政治宣伝)が行われたり、フェイクニュース(偽情報)で民族差別や暴力があおられている現状を憂いている。結論として「SNSを法で規制するべき」等々の自己反省的な問題提起をしている。

労働運動こそが社会を変える力

 技術者からのこの問題提起は一定正しいという面と、やはり本質的には新自由主義下における階級矛盾・階級対立の激化の問題としてとらえる必要がある。
 グーグルなどの巨大テック企業は「デジタル化」によって産業構造を変えたと言われているが(そうした側面もある)、本シリーズでも明らかにしてきたように「デジタル化」は合理化であり労働者への犠牲の強要に他ならない。テック企業であっても営利こそが最終目的であり、今も昔もマルクスが言うように「われ亡きあとに洪水よ来たれ」が資本家の共通スローガンである。
 「デジタル化」はデストピア(ユートピアの正反対)的な社会を作る一方で、労働者階級が団結して社会を根本から変える闘いの条件も生み出している。アメリカ、韓国、香港をはじめSNSを使った団結の拡大が、資本・政府の思惑をこえて進んでいる。
 11・1労働者集会で提起されたように、求められているのは闘う労働運動をよみがえらせることだ。

広告主が顧客でユーザーは商品

 本作では「タダで商品を使っているなら君がその商品だ」と指摘されている。
 ツイッターやフェイスブックなどほとんどのSNSは無料である。そのかわり、ユーザーは定期的に広告を見させられる(ユーチューブなど有料会員になれば広告を消せるものもある)。こうしたビジネスモデルの場合、企業側から見れば無料で使っているユーザーは客ではなく「商品」であり、広告主が顧客というわけだ。「かつてシリコンバレーは商品を作って売っていた。巨大テック企業のビジネスは、広告主を成功させることだ」
 SNS企業側から見た問題は、どうやってユーザーに見られる広告を出すかだ。本作では擬人化されたAIが、ユーザーに興味を持たれそうな広告を出してくる。例えばSNSでランニングの動画を見ていたら「スニーカーの広告を出そう」と提案する。さらにSNSにアクセスしている時間を分析し、「休憩時間だ。広告を出そう」と言ってスマホに表示させる。
 こうした個人情報を監視しビッグデータに集積し、その人にあったおすすめの商品を出すやり方はアマゾンをはじめ巨大テック企業ならどこでもやっている。テレビや新聞の広告は全員に同じものを見せるが、ネットでは人によって違ったものを見せることができる。広告主側からは「無駄打ち」を避けることができるという利点がある。

「SNS依存症」を生むシステム

 SNS企業側は、趣味や政治思想に至るまでユーザーから個人情報を収集し、広告主と連携して「最適」な広告を表示させる。ユーザーは無料でサービスを使える。3者はウィンウィンウィンの関係に見えるが、そうではない。
 企業の利潤追求には際限がない。広告主はより多くの商品を買ってもらうために、SNS企業側に対してさらに多くの広告を見せるように要求する。そしてSNS企業側は新規ユーザー獲得と同時に「SNS依存症」の人を大量に生み出すことが目的となる。ユーザーの欲求を刺激するような機能を技術者が考え、新たなシステムが次々と開発され実装されていく。
 本作では「SNS依存症」となった子どもがSNSに自分の写真や動画をアップし、見てくれた人の反応ばかりを気にするようになる、食事中もスマホを手放せなくなり、最後は暴力的になるなど極端に描かれているが、いずれにせよ技術者たちはこれを憂いているのだ。

嘘のニュースは真実より儲かる

 SNSでは地球平面説や「コロナは中国の細菌兵器」説などのフェイクニュースが多く存在し、支持を集めている。欧州などでは「コロナ拡大の原因は5G(第5世代移動通信システム)」という説を信じて5G基地局を破壊する人までいる。
 なぜこうしたフェイクニュースが流行するのか。本作では「真実はつまらない」「偽情報の方が金を生む」からと言われている。
 前述のとおりAIがユーザーの趣味や思想をビッグデータに蓄積し、その人にあったおすすめの広告や動画を表示させる。AIに倫理観など存在せず、「広告を見てもらえるか」=もうかるかどうかが一切の判断基準である。そのためにはフェイクニュースすら活用される(最近ではある程度規制されている)。
 政府によるSNSの活用も行われている。ミャンマーでは、政権によるフェイスブックを使ったプロパガンダによって、すでに70万人が難民となっているロヒンギャへの暴力があおられている。「以前もプロパガンダは存在していた。SNSというプラットフォームは歪んだメッセージを伝えやすくした」
 デジタル化は、新自由主義と一体で国策として進められてきた。次回はこの問題について明らかにしていきたい。
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