デジタル化その正体(5) 国が住民の全データを掌握 個人情報保護法の改悪狙う
デジタル化その正体(5)
国が住民の全データを掌握
個人情報保護法の改悪狙う
菅政権は来年の通常国会で個人情報保護法の大改悪を準備している。現状では住民データの扱いは自治体ごとに異なる。地域独自の経緯があるからだ。それを政府・デジタル庁が「統一・標準化」して監理し、民間企業にも提供できるようにする----。地方自治を破壊し民営化・監視国家化を進める重大な策動だ。
自治体の保護規制を解体
菅政権は自治体が持つ住民の全個人情報を標的に、「地方行政のデジタル化」と個人情報保護法関連5法の改悪・解体を狙う。
関連5法は国・自治体の責務や事業者の義務などを定め、マイナンバー法もこれに関係する。加えて自治体は国以上に厳格な保護条例を持つところが多い。地域運動、労働運動の歴史があるからだ。大半の自治体は住民の情報をネットで地域外に出すのを制限。情報流出や国の監理を許さず、個人情報に基づくオンライン教育などの普及を阻んできた。こうした自治体の個人情報保護の規制を取り払おうというのだ。
企業に個人情報提供し食い物に
11月3日付日経新聞の社説は菅政権と資本の意図を露骨に示した。
社説は「個人情報保護とデータ活用の両立は国の競争力にかかわる課題だ。デジタル時代の新しい国と地方の関係を考える機会にしたい」と表明。「個人情報保護は情報公開制度とともに自治体が国に先行してきた。配慮を要する個人情報にLGBTを含めたりデータの外部提供に審議会の承認を要件としたりするなど、独自ルールで国より厳しく規制する自治体が多い」とし、そうした「データの流通を妨げている状況の改善」を求めた。個人情報保護規制を無力化し、国や資本の利益のために流通できるようにすべきだという主張だ。
社説はさらに「個人情報保護は行政のデジタル化と密接な関係がある......政府は自治体の情報システムも5年以内に統一する方針だ。住民記録、税、社会保障などの様式やシステムの標準化も国主導で進む」とした。
自治体の持つ個人情報は住民一人一人が生まれ、育ち、学び、働き、結婚、子育て、医療・介護・福祉など生涯にわたる基本的な情報を網羅している。菅政権はその個人情報のシステムをデジタル庁が統一し、デジタル化された膨大なデータを監理して資本に情報提供することを狙う。それは自治体業務の全面委託・民営化にも連動する。
マイナンバー拡大と一体
菅政権は同時に、マイナンバーと銀行口座番号など個人情報のひも付けの拡大と、さらに2022年度中にほぼ全住民のマイナンバーカード所持をめざす。
現状では、マイナンバーが使える範囲は「社会保障」「税」「災害対策」の三つの関連分野とされ、それ以外では使用できない。一方で、マイナンバーカードは顔写真付きの身分証明書、ICチップでの本人認証という機能を持ち、様々な場面での本人確認ができるとされる。
菅政権は来年3月から、マイナンバーカードを健康保険証代わりに使えるようにする。膨大な補助金で医療機関の設備を整えることで、カードリーダーにかざして顔認証か暗証番号の入力で本人確認を行う。就職や転職、引っ越しなどをしても保険証としてそのまま使えるほか、特定健診の情報や投薬履歴なども見ることができるようにするという。さらに26年度より前倒しで運転免許証との一体化を実現しようとしている。
その進んだ分だけデジタル情報が国家によって掌握されることになる。さらに「利便性の向上」と称してマイナンバーカードの普及を進め、日常生活でマイナンバーカードを使う以外にないところまでもっていこうとしている。そうすることで事実上、全情報をマイナンバーと結び付けることが可能になる。
他方で、既成政党の利権と腐敗の温床である政党助成金、政務活動費、選挙資金の使い道の監視にマイナンバーは活用できないと公言されている。マイナンバーはあくまで階級支配と監視国家化、大衆収奪のための制度だ。不正蓄財と税金逃れを続けるブルジョア政治家や資本家たちには痛くもかゆくもないのだ。
デジタル庁作り強権与えて推進
菅はデジタル庁に強権を与え、内閣官房や内閣府、総務省などにまたがるマイナンバー制度を一元的に所管させる。個人情報のデジタル化によるデータの利活用へ、データ流通のルールを整備する専門部署(データ局)を設置。個人情報保護委員会が官民全体を監督する体制にするという。
今反対すれば止められる
しかし安倍を絶望的危機に追い込み政権を投げ出させたように、新自由主義を一層強権的に進めようとする菅への怒りを結集し闘うなら必ず破綻させられる。
ナンバーカードの普及率は11月1日段階で21・8%。「ナンバーカードを作りキャッシュレスで買い物すれば最大5千円分のポイント」と宣伝しても増えない。情報流出と監視国家化への不信は高まるばかり。まして住民情報を国が掌握し資本に提供することなど許せるか。地方自治は労働運動と地域運動が作り出してきた。闘いがある限り国家の強権など通用しない。
米西海岸ポートランド市議会は9月9日、自治体と警察、企業が公共の場で顔認識技術を使用することを禁止する条例を可決。サンフランシスコやオークランドなども自治体による使用を禁止。11月労働者集会に何度も参加したILWU(国際港湾倉庫労働組合)など労働組合の強固な闘いが繰り広げられている。
階級的労働運動を軸に、地域の怒りを糾合して立ち上がるなら攻撃を打ち破ることができる。大阪都構想粉砕の勝利に続き闘おう。
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菅政権のプラン
・来年の通常国会で個人情報保護法を改悪
・自治体ごとに異なる保護規制を一本化
・デジタル庁が一元監理し企業に情報提供