ナゴルノ・カラバフ戦争が再燃 全世界まきこむ危機の火種

週刊『前進』04頁(3168号03面04)(2020/11/02)


ナゴルノ・カラバフ戦争が再燃
 全世界まきこむ危機の火種


 旧ソ連を構成したアゼルバイジャンとアルメニアの両国が9月27日以来、ナゴルノ・カラバフをめぐり戦争を続けている。死者は10月23日時点で民間人を含め1千人を超えた(ロシア大統領プーチンの発表では5千人近い)。ナゴルノ・カラバフの住民の半数の約7万人が難民となっている。この紛争にはトルコが深く関与しているが、ロシア、イスラエル、アメリカも関係している。このため、これら諸国やその同盟諸国を巻き込む大戦争に発展する可能性も否定できない。

アルツァフ共和国として独立を宣言

 ナゴルノ・カラバフ地域は現在、国際的にはアゼルバイジャンの領土の一部として認められているが、住民の9割を占めるアルメニア人は独立を宣言し、それをアルメニアが全面的に支援している。
 この地域の帰属をめぐっては、ロシア革命以前からアルメニアとアゼルバイジャンとの間で紛争が絶えない。特に1988年から94年まで両者が戦闘を繰り返した。91年末のソ連崩壊直後にナゴルノ・カラバフのアルメニア人が独立を宣言、「アルツァフ共和国」を樹立し、現在に至る。94年の停戦合意は、ナゴルノ・カラバフだけでなく、アルメニアとナゴルノ・カラバフとの間のアゼルバイジャン領土をもアルメニア側が実効支配する状況を固定化した。この停戦合意後も両者の衝突は何度も繰り返された。今回は2016年以来最も激しい衝突だ。

領土奪還をめざすアゼルバイジャン

 アゼルバイジャンは今回、現在までアルメニアが実効支配しているナゴルノ・カラバフとナゴルノ・カラバフからアルメニアにかけての地域を奪還しようとしている。この軍事行動はトルコの全面的な支援のもとに発動されている。
 トルコの大統領エルドアンはトルコ系の兄弟民族アゼリ人の国、アゼルバイジャンの「領土」であるナゴルノ・カラバフのアルメニア人による「占領」を終わらせるべきだと、戦争を挑発している。またトルコは7月、アゼルバイジャンとの大規模な合同軍事演習を実施し、アゼルバイジャンに軍事顧問団を派遣、ドローンなどの武器・弾薬を供給している。さらに今回、シリアやリビアのムスリム武装勢力を傭兵(ようへい)としてアゼルバイジャン軍に送り込んでいる。

帝国復活の野望を抱くエルドアン

 トルコはなぜこのような戦争挑発行為を行っているのか。カスピ海地域と中央アジアの石油・天然ガスは、アゼルバイジャン--ジョージアを通るパイプライン(計3本)でトルコ--ヨーロッパに送られる。エルドアンはトルコ民族主義を鼓吹しながらこの地域の資源を獲得し、勢力圏を構築しようと策動している。
 またトルコはオスマン帝国時代、1914年から23年にかけて150万人のアルメニア人を虐殺したが、この事実を認めることをかたくなに拒否し、アルメニアや欧米から厳しく糾弾されている。このためトルコはアルメニアを敵視し、アルメニアに対する戦争をアゼルバイジャンにけしかけているのである。
 だがアルメニアがロシアなどと集団安全保障条約を結んでいるため、トルコのアルメニアに対する攻撃はロシアのトルコへの攻撃を招くおそれがある。そしてトルコが加盟する北大西洋条約機構(NATO)とロシアを中心とする集団安保条約機構(CSTO)との激突という重大事態に発展する可能性もはらむ。

帝国主義・大国が介入し危機を促進

 ロシアはアルメニアと集団安全保障条約を結び、アルメニアに軍事基地を置いている。またアルメニア軍はロシア製の武器で武装している。しかしロシアは当面、軍事介入には抑制的だ。ロシアはアゼルバイジャンにも武器を輸出し、バクー沖の石油利権の一部も保有しているからだ。両国に関係のあるロシアは、94年の停戦合意に続いて、今回も仲介者として登場している。欧州安保協力機構(OSCE)のミンスクグループ(米仏ロ)を主導し、10月10日と18日の2回、アゼルバイジャンとアルメニアを「人道的」停戦で合意させたが、いずれも発効直後に破られている。
 アメリカ帝国主義は、イランがアゼルバイジャンや中央アジア諸国に影響力を拡大することを阻止するために、最近アゼルバイジャンへの軍事援助を急速に増やしている。だが現在、米帝はコロナ危機と11月3日の大統領選に忙殺されて、ナゴルノ・カラバフ問題に十分に対応できない。ポンぺオ国務長官が10月25日に人道的停戦合意を取り付けたが、即日破綻した。
 加えてイスラエルも近年アゼルバイジャンとの軍事協力関係を強化している。自爆戦闘用を含む最新鋭の軍事用ドローンをアゼルバイジャンに多数供与し、同軍の戦闘を支援、戦争を激化させている。
 どの帝国主義国・大国もこの戦争を止められない。戦後世界体制が崩壊するなかでナゴルノ・カラバフは世界戦争危機の新たな火種となっている。米帝、ロシア、トルコ、イスラエルなどが世界戦争の引き金を引こうとしている。
 民族主義・排外主義をのりこえ労働者国際連帯の闘いで、帝国主義とスターリン主義を打倒し、世界戦争の爆発を阻止しよう。
(丹沢望)

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●ナゴルノ・カラバフ紛争略年表
1920年 アゼルバイジャンで4月、アルメニアで11月、ボリシェビキ政権が成立
1923年 7月、ナゴルノ・カラバフがアゼルバイジャンの自治州となる
1965年 4月、アルメニアでアルメニア人虐殺50周年の慰霊式典
1988年 2月、ナゴルノ・カラバフ自治州ソビエトがアルメニアへの帰属替えを求める決議。アルメニア首都エレバンでナゴルノ・カラバフのアルメニアへの編入を求め100万人がデモ
1990年 12月、ナゴルノ・カラバフの住民投票で独立支持が99%。ソ連邦解体
1992年 1月、ナゴルノ・カラバフが「アルツァフ共和国」樹立を宣言。以後、戦争
1994年 5月、ナゴルノ・カラバフ戦争の停戦合意。アゼルバイジャンがナゴルノ・カラバフの支配権を失う
2008~14年 アゼルバイジャン軍とナゴルノ・カラバフ軍が頻繁に戦闘
2016年 4月、4日間戦争。1994年の停戦以来、最悪の衝突に
2020年 9月27日、アゼルバイジャンとアルメニアとの戦争が再燃

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