「デジタル化」その正体(4) IT企業が学校を支配 市場化する公教育

週刊『前進』04頁(3168号02面04)(2020/11/02)


「デジタル化」その正体(4)
 IT企業が学校を支配
 市場化する公教育


 すべての小中学生に1人1台の端末を配備するGIGAスクール構想の今年度実施で、教育のデジタル化は一気に進み出した。菅政権はオンライン授業やデジタル教科書に加え、教員の資格要件や雇用制度にまで規制緩和の対象を広げる。教育のデジタル化は学校現場に何をもたらすか。

教員解雇にいきつく攻撃

 「なんと素晴らしい瞬間。邪魔する規制はすべてなくなり、前には関心のなかった方法を人々は探し求めている」
 「先進国クラブ」ともいわれる経済協力開発機構(OECD、37カ国)のアンドレアス・シュライヒャー教育・スキル局長がコロナ下のオンライン教育について述べた言葉である。OECDといえば国際的な学力到達度テスト「PISA」を実施し、新自由主義教育を世界に広げてきた機関だ。デジタル化で公教育の民営化・市場化を一気に推し進めようというのだ。
 日本では、経済産業省のテコ入れによるGIGAスクール構想で火がついた。パソコン1台につき4万5千円の補助金、これが1千万台分。巨大IT企業マイクロソフト、グーグル、アップルが争奪戦を繰り広げている。教育とIT(情報技術)を組み合わせたビジネスであるエドテック(EdTech)企業も、AIドリルや学習履歴を管理するアプリなどの開発に次々と乗り出している。その市場規模は、19年は約2千億円、25年には約3200億円まで拡大する見込みだ。国は学校現場にエドテックを導入する事業者に対し、1校あたり上限200万円の補助金を出すとした。学校には今年度に限り経費負担が発生しないという仕組みだ。
 「GIGAスクール構想は金もうけのにおいしかしない」。公立小学校教員の桐谷健吾さん(仮名)はそう告発する。各学校ごとに「GIGAスクールリーダー」が1人選ばれ、県や市の研修を受けている。その会場の外には、教育関連機器を扱う「内田洋行」をはじめ企業のブースがひしめき合っているという。
 ただ早くも矛盾が噴出している。今後学校が負担することになるパソコンの修理費・更新費やアプリ利用料のめども不透明のままだ。また、広島ではパソコン機器入札をめぐりNTT西日本などを談合の疑いで公正取引委員会が立ち入り検査した。さらに、子どもたちの視力の低下やネット依存症の懸念などはまったく無視している。
 教育のデジタル化はコロナ以前からグローバルエリート育成と一体で財界、とりわけ大手IT企業が安倍や菅と一体となって推進してきた。デジタル教科書はソフトバンク社長の孫正義、プログラミング教育・英語民間試験導入は楽天社長の三木谷浩史だ。菅政権で成長戦略会議の委員に就任した竹中平蔵は大学入試改革にかみこんでいた。
 こうした連中がコロナを利用し、教育をビッグビジネスとして食い物にし、公教育を乗っ取ろうとしているのだ。

悪らつな菅政権の本音語る竹中

 竹中著『ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』には、菅政権の本音が書かれている。(図参照)
 「遠隔教育を進めなかった一番の問題は教職員団体の抵抗です」「今後は、デジタルリテラシーの高い人材を旧来の教員免許の枠にとらわれず積極的に教師に採用する。逆に努力もせずデジタルリテラシーを高めようともしないような教師には去ってもらう」
 教職員組合の解体と教員解雇、それにとって代わるNTTやベネッセなどの企業の社員----これが菅政権の掲げる教員の資格要件と雇用制度の規制緩和の正体なのである。

画一化に危機感募る現場

 菅政権がまず打ち出したのが、教科書の原則デジタル化だ。これによって端末を鉛筆やノートと同じように使うことが求められる。また、デジタル教科書と連携した学習アプリを使って「個別最適化された学習」を促進する。これはAIが学習の理解度を診断し、個々の児童生徒にあわせて出題するもので、学びの効率性があがるとふれこむ。
 教育労働者はこれをどう見ているのか。
 公立小学校教員の村井勉さん(仮名)は「デジタル教科書は一言でいうと画一化です」と危惧を抱く。「子どもたちがどこでつまづき、どういう工夫が必要かを教員が考える、それが教員として育っていくことです。しかし、近年の教科書のワークブック化とも相まって、デジタル教科書はあらかじめすべてが決められていて、教員が考え工夫する機会を大幅に奪ってしまう」と指摘。多忙化する学校現場に必要なのは「デジタル教科書を使いこなす労力や研修ではない。教科の研究をする時間だ」と語る。
 また個別最適化された学習について、前出の桐谷さんは「その子にあった教育というが、実は排除の論理だ」と批判する。「どんな貧乏でも金持ちでも、障がいがあっても同じ教室で授業が受けられるのが公教育です。しかし個別最適化は、子どもたちが共に生きていく可能性を奪う」と述べ、「子どもたちが多様なら教員も多様であるべき。教員が背中を見せるのが教育。デジタル化は教員の個性があまりにもないがしろにされている」と言い切る。
 デジタル化は、子どもたちを能力主義で分断すると共に、教育労働を陳腐化し、労働者の誇りと団結を奪う。端末をどう使うかは現場が決めることだ。そうした職場の団結が必要だ。
 桐谷さんは「いま若い教員は学びに飢えている。官製研修しか経験できない中で違うことを知りたがっている」と言う。かつては労働組合の教研活動がさかんに行われていた。教育内容は子どもたちと共に現場がつくるものだ。

国・資本が全人生を管理

 デジタル化で学習履歴や児童生徒の健康診断データにマイナンバーカードを活用しようとしていることも重大だ。
 高校では、学習や部活動などの記録を生徒が電子データにまとめる「eポートフォリオ」が導入されている。「主体的に学ぶ態度」を大学入試判定に使うためだ。主体性まで評価することが大問題なうえに、システム運用に深くかかわるベネッセのID取得が必要とされていた。利益誘導や個人情報の扱いも懸念され、運営機構も赤字となり、今年度は中止となった。
 学習履歴の蓄積は終身雇用制解体とも表裏一体である。経団連はジョブ型雇用への転換=解雇自由化を狙い、社会人が職業上必要な知識・技術を得るための「リカレント教育」を推奨、学習履歴を履歴書として活用することも提言している。資本・国家が労働者人民の全人生を管理・支配するようになるのだ。

格差拡大に反撃する韓国の若者

 韓国では、2000年前後から教育のデジタル化が推進され、今日本で行われているような、英語教育やグローバルエリートの育成が重視されてきた。高校は序列化され、学校生活記録簿は「教育行政情報システム(NEIS)」に蓄積され大学入試に活用されている。私教育(塾)は過熱し、子どもの受忍限度をこえて勉強させる「教育虐待」や経済格差と教育格差も極限化し、新自由主義教育の破綻が「ヘル(地獄)朝鮮」と表現される社会問題となってきた。パククネを倒した若者の闘いはすさまじい競争社会への反乱だ。これは明日の日本社会の姿だ。今こそ職場から新自由主義を打ち破ろう。

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組合解体と教員解雇を叫ぶ 竹中平蔵

■遠隔教育を進めなかった......一番の問題は教職員団体の抵抗です。遠隔教育を行えば、どの学生も良い先生の授業を受けたいと考えるでしょう。......これは、遠隔医療に反対する人たちと同じです。競争原理が働くのを嫌がる点で、両者は共通しています。
■知識伝達の授業を担当する人は、極端な場合各教科に全国で一人いればよいのです。たとえば国語なら、読み書きを教える名人がネットで授業し、または動画として生徒に見せればいいのです。
■今後は、デジタルリテラシーの高い人材を、旧来の教員免許の枠にとらわれず、積極的に教師に採用する。逆に、努力もせずデジタルリテラシーを高めようともしないような教師には、去ってもらう。教師そのものが終身雇用・年功序列に近いシステムになっていますが、今後は教師を入れ換えられる制度にしなければならないのです。
竹中著『ポストコロナの「日本改造計画」 デジタル資本主義で強者となるビジョン』より抜粋

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