「デジタル化」その正体(1) AIで便利な社会に? 闘う労働組合の再生をめざす 雇用を破壊する道具に
「デジタル化」その正体(1)
AIで便利な社会に?
闘う労働組合の再生をめざす
雇用を破壊する道具に
「行政のデジタル化で給付金が速やかに渡るようになる」「コロナ後の経済再生の決め手」「マイナンバーカードで便利になる」----こう言いながら菅政権はデジタル化に突き進もうとしている。現実はどうなのか。シリーズ企画「『デジタル化』その正体」の第1回は、「雇用破壊」の問題について取り上げる。
拡大するウーバーイーツ
スマホで「単発請負契約」
調理された食品を自転車などで宅配するウーバーイーツが急拡大している。GPS(位置情報)機能の付いたスマートフォン(スマホ)が必需品だ。
「スマホがあれば誰でも登録でき、好きな時間に働ける。報酬は配達した距離に応じて支払われる」とされる。しかしこの最新のデジタル技術を使い「自由」をうたう雇用と労働の実態はどうなのか。
ウーバー社への登録も業務も全てスマホでのやり取り。AI(人工知能)の判断で近くの配達依頼が示され、品物を届けて報告。1件ごと400円から500円の契約で時給に換算すると最低賃金前後となる。
全てAIによるスマホの指図に従う就労形態だ。2008年のリーマンショック後の「派遣切り」の時には携帯メールを使った「日々雇用(派遣)」が社会にあふれていることが大問題になった。それが今やICT(情報通信技術)を使って、労働者を「雇用」するのではなく1件ごと単発の「個人請負」にしてしまうことが行われている。
ウーバー社は「請負」を口実に、労働基準法が定める有給休暇や休憩時間、労働災害補償を拒否。けがをした労働者の資格を停止したり、その脅しで無理やり働かせたりしている。労働組合との団体交渉も拒否していることに対し労働委員会闘争が闘われている。
この単発の請負契約は、音楽バンドの一晩限りのライブ「ギグ」になぞらえて「ギグワーク」(単発労働)、労働時間が明記されない「ゼロ時間契約」と称される。その本質は雇用破壊であり、究極の非正規雇用である。
別掲の体験記は「自転車をひたすらこいでいた感じしかない......緊張感やシャキッとするものがない」と述べている。全てAIの指図で動かされることで労働の充実感や労働者の誇りも奪われることになる。
ウーバーイーツには失業・休業を余儀なくされたり本業だけでは生活できない労働者や学生が少しでも生計の足しにしようと集まって来る。そこにつけ込んで徹底的に強搾取しているのだ。労働政策研究・研修機構はこうしたギグワーク、テレワークなどの個人請負が170万人、うち本業として働く人が130万人と推計している。
アマゾン労働者むち打つ
分秒単位のAI労働管理
イギリス人ジャーナリスト、ジェームズ・ブラッドワース氏の『アマゾンの倉庫で絶望し、ウーバーの車で発狂(ママ)した/潜入・最低賃金労働の現場』(光文社、2019年)はデジタル技術を駆使したアマゾンの倉庫労働などの過酷な実態を記している。
専属の派遣会社から送り込まれた労働者は、品物の仕分け作業をデジタル端末で常時管理される。作業能率がノルマ以下だったり、30分しかない昼食休憩後や通勤バスの故障での遅刻、病休でも懲罰ポイントが付けられ、6ポイントで解雇される。
横田増生氏の『潜入ルポ/アマゾン帝国』(小学館、2019年)も、作業を秒単位で急き立てる端末の問題や業務中死亡が多発していることを告発している。生産性向上とは搾取の徹底的な強化、過重労働の強制でしかない。
行政のデジタル合理化・
労組破壊にかける菅政権
歴史的な生命力を喪失した資本主義は労働者への攻撃にかけるしかない。日本帝国主義の危機は一層絶望的だ。菅政権はより凶暴で破滅的な新自由主義に突き進もうとしている。最初に掲げたのはデジタル庁新設と行政のデジタル化、マイナンバーカードと全個人情報のひも付けを軸とする社会全体のデジタル化だ。大リストラと総非正規職化、強搾取と労組破壊の大攻撃である。すでに銀行資本などはAI導入による大量解雇を進めている。さらに菅や資本はウーバーやアマゾンのような就労形態を広げることを狙っている。
しかしそうした攻撃は労働者の根底的な憤激と闘いをつくり出す。世界中でギグワークの労働者が労働組合を結成し闘いの火の手を上げている。英在住コラムニストのブレイディみかこ氏は、2000年以降に生まれインターネットが当たり前の世代「ジェネレーションZ」と呼ばれる若者たちがAIによって生涯にわたる成績評価・選別がされることに怒り、「くたばれアルゴリズム(コンピュータープログラムの計算処理手順)」「学生は統計の数字ではない」と抗議に立ったことを紹介している(9月10日付朝日新聞)。
青年・学生を先頭に職場・学園から絶対反対の闘いを巻き起こそう。11・1集会に大結集しよう。