米ポートランドの闘い トランプの大弾圧と対決し、全米のBLM運動の中心に
米ポートランドの闘い
トランプの大弾圧と対決し、全米のBLM運動の中心に
トランプ支持者がデモ隊を襲撃
8月29日早朝、トランプ支持者の右翼団体がアメリカ国旗やトランプ大統領の旗をつけた車を600台も連ねて米オレゴン州ポートランド市郊外に集結し、何㌔にもわたる隊列を組んで市中心街へと向かった。「偉大な大統領を称えるラリーだ」と叫びながら、ブラック・ライブズ・マター(BLM)の抗議者たちをペイントボール(塗料入りの弾丸)や催涙ガスで攻撃し、各地で衝突を起こしながら進んだ。
夕刻には、BLMのデモ隊が結集する市中心地の商店街にトランプ支持の車両軍団が乱入し、次々とデモ隊を襲撃してペッパースプレーやカラーボール銃などで攻撃。デモ参加者たちは卵を投げつけるなどして応戦し、激戦となった。迷彩服を着た半裸の男2人が目撃されており、片方の男は銃を所持していた。混乱の中で2発の銃声が響き、半裸の男が地面に倒れていた。死亡したのはトランプ支持派の男だった。警察はこの事態について調査中だとしている。
ポートランドへのトランプ支持者の「ラリー」は8月15日から毎週末に行われており、今回が3回目だ。トランプはこの映像を見て、ツイッターで参加者を「愛国者だ!」と称賛した。民衆の怒りが激しさを増すなか、これまで夜間外出禁止令を出すなどして警察によるデモ隊の弾圧に加担してきた同市のウィーラー市長までもが「アメリカに憎しみと分断をつくった」とトランプを非難するに至った。
94日間連日続く抗議集会とデモ
ポートランドは人口65万人のオレゴン州最大の都市で、国際港湾倉庫労組(ILWU)をはじめとした労働運動の拠点だ。黒人人口は6%に満たないが、警察官によるジョージ・フロイド氏殺害から3カ月以上たった現在も大規模で激しい抗議運動が連日続き、「BLMのプラカードの数が黒人の数よりずっと多い」と言われるほどだ。人種問題と闘う人々が急速に結びつき、夜の集会・デモは、8月29日で94日間に及ぶ。
時には集会・デモ参加者が連邦庁舎への放火や商店街の破壊などの行為に及ぶこともあり、州警察と対峙(たいじ)する場面もあった。放火で燃え上がる炎を見ていた黒人男性は「私たち黒人が何度も受けてきた光景だ。家に放火され、略奪され、暴力で苦しめられてきた」と語った。ミネソタ州ミネアポリスの集会でもBLM活動家の黒人女性が、「アメリカは黒人から略奪してきた。私たちはあなたたちから略奪を、暴力を教わったんです。だから、まずあなたたちが暴力をやめなさい」と訴えた。
トランプが連邦職員派遣し弾圧
7月中旬、所属の明示がない迷彩服姿の男たちが何の表示もない車でやってきてデモ参加者を拘束し立ち去ることが繰り返された。17日にはBLMの抗議集会に迷彩服姿の武装部隊が介入し、催涙ガスや「致死性の低い弾丸」を発砲して人々を襲撃した。後に、この部隊は01年「9・11」(同時多発反米ゲリラ)以後に「テロ対策」として新設された国土安全保障省(DHS)から派遣された連邦職員だと判明。ポートランドのBLM運動をテロリズムと認定したのだ。
オレゴン州は、連邦政府系機関が市民を不法に拉致・拘束したとして禁止命令を出すよう訴訟を起こさざるを得なくなった。人権団体のアメリカ自由人権協会(ACLU)も「この行為はひたすら違憲だ。このままにはしない」とツイッターで強調した。
全米の活動家も支援に駆け付け
こうしたなかで、ある女性によるフェイスブックでの呼びかけに多くの母親がすぐさま応えた。18日に連邦裁判所前で行われた抗議行動に女性たちがデモの最前列に腕を組んで並び、「連邦政府は出ていけ、ここには母親たちがいる」と叫んで、しっかりとデモ隊を守る隊列をつくった。呼びかけに応えたのは、子どもを警官や銃の暴力で殺された母親たちの組織や、銃規制支持者の行動する母親の会など女性たちの活動家グループだ。脅威にさらされる子どもを守るため踏み込む時だと確信したのだ。
その後、「父親の壁」や「退役軍人の壁」など、トランプの不当な介入に怒る人々がデモに参加し始めた。全米のBLM活動家たちもポートランド支援に駆けつけ、集会・デモへの参加は以前にも増して膨らんでいった。
7月24日の夜、連邦政府機関が撤退しないことに人々の怒りが高まり、大規模な抗議行動が連邦裁判所前で行われた。連邦の部隊はいつものように催涙ガスでデモ隊を排除しようとして、激突となった。25日午前2時30分、フェデラル・プロテクティブ・サービス(連邦機関を守る任務をもつDHS所属の治安部隊)が「抗議集会は違法である」と宣言し、連邦部隊が一斉に弾圧に出てきた。人々は催涙ガスで目をやられて逃げ惑った。7月初旬からこの日までに60人が逮捕されている。
7月27日、ポートランドの母親たちは「ポートランドとブラック・ライブズ・マターを攻撃するな」という団体を立ち上げ、催涙弾やゴム弾など攻撃的な武器でデモ隊を襲ったとしてトランプ政権に対して訴訟を起こした。
8月23日には、丸腰の黒人男性がまた白人警察官に銃で撃たれ重傷を負った。盛り上がるブラック・ライブズ・マター運動に、白人至上主義者の蛮行は激化していく様相を見せている。
(高村涼子)