元郵政労働者は語る② 民営化とは労働者酷使し資本家だけが儲けること

週刊『前進』04頁(3157号02面04)(2020/08/24)


元郵政労働者は語る②
 民営化とは労働者酷使し資本家だけが儲けること

労務管理の象徴である郵便体操

 組合役員の強制配転などによって郵政の労働組合である全逓(ぜんてい)つぶしが行われて以降、職場では始業時に郵便体操が行われるようになった。
 これは当初は、仕事を始める前の準備運動のような感じだったが、時が経つにつれて労務管理の象徴となっていった。朝の忙しい時間帯に全員集め、総務主任が前に立って大声で掛け声をさせながら体操させ、全体を監視するのである。無駄な体力を使うだけであり、早く配達に出かけたほうがよっぽどましなのに。
 それから、2007年の郵政民営化によって職場が一変した。まず、民営化に伴って行われた日本通運との宅配便統合は、今思い出してもとんでもないことだ。いろいろな面でシステムも違う二つの会社を十分な準備もなく統合したのである。その結果、職場は大混乱となった。郵便局と日通のパレットが混在してあふれ、身動きもできない状態となった。なんとか処理していくと、配達指定日が過ぎたものもある。生ものは腐ってしまい、配達の労働者の中には顧客からどなりつけられる人まで出た。
 民営化の後、15年に東京北部郵便局というのが造られた。「東京」の名前が付いているが、局舎があるのは埼玉県和光市。ここは郵便物、ゆうパック、ゆうメールなどの区分作業に特化した大拠点だ。
 この局が造られたおかげで、東京の北西部を中心に普通局の郵便部の定員が大幅に削減され、職場を去った労働者も多い。顧客の利便性も低下させられた。例えば、朝一番に千代田区内から新宿区内あてで速達を出した場合、以前は、地元の集配局↓新東京郵便局(これも区分作業に特化した局)↓新宿区内の郵便局というルートだったから、当日のうちに配達できた。ところが現在は、地元局↓新東京郵便局↓東京北部郵便局↓新宿区内の郵便局というように複雑になり、当日配達はできなくなってしまったのだ。そのため、大学の願書が締め切り日に届かないという大問題まで起こったこともある。

民営化によって仕事の中身激変

 民営化してから、仕事の中身も随分変わった。
 郵便のサービスの一つに「本人限定受取郵便」というものがある。これが、ここ2〜3年でものすごく増え、多い時は局全体で1日に200通にもなる。これはカードなどの配達時に、受け取り人の本人確認を免許証などで行うものだ。この処理はまず「本人限定受取郵便が届いたので、在宅日時を知らせて欲しい」と書いた「お知らせ」をつくって送る(郵便局でしか受け取れないものもある)。そして渡した後は、それを確認する書類を受取人の免許証などのナンバーを記載して顧客に送るのである。これだけのサービスをして料金がプラス100円。この利用者は95%がネット企業を含む大企業だ。本人限定サービスは大企業をもうけさせ、労働者に重労働を課すものでしかない。
 またこれも大企業をもうけさせるものでしかないのだが、アマゾンやメルカリの取り扱い量が膨大に増えた。アマゾンの「当日配達」サービスによって、夕方に届いたレターパックライトは翌日回しになってしまう。メルカリの場合「プライバシー配達」というのが1日に100通くらいあり、早朝の作業をする人にとって大変なことになる。これは配達先の住所が第三者には分からないようになっている。そのため、バーコードをスキャンして住所を読み取り、プリントアウトして現物に貼り付ける作業が必要になる。量が多いので貼り間違いがないよう気を使いながらの大変な仕事になるのである。
 職場で郵政の民営化を経験してよく分かったが、民営化とは労働者が職場で築きあげてきた権利を奪い、労働条件を破壊して過酷な職場にし、労働者への搾取を強めて、本来なら労働者が手にすべき賃金を削って資本家をもうけさせることだと、つくづく思う。民営化と闘う労働組合が本当に求められている。
(森内一郎)
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